泉鏡花って魑魅魍魎、奇奇怪怪のお話で、翻って人間の在りかたのお話なんですけども。
昔々、大雨に祟られた地方がありまして、偉い坊さまが雨雲を呼ぶ龍神を夜叉ヶ池という池に封じたわけですけども。
そのときに龍神が人間との約束を忘れてしまうので、「朝六つ、夜六つ、丑満つ時の三度、鐘をついて我に知らせよ」と約束するわけです。
…以来何百年も経ち、爺さんがひとりで50年も鐘を鳴らしてたんですが、村人はそんな伝説うそくせー、とすっかり相手にしなくなっていたのです。で、たまたま行きがかっただけの晃って人が爺さんが泣いて訴えるのが哀れなので、死に際に鐘突きを引き受けるわけですけども。
で、晃さんには百合さんって可憐で天真爛漫な奥さんがいて、百合さんは村人からいじめられて、晃さんがかくまった人なんですが、実は白蛇の化身だったりします。
…で、池の竜神さんなんですが、白雪姫というお転婆な女で、最近別の池の主に恋してしまい、すぐにでも池を離れて、恋する人のもとに飛んで行っちまいたいご様子。
しかしひとたび池を離れると、風雷雨を呼び、辺り一面、水の底に沈んでしまいますので、周りの姫の眷属が「人間どもと約束のあるうちは」と必死で押しとどめます。
姫様、「そんなもん知るかーっ!」と鐘をぶち壊しに行くのですが、そこで可憐な百合さんがひとり旦那の帰りを待ってるのを見て、「そっか、百合さんもいたっけねえ」百合さんと旦那も水に沈んじまうのは忍びない、とあきらめて引き返し、眷属一同、ほっと胸をなでおろす。
ところがですよ。おりしも村は日照りで、代議士やら、教師やら、神主やら、村の田舎もんの俗物どもが大挙して晃さんと百合さんのとこに押しかけて、「百合さんを龍神へ雨乞いの贄に出すから差し出せ」と迫ります。
村の伝承は笑うくせに、困ったからと言ってそんな非道なまねできるか、と晃さん、百合さん守って取っ組み合いになるのですが、「私がいなければ…」と百合さん自ら命を絶ってしまいます。
そうこうするうちに龍神との約束の丑満つ時が鐘を突かないままに過ぎ…、…あとは皆さんのご想像通り。
一天にわかに掻き曇り、白雪姫の高笑い。
「この新しい淵は鐘ヶ淵、百合さん、晃さんと住むがいい」
湖の底に沈んだ村を後にして、龍神はついに夜叉ヶ池を離れます。
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2013/09/24 21:57:22