高野聖/泉鏡花

だいぶ昔にUPした『夜叉ヶ池』と並ぶ泉鏡花の代表作。

怪異譚という点では『夜叉ヶ池』と同じだが『夜叉ヶ池』がドラマチックで心震わすようなカタストロフを迎えるのに対して『高野聖』は整然とした構成と静謐な世界観のなかに、ほんのうっすらと人生訓が透けて見える幻想物語になっている。

若い旅僧が敦賀へ向かう一人旅の道中、飛騨山中で道に迷ってしまう。
人里遠く離れた中にぽつんと一軒家があるのをようやく見つけ、旅僧はかくまってもらうことにするが、一軒家にはうら若い女が白痴の若者と住んでいるだけだった。
他にはどういうわけか蝙蝠やら猿やらの生き物が女にまとわりつくばかり。
女は旅僧が白痴の若者のたどたどしいようやくな挨拶に胸をうたれ、ふと涙したのを見逃さず「あなたは優しい人だ」と言う。

一軒家を離れ山を人里に降りる最中、旅僧の心に美しかったその女の姿が浮かぶ。
「修行など捨てて、女と住もうか」と踵を返すか迷ってるさなか、一軒家でひととき見かけた親父と出くわし「無事に帰れたのか」と驚いた顔をされる。
女は魔性のもので、その美しい姿に情欲を抱いたものを獣の姿に変えてしまう。
てっきり旅僧も獣になってるものと思っていたが、という親父の話。
もはや気の揺らぎのなくなった旅僧はひたひたと山中を里に降りるのだった。