
僕が確か5歳くらいの頃で、近所に中村君という同い年の子がいまして、仲良くいつもいっしょに遊んでいたのですが、僕が小さい頃からおとなびた可愛げのない子供だったのに較べ、中村君のほうは明るく利発な子だったため、周りの大人たちは僕らふたり遊んでいると、中村君のほうばかり可愛がるのです。それから中村君には口うるさいおばあさんがいたのですが、利発な中村君に較べ、どうにもボサッとしてたせいか、中村君ちに行くと、なぜか僕ばかりそのおばあさんに小言を受けてしまうのです。
子供ながらに嫉妬してしまった僕はいつしか他の子と遊ぶようになり、中村君をみんなで無視するようになってしまいました。
…そういうある日、中村君が僕の家に来ました。僕は表に出ましたが、中村君は何も言いません。イラッとした僕は中村君に「何しに来たの?」と冷たく言いました。中村君はしょげて何も言わないまま帰っていきました…。
さて中村君が帰った後、一部始終を見ていた母がやや血相を変えて「なんてことを言うの」と言いました。…中村君はその日、引っ越してしまうのでお別れに来たのだが、僕がそれまでいじめてたため、何も言えずに帰ってしまったのでした。僕の家に来るのもためらったと思うんですが、あの口うるさいおばあさんが「あいさつしてきなさい」と言ったのでしょう…。
僕はひどく狼狽し、子供心に取り返しのつかないことをしたと思いました。そしてそれはことあるごとに思い出す。この歳になっても思い出す。あのとき、彼が引越しをすることを知っていれば気持ちよく「さようなら」が言えたのに…。あとから聞けば彼は両親が離婚したから家を出たというではないか…。以来僕は他人に対して物事を強くは言えない人間になってしまいました。
この小説はポーランドのSF小説です。
心理学者の主人公が、「知性を持つ海」を有する惑星ソラリスの調査に参加します。
しかし調査をしたのは人間側だけではなく惑星側も人間に対してしていたわけで…。
ある日主人公が目覚めると、傍らに女性がいます。彼女は主人公が若い頃、行き違いからケンカしてしまい、毒を飲んで死なせてしまったはずの恋人でした。彼はずっとそのことを後悔していた。そして彼女との奇妙な共同生活が始まる。
…こんなことがあるはずはない。彼は心理学者でもあり、科学者でもあるので、じきにその女が惑星ソラリスが彼の思考を探って造り出した「物体」であることを知ります。
しかし彼はそれを「物体」といつしか受け取れなくなってしまう。
次第に彼女とともに惑星を脱け出し、地球で生活することを夢想し始める。しかし彼女はあくまで惑星ソラリスの造り出した「物体」であるため、それはかなわぬ願いだった。…そして彼の生活は荒廃を始める。
いっぽうで彼女は最初、自分が何者かを知らなかったのだが、次第に真実を知る。そして彼の身を案じた彼女は別の科学者にある相談をする。そして…。
「もし、わたしがいなくなったら、あなたは誰かと結婚するわね?」
「そんなことはない」
「絶対に?」
「絶対に」
「どうして?」
「理由は自分でもわからない。でもこの十年間一度も結婚しなかった。そんな話はやめよう…」
私は頭ががんがんしてきた。まるでぶどう酒を一本飲みほした時のような気分だった。
「だめよ、話しましょうよ、どうしてもその話をしておきたいの。もしも私がお願いしたとしたら?」
「ぼくが結婚するようにって?ばかばかしいよ。ハリー。ぼくにとって必要なのはきみだけだ」
ハリーは私の上にかがみこんだ。私の唇にハリーの息がかかってきた。ハリーは私を固く抱きしめた。その力があまりに強かったので、私の上にのしかかっていた睡魔は一瞬後退した。
「もっと別の言葉で言って欲しいわ」
「ぼくはきみを愛している」
ハリーは顔を私の胸にうずめた。私にはハリーが泣いているように感じられた。
「ハリー、どうしたんだ?」
「何でもない。何でもないわ。本当に何でもないのよ」ハリーの声はしだいに小さくなった。私は目をひらこうと努力した。しかし目はふたたび閉じてしまった。いつ眠ってしまったのかおぼえていない。
そして彼が目を覚ますとすべては解決していました。…彼女はもう消滅していたのです。
ああ、なんかもう涙出てきますね。
Posted at 2011/10/24 21:50:13 | |
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