まず、もう半世紀も昔の事ではありますが、殉職された兵士、犠牲になられた民間技術者合わせて129名に敬意と黙祷を捧げます。
このような事故は民間であろうと軍であろうと発生するものです。
このような事故の教訓が我々にフィードバックされています。
ヘリコプターや飛行機なども同様に軍からのフィードバックが大きい代物です。
さて、これまでの考察や実験でいろいろなことがわかってきました。
これにより最終章に入りたいと思います。
原子力潜水艦スレッシャーには兵士と民間技術者合計129名名とともに2560ⅿの深海に大きく6つの区画に分かれて沈没しています。
船尾・機関室・指令室・作戦室・ソナードーム・艦首です。
沈没に関するイメージはこちらは近くはありませんが…
大体のイメージですがこちらを改めて再掲します。
非常に恐ろしいですが、現実とは少々異なります。
幸いなことにara san juanについては資料が公開されています。
長くなりますが、よりリアルにお届けしたいため読み進めていただければ幸いです。
ara san juanではこのような壊れ方をしました。
設計深度や破壊深度もおおむねスレッシャーと同等な事から同じようなことが発生したと思われます。
参考
https://www.lanacion.com.ar/politica/reconstruccion-3d-asi-esta-el-submarino-ara-san-juan-en-el-fondo-del-mar-nid2246842#/
さて、壊れ方といってもなかなかイメージが付かないと思いますので、こちらをご覧ください。
2:43秒からでお願いします。
恐らくですが、スレッシャーやara san juanもこのように破壊されたことでしょう。
よく映画であるような徐々に破壊されるようなものではなかったと思います。
こちらのほうがわかりやすいです。
内圧の変化に伴って限界点を超えた瞬間一気に圧壊する。
これらは強度の低い鋼材の為たった0.1Mpa(1気圧)で破壊されましたが、
彼らにはこの70倍の力がかかっていた…
凄まじい世界です。
さて、ではここまでを踏まえて考察してみましょう。
07:47:深度400mへ潜行を開始する。
07:52:深度120mで水平状態になる。支援艦に連絡、異常や漏水はなし
08:09:予定深度の半分に達した(深度200m)
08:25:深度300mに到達
09:02:低速で巡航を行い、右20度下方5度へ進む
09:09:機関室で配管のろう付けされた継ぎ手が破断
ダメコン実施、機関室内に靄が充満。
機関室内部の圧力は浸水量に比例して上昇し機関室員は酸素中毒に陥る。 漏水は止められず内圧は上がり続け、
最終的は溺れる前に全員酸素中毒で死亡したと思われる。
その後亀裂が発生する
全速力、昇降舵最大、バラストタンク・ブロー(排水)を行い浮上を試る。
浮上の為の圧縮空気は気圧低下で数秒で凍結、配管に詰まりタンクの排水
を不能とする。
漏水が基板をショートさせ原子炉が自動停止。艦は推進力を失う。
ショートした基盤は原子炉制御基板ではなく冷却水循環ポンプ制御基板。
冷却できなくなったことで原子炉は緊急停止した。
09:13:艦長は水中通話器で状況を報告する。
「小さな問題が発生、上昇角をとり、浮上を試みる」
(「小さな」という表現は対ソ連関係を意識してのことと推測)
機関室の浸水で艦は艦尾を下にして沈降を続ける。
バラストタンクの再ブローを行うが、凍結により失敗。
この時点で支援艦は圧縮空気が漏れる音をスピーカーから聞いた。
09:15:支援艦よりスレッシャーへ制御可能かを尋ねる。返答はない。
09:16~17:「試験深度を超えつつある...」(水深400ⅿが試験深度)
09:17:水圧の増加により破損した管からの浸水が広がる。
09:17:スレッシャーから雑音混じりの通信を受け取る。
この雑音は圧力隔壁が変形し始める音と機関室の亀裂が拡大したことによる浸水の轟音と
思われる。
「900 N」 試験深度を超えて900feet沈降していた。
09:18:水深730ⅿの深海で圧壊した。
圧壊は0.1秒以下、おそらく0.05秒程度で進行したのと推測。 圧壊と同時に中の人間は脳が超加圧され委縮・破壊・溶け、
肺は圧縮空気により押しつぶされ、内臓は衝撃で飛び出したと推測する。
圧壊までの沈降速度は毎秒4ⅿ程度。
※赤字部分は調査報告と実験により分かったことになります。
さて、それではここまでで疑問にお答えしていきたいと思います。
得たものすべてを記載できているわけでもないので、質問お寄せいただければありがたいです。
例えば、
●●何故浸水を止められなかったのか●●
まず潜水艦は圧力隔壁というものがあり、複数の隔壁で守られています。
今回最後に圧壊したのは生存区画で最も頑丈な部分ですが、機関室はこの外側に位置しています。
機関室の浸水が発端となりますが、このバルブは溶接ではなくロウ付けされている部分となっています。
このロウ付け、溶接とは違い剥がれると一気に取れるという欠点があります。
なのでバルブごと吹っ飛んだのではないかと思います。
通常であればそこに栓を打ち込む(木の棒に布を噛ませてハンマーでたたきこむ)のですが、それが出来なかった理由として
海水温は非常に低く、水温は4℃以下と推測(緯度は北海道と同等だが北極海の海流が直接流れている海域)
レイアウトが非常に複雑で手間取り、出航前の浸水対策では浸水を止めるまでに20分かかっていた。
水圧が4Mpaもかかっている状況では不可能だったでしょう。
機械系の人は少し思い浮かべてもらいたい。
エアーコネクタを接続する際、圧力が高すぎるとうまくはまらなかったりしませんか?
その10倍程度の圧力です。
非常に難しかったでしょう。
そのなかで、0.05Mpa(浮上時、出航時の補助海水配管圧力)しかないのに20分かかっている作業を
4Mpa(約80倍)の条件下で9:09~9:13の4分で停止させることは不可能であったと思う。
ましてや急激な室温低下も生じていたでしょうから体の動きもままならなかったことでしょう。
何故9:13分かというと、酸素酔いによる症状がこの頃から現れだしたと推測するのと、
機関室とのやり取りが不可能であったため、この時には死亡または意識混濁か意識を喪失していたと推測。
このため、次艦よりバルブ操作などは直接人が行うものではなく
圧力隔壁内から遠隔操作が出来るようになりました。
●●毎秒どれくらいで水圧が上がっていったと思いますか?●●
水中排水量から浮上時の排水量を差し引いたものから比重を割り出し、圧力隔壁の体積を計算した結果、圧壊直前での比重は1.61となりました。
ここから沈降加速度が割り出されます。
加速度は3.79ⅿ/秒となります。
終末速度がありこの終末速度は実験の結果3~4ⅿとなりました。
この終末速度に関する資料が全くないため試験用の潜水艦を比重1.4で削り出して実験する必要がありました(そこまでするか?)
比重1.4での加速度は2.8/秒となり、自分が用意した800㎜の筒では終末速度どころか加速度として加速している間(1/3もいかないくらい)で底に到達してしまうものですから実質的な算出は不可能でした。
そのためあくまで推測値となります。
ちなみに比重1.4で試験筒の底まで到達する時間は0.3秒もないくらいでした。
意外と早すぎてびっくりです。
もしこれ以上をやるとしたら10ⅿくらいのパイプを用意するしかありません。
削り出した潜水艦モデルはお渡ししますのでだれかできる人があればお願いしたいです。
※なおこの試験と算出数値は事故同様の沈没姿勢(艦尾を下にする)で行いました。
このことから圧壊直前では毎秒4ⅿ程度で沈降していたものですから、恐らく圧力は0.4Mpa以上で上昇していたと思います(実際には海水濃度や水温で変わるためそれ以上の圧力がかかっていた)
※潜水艦はその形状からどの姿勢で沈没させようとしても必ず正立(本来の姿勢)に戻ります。
風呂と会社の水槽で何度もやってみました。
転覆姿勢でやっても復元しますし、艦首を先に入れても艦尾を先に入れても復元します。
また、艦首・艦尾のどちらかから沈めても、成立したときは前進も後退も左右に振れることもなくそのまま沈みました。
これは潜水艦そのものの形状がバランスを取るために出来上がっているためだと思います。
追記
YOUTUBEで見つけました。
1000ⅿで圧壊したときの人の状態(ダミー人形)
現在も改定に鎮座するスレッシャー