
拙宅は共働き、子無し、犬一匹、猫一匹の小世帯である。
私は最近帰宅時間が遅い。仕事山積みでモチベーションが低すぎて、仕事の効率落ちまくっているから、帰宅時刻は午前様ばかりだ。
嫁(ハマーン・カーン)は、“アクシズの摂政”というサービス業勤務のため朝が早く、帰宅すると既に床に就いていることが多い。
また、外が寒いため、犬は小屋の奥から出てこない。
加えて、猫はコタツでニート状態である。
従って、こんなとき私は帰ってきても家のなかは暗いし、迎える者もなく、たいへん寂しい思いをしている。
ほんとうは一家団欒で、ビールなんぞ飲みながら鍋などつつきたい、というのが本音だ。
しかし、我が家の事情を鑑みると、これは現実的に難しい。
そこで、
“あたらしいあそび”を考えたわけであるが、本日は同じような思いをしておられる諸氏のために、我が家秘伝の大変面白い遊びを、ワールドネットで紹介したいと思う。
本件は
寂寥感を昇華しつつ、同時に多大な栄養を摂取し、しかもダイエット運動もできるので、同じような境遇の諸氏には大変有意義なあそびである。
是非実践して
“人生を楽しんで”
いただきたい。
では、早速内容についてプレゼンさせていただこう。
あそびのタイトル
『ひとりやきにく』
1.
実施期日
・・・各家庭において自分以外誰もいないか、自分以外の人が寝静まっている時間を必須とする。
時節は晩秋から早春にかけての、ひとりの侘びしさがつのる深夜11時以降が望ましい。 最良の時期は
クリスマスから年末年始にかけての1週間くらいがベストである。 但し、実施場所が商店街や歓楽街に包まれている場合は、自宅周辺の往来が激しい、午後5時から午後8時くらいの実施が望ましいことも補足しておく。
2.
実施場所
・・・温かい家庭を想像させる部屋。
あまり広くなく、できれば8畳以内の畳部屋がよい。
旅先で買ってきたタペストリーやのれん、観光地名の入った提灯が10点ほど並んでいれば最高である。もちろんタンスや押し入れが背景にあることも重要な要素だ。
照明は裸電球ひとつであることが望ましい。テレビやラジオなど、場を賑やかにする機器の電源は切っておくこと。テレビは液晶のカッコイイやつは不可。ブラウン管ないし真空管のやつがよい。
実施内容を考えると、窓は開いていることが望ましい。
3.
参加人員
・・・前述実施場所内においては、基本的に自分ひとりでいなくてはならない。
実施場所以外には家族がいてもダメではないが、実行時はこれら家族とは一言も口を効いてはならない。
くれぐれも協調しておくが、本件は社会秩序維持のためにも、実施場所においては自分ひとりだけでこれを行うべきである。
理由は、後述の内容を考えると救急車を呼ばれかねないためである。
なお、参加人員、といっても
自分ひとりであるが、実施時の服装は、帰宅直後であればその格好、帰宅後しばらくしてからであれば、寝間着ないし部屋着でなくてはならない。その場合、最良の組み合わせは、男性であれば肌シャツにステテコ、女性であればババシャツにパジャマの下だけ、と言われているが、いずれにしろあまりマニアックにはならない方が良い。
逆に洋装のオシャレな格好はダメである。
なお、帰宅直後の場合、女性であれば化粧は落とし、眉毛はじめアイメイクは特に入念に落としておく。
男性であればネクタイなどは取り外しておく。外したネクタイは頭に巻くなどするとよい。スラックスの折り目は極力なくし、膝などは少し光沢を放つ程度が望ましい。
男女とも
カトちゃんかつらなどの小道具があれば、それを装着しておくことも悪くはない。
4.用意するもの
・・・以下参照
①4人掛程度までの円卓、いわゆるちゃぶ台。四角いものは避けた方が良い(後述参照)。
②テーブル用の焼肉台。昔ながらのガス式の四角いやつがよい。テーブルコンロなどというオシャレな 名前のものは厳禁。
③2人前以上の焼肉用食肉。ハラミ、ホルモン、レバーなど嗜好性の高いものも混ぜておくと良い。その他必要な分の野菜、キノコなども忘れないこと。勿論焼肉のタレも用意する。キムチなどがあるとポイントも高い。
④2人分以上のビールや発泡酒、ビールは缶ビールのほうがよい。
⑤2人分以上の座布団ないしひとりがけの椅子、但し3人分までが限度。
⑥2人分、ないし3人分の割り箸、小皿数点、ごはん。割り箸は過去に一度使用したものを洗浄したタイプが望ましい。
⑦えもん掛け
⑧ハンガーひとつ
⑨背広
⑩ふきん
⑪本日の新聞、夕刊が望ましい
⑫ストーブ。エアコンは不可。実施場所に据え付け式のものがある場合は電源を切り、リモコンは他所に隠しておく
⑬その他小道具として、可能であれば天井に折り紙でつくった鎖を巡らせ、2人分以上のクラッカーなども用意しておく。
5. 段取り
①前述の実施期日、時刻になったらおもむろに部屋を閉め切り(窓は開けておく)、用意したえもん掛けを、円卓を挟んで自分と向かい合うように設置する。座布団もこれにならって敷く。
②えもん掛けに背広を吊したハンガーをかける。このときハンガーの位置は、ちょうど自分の目線か、そのやや上あたりに背広の襟がくるようにセットする。
③ハンガーに吊した背広の直前、焼肉のタレを小皿に注ぎ、割り箸をその前におく。 用意したご飯を盛りつけ、これも背広の前に置く。キムチなどもここで小皿に用意する。
④用意した焼肉台のガス栓を開き、マッチなどで点火、プレートを熱しておく。ラードやサラダオイルを塗っておくことも忘れてはならない。
6. 実施
・・・ここからが
本番である。
【重要】ここからのあなたの
心持ちは、恥も外聞も気にせず、自分の社会的地位を捨て去り、
いかにこのひとときを楽しむか
のみに傾注していなければならない。
プライドなどという重苦しいものは捨て去り、とにかく目の前の背広に、自分の親しい友人や親類、或いは恋人や尊敬する上司など、
“親しい人”の姿を重ねてもらいたい。
これは
非常に重要なことなので、是非とも実践してもらいたい。
まずは用意した缶ビールや発泡酒のプル栓を二つ同時に開き、前方の背広前に置き、クラッカーを鳴らす。同時に勢いよく、
「カンパーイ!!!!!」
などと叫ぶ。
そこであなたはまずは
膝立ちして対面の背広の位置にまで移動し、えもん掛けの前にどっかとすわり、勢いよく酒を喉に流し込む。
そこにいるのは勿論あなたではない。れっきとしたあなたの
“親しい人”である。
「いやー、お疲れさん!」 そういうとあなたは、元いた自分の席に戻り、
「お疲れ様です!」 と、もう一杯喉に流し込む。
次にあなたは、肉、野菜をプレートに載せる。
しばらくするとジュージューと肉が焼ける音がし、香ばしい香りを伴って、部屋は煙に包まれる。
「おお、焼けてきた焼けてきた!」あなたは対面に座り、
“親しい人”になったつもりで、用意した小皿に肉を移す。
「野菜はまだっすかね?」あなたは再び自席に座り、プレート上のピーマンなどを裏返す。
「おお、イケるよ、この肉!」あなたは
“親しい人”の席に移り、肉を貪る。
「メシもうまいっすよ!」あなたは再び自席に戻り、ご飯をほおばる。
「遠慮しないで君も肉を食べろよ!」“親しい人”の席に移り、生焼けとか、焦げ目だらけの肉を数枚、対面の自席の小皿に放り込む
「お、有り難うございます!」自席に戻り、あなたは再びこれを口に移す。
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気がつけば、2人分の料理は跡形も無くなり、2人分の空き缶が転がり、そこには汗だくでゼーゼー言いながら、膝をガクガクさせつつ満腹でひっくり返るあなただけがそこに・・・
いかがだったろうか?
美味い焼肉を食した
満腹感。
膝建ちで歩き回り、足腰を鍛えた
充実感。
そして、“親しい人”と楽しく酒を飲んだ
高揚感。
寂しい毎日に疲れ果てた諸氏のなかには、一読しただけでワクワクしてきた方も多くおられると思う。
これから先、いかにひとりで寂しい夜を迎えることがあっても、この遊びを実践すれば、
“このうえなく素晴しく、楽しく、晴れがましい日常”
を満喫できることうけあいである。
今日からでも是非実行して、私と同じ思いを満喫していただけたら幸いである。
なお、
『ひとりやきにく』には、これの亜種として『ひとりアンコウ鍋』、『ひとりおせち』、『ひとり懐石』、『ひとりしゃぶしゃぶ』、『ひとりバーベキュー』、『ひとりジンギスカン』、などというバリエーションもある。
最近では、
『ひとりオフ会』という応用編もあるそうであるが、これについては我が家では未確認である。
これについても経験がある方は、是非ともブログなどで体験談を披露していただきたいものである。
なお、本来はこれをパワーポイントでオンスクリーンにて紹介させていただきたいところであるが、今回は面倒くさいのでそれは控えさせていただいた。これについてはご容赦いただきたいものである。
で・・・イイね!は?
マジコメは報道規制に引っかかるので、ご遠慮いただきたいものである。