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2014年06月02日

【山頭火のように】初七日の旅路

【山頭火のように】初七日の旅路














『風はきままに海へ吹く夜半の一人かな』

30日深夜、自らを墨絵のような“静”の景色に放り込んだ。

国道8号線…無人の北国街道を北上、日本海を目指す。
深い深い藍の空、針葉樹の森はいよいよ黒々と立ちはだかり、ざらついた夜気がメルメット越しに轟々と蜷局を捲く。

灯り一つない峠を越える。

夜気の冷たさに震えながら、“動”の象徴…オートバイを傾ける。
うねる道程をたぐり寄せ、右へ、左へ、登り、下り。

未明、曹洞宗総本山へ。


『松かぜ松かげ寝ころんで』

早朝より座禅を組み、夕刻まで修行僧に混じり、読経、掃除、また読経。
左手に数珠、右手には形見の首輪。



仏殿、法堂、庫裏、渡り廊下…何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も磨き込まれた床はもう、お豆腐のようになめらかで、温(ぬく)とかった。

お休み時間、伽藍に佇み目を閉じて、お香の匂いに身を委ねる。
炎天に傷み、雪の重みに耐え、雨風に晒され、重い灰色に褪せた幾重もの瓦屋根。今は盛りの新緑の、透け入る程の若葉と対をなす。
さらさらと微風の群れ、集いてみれば綿帽子。絶え間ない薫風に、山全体が笑ってる。



季節の移ろいに耐え続けて幾星霜、荘厳な佇まいの古刹。
無言無音。けれどその空間はとても柔らかくて、絹織物を纏うかの如し。
境内全体が、優しい母性にくるまれているようだった。

南無釈迦牟尼仏。
南無観世音菩薩。
南無馬頭観世音菩薩。



娘が明日、初七日を迎ます-優しく迎えてあげてください。
羯帝羯帝波羅羯帝 波羅僧羯帝
菩提僧莎訶 般若心経

血のつながらぬ、異族の我が娘よ
どうか、幸せになってください。誰よりも、誰よりも、誰よりも、誰よりも、誰よりも幸せになってください。

梵鐘が奥山に反響し、天と地が薄墨色に閉ざされる。
西の山の端は、未だ残照の薄紅。
夏の始まり、君を浄土へ送り出す。


『分け入っても分け入っても青い山』


新しい朝と昼の境、“おはよう”か“こんにちは”か。
山を下りかけた風を、大地の熱がはねつける。
蒼天には雲一つ無く、太陽が銀色の矢を射かけてくる。



行き交う車もない、越前の林道。
長い長い、うねりくねり。
行く先も知らぬまま、心細げにひた走る。



崩落と落石、山水が路面を横切る。草葉の生気が幾重にも路肩から伸び出し、行く手を遮ろうとする。
深山深く落ちる滝の水に喉を潤し、獣の気配を感じながら、細道をゆく。

痛みにも似た暑さ、陽炎の向こうは山。山。ずっと山。




『ここにおちつき草萌ゆる』

平泉寺白山神社のたもと。
四角い青田、四角い青田、四角い青田。
初夏の蒼天のもと、濃緑の里山を水面に映す棚田。

雪国の民家は焦げ茶色で、庭先の樹々はどれも太く、大きい。
野辺に咲く草花は童女の佇まいで、黄色くて、橙で、白い。

道すがらの野仏はもうとうに摩滅して、貌かたちもわからぬほどであったけれど、幾星霜を重ねても伝え続ける、優しい微笑み。

杉の巨木に挟まれ、冷たい石段を登る。
吹き降りてくる風に、硬質な息吹を感じる。
碧、碧、碧、そして緑。
何処までも苔生す境内は、まさに神々のおわす処。
白山信仰往事のまま時は止まり、現処(うつしょ)とは切り離された御神域。

誰もいない、音もない。
すべてが静止している。
生きていることにさえ、違和感を覚える。

小さな拝殿で、手を合わせた。
神々に囲まれ、放つ言葉さえ憚られ、じっと手を合わせた。
畏ろし。日本の神様は、失礼は許してくれない。
ただただ、畏ろし。


『お天気がよすぎる独りぼっち』

九頭竜の深淵と、強い日差し。白く焼かれる巨岩。
福井と岐阜の境、石徹白(いとしろ)への県道をとぼとぼと走る。

断崖絶壁、ガードレールなし。
路面は傷み、赤さびた砂利の山肌を潜る。

誰もいない。
多くの人は、とうに敷かれた国道をゆく。

ひとり走る。とぼとぼ走る。

寒村の民家、雲一つない蒼天に、洗濯物が光る。
畦道では蛙の合唱、弧を描く鳶の影。
せせらぎの音、夏風の予感。
蒼、蒼、蒼…どこまでも空は高い。



黙々と独り、オートバイを傾ける。
爪先が路面を削る。
鎮魂の思いとはうらはら、今年も変わらず、夏は来る。


『生活難ぢゃない、生存難だ、いや、存在難だ』


旅の終わり、郡上八幡。
水のまちの片隅、お気に入りの喫茶店で涼む。
ここを出れば、参拝行の幕もひく。



自身漂泊を糧としている身、旅先で社寺仏閣を訪れることも多いのですが、今回の旅で今更ながら気がつきました。
神社には凜にして厳格、静的、男性的な厳しさ。
古寺と雖も、仏閣はどこか優しく、柔らかく、女性的。

命あるものはこの世を去った後、お寺で迎えられ、癒される。
そして神々の元へ赴き、教えを受ける。

やまとの郷(クニ)には、仏様も神様も一緒におられる。
そして生わすところ総てに共通しているのは、どこまでも透明な空気と、無明無音。
方や柔らかく温か、方や厳しく張り詰める。
目には見えずとも、それは確かに流れ続けている。
耳には聞こえずとも、それは黙して語り続ける。


『無駄に無駄を重ねたやうな一生だつた、それに酒を注いで、そこから句が生まれたやうな一生だつた』

僭越ですが小生、生業や年齢を鑑みても、これまでより沢山の生命の終焉に立ち会って来た気がします。
今日までを翻ってみれば、つまらない権力争いに身を晒し、道理を人の欲に阻まれ、まるで心を鑢で削り取るような日々を送って参りました。

それがその時々にとっては大変重く、自身の価値として至上のものであったとしても、その場よりこうして一歩離れて俯瞰してみれば、私の生涯というものは何とちっぽけで、何と内向きで、独りよがりで、独善的であったことか。

私はなんと、狭い世界で生きてきたことか・・・!


『こんなよい月を一人で見て寝る』

たった500キロの単独行。
白熱灯頼りの枕元、旅のメモを読んでいます。

ひとつの小さな生命の菩提を弔うにあたり、自らを省み、自らを改むる…良い時間を過ごすことができました。
そんな時間を与えてくれた、無垢にして純粋な魂…濁りのない心と過ごした15年に、心より感謝。



さようなら、私の静里。
ブログ一覧 | | 暮らし/家族
Posted at 2014/06/02 18:01:27

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この記事へのコメント

2014年6月2日 18:27
お疲れ様でございました。良き供養となられたでございましょう。

>神社には凜にして厳格、静的、男性的な厳しさ。
古寺と雖も、仏閣はどこか優しく、柔らかく、女性的。
にふと付けたくなりまして。

しかして神は優しく、仏は厳しい。
向かい合うは仏、心に映るは感謝
もちろん私の私見でございます。
コメントへの返答
2014年6月3日 13:58
ありがとうございます。
四十九日迄まだまだ日がありますが、まずは初七日、きちっとできたと思います。
>神は優しく、仏は厳しい
・・・私は日本の神様は妖精のようなものかな、と思っています。(私たちよりずっと崇高だとしても)やはり喜怒哀楽に満ちていて、失礼があれば祟り、敬意を持てば助けてくれる。
対して仏様はすごく寛容で、すべて私たちが為すことを温かく見守ってくれる。但し、仏様というより仏様の教えを破る者に対しては、怒りではなく戒めを以て指導する。
こんな風に考えることで、神様と仏様の違いを理解しているつもりです。
2014年6月2日 19:23
私と繋いでくれた大事な仲間でした
お会いすることはかないませんでしたけど
今後どこかでお会いすることを
願っています
平穏な日々を過ごされますように
コメントへの返答
2014年6月3日 14:04
ありがとうございます。
今も家へ帰り、彼女の住処だった犬小屋を目にしたり、買い物に行くとついつい餌や蚊取り線香に目がいってしまったり。
その度“ああ、もういないんだ”と寂しい気持ちになります。
嫁などは家の掃除をしていた折、畳の上に彼女の抜け毛を見つけ、ほろほろと涙を零しています。
世間では“ペットは家族”という言葉も聞こえてきますが、我が家にとって柴犬とぬこは、そういう言葉では表せない、“神様のお遣い”でした。
今も虹の橋のたもとで待っているかとおもうと、再会の日が楽しみでしかたありません。
2014年6月3日 0:31
>灯り一つない峠を越える

まさに色々な思いを込めた「旅」をしてきたとお察しいたします。



コメントへの返答
2014年6月3日 14:06
寒かったです。
太陽が出たら、死ぬ程暑かったです。
車で行けばあんな苦労はなかったのでしょうが、巡礼の旅は身体を剥き身にすればこそ、と突っ張らかった自己責任の結果でしたw
2014年6月3日 1:51
ご冥福をお祈りします。

お別れのようでお別れではないのかもしれませんね。

これからは空の上から見守ってくれますよ。
コメントへの返答
2014年6月3日 14:09
ありがとうございます。

再会は虹の橋のたもとで、と言い聞かせました。
段ボールの棺には、ちゃんとその旨綴った手紙を入れました。字が読めないから、仏様宛にも書きました。

それでもバカなので虹の橋の場所がわからないかもしれないと思い、お墓にて、先逝した父宛にも“くれぐれも宜しく”と頼んでおきました。
2014年6月3日 21:54
私の爺さんは私が生まれる前に発作で亡くなりました。
だけど最近気付いたのは「あ、俺は爺さんの生まれ変わりだな」と。
自分の使命を鑑みるに「だから俺が生を受ける前に亡くなったんだな」と。

輪廻転生、器殿の娘さんもきっと巡り巡って新たな何かの意味を見い出すでしょう。
すいません、こんなコメしかできない私をお許しくだされ。
コメントへの返答
2014年6月3日 22:08
爺さん・・・実は見たことない、会ったことないw皆私が生まれてくる前に亡くなってたw

リ・インカネーション、そう言えばお友達の某変態もとい、どろんこ兄貴が仰ってました。今の日本を建て直そうとする人たちは、靖国の英霊の生まれ変わりだと。

ウチの娘、
『人の世に、生まれ変わりというものがあるなら、あなたとこの女王は、遠く時の流れの接するところで、愛し合う人としてめぐり逢うことがあるでしょう (from1000年女王←ハマーンが大好き)』の言葉のように、六道輪廻の後、今度は“本当の家族”になって欲しいものです。

それよか、お父君のこと、大事にしてあげてください。

プロフィール

「5年乗ったスピトリRSから乗り換えた。旅先でどうしてもダートを見ると心がときめくからだ。林道レベルならモタードはオフも走れる。問題はタイヤだが、純正のスーパーコルサSPはナラシ終了時に坊主になってるはず。次はスコーピオントレイルあたりにしたい。だが情報が大陸に漏れるのは必至。」
何シテル?   09/19 00:51
平成30年2月現在、 【四輪】 家車…モデル末期、叩き売りのアウディA4 AllroadQuattro。 使用用途は主に近所のスーパーへの買出し、...
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