
ちょっと事態が変わったので、綴っておく。
実は前のエントリ『
日本を取り戻すために~前編・恨(ハン)のこころ~』の話は、本エントリのテーマに絡んでいて、後編で結実させるためのまでのネタなのだ。
勿論、『ひでよし』が来なくなったのは本当のこと。
勿論、ご近所さんの駐車場で彼が、まったりしてるのを目にしてたのも本当。
でも―
確かに、『ひでよし』と私の関係が変わったのは、第三者目線で見たら、つまり表層的な現象として見たらホントのことなんだけど…私の心情変化は、ブログとは真逆。
実は私、週のはじめ―『ひでよし』が来なくなった日から、もう毎日、気が気ではなかった。
明けても『ひでよし』、暮れても『ひでよし』。
帰宅するや否や嫁に向けて話す言葉は、「(今日は)ひでよし、来た?」
『ひでよし』が我が家に訪れた折必ず使っていた〝別荘〟―主なき犬小屋。
今は亡き柴犬の、終の棲家―を覗き込んでは、がらんとしたその中に、溜息を洩らす。
この一週間の私は、あまりに情緒不安定―
〝恨(ハン)〟どころではない。
「ひでよし、ひでよし・・・」途方に暮れているばかり。
食事は喉を通らず、仕事にも支障が出る有様。
今日も日暮れギリギリに帰宅、スーツの上だけ脱ぎ捨てると、スラックスに革靴のまま、エサを片手に『ひでよし』を探しに行こうとした。
さすがに見かねた嫁、「そんなに気になるなら、ウチに連れて来なさい」
で、午後10時前・・・往来ひとつ無い住宅地の路地、見当のつく場所に向け、私は喜び勇んで出向いた。
やっとウチの子にできる…!
家の中に入れて、一緒に暮らせる!!
一人娘のぬこ(♀18歳)とは、仲良くできるだろうか?
寝床は当分の間、玄関の土間かな?
家出したりしないかな?
交錯する思いと足取りが、見事に一致する。
街灯が明滅するたび、自分の影が、アスファルトで揺れる。
住宅街の庭木が黒く、影絵のよう。
喜びと不安が、交互に訪れる。
早足、立ち止まり、また早足。
家並みの隙間、表通りを走る車のヘッドライトが、まるでストロボライトのよう。
この先、その角―そこを曲がれば―居た!!
思ったとおり、いつものご近所の、いつもの駐車場。
湿った夏の夜風吹くコンクリ敷きのうえ、目を細めてまどろむ、『ひでよし』。
「ひでよし…ひでよし!」
声をかけてみる。
反応なし―また無視された。
毎度のことと、今度は手にしたポリ袋から、彼お気に入りのドライフードを取り出し、鼻先に与えてみる。
反応なし―ピクリともしない。
・・・おかしい。
「ひでよし!!!!」
大声で名を呼ぶ。
・・・薄目ひとつ開けない。
―気がついたら、私は彼を抱き上げ、我が家に向けて駆け出していた。
抱えあげたその軽さに驚いた。
来訪のあった毎日、日々柔らかさを増していったあの茶虎の毛並みの感覚が、まったく伝わってこない。
私の腕のなか、ぐったりと折れる四肢。
かさついた手触り、開かぬ瞼。
この数日間、ロクに飲まず食わずでいたのは明白。
このままでは・・・このままでは!
「ひでよし」が死んでしまう…!!!!!!!!
―深夜にも拘らず、事前に嫁から連絡を受けていた医師は、診察台に灯火をつけて、私たちを待っていてくれた。
郊外の動物病院。
レントゲンの画像を示し、「ひでよし」の症状が説明される。
極度の脱水症状。
胸部に大量の水、ないし膿が溜まっている。
荒い呼吸、箱座りさえできぬほどの、衰弱。
血液採取。
強心剤投薬の後、麻酔。
今夜一晩、マスクを通しての酸素吸入。
明日(といっても既に今日だが)他の医師が揃い次第、胸部にカテーテル投入を行い、肺に溜まったものを排出させる。
同時に採取した血液を機器にかけ、猫エイズその他感染症の検査。
その前に―正直、明日を迎えられるか?
空気が、重い。
力が抜ける。
独りではないことだけが、救いだった。
家に帰る。
長い夜。
眠れない。
今頃「ひでよし」は、マスクをつけ、バルーンに囲まれた酸素室で、ひとりぼっち。
どれほど怖かろう。
どれほど心細かろう。
私は自己満足のために、人間の思いあがりと共に、明日をも知れぬ…けれども野良として逞しく生きてきた生命を、今わの際に、どん底に追い込んでいるのではないか?
どうせ長くはない生命なら、せめて野良のまま自由に、心の赴くまま、穏やかな終焉を与えてあげれば良かったのではないか?
ひでよし。
ごめんね。
あと3日、早くオマエを連れて来ていたら、こんな思いはさせなかったのに。
ごめんね。
気がついてあげられなくて。
ごめんね。ごめんね。ごめんね…!!!!!
「不思議だね。」
べそをかきながら、嫁が言う。
「実はね、あなたが書いた『ひでよしがこない』っていうタイトルのメール…同じ中身のやつが何度も、何度も、私のところに来ていたの。正直、気味が悪かったわ…あなた、おかしくなっちゃったのではないかって。でも・・・」
「でも?」
抑揚無く、唇が動く。
「あの沢山のメール、もしかして、『ひでよし』からのSOSだったのかな?新しいメッセージがあった訳じゃないのに、何度も来てたんだよね…不思議。」
途端、視界が歪んだ。
ひでよし・・・ひでよし!!!
おまえ、苦しかったのか!?
苦しくて、辛くて、寂しくて…それで言霊になって、私たちに伝えてきてたのか…
ありったけの思いを!!!!!!!!
泣いた。
二人で、泣いた。
ごめんね、ひでよし。
―現在、午前2時50分。
キーを打つ私の傍ら、ぬこ(18歳♀)が丸くなってスヤスヤ眠っている。
だが、私は…眠れない、眠れるわけがない。
溢れる思いをいなす術すら知らず、私はいま、このエントリを綴っている。
ごめんね、ひでよし。
Posted at 2017/07/29 03:22:24 | |
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