
さて、ハマーン様のキュベレイ(スイフトともいう)は追ってこないようなので、私は郊外の山へ…朝8時、愛知県は三河高原なる一角に向かい、KTM 990 SUPERMOTO“R”(以下、SMRといふ)を走らせました。
今回は、前編の私自身の勘を取り戻す訓練と、前日新品に交換した前後タイヤの皮むきが主な目的です。
従って、タイヤ表面の油を落とし、ビードを車体に馴染ませると同時に、私自身の動体視力や神経系を覚醒させ、かつそこそこ身体を動かすことのできるルートを選定する必要があります。
ためには、街乗りから低中速の峠・高速のツイスティロード・ダートロードを交えてまんべんなく走れることが理想です。ダートを入れたのは、タイヤのラジアル層を柔らかくするためと、私自身が路面に甘えずにちゃんと荷重訓練をできるようにするためです。
具体的には、(愛知県の話で恐縮ですが)猿投グリーンロードから豊田市足助町へ抜け、県道33号から加茂広域農道を走り、段戸山周辺のフラット林道を数キロ走って、再び県道33号から国道257号を経由、愛知県最高峰である茶臼山の高原道路を走って仕上げるルートです。
早速自宅から猿投グリーンロードへ…って、暑い!
暑すぎる!
メット内部に入ってくる風は、布団乾燥機か食器洗い機のダクトから放出される熱風といい勝負です。
路面の照り返しと、足許の1000ccV型2気筒エンジンが発する熱気がコレに追い打ちをかけてきます。おまけに3連休の渋滞、周囲の車が発する熱気は、もう嫌がらせ以外の何物でもない!!
しかも、こっちは長袖のナイロンジャケットに、皮のパンツ、革のオフロードブーツ、革の手袋…クールビズの時代に逆行する出で立ちです。
しまったー! こんなことならせめてエキシージで来れば良かった…。
と、後悔してももう遅い、熱中症にだけは気をつけて、随時スポーツドリンクを流し込みながら漸く街を抜け、西三河山中のグリーンロードへ逃げ込みました。
おおー、少し涼しくなったかな?
やっぱり山の保水力はスゴイですね。ちょっと市街地から離れただけですが、この道は広葉樹の森を抜けるため、気化熱で周辺の温度もずっと低いのです。
タイヤのアタリは当然まだ固く、用心しながら連続する高速コーナーを抜けていきます。
料金所でお金を払い、矢作川に架かる鉄橋を渡ると、川面をなでる空気に身体が冷えて大変心地よいです。こういうときは現金なもので、やっぱりバイクで来てよかったなあ、と。
足助町の渋滞を抜けて、溶けたアイスみたいになった心身を清めるため、県道33号【瀬戸設楽線】へ。このルートは一寸狭いけど、通行量も少なく、清流沿いに適度な中低速コーナーが続きます。天涯は杉林が日除けになって、快適快適。流すようなスピードならとても気持ちの良い道です。所々に現れる集落も昔ながらの農家が多く、早苗が揺れる田んぼの向こうにはもう、赤とんぼの姿もチラホラ見られます。
いいねぇ~なんか、畦道に腰掛けて、ビールの一杯でもやりたい気分です。
ここまでで走行約30キロ程度、ちょっと肩の力も抜けてきたようなので、次は加茂広域農道を目指します。
愛知県の道は、それなりに道幅が広くて通行量も少ないところは、たいてい凶悪な縦溝が施してあることが多いです。私なぞ、バイク乗りにむけて無言で「コケろ!」と言われているような気がするのですが、どうなんでしょ。
舳先をむけた加茂広域農道はそんな地雷地帯もなく、道幅もそこそこあるし、休日は殆ど通行する車もありません。東に向けて高低差のあるつづら折れの登りのヘアピンが合計7、8カ所程度あり、エスケイプゾーンもあるのでそこそこバンクさせやすいのです。
景色も悪くなく、開かれた道路の向こうには奥三河の山並みが青い稜線を連ねて広がっています。
ただ、新しく開かれた道で、周辺も少し整地してあるため、またもや太陽エネルギーの餌食に…ブレーキング、バンク、リヤブレーキでライン調整、アクセルオンで旋回、立ち上がり、といったコーナリングプロセス中は良いのですが、続く直線に入ると、もうダメ。
ちょっと緊張がほぐれると、暑いィ~!!
路面が反射して。目が眩みます。
なんか電子レンジの中を走ってるような気が…最近の日光には、添加剤として放射能でも入ってるんじゃないでしょうか!?
往復してもっと身体もタイヤも慣らしたいのですが、この暑さには耐えられません。
さっさと本道を外れ、トンネル手前の脇道を登っていきます。再び杉林に囲まれたこの道は、苔むしたアスファルトがすぐに途切れ、薄い砂地に小石の混ざったフラットダートに変貌します。
道路両脇にはススキが生い茂り、もしもコースを外れて転んでもたいした怪我はしない…はずです。
ここはゆっくり、慎重に…。
なにせ、普段走ってるオフバイクはキャラメルパターンのタイヤにコントロール製重視のダンピングを活かしたサスセッティング、エンジンもトラクションに優れた単気筒、何より車重は総重量で120キロ弱。
一方SMRは完全にアスファルト向けタイヤのピレリディアブロコルサ。しかも新品。サスも固めの食いつき重視、エンジンは高回転指向の115馬力オーバー、車重は180キロ後半。
案の定、コーナー入り口も出口も滑る滑る。
でも、フロントが滑ったらアクセルオン、リヤが滑ったら細かくアクセルを調整、突っ込みで前乗り、ブレーキも中指で細かく力加減、立ち上がりはおしり荷重と、基本的なセオリーに身体が徐々に馴染んできました。
といっても、時折見てみるとメーターは時速20キロから30キロ…。
尾根沿いのルートで本来はまたメチャクチャ暑いはずなのですが、このときはそれどころでなく、きっちりと基礎のお勉強ができました。
さて、一寸遅いお昼ご飯を食べようと、国道257号沿いの道の駅、“アグリステーションなぐら”へ。その土地の文化になるだけ触れていたい私は、観光地臭プンプンの道の駅というのは普段あんまり利用しないのですが、もうこの時は喉が渇いて乾いて、ガマンできずに駆け込みました。
でも、朝から一回も行ってないのに、トイレにだけは入りません。あまりの暑さに、水分はおしっこになる前に体外に出ちゃったみたいです。
駐車場に入っていくと…おおーいるわいるわ、このクソ暑い中、スポーツバイク、オフ車、シティバイク、アメリカンも…。世の中にはかなり沢山のドマゾさんがおられるようですね。
それにしても、昨今バイク乗りの皆さんは、年齢層高いです。R-1,CBR,隼、10Rといったスポーツバイクに乗ってる皆様、ちょっとお腹の辺りが目立ちますよ!
メットを取ると見事に年季の入った面構えが出てきてびっくり。
だけど、自分ももうそんな歳なんですねぇ。
80年代のバイクブーム世代というのは、これからどんどん現役復帰してくるのでしょうね。ただ、バイクだけはあの頃のまま、私達の年齢が高いからといって過剰装備にはならないで、ストイックでいて欲しいものです。
私達が憧れた、NSR、TZR、Γ、ZXR、Ninja、刀、RMX、DT・・・あの頃のまま、再販して欲しいです。
さて、午後2時。休憩も終わり、本日の集大成は茶臼山高原道路。
この道は以前有料道路だったのですが、今は立派な一般道。道幅広く、休憩ポイント一杯。路面が荒れていること、今日のこの時間はサンデードライバーの一般車が多いことが玉に瑕、まあ、仕方ないですね。前車に追いついちゃったら、景色の良いスポットで涼むのも良いでしょう。
走り始めは登りの高速コーナーが続きます。よほどのオーバースピードでなければ、気持ちよーく走れます。SMRのようなV型ツイン車より、インライン4のエンジンがあっている道ですね。ジェット機の旋回をイメージさせる、文字通りシルキーロードです。ただ、側溝が剥き出しになってるところやガードレールが低いところもあって、怖いです。
道半ばを過ぎると、景色が広がってきます。高度も上がって所々に草原っぽいところもあり、見た目も体感上も少しずつ涼しくなってきます。
この辺りは高速コーナーからいきなりS字が現れたり、Rの大きなヘアピンに出くわしたりするので、気持ちよさと楽しさが交互に訪れます。
事前のダート走行で身体がリズムを取り戻し始めたのでしょうか?この頃にはブレーキングでラジアルマウントのキャリパーが生み出すしっかり感を感じたり、コーナーの内足荷重というV-TWINエンジン独特の回頭方法を思い出したり、クリッピングポイント手前からのアクセルオンさえもできるようになってきました。
だいぶ勘が戻ってきたかな?
タイヤも、うん、良い感じです。SMRは純正でピレリのドラゴン スーパーコルサなる反則なタイヤを履いているのですが、今回はディアブロ ロッソコルサという1グレード低いヤツに換えています。4輪で言うと、Sタイヤからスポーツラジアルに換えたようなものですが、所々に水の流れているコーナーでも姿勢変化が楽で、突然滑ることもありませんでした。タイヤのパターンが端から2センチくらい溝無しなのですが、多少濡れたところでもあまり気にせずバンクできました。高原道路頂上の駐車場でチェックしても、端までキッチリと溶けていてもカチカチに固くもならず、これならツーリングにも使えそうです。
そんなこんなで丸一日、夏休みの思い出みたいなことを好き勝手やってきたのですが、どうかな?少しはリズムや勘が戻ってきたかな?
いやいや、その前に身体の節々が痛くならないかな?明日は筋肉痛がひどいかも。とりあえず背骨の手術跡も痛くないし、あとは来週もう一度エキシージに乗ってみます。
あー、疲れた。家帰って風呂入って寝よ!っと。
しかし…ちょっと薄暗くなって家に帰ると、「…」無言のプレッシャーが…