随分と前になってしまうが、7月の(いつだっけかな・・・まあいいや)某日、信州のまんなかへんちょっと右の方へ行ってきた。
【目的】
①ロータスを売らないようにすること
②売らずに済んだお金で、
KTM 990 SuperDUKE R を買わせていただくこと
【戦略】
①エキシージの屋根を取っ払い、嫁を高原のさわやかな風の中、“ドライブ(笑)”に連れ出す
②日本一と言われる
野辺山高原の“満点の星空(爆)”を以て、エキシージの万能性(オープンカーにもなる)ことを知らしめる
③天の河の下、ロータスも“悪いことばかりじゃない”と見直させる
④ここで“バイクはもっと気持ちいいよ!”と何気に呟き、“今度はバイクで来ようか”と親しみを込めて誘い込み、可能であればその場で新しいバイクを買うことを許して貰う。※KTM 990 SuperDUKE R は、一人乗り専用設計である
【予想される問題点】
①道中エキシージが壊れ、却って顰蹙を買うかもしれないこと
②オープンにすることで直射日光が降り注ぎ、“美白”なるものを妨げ、却って顰蹙を買うかもしれないこと
③エキシージの乗り心地の悪さに、却って顰蹙を買うかもしれないこと
④宿のメシが不味かったりしたら却って顰蹙を買うかもしれないこと
【問題点への事前対処】
①出発前に6ヶ月点検+各部の増し締めをする(何かが取れてしまわないように)
②ヘッドライトやウインカーのバルブなど、消耗品の小さなやつは同時携行する
③宿泊費は私がもつことにする(5月から小遣いを貯めておいた)
④じゃ◯んや楽◯トラベルで、食事の美味しい宿を精査し、予約しておく
⑤エキシージの足周りを徹底的に緩めておく
⑥嫁の日焼け対策に、帽子を買って与えておく
【Operation Name】
“星を見るに天文学は要らない”
はじまりはじまり~!
【経過】
①初日
『往きの高速道路』
中央道で延々と小渕沢まで走る。一旦オープンにしたが、熱風が叩きつけてくるだけなのですぐに幌を被せた。
エキシージのエキシージたる所以であるハードトップより、幌仕様にした方がずっと快適である。
曰く、静か、エアコンが効く、車内が広くなる。
所感・・・普通の車とは逆である。
『小渕沢より八ヶ岳高原道路へ』
オープンにしてみた。空気が乾燥している。直射日光がヂリヂリと照りつけ、涼しい筈の高原は、まるで砂漠のようである。
木陰を縫うように走るが、前を走るのは観光バス…
所感…もっと速く走るか、道を空けてください。
『清里 清泉寮』

自分には最も似合わない場所(だと思う)。ハマーンは名物のソフトクリームを食っている。タバコを吸う場所もなく、途方に暮れる。
でも、甲斐駒ヶ岳の向こうに富士が見えたのは嬉しい。しばわんことみけにゃんこを連れてきてやりたかった。
ハマーンの故郷はアステロイドベルトの向こうではなく、草千里の近くなので、まるで故郷に帰ってきたかの風景に喜んでいた。
『野辺山 平沢峠』

血湧き肉躍るツイスティロードだが、腹が減ってアクセルを踏む気になれない。
だが、峠から見た八ヶ岳には雲一つかかるものもなく、蒼穹に佇む山の量感は圧倒的であった。この先は、確かJR最高地点。小さな電車が草原を進む。
風の音だけが耳を嬲る。目を閉じて、この地を駆け抜けた若き日を思い出す。
ちなみに、暑い。皮膚が赤くなってきた。
所感…バイクで来たかった。
『八ヶ岳高原』

ごはん。一食2500円/人 也。
八ヶ岳高原ロッジなる高そうなホテルで食べた。ハマーンはトマトカレーだっけか。
私は牛丼…もとい、地元産のお肉をのせた信州アルプス牛"杣添丼"(そまそえどん)なる…やっぱり牛丼。
とっても美味しかった。でも、タバコは吸えなかった。
所感・・・すっごく金持ちの気分になった。
『松原湖からR299メルヘン街道へ』

ロータスのための道。但し、壊れなければ。
ここまでは壊れる気配はない。事前に整備しといてよかったよかった。
タイトコーナーを巡り、国道第2の高度を誇る麦草峠へ。
囀る鳥たちの声は、都会では聞くことのできないもの。
風は単色、喉を潤すかのよう。
峠のヒュッテで一休み。
美味しいジュース、遊歩道の東屋でうたた寝。
微風が焼けた肌を癒していく。
所感…バイクで…いや、水彩画セット、持ってきたかった。
『宿泊
豪族の宿 大東園』

R299を下り、別荘地を抜け、本日の宿へ。
陽は未だ高く、たまには歩いて近場の滝を見に行く。
しかし…舗装してあるとはいえ、急坂を結構な距離、登った。
登った先には…駐車場、あるじゃんか!
ハマーン様、息が上がってる。
滝の名は“乙女の滝”。

脇をよじ登り、飛沫を浴びてしばし佇む。
嗚呼、よき哉よき哉・・・日焼けが痛い。
宿に戻り、麓の茅野市へ買い出し。
セブンイレブンで働く地元のお姉さん、大変てきぱきと仕事してる。
それを見たハマーン様、いたく感心している。
所感…日焼けがいたい。
『本番』
美味しいごはんも終わり、満腹。
岩魚やアマゴ、地元のお肉、お鍋、美味しゅうございました。
で、夜の帳も降りた頃、(嫌がる)ハマーン様を連れ出し、再び麦草峠へ。
街灯どころか人工の光一つ無いツイスティロードを慎重に駆け上がる。
併走するのは、ニホンジカの親子。
ヘッドライトに照らし出される、ホンドキツネの瞳。
アスファルトを横切る、お猿さん一家。
針葉樹の木立に覆われ、山の端をゆく。
深遠な闇は濃度さえ纏わず、そして夜は闇と同義であることに気づく。
しばしの後、峠へ。
ここで大きな誤算。
山を巡りこんで出た先には、まあるいまあるいおっ月様。
今まで山の陰に隠れていて、気がつかなかった。
そう言えば、オープンにした空だけは、妙に濃紺。
天の河の下で、エキシージの良さを褒めて貰い、あわよくばバイクの買い換えにこぎつけようとした目論見は、この時見事に砕け散った。
途端、駐めた車の外からは、正体不明の獣の声。
ハマーン様、ハッキリ怯えてる。
そりやそうだ、だって今、エキシージは屋根無し状態。
怖い動物に襲われたら、ひとたまりもない。
急ぎ、来た道を引き返す。
所感…自分的には、詩的で満足な世界なのですが…
②最終日
1泊2日なので、2日目は帰る日。
『蓼科湖から八ヶ岳エコーラインへ』
今日も陽光は射かける矢のよう。
銀色のそれは、細い斜線を描いてアルミボディのなかに突き刺さる。
あつい・・・。
早めの昼食を貪るため、蓼科湖へ。
あ、ここ、湖畔にいいキャンプ場あるじゃん。
あー、バイクにテント積んで…もとい、楽しいな、オープンカー!
周辺は、ペンションやらちょっとした喫茶店やら…うんうん、リゾートだねえ。
と、ハマーン様が指さす先。
おお、これが有名な“
ホテル ハイジ”。

宮様も泊まられるという、あの高級リゾートホテルか…
中に入るのもおこがましく、入り口でウロウロしていると…
あれ?ハマーン様?ハマーン様ってば!
ありゃりゃ、入って行っちゃうよ、この人。
で…はい、ランチ代、当然私が出しました。
3100円也…高いねぇ…今回だけだよ?
えっ?それだけじゃない!?
ランチタイムまであと30分…フムフム、じゃ、その辺散歩でも…って、オープンカフェえ!?
コーヒー飲むぅ?…一杯800円!?
で、はい、一人頭3900円ね。
はいはい、出しましたよ、出させていただきましたよ。

それにしても…綺麗なお庭だねえ。
ご飯は、スズキと鱈(だっけか)のわけわかんない高級料理。
接待でだって喰ったことないぞ、こんなの…。
所感…美味しゅうございました。
『原村、そして…』
セレブなごはんも食べたし、さて、いよいよ帰ることに。
遮るもののない草原の中、屋根のないエキシージはのんびり走る。
しかれども、お天道様は中天を巡り、熱伝導率の高いアルミバスタブシャシーのなかは、焼けるような暑さ、というか、熱さ。
私の腕、首はもう、中トロの刺身みたいな色になってる。
隣でハマーン様は…寝てるよ!?
それにしても、スゴイね。今時の日焼け止めって。
嫁の肌、全然焼けてない。
以前某資◯堂の研究員に聞いたことあるけど、ああいう日焼け止めって、臨床実験に研究員自らチベットとか、すごい高地で紫外線強いところへ赴き、自らテストするんだって。
こうなると、男物の日焼け止め、欲しくなってきた。
あまりの暑さにエキシージの進路を変え、三◯の森なる別荘地へ。
ここならば、木陰で一休みも可能かと。
あ、その前に、冷たい飲み物でも飲みたいものだ。
感じの良いガラス張りのレストランを見つけ、駐車場へ駐める。
と、「これ(←エキシージのこと)ここでは最高でしょう!」と、おじさんに声かけられた。
聞けばこのお店のオーナー、普段は東京にいて、休日はここらで過ごすそう。
普段はポルシェ(当然997の991)乗ってて、今回は単車(BMW)で来てるんだって。
うわー、やっぱりこの人も、セレブ。
色々と話しながら、お店の中へ。
なんか、冷たい水に炭酸が入ったやつ(ペリエの上等なやつ)をいただき、しばし涼ませていただいた。
所感…ロータス止まりです、一生かかってもポルシェは買えません。
『また来るよ』

お店を出、八ヶ岳を背後に、緩やかな一本道を下る。
屋根には幌、アクセル開度は、スーパーチャージャーの音が聞こえない程度に。
空は蒼くて、風は銀色。
山肌の樹木の枝は一つ一つがくっきりしてる。
振り返ると、大きな大きな、真っ白い入道雲。
周りは見渡す限りの畑が続く。
子供の頃、麦わら帽子にタモを持って虫取りに出かけた、あの頃の夏が私達を包んでいる。
傍らのハマーン様も、どこか懐かしそうに、濃くなった山の緑と、その向こうの飛行機雲を目で追いかけてる。
日本は、良い国だなあ。
日本は、美しい国です。
背後の八ヶ岳、そのずっと向こうの空、そのずっとずっと先の地にも、早くこんな夏が訪れて欲しい。
そのとき確かに、私の心のなかでは、エキシージのこと、バイクの買い換えのことなど、どうでもよくなってた。
ただ、忘れてはならないこと。
それは、こんな夏をもたらせてくれてるのは、65年前のあの頃、命を落としてこの国を守ろうとした、あの人たちだということ。
やまとは くにのまほろば
たたなづくあおがき やまこもれる
やまとし うるはし
この美しいくに、美しい夏を、決して売り渡してはなりません。
それは、経済的合理性でも、歪められた歴史観で塗り固められても、決して失ってはならないものだからです。
どんとはれ