
この記事は、
愚痴について書いています。
以下、2月17日付け ごるふぁ~@ハチさんのブログから引用させていただきます。
>(TPP参加について)例えば、お米や農産物。
>アメリカから安いものが入ってきて・・・・・・のさばったとします。日本の農家の危機です。
>そうなった場合、日本人なら・・・・・日本の農家の事を思うなら・・・・・・・
>日本の農作物を選択しませんか!?
(中略)
>なら、5割高くても日本製を選択するでしょ?私はそうします。
>だって・・・・・日本製、好きですからね。多少高くても絶対にそっちを選択します。
>日本の国を憂いている人なら・・・・・TPP参加が決定したら、日本を守る為に、そういう選択をしませんか?
>私は、多少高くても、「値段相応の価値あるもの」にお金を使います。
(以上、引用終わり)
同感!同感なんです!お気持ちは本当にごもっとも、なんです。
以下、そんな“純心”を弄ばれた、ある“おバカ”のお話。
今から一月ほど前のことです。
年明けからの記録的豪雪が連日のように報道される、それはそれは寒い一日。
吹く風はしびれるように冷たく、空の鉛色が時折ぱらつく氷雨を通して、コートの中にまで凍み混んでくるような晩冬のある日。
その日私は自社の新商品を初公開するため、早朝から部下3人とともに展示会ブースの最終チェックに余念がありませんでした。
展示会とはいえ、折からの景気悪化を受けて予算は殆どつかず、従って私達は出展の企画、準備作業から商品案内そのものまで、すべて同じチームで、一切の外注業者を廃して行わねばなりませんでした。
連日の慣れない作業に加え、前日も現場の準備作業が深夜まで続くなか、開会前にして私達4人は既に疲労の色も濃く、残された本番=商品案内の時間を迎え、最後の気力を溜めていました。
-このままでは、誰か倒れる…
そう思った私は、部下を少しでも元気づけるネタはないかと、開場前の各社出展ブースを巡回することにしました(これを世間ではサボるともいう)。
この展示会は、所謂合同展示会というやつで、会場となっている巨大なドーム内には、私達の属する石化樹脂加工以外にも、様々な業界のブースが軒を連ねています。安全具業界のセクションを抜け、情報通信業界の一団を過ぎた先には、食品業界のブースが集まっている筈。
私は疲労で痛む足を半分引きずるようにして、そちらに向けて歩を進めました。
そう、私は疲労に蝕まれる部下を何とか元気づけようと、開会前に美味いメシのひとつでも奢ってやろうと(ちょびっと)思っていたのです。
と、ありました!
目に入るより早く、調理した肉汁が放つ何とも言えない芳香が、私に向けて漂ってきます。私は様々な調理器具が稼働するその一角に誘い込まれていきました。
海産物加工、乳製品、お漬け物、そして牛タン…角を曲がったそこには、食品業界のなかでも、特に特化して
“被災地の企業”ばかりを集めた、特化ブースばかりが集まっていました。
-主催者も粋なはからいをする…面白いじゃないか!
愛国者を自認する私の心を鷲掴みにする企画。
文字通りゼクス・マーキスばりに唇を歪め、俄然元気になった私は、目の前のお弁当屋さんのブースに駆け込むと、
-「おばちゃん、牛タン弁当4つ!!!」
-「お!兄ちゃん朝から元気だね!」
調理服(って言うのですか?)を着たおばちゃんがこれまた元気に応えます。
-「あたぼうよ!このご時世だ、
少しでも被災地の皆さんを応援するのが男ってもんだい!」
-「そうかい、嬉しいねえ、おしんこ おまけしてあげようかねえ!」
-「そう来なくっちゃ!で、幾ら?」
(私の心の中)今俺はとっても良いことしてる、天国のオヤジ、オフクロ、アンタたちの息子はこんなに立派に成長しましたよ!!
-「うーん、ひとつ1800円だから、4人なら
7200円だねえ。」
-えっ!?
軽い目眩を覚えながら、私は心の中でおばちゃんの言葉を反芻しました。
-あ!?・・・7200円…ななせんにひゃくえん!?…
部下を元気づけるため、被災地に貢献するため…とはいえ、
間食に7200円!!!!!!!?
これなら、コンビニで栄養ドリンク4本買った方が・・・いや、いかんいかん。
-・・・・・・・・・
私の心に、(テレビで見た)被災地で頑張る農家の方々、加工業者さん、物流業者さん、自治体の方々、子供たちの顔が目に浮かびます。
これは被災地の皆さんの力が結集した牛タン弁当なんだ。
放射能汚染の風評被害に負けずに、米農家の方々が一生懸命作ったお米。
同じく畜産農家の皆さんが、文字通り死守して育てた牛たちのお肉。
津波で流された工場を、必死で立て直した業者さんが加工したお漬け物。
物流業者さんは、瓦礫の間をぬってトラックを走らせてくれた。
7200円が何だ!
世の中は金だけじゃないんだ。
これは日本のためなんだ…
頑張れ、東北!!!!!
負けるな、日本!!!!!!
◯んじまえ、売国民主!!!!!!!!
Made by JAPANESEは、必ずよみがえる!
私は頬を紅潮させながら、汗ばんだ掌に1万円札を握りしめ、おばちゃんに差し出した。
-「はい、ありがとね!」
微笑みを交わす、名古屋市民と仙台市民。
多くの言葉は交わさずとも、私達は互いの眼差しで幾億の熱い思いをぶつけ合ったのだ。
-フッ、私にもまだ、こんな心が残っていたのだな。
心地よい高揚感に満たされつつ、私は呟くともなしに呟いた。
-「それにしても、お兄さん太っ腹だねえ。開場前にここへ来たってことは、アンタも関係者なんだろ?4人分の弁当は、お仲間にあげるのかい?」
-「ああ、そうだ。
東北の皆さんがつくったコメや仙台牛のタンを食べれば、ウチの社員も元気のおこぼれを貰えるってものさ!!」
タバコのヤニで薄汚れた歯をキラッと輝かせながら、私は微笑んだ。
-「あ・・・ああ、でも悪いねえ…その肉は
仙台のものじゃないんだよ」
-「え!?」
危うくお釣りの2800円をこぼしそうになりながら、私は我が耳を疑った。
-「だからねえ、ウチの弁当には、お兄さんが言った
仙台牛なんて使ってないんだよ」
-悪い冗談だろ!?
視界が軽く暗転する。
-「じゃ、じゃあ、いったい何処の…宮崎?それとも飛騨?・・・まさか松阪とか・・・?」
せめて国産牛であって欲しいという私の願いは、おばちゃんの次の言葉で完膚無きまでに叩き伏せられた。
-「オージービーフだよ」
-「・・・・・・・!」
-「・・・悪いねえ、なんか、気落ちさせちゃったかねえ・・・でもねえ、
最近じゃ国産の牛も高くてねえ・・・」
余程顔に出てしまったのだろう、下を向いた私を労るようにのぞき込み、おばちゃんはバツの悪そうな顔をした。
-「・・・そうなんだ・・・」
私は乾いた笑みを口元に引き攣らせながら、そのお弁当屋さんを後にした。
重い疲れがどっとのしかかり、軽い嘔吐感さえ覚えた、自社ブースへの道程。
これが
市場経済。
需要に応えるための、価格弾力性。
デフレ不況の日本を襲った東日本大震災は、生産者に一層の試練を与えている。
そして、
TPPが発効するそのときには・・・
私はバカかもしれない。
でも・・・ブースに戻ったら、こう言うんだ、若い部下に向かって。
「この肉も、この米も、このお漬け物も、みーんな被災地で獲れ、被災地で加工したものばかりだ。
同じ日本人として、思いっきり味わってくれ!!!!!」と。
・・・以上、メインのくだりは実話です。
<おしまい>