【母の日】
少し前になるが、5月12日の話だ。
当日は“母の日”、皆様は御母堂に向けて何をしてあげられただろうか?
1.実母について
拙宅では父母とも既に逝去しているが、私は亡き母のために、
仏壇に“足揉みマッサージ器”を呈上させていだいた。
これであの世で、カルチャースクール通いとか、団体バス旅行とか、買い物はじめ家事一般で歩き疲れた亡母も、少しは楽になるだろう。
ということは、あの世での亡父も、食事の時「アンタは家のことを何も手伝わない」とか、「私は疲れているのにアンタはテレビばかり見ているのか」と、イヤミを言われずに済む、ということだ。
我ながら、父母共にあの世でWin-Winの関係を構築できるようにした功績は大きいと思う。
ま、実際に使うのは、生身の私達なのだが。
2.拙宅について
さて、一方現世では・・・。
拙宅には“母”というものがいない。
①ぬこ(♀)
ウチのぬこはキャリアウーマン指向で、常に“食っちゃ寝、食っちゃ寝”を続けている。
どこがキャリア指向なのかわからんが、たまに壁やカーペットで爪を研ぎ、破壊しているから、それが仕事なのだろう。
当分“母”になる気はないようだ。
②柴犬
柴犬(♀)については、13歳という高齢にも関わらず、未だ玉の輿をねらって常に“家事手伝い”を続けている。
本人は家事全般についてエキスパートでいるつもりのようだが、食事も掃除も私任せである限り、当分嫁には行けないだろう。
従って、“母”になるには私生児をつくるくらいしかないだろうが、それは本人の収入(エサと水)を考えたら、現実的ではないだろう。
③嫁(ハマーン様)
最後に嫁であるが、嫁と私の間には子はいない。
従って、“母”であるはずはないのだが…多分ないと思うが、いや、あったら困るのだが…。
GW明けのある日、こんなことを所望された。
嫁「ひとり旅とやらを堪能して帰ってくれば、毎日毎日犬猫とともに食っちゃ寝食っちゃ寝…貴様!少しは私のために何かしようという気持ちはないのか!?俗物!」
私「毎日仕事をして、FXで儲けた金でリゾート会員権を買ってやったではないか?これ以上何が望みだというのだ、ハマーン!?」
嫁「よくもずけずけと…貴様は世間で今、何が謳われ続けているか知らないようだな。世界の都合というものを洞察できない男は、排除すべきだ!」
私「サボテンが、花をつけている・・・」
…(しばし沈黙)…
嫁「(気を取り直して)たいした役者だな。だが、話し合いの余地がないとするならば、ここがお前の死に場所になる!」
私「そんな決定権がお前にあるのか!?」
嫁「私に同調してくれなければ排除するだけだ。その上で
今夜の晩ご飯は抜きだ。
それが分かりやすく、人に道を示すことになる!」
私「…!!!!!!!」
…晩ご飯抜き…その言葉に負けた私は、一路家を後にして“母の日”のプレゼントを買いにいくのだった。
嫁「こういう馬鹿な男もいる・・・世の中捨てたものではないぞww」
…近場のホームセンターに“世界最高峰のハンドリング・マシーン”を乗り付けた私は、様々な商品がごった返す店内で、赤いエプロンをつけた、パートとおぼしきおばちゃんに声をかけた。
私「そこのご婦人、少々尋ねたいことがあるのだが…」
パートのおばちゃん「はい、なんでしょう?」
私「“母の日”のプレゼントを買いに来たのだが…私は朴念仁なのでな、何を買っていいのかわからないのだ。」
パートのおばちゃん「あら、お母様にですか?それとも奥様?」
私「(苦笑して)ご婦人、私を誰だと思っている…?」
パートのおばちゃん「これは失礼しました、奥様にであれば…」
私「日本のメーカーが作った物でなければだめだ、何しろウチの嫁は
愛国者…」
「…これなどいかがでしょう?」
私が言い終わらぬうちに、おばちゃんが取り出したのは…
…ふらいぱん。
おばちゃんは続けた。
「これなら奥様、喜びますよ!大きいのにとっても軽くて、ちゃんと
“日本のメーカーがつくった”ものですよ!」
…おお…。
セラミック。
京セラ製。
あの、
スペースシャトルの外板タイルとか、日産自慢の“セラミックターボ”のタービンとかをつくった…
あの京セラが造っているのか!!!
マット調のダークブラウン塗装が、店内の照明を受けて、鈍やかに輝く。
燻し銀の光沢とは、このことか…!
パートのおばちゃん「これならホットプレートでも使えますし、直火で炒め物もできるんですよ!」
“得意料理が冷奴”レベルの私には、幾ら説明されても全く理解不能なのだが、捲し立てるおばちゃんの説明には惹きつけられるものがあった。
しかも、説明書きには…
『
強火いらず』のエコ、とか
『「
アルミの熱まわりの良さ」を活かし、「
鉄のようなタフさ」をあわせもつ』
とまである。
何となく、この“ふらいぱん”が、
素晴しいポテンシャルを秘めているだろうことは、“得意料理は冷奴”レベルの私でも、容易に想像できたのだ。
そして…
セラミックとメタルの融合…!
素晴しい…まるで“日本のモノ作り魂”がカタチになったようだ!!
しかも、『
低圧鋳造製法』…なにそれ?
値段も高いのか安いのかわからんが、なかなかのものなのだろう。
…とにかく、レジで消費税込み6615円を払った私は、世界最高峰のハンドリングマシーンに“ふらいぱん”を投げ入れ、意気揚々と家路を辿るのだった。
ガチャッ!
と勝手口の扉を開け、私は靴を脱ぐ間ももどかしく、台所へ飛び込んだ。
私「ハマーン、望み通り“母の日”のプレゼントを買ってきたぞ!」
嫁「ほう・・・殊勝な心がけではないか、貴様も少しは人の道というものがわかってきたようだな」
流し台をクレンザーで磨いていた嫁は手を止め、不遜な微笑みで“それ”を受け取った。
私「今の私にできるのは、これが精一杯だ。喜んで欲しいものだな。」
嫁「フフ‥貴様からそのような申し出を受けるとは嬉しい。 」
嫁は満足げに頷いた。
早速包み紙をほどき、嫁は嬉嬉として“ふらいぱん”を見入っている。
(私の目利きもそう捨てたものではないな…)
嫁の喜び様に、今夜のごはんがホカ弁にならずに済んだことを知り、私が安堵の溜め息をついた、その時…!
嫁「貴様…これは何だ!?」
私「情けない“ふらいぱん”を使ってごはんをつくる意味があるのか?と思ってな…」
“よいもの”をプレゼントできた満足感と、今晩のごはんのおかずにお肉が一切れ増えること、などを期待しつつ、ひとり満足げに微笑んだ私につきつけられたもの、
それは…
嫁「このキュベレイ、みくびってもらっては困る!」
めいど、いん、ウリナラ…
嫁「初めは私に期待を抱かせ、最後の最後に私を裏切る。青いしばわんこ、お前もだ!」
…また叱られまいした。
つらいれす。
(後編へ続く)