
やっと本題だ。
早速行ってみよう。
本エントリはのっけから大物、“アメリカが国ごと不良債権化する?”という話だ。
【説明】
1.債務の天井
アメリカには、
連邦債務上限法(通称:リバティボンド)というのがある。
これは平たく言うと、「政府は議会の承認なしに借金の上乗せはできない」というものだ。
施行以来過去18回、アメリカ政府は、この法律で定める借金の上限天井にぶち当たってきた(=財政の崖という)。
議会はその都度、この天井となる金額を
水増しし、結果政府の借金は増えたが、その借金でアメリカ合衆国は運営されてきた。
この借金とは、基本的には国債である。その国債はFRB(連邦準備制度理事会)や、アメリカ含む世界中の(個人から国まで)投資家が買っていて、その代金がアメリカの国家運営に使われている。
アメリカは基本赤字国家故、その国債の償還や利払いもまた、新たな国債を増発することで賄っている。国債を売りに出し、その代金で国債の償還や利払いをしているのだ。
つまりアメリカは日本と同じく、借金を返すのに借金をしている国なのだ。
しかし
来月から、アメリカ政府は19度目の借金天井にぶちあたる。
新たな借金はできなくなる=新たな国債の発行ができなくなる、つまり、
政府の財布が空になる。
もしそれまでに借金天井をかさ上げしないと、アメリカの国債は
債務不履行状態になり、暴落する。
繰り返すが、アメリカ議会が来月までに借金の天井をかさ上げしないと、アメリカ国債は、
世界レベルで不良債権化する可能性が高いのだ。
2.試算
その額、実に15兆ドル=
1650兆円(1$=110円換算)。
日本のGDPの3倍強。
これがアメリカ政府が絶賛発行中の、国債総額である。
もしこれが、不良債権化したら…
アメリカ国債の15%は、先に述べたFRB、つまり中央銀行が保有しているから、当然ながらFRBの資産内容はそれに比例して悪化する。
さらに恐ろしいのは、残りの85%のうち7兆ドル(770兆円)がアメリカ国内の民生部門で保有され、残りの6兆ドル(660兆円)強は海外で保有されている、という事実だ(当然日本の政府や投資家もここに入る)。
改めて、もしこれが不良債権化したら…世界中のありとあらゆる政府、法人から個人まで、自身の資産価値はすさまじい勢いで
消滅する。
金融資産から固定資産など実物資産に至るまで、その評価額は地に落ちるどころか、地獄行きだ。
同時に日常品の物価は、ハイパーどころかアルティメイトレベルで高騰する。
各国国民の生活レベルは、南スーダンの難民レベル以下になる。
ついでに言うと、アメリカの国債が暴落すれば、それを15%も保有しているFRBから発行される通貨=ドルの信用も地に落ちる。
さらに
世界の金融・実物資産の価値は殆どドル建てとなっているから、これ等が連られて大暴落する。
当然、「対外純資産は世界一」という日本も、その価値がドル建てである以上、純資産は殆ど価値を失い、世界一の政府債務額という大津波に呑まれ、
官民ともに破産する可能性が極めて高い。
3.影響力
参考までに、アメリカの政府のお金が回らなくなるとどうなるか、面白い過去がある。
2013年秋、アメリカではオバマケア絡みで議会と政府が対立し、予算が都合つかなくなったことがあった。
言うまでもなく、予算がつかない、というのは、政府の運営資金の割り振りができない、というだけのことであり、財政の崖とは意味が違う。
運営資金はきちんとあったのだから。つまりこれは別に、アメリカの債券が不良債権化することを意味するのではない。
それでも、予算がつかなかったのはたった2か月のことではあったが、政府職員が仕事をできなくなって自宅待機、政府が民間に対して行う各種サービスが提供されなくなった。また政府系金融機関からの融資が停滞し、社債や新株発行のできない多くの中小零細企業の資金繰りが悪化した。
特に注目すべきは、サイバーセキュリティに関するスタッフが人員不足となり、結果シ
ナのサイバー攻撃を受けた政府系機関が機能不全に陥ったことだ。
いわずもがな世界的に株価は下落、同時にアメリカ発行債券も下落、ドルも下落したのは言うまでもない。
結果としては、債務上限という真の大津波が訪れる前に、議会で与野党が歩み寄りを見せ、予算は遅れ馳せながら成立した。
アメリカ発の大金融恐慌は回避されたのだが…ただ予算配分が決められなかっただけでもこの有様である。
これがもし、
予算がない=債務不履行、という事態だったら…
【評価】
アメリカのデフォルト…本来コレ、大関クラスの番付になるはずだった。
なにせ、もしアメリカがデフォルトに陥れば、ドル基軸体制が崩壊、世界中のドル建て債券や米ソブリン債がこぞって不良債権化、国や個人の債務不履行が大連鎖することになりかねなかったから。
何よりアメリカの軍事資金が滞り、中露や黒電話、シリアやイラクのクルド族、イスラム過激派に、莫大な燃料投下しかねない状況が発生していたかもしれないから。
しかし今回においては、9月11日現在、首の皮一枚で世界経済は
破滅から救われている。
折からのフーバーやイルマといった巨大台風と、(おまけ程度の)黒電話危機が、アメリカ議員たちを目覚めさせ、結果として先ごろ債務上限適用は議会上院にて回避された。これはほぼ間違いなく、下院でも可決されるであろう。
8日付 Bloombergより―
The Senate voted to extend the U.S. debt limit as part of a $15.25 billion bill providing funds for Hurricane Harvey victims under a deal struck by President Donald Trump and Democratic leaders that roiled Republican lawmakers.
最短たった2か月の延長だが、
債務不履行は延期されたのだ。
曰く「台風被害そっちのけで、財政の崖なんかで駆け引きやってる姿を票田に見られたら、次の選挙がヤバイ」…森友加計の日本見て、民進を反面教師にしたのか?
ただ、本件は、この先もしばらくはテールリスクのままだ。
何せ、あの国の大将は“不動産屋のオヤジ”である。
曰く「メキシコとの壁つくるためなら、デフォルトしても構わん」
…コイツ、選挙公約のために世界を滅ぼす気か?
繰り返して強調するが、今回は
“債務上限適用が延期”されただけに過ぎない。
つまり、
債務天井が“上乗せされたわけではない”
のだ。
残り2か月、アメリカ財務省の特別措置(緊急予算執行権行使)があっても、
来春には、アメリカは再び、“財政の崖”に直面する。
そのとき、世界は…
ま、幸いにして大将がどんなにアホでも、議会はしっかりしてるから、当面大丈夫と思う…ようにしようw
【おまけ:日本はどうなの?】
日本の場合はデフォルトする前に、
大増税+デノミやって回避するでしょ。
円建ての国民資産は地獄行だけどw
参考までに、よくあるセリフー
「日本政府は債務残高より巨大な対外純資産があるから大丈夫」
「日本国債の殆どは政府と国民間の貸し借りだから、デフォルトしない」
前者については対外純資産の内容が圧倒的にドル建て現物資産だから、経常収支が悪化して円高になると、一気に目減り+価値下落なんだよね。
それに固定資産ってのは、いつも購入時とイーブンの価値を約束されているわけではないし、そもそも売り手が困ってるときは、買い手は半値八掛けで交渉しますがな。
後者についても同じ。国民と政府の貸し借りはいいけど、財務内容がボロボロになれば、政府は国債を国民(=金融機関)に買わせようとします。
が、ボロボロの内容の債券を買う物好きはあまりいません(昔は非公式に買ってたけどね)。
そうなれば金利は上昇し、政府の債務はさらに増えます。
財務内容はいよいよ悪化、政府は国債を国民(=個人や法人)に直接買わせる=大増税し、それでも少子化で税収が足りないから、事実上の徳政令=デノミですな。
で、この「国債の殆どは国民が引き受け」ですが、国民が殆ど引き受けてるなら、
とばっちりは国民にしか行きませんw
つまり、日本国“政府”がデフォルトしても、
世界への影響は殆どありません。あるとしたら、親方日の丸の外資系企業だけです。
ドイツやフランスが移民やる理由って、実は税収財源つくるためですが、日本政府もいずれこれやらざるを得なくなるでしょう。
興味ある人は、拙エントリ
『
2016年夏、ポリシー・ミックス、その裏に見える危機 ~第四章 日銀への不安~ 』
『
【本当に重要】2016年夏、ポリシー・ミックス、その裏に見える危機 ~第五章 財政政策と売国・亡国 前編~』
『
【本当に重要】2016年夏、ポリシー・ミックス、その裏に見える危機 ~第五章 財政政策と売国・亡国 後編~ 』
あたりを読んでくれ。
つづく