すっかり秋めいてきて、わが秘密基地から見える範囲でも、彼岸花や秋桜が花を付けている今日この頃。
涼しくなってきたことだし、ケーブルカー乗りつぶしハイキングの旅を再開しよう。
今日のターゲットは比叡山鉄道が運営している坂本ケーブル。
大津市の坂本から、比叡山延暦寺の参拝口までの日本一長い路線だ。
かつて一度は乗ったことがあるのだけど、その当時はただ乗っただけだった。
今回は、乗り鉄、撮り鉄、沿線散策をたっぷり堪能する。
朝、6時すぎにエリーゼで発進した。
予報に反して台風が急接近する恐れもあったし、なにより今回は歩く距離が長い。
坂本ケーブルを堪能したあとは、京都側へ山を下りて叡山ケーブルにもハシゴするつもりにしていたのだ。
歩き疲れた足で、車重200kgのムルティにまたがるということに、まだ自信がもてない。
けっきょく、あるハプニングで叡山ケーブルは次の機会に見送ったのだけど、想定していた以上に足が疲れたので、今回はエリーゼで出て正解だった。
7:30ごろに奥比叡ドライブウェイの仰木料金所に到着。
遠くからカーンとエキゾーストノートがこだましている。
うほっやってるやってる。
この音、600ccぐらいの4気筒だな。
奥比叡ドライブウェイはわたしの大好きなリズムでコーナーが連続する。
エリーゼならほとんど2速ホールド、ときどき3速という感じ。
路面に苔が生えていることもないし、路肩の雑草も刈られていて見通しもいい。
5台~10台ぐらいのバイクとすれ違い、エリーゼのタイヤも香ばしくなってきた頃に到着したのは、延暦寺東塔第1駐車場。
ここからケーブルの駅まで延暦寺の境内を通り抜けて歩くこともできるが、どうやら境内に入るには参拝料が必要なようだ。
着いたときはまだ営業していなかったけど、帰ってくるときに徴収されるかもしれない。
さらに南下して、トンネルを抜けた先に東塔第2駐車場があり、そちらのほうが駅に近いようなので移動した。
ここでエリーゼはお留守番。
500mほど歩いてケーブル延暦寺駅にやってきた。
駅舎の右手から裏へまわり、ハイキングコースを下る。
下りはじめると、しばらくは尾根伝いにケーブルの線路と平行して歩く。
ケーブル延暦寺駅から300mほど歩くと、途中駅のもたて山駅が見えてきた。
向かいの山からは延暦寺の僧侶が朝の読経を上げている声が聞こえる。
ポクポクポクという木魚が徐々にピッチを上げ、読経が佳境に達した頃、線路の間のケーブルがうなりを上げはじめた。
ここで撮り鉄モード。
まずは縁(えん)号
そして、福(ふく)号を見送って、ハイキングコースに戻る。
もたて山駅から500mほど行くとちょっとした広場があらわれた。
色づきはじめたモミジの下には、古い展望台が設置されていて、琵琶湖を見下ろすことができそうだ。
が…なにもみえない…
ちゃんと整備されていた頃はきっと展望台の前のヒノキが無かったのかもしれないな。
広場の片隅にはブランコもある。
さすがに朽ち果てつつあり、人が乗らないように、乗り板の部分は支柱に巻き付けられている。
その奥にはなにやら小屋も見える。
小屋には金網が張られているところからすると、鳥かウサギか、子供が見て楽しむような動物が飼われていたに違いない。
小屋の中には「さくらフィルム」と書かれたベンチがうち捨てられている。
なつかしいなぁ、さくらフィルム。
いまや、富士フイルムの製品でさえ、ブローニー版なんかは店頭に在庫がない。
この様子からすると、昭和の時代までは家族連れが憩うスペースだったことが想像される。
きっと、売店なんかもあったんだろうな。
さらに下ると分かれ道。
左へ折れる坂本方面がわたしの目指す先だが、ちょっと寄り道。
「男もすなる日記といふものを…」のくだりでご存じの、土佐日記の作者、紀貫之(きのつらゆき)の墓碑があるのだ。
おもっていたよりこぢんまり。
あとはただただ下るのみ。
よく間伐されたヒノキ林は、適度に陽が差していて明るく歩きやすい。
だが残念な光景も…
ハイカーが捨てたと見られる缶やペットボトルが散乱している場所もあった。
あまり展望のよい場所もなく、黙々と下っていくと、ブラスバンドが練習する音や、運動部が声を出しているのが聞こえ、里に下りてきたことを伺わせる。
腰までの高さがある笹藪をかき分けて降りると、そこには野球のグラウンド。
ありゃ?どこかで道を間違えたか?
下るわたしに背を向けて立つ看板を見ると…
やっぱりここがハイキングコースらしい。
それにしてもこの藪、看板がなかったらどこを歩けばいいのかわからないぞ。
野球場のフェンスの裏を伝って歩くと、プレハブ小屋との隙間を通って舗装された道に出た。
プレハブに掲げられた看板をみると比叡山高校野球部の練習場らしい。
舗装路を数十メートル下ったら、こんな看板があった。
坂本駅にとうちゃくー。
さあ、ここからは乗り鉄モード。
片道切符を買って…
…
…
あれ?
ない。
財布がリュックに入ってない。
がびーん、歩くのに必要ない携帯電話やなんやらは別のカバンに入れてエリーゼのトランクにしまったのだけど、財布もそっちに入れて降りてきてしまったようだ。
ここへ来てまさかの無一文。
駅前にあるチェリオの自販機でチェリオコーラを買おうと思ったのに、それさえままならない。
るーるる るるっとぅるー おひさまーがわらってるー
来た道を歩いて戻るしかねーなー。
けっこう斜度のキツイところもあったよなー。
下るだけだとタカをくくって水も持って来てないよー。
もうね、自分の愚かさにうちひしがれながら2時間かけて登ったよ。
駐車場まで戻って、財布を回収して…もう帰っちゃおうかな。
いやでも…せっかく来たんだし…
というわけで、ふたたび山上駅。
もうヒザがガクガクで、山上駅の脇の展望台でひとやすみ。
台風接近の影響か、うっすらとガスってて琵琶湖大橋がうっすらと見える程度だ。
空気が澄んでいる冬なら、岐阜の白山までみえるというが、今日は残念。
当初は片道だけのはずだったのに、往復切符を買って福号に乗車。
パンタグラフはあるが、架線は駅構内だけ。
多くのケーブルカーは走行中も電力を供給されて、車内灯などの電源としているが、ここは駅で充電して走行中はバッテリーから電源供給しているようだ。
路線距離が長いから、架線を全線に渡って張るのはコストがかかりすぎるのだろう。
途中駅のほうらい丘駅で下車。
この駅のすぐそばにある霊窟には石仏が祀られている。
ここへのハイキングルートは整備されずに寸断されたままなので、ケーブルに乗って途中下車する以外にアクセスする方法がないのだ。
石仏は織田信長の比叡山焼き討ちで亡くなった犠牲者を弔うために彫られたものだと言い伝えられているそうな。
駅だけでなく、沿線のそこかしこに、このあたりに棲息する野生動物をかたどった木彫りが飾られている。
じつにゆるい。
いや、昨今のゆるキャラブームで「ゆるい」と言えば「かわいらしい」とか「和まされる」という意味になってきてしまっているが、そうではなくて、ここでは「仕上げが甘い」とか「デザインセンスが今ひとつ」という、本来のゆるキャラの意味。
そもそもこれナニ?
ケンケン?(チキチキマシン猛レースの、シッシッシって笑うイヌ)
この坂本ケーブル、路線距離が長いだけあって、右に左に蛇行しながら登っていく。
以前は、ケーブルカーって真っ直ぐにしか路線が敷けないものだと思っていたのだけど、途中でカーブしているのはあんがい珍しくないものだと最近になって知った。
でも、いくつもカーブがあるのはここぐらいだろう。
縁号とのすれ違い。
ケーブルを堪能したあとは、比叡山ドライブウェイを南下して田の谷峠へ向かう。
財布を忘れたせいで正午をだいぶまわってしまって、もう腹ぺこだし、今日はもう昼飯食って帰ろう。
途中で寄ったホテル前駐車場で京都の町を見下ろすが、やはり見通しはよろしくない。
さっきよりガスが濃くなってるぐらいだ。
田の谷峠料金所からは京都大学方面へ向かって、「カレー屋プーさん」でちょっと遅めの昼飯。
住宅街の一角にある、白いのれんの地味なお店。
店内のテレビでは吉本新喜劇が流れてる。
ああ、もうそんな時間か。
カウンターには京大生とおぼしき男女4人が新喜劇にツッコミを入れながらおしゃべりしてる。
学生が集まるお店なんだろうけど、北海道大学の界隈とはだいぶ違って、かなりオサレ。
注文したのは数量限定の国産ヒレソースカツカレー(1400円)。
オサレな店内でストロボを焚きたくなかったので、ちょいと手ぶれ気味なのはご容赦いただきたい。
うめぇ~!
味、辛さ、ボリュームともに大満足。
口に入れるとパンチのあるスパイシーを感じるのだけど、チャツネをたっぷり使っているのか、ひりひりと後を引くほどの刺激ではない。
むしろ酸味が残ってさわやか。
カツのボリュームもご覧の通り、食べ応えがあって満足だ。
ちょっと高いのが玉にきず。
この値段、学生のころのわたしには大ごちそうだったな。
カレーが出されてからワンテンポ遅れて、ナゼか冷や奴がでてきた。
なぜだ?
なぜサラダじゃなくて豆腐?
口直しのデザート?
うーむ。
そういや店構えがなんとなく豆腐屋みたいだったけど、なにかウラ話があるのか?
次に来たときに同じように豆腐が出てきたら聞いてみよう。
腹を満たしたあとはR367を北上し、琵琶湖の北岸をまわって帰宅した。
マキノを通過する頃、疲れがピークに達して居眠り運転しそうになった。
運転するだけなら8時間でも10時間でも走れるのだけど、今日は登りの山道をあるいたからむりもないか。
道の駅マキノ追坂峠で仮眠を取ることにした。
屋根を開けたまま運転席で気持ちよく眠っていると、突然、おっちゃんに「いいクルマですね~!」と声をかけられた。
あー、びっくりした。
いいクルマって言ってくれるのはうれしいけど、眠ってるときにいきなり声かけるのはやめてよねー。
ま、おかげで目が覚めて、雨が降り出す前には帰還できたからいいけどね。
※トップの写真は途中で寄った大原の農村にて。