
ちょっと小難しいおはなし。
LINK G4Xで適合を進める中で頭を悩ませているのが「吸気温度近似テーブル」。
特別な試験設備がない限り“基準となる運転点”を作り出すのは事実上不可能。

ネット徘徊しても、説明書に書いてある事を嚙み砕く記事ばかりで、あまり核心に触れるような記事が見つからない。
じゃあどうするか。こういう時こそ基礎に立ち返り、物理や化学の式から整理してみれば、ある程度の目安が立てられるんじゃないか。(会社の上司に口酸っぱく言われた言葉)
そんな発想から、車両諸元をベースに吸気温度補正の理論式を考えてみました。
基本の考え方
LINK G4Xの吸気温度補正は、エンジン水温(CHT)と吸気温度(IAT)のブレンド比率を適合値として設定する仕様になっています。
つまり「どのくらいCHT寄りにするか」「どのくらいIAT寄りにするか」を決める形です。
ただし、これはあくまで“経験的に合わせ込む”ための仕組みであり、物理的にどのように温度が決まるかまでは示していません。
そこで今回は、基礎に立ち返り、工学で一般的に使われる公式を組み合わせて「吸気温度補正の理論式」を整理してみます。
式1.ニュートンの冷却則
Q = h × A × (T_wall − T_gas)
→ 壁と気体の温度差に比例して熱が移動する
式2.連続の式
ṁ = ρ × A × v
→ 流体の質量流量は密度・断面積・流速の積で表される
式3. 熱収支式
ΔT = Q ÷ (ṁ × cp)
→ 供給された熱量を流体の熱容量で割ると温度上昇が求まる
これらの式を組み合わせることで、吸気ポート壁から供給される熱量と、通過する空気の質量流量のバランスから、吸気温度補正を理論的に導くことができます。たぶん(笑)
EXCELでの実装
理論式をそのまま眺めていても実用にはならないので、実際にExcelに落とし込みました。
MAP(吸気圧)とRPM(回転数)を軸にした表を作り、各運転点での充填温度を自動計算できるようにしています。
計算フロー
1.排気量・VE・RPMから体積流量を算出
2.ランナー断面積で割って流速 U を求める
3.熱伝達係数をh = h0 × (U ÷ U0)^nでスケーリング
4.MAP と IAT から空気密度 ρ を計算
5.質量流量 ṁ = ρ × 体積流量
6.供給熱量 Q = h × A × (T_wall − T_gas)
7.温度上昇 ΔT = Q ÷ (ṁ × cp)
8.充填温度 = IAT + ΔT
適合要素(調整ノブ)
理論式だけでは実機にピタリとは合わないので、いくつか調整要素を持たせています。
指数 n:流速依存性を調整し、低負荷〜高負荷での熱の乗り方を合わせる
同時吸気本数 Ns_eff:吸気位相やマニホールド構造を反映
基準熱伝達係数 h0:壁からの熱の伝わりやすさを調整
基準流速 U0:基準点を定義し、以降の運転点を相対的にスケーリング
これらを調整することで、理論式に対して柔軟性を持たせる事としました。
さいごに
色々考えてみましたが、これはまだ実車で試験していない段階のモデルです。
机上の理論としては筋が通っていると思いますが、果たしてうまく行くのやら。
まずはこの理論式をベースにセッティングを試してみて、実走ログと突き合わせながら検証していこうと思います。
EXCELファイル
参考文献
特許2013-194000 吸入空気量演算方法 by いすゞ自動車
Posted at 2025/09/23 21:20:16 | |
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