
(興味のない方の為に)初めに結論:
「最新の規格の通ったオイルであれば試験済みなので心配いらない」
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オイルの素材や添加剤等のカタログ値を見ると、時々「アニリン点」という言葉を見ます。
【アニリン点とは】
アニリン点とは、試験試料とアニリンを(熱を加えて)混ぜたあと、冷却していく過程で何℃で分離するかを示す値。
…で?それが何?
はい。
実務的な面で言えば、
・アニリン点が低い
→シールゴムを膨潤させる
・アニリン点が高い
→シールゴムを収縮させる
とのこと。
ちなみにアニリン点は芳香族の多い・少ないで変化するそうです。
鉱物油は不純物が多く芳香族が多い→アニリン点が低い
精製・生成された合成油は芳香族が少ない→アニリン点が高い
このことを踏まえ、ここから先はAIに聞いてみました。
いつも私がお世話になっている先生はDeepseekです。
ファクトチェックはしていませんので話半分で聞いてください。
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【各種ベースオイルのアニリン点】
典型的な値の範囲で、
グループI(鉱油) ... 90〜100℃
グループII(水素化処理) ... 100〜110℃
グループIII(VHVI) ... 110〜125℃
GTL ... 125〜140℃
PAO4 ... 120〜125℃
PAO8 ... 125〜130℃
POE(エステル) ... 40〜70℃
との事。
昔は「PAOはシールを収縮させてオイル漏れを起こす!」なんてよく槍玉に挙げられていたものでしたが、こうして数値で見るとGTLもかなりのものですね。
次に…
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【エンジンに使われるシールゴムの種類】
熱環境の緩やかな箇所(オイルパン等)
→NBR(ニトリルゴム)やACM(アクリルゴム)
熱環境がやや厳しい箇所(クランクシールやカムシール)
→ACM(アクリルゴム)やFKM(フッ素ゴム)
熱環境が厳しい箇所(ターボチャージャー周り等)
→FKM(フッ素ゴム)
最近のエンジンは、化学的に安定しているFKM(フッ素ゴム)に全般置き換わっているケースも増えてきてるそうです。
逆に昔のエンジンはNBRが主体で、鉱物油時代は相性が良かったようです。
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【各種ゴムとアニリン点の関係】
シールゴムによって、収縮・膨潤しやすい物もあれば、安定している物もあります。
そのへんを表したグラフがあります。
※縦軸が変形、横軸がアニリン点
まず、FKM(フッ素ゴム)はグラフの傾きが小さく、アニリン点に依らず安定していることが分かります。
一方で、NBR(ニトリルゴム)は傾きが大きく、さらされる油脂のアニリン点によって収縮・膨潤の幅が大きいことが分かります。
ACM(アクリルゴム)もNBRとほぼ同じ傾きですね。
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【NBR(ニトリルゴム)は100℃付近で最も安定する】
かつて(今でも?)シールゴムの素材の代表格はNBR(ニトリルゴム)でした。
そのゴムが収縮もせず膨潤もしない丁度良いアニリン点が大体90℃〜110℃。
先ほど各種ベースオイルのアニリン点を比較しましたが、グループIやIIの鉱物油のアニリン点は…はい、ちょうど100℃前後でしたね。
とても相性が良かったのです。
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【合成油の悪評】
そんなバランスで成り立っていた30〜40年前当時、新進気鋭のベースオイルとして突如PAOが現れました。
彼は航空業界でも名を馳せていたとして車業界にも鳴り物入りで参加。
鉱物油の苦手としていた低温流動性に優れていた事が、当時センセーショナル(なCM)に取り上げられました。
が、使用したユーザーを通じてまたたく間に全国に悪評が広まりました。
「化学合成油を入れるとオイル漏れを起こすぞ」と。
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【原因はアニリン点とNBR(ニトリルゴム)の相性だった】
結果だけを以って「化学合成油は---」と断じてしまうのは簡単ですが、その原因を辿ると問題の本質はアニリン点だったようですね。
アニリン点の高いPAOに晒される事によって(ニトリル)ゴムが収縮し、隙間からオイルが滲んでいってしまったのです。
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【各業界の対策】
その後オイルメーカーも当然対策を打ち、アニリン点の低いエステルを配合したり、エステルは高価なのでもともとDIパッケージにリン酸エステルやその他極性化合物を微量加えたりする事で、近年の不純物の少ない(アニリン点の高い)ベースオイルに対応しているそうです。
ちなみにアルキルナフタレンについては、(私が扱うメーカーの物だと)粘度によってアニリン点が大きく異なります。
粘度の柔らかいものほどアニリン点は低いです。
また、車メーカーもリスクの高い箇所にはFKM(フッ素ゴム)の採用を増やしていく等、お互いにできる範囲でリスクヘッジを進めているようですね。
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【各規格での試験メソッドの有無】
オイルには規格が存在しますが、その規格内容の中にはシールゴムへの適合試験はないのでしょうか?
結論:
API規格 → あるが数値的な評価は無い
ACEA規格 → 定量的な評価あり
JASO規格 → 〃
という感じで、APIの規格には「問題あり/なし」のような大雑把な感じのようです。
一方でACEA規格やJASO規格ではきちんと数値で確認・評価するから確実性が高いと言えますね。
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【まとめ】
・(芳香族の多い)鉱物油はアニリン点が中間位で、エンジンによく使われるシールゴムとの相性が良い
・純度の高いグループIII以上のベースオイルはアニリン点が高く、シール収縮傾向が強い
・ポリオールエステルやアルキルナフタレンのグループVはアニリン点が低く、シール膨潤の作用が強い傾向。(粘度により一概には言えないことに注意)
・NBR(ニトリルゴム)はアニリン点の影響を強く受けるため、オイルとの相性確認が必要
・最近のエンジンでは高級車を筆頭に安定性の高いFKM(フッ素ゴム)に置き換わってきているのでより安心
・オイルの規格でシールゴム適合性を見る試験メソッドがあるため、最新の規格を通ったオイルであればまず問題ないと見て良い
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あーめっちゃ長くなった。
しかも結論が「特に気にしなくて良い」に帰着っていう。