(今回も画像はほぼ全て拝借です)
スタリオンを維持する上で課題になる事が多いのがインジェクター、私の周辺でもインジェクターがダメで公道復帰に苦慮されている方を何名も見てきました。私自身の車体には今のところ問題は起きていないのですが、周囲でトラブルが起きる度に調べてきた情報がある程度溜まってきたので、備忘録として残しておきます。
スタリオンのスロットルボディに2本のインジェクターが付いており、日本では85年式以降はスロットルボディの外側に付くタイプ、それ以前はスロットルボディの内部に埋め込まれているタイプが使われており、両方とも「シングルポイントインジェクション(SPI)」として区分されています。欧州は概ね日本と同じで、北米は最初から2.6なので全て外付け型です。
北米仕様2.6Lのスタリオンは、インジェクターの容量がかなり以前より欧米の有志によって実測されており、2009年頃には
Starquestclub.comでも話題に挙がっていました。インジェクターの容量は測定時に掛ける燃圧で結構増減が出るため、紹介される数値にはオーナーさんごとにばらつきがあるのですが、Komeuppance氏の投稿によると、
Part # ID Description
MD614102 L 580cc, Primary, black, Driver Side of TB
MD614036 M 1080cc, Secondary, Green/blue, Pass
MD614114 K 850cc (2 Required)
MD614004 J 850cc (2 Required)
MD608909 H 850cc (2 Required)
MD608869 ? 850cc (2 Required)
となっており、平たく言えば
国内VRは580-650ccの小と、950-1080ccの大の2種類が使われており、
北米87MY以前は850ccの同じ容量のもの2本が使われているという感じのようです。
北米経由で手に入る社外の補修部品として話題に上がるのは、主にこの北米2.6向けの外付け型。形状は「トップフィード」という、現在使われているマルチポイントインジェクション(MPI)とほとんど同じ形のもので、eBayでも
Fuel Injector ClinicやTrilogy Turboといったブランドでインジェクターが売られています。以前は87MY以前向けのものも売られていたのですが、現在は国内VRと同じ部品番号が使われている87-89MYの対応のもののみが売られています。みんカラ内では
私のみん友さんがFICを使っておられるのですが、FICは他車種のMPIでもインジェクターのファインチューンでよく使われている多孔式のようで、燃費や燃焼効率の向上に役立ちそうな感じです。なお、この一連の社外インジェクターはフューエルレールのボルトを長いものに交換して装着するのですが、これ自体は2009年頃には既に
Starquestclub.comでも話題に挙がっており、brianpaul98氏がルーカスやボッシュ、デルファイのものを容量別に紹介しています。恐らくFICやTrilogyのものはこれらのメーカーのものを元にしているのではないかと思います。各社ごとの大まかな形状は
ここら辺りが参考になります。表題画像の引用元である事でも分かるとおり、A187Aのラージ側インジェクターが
ある種の特異点的な扱いで取り上げられています。
なお、近年では社外品が売られなくなってしまった87MY以前の方々は、どうやって補修部品を確保しているかというと・・・。
GB REMANUFACTURING inc.というメーカーが
三菱純正インジェクターのオーバーホールを請け負っているらしく、インジェクター本体からの漏れの場合はこれを用いて対処しているようです。GB RemanにはRockauto経由でも1本40ドル前後でオーダーする事ができるようです。
欧米のインジェクターに関連したDIYは日本よりもかなり進んでいて、「injector disassembled」で検索すると、
豪州のZ32オーナーズクラブでは
純正インジェクターを分解して
内部のOリングを交換している強者がいたり、「fuel injector cleaning」で検索すると市販のパーツクリーナーを用いてDIYでクリーニングできるキット(恐らくトップフィード限定でしょうけど)が売られていたり、日本でクルマを維持する上で参考になる情報も多いです。
国内仕様のA183Aは、84年後半から87年までが2.6VRと同じ外付けトップフィード型で、
MD608938というものが2本使われています。私は現時点ではこのインジェクターの正確な容量は把握できていないのですが、フューエルレールなど周辺のパーツはA187Aと同じという事は分かっており、過去には
A187Aのインジェクターで応急補修できた例もログに残っているので、ひょっとしたらGB Remanufacturingでもオーバーホールが可能なのかもしれません。
このように、スタリオンのインジェクターは85年以降の外付けトップフィード型なら色々と補修の上での逃げ道があるのですが、問題は
85年以前のA183AやシリウスDASHのスロットルボディ内蔵型のインジェクター、インジェクションミキサの蓋に
大きく「ECI」の刻印がされているタイプのものです。
A183Aの1982年から1984年中盤までがこのリード線付きのタイプ・・・、ボンネットにエアスクープがついている時期のものですね。GSR-Iなどがこの時期に相当しており、図を見る限りではECIマークの蓋自体がフューエルレールを兼ねており、インジェクター自体はトップフィードの様に見えます。このタイプはインタークーラーの有無で部品番号に違いがあり、
IC無しがMD608868×2本、
IC有りがMD608900×2本です。現物を見た事がないのでなんとも言えないのですが、86年以降の外付け型インジェクターはこのリード線付き内蔵インジェクターと形が似ている気がします。
スタリオンの無印G63Bはどの年式も必ず同容量のインジェクターを2本セットで使っているので、たとえ片方が動かなくなったとしても、もう片方を外して容量を測定する事で、他からインジェクターを流用する検討を行える余地が残っています。内蔵インジェクターの初期型でも、最後まで諦めない事が肝心だと思います。
歴代で一番変わった形をしているのがシリウスDASH。「サイドフィード」という形状のものが2本埋め込まれており、A187Aで使われた容量が異なる2本インジェクターを使うというやり方は、84年に登場したこのエンジンで既に使われていたものです。
ラージ側がMD614164、
スモール側がMD614163で、容量については以前みんカラにいらっしゃったGSR-Vの方の整備情報のコメントで次のような情報を見かけ、容量を推定した事があります。
84'-5のスタリオン新型車解説書
流量特性
大:47.5mm3/2.5m・sec
小:16.5mm3/1.8m・sec
駆動方式:電流制御式(レジスタなし)
燃圧:2.55kg/cm2
このように、スタリオンの新型車解説書では「流量特性」という聞き慣れない概念でインジェクターの容量が表されていた様です。これをより一般的なcc/minの数値に変換してみると、
スモールが約550cc/min、
ラージが約1140cc/minとなり、なんと
シリウスDASHの方がG54Bターボよりインジェクターの容量が大きいという驚愕の事実が分かります。
こうした情報は2.6VR登場時の88'-4の新型車解説書には書かれていないのですがorz ひょっとすると82年のリード線付き初期型や、84年の外付け型についても新型車解説書には同様の書かれ方がされているのかもしれませんので、
該当年度の新型車解説書をお持ちの方は一度インジェクターの項目を確認してみて下さい。
・・・最後に、私個人の意見になるのですが、スタリオンに限らずSPIというものは「噴射式キャブレター」という理解がされる事もあったりして、スタリオンの維持やチューンに当たって豪州のマグナのMPIへの換装といった話は、仲間内でも度々話題に挙がります。しかし、私個人は
SPIもそう捨てたもんじゃないという感じもしています。というのも、ダウンドラフトのV8キャブ車が1980年代まで存在していたアメ車では、
SPIは古くて新しい技術的な立ち位置で、
現在でも技術が存続し続けているからです。
アメ車のSPIはGMとクライスラーが「Throttle Body Injection」、フォードが「Central Fuel Injection」という名称で1980年代に自社のV8を燃料噴射化する目的で使っており、この頃のものはスタリオンの初期型やシリウスDASHとよく似た、内蔵式インジェクターを用いた2バレルキャブレターに似た構成なのですが・・・。
V8のダウンドラフトキャブでは定番中の定番、
ホーリー社のキットでは、現在ではSPIがこんな感じの進化を遂げています。
これは4バレルダウンドラフトを直接置き換える用途向けのインジェクター内蔵型。
スタリオンの後期型に似た外付けタイプもあります。インジェクターは4本ですが、分類上はこれもTBI=SPIです。
流石にNASCARのカップ・カーではMPIになっていますが・・・。
このように、アメ車のレストアではSPIは決して過去の技術ではなく、
近年になってにわかにアツくなってきた分野のようなのです。アメ車のV8チューンの最高峰たるNASCARが、2011年以降燃料噴射を解禁した事も大きいのかもしれませんね。豪州などでは80年代のGMやフォード純正のTBIを、キャブレターの豪州車にコンバートする改造なども盛んなようです。
こう考えると、スタリオンのECIシステムは
アメ車のマッスルカーと比べればだいぶ未来を走っているような気分になれるんじゃないかと思います。。。
170529追記:2.6VRの88'-4新型車解説書を探してみたところ・・・、インジェクターについての情報がほんの少しだけですが書かれていました。
噴射ノズル径
大:1.43mm
小:1.07mm
燃圧:2.00kg/cm2
・・・これだけですorz
これで噴射量求めようなんて、本来なら
半分無理ゲーに近いと思うのですが、
スプレーノズルの計算を行えるサイトがありましたので、半ば無理矢理気味に計算してみます。
「オリフィス径、液体流量」という項目で、流量Qを求める事にしておいて、オリフィス径は上記の数値、圧力は2kg/cm2≒0.196MPa、液体の密度はガソリンなので783kg/m3として入力してみると・・・。
補正係数を0.5と仮定した時、
小は約600ml/min、
大は約1080ml/minと、欧米の有志の測定値とまあ
当たらずと雖も遠からずな値が算出されます♪
・・・ただ、これはある程度元のインジェクターの実測値が推定できているようなケースで、噴射口の大きさを替えた場合にどうなるか? 程度の状況でしか活用できない(例えば上記と同一の条件と仮定すると、850ccの北米
87MY以前は噴出口が約1.27mmなのかな? みたいな推定とかです)とは思いますので、やはり
基本は規定燃圧を整備書などで確かめた上で、測定装置で実測するのが一番かと思います。
あと、昔何かの本で見かけた覚えがあるのですが、82年当時のスタリオン初期のECIの説明で、「ECIシステムのインジェクターは単なる単孔式ではなく、
噴射された燃料が螺旋を描く様に噴出される構造になっている」みたいな記述があった事を記憶しています。三菱はエアフロもカルマン渦式ですし、スワール渦のMCAジェットバルブといい、
本当に渦巻を作るのが好きなメーカーの様な気がします。