イトケン(G)のブログ一覧

　ひょんなことから、オレの卒業した中学校の校歌を作曲した作曲家に、お目にかかる機会をいただいた。

　オレの中学校の校歌は、三部編成になっていて、二番だけが一番と三番とはメロディが違う。そして変調までするので、前奏、間奏、後奏まで含めて一体の楽曲になっていて、たとえば、校歌の一番だけ歌うという簡略的な取扱いができない。

　さらに、メインのメロディとは別のメロディが伴奏に組み込まれていて、二つのメロディが戯れる二匹のチョウチョのように、行ったり来たりしながら曲を織りなしていくと言う、大変高度な編曲がなされている。

　これほど緻密に作りこまれた楽曲には、その後の人生でも一度も出会っていない。

　オレは楽曲の素晴らしさにいつも感動していたのだが、この緻密さは、吹奏楽部員として、裏メロディを担当するパートを吹いていたので知っている事実で、他の多くの生徒はそれを知らずに校歌を歌っているのだと思う。

　卒業して25年の月日ののち、その曲を作り上げた人に出会うことができ、大変感激をした。そして、その気持ちを作曲家のじいさんに伝えることができたのだが、逆にオレの言葉にじいさんは感激をしてくれた。

　「いま、私は邦楽の楽曲作りに取り組んでいます。もしよかったら聴いてください。」

　とポケットの中から一枚のCDを出して、オレにくれた。

　家に帰ってから、インターネットで調べると、オレの母校の大学の音大部門で教鞭をとっていたという経歴や、数々の作曲を手掛けていることが分かった。弟子として教えた音楽家には著名な人もいる。もらったCDも、邦楽の耳ができていないオレにとっても、心地の良い、そしてやはり緻密な音楽で、すごい作曲家なのがわかる。

　そして、音楽のこと以外は、おそらくまったくの無頓着なのだろうな。ヨレヨレのスーツを着てボロボロの軽自動車で颯爽と去って行った大作曲家の姿が、実に潔くてカッコよく思えた。

　オレもあんな風に生きてみたいなと思ったが、マネできるのはヨレヨレのスーツとボロボロの軽自動車に乗ることぐらい。そして、オレがそれをマネたところで、タダの小汚いオヤジになるだけなのが悲しい。