イトケン(G)のブログ一覧

　桜染めという染物技術がある。

　文字通り桜によって染められた、薄紅色の布である。上品で控えめな色合いでありながら、光を放っているような力強さがある。桜染めの反物であつらえた着物を纏うと、人ごみの中であっても凛と輝いて見えるのだそうだ。

　その存在感のある色と、「桜染め」という名称から、桜の花から染める技術と思いがちだが、そうではない。桜の樹皮や枝先を煮だして染料を作るのだそうだ。

　それも、花が咲く直前の桜の木のそれでなければ色が出ないとのこと。

　桜は幹と言わず枝と言わず、全身をピンク色に染め上げて、あの儚い花を咲かすのだそうだ。

　と、という話を、中学二年生の国語の教科書で読んで、いたく感動した記憶を、この季節になるたびに思い出す。

　そして、まだつぼみすらついていない裸の枝を、寒空に伸ばしている様を見上げる。

　近くで見ると、灰色と茶色の混じったごつごつとした樹皮と枝だが、遠目で木全体を眺めると、ぼんやりとピンク色に染まっているように見えるのだ。裸の桜並木が、ほんのりと淡い薄紅の息を吐き出しているように見える。

　きっと、誰も気が付いていない、僕だけの秘密の春の感じ方だ。

　ここに書いた時点でもう秘密ではなくなったが。

　そんな視点で、桜の木を眺めてみてください。裸の枝を突き出している桜の木々が、春色の吐息を纏っているのが、きっとわかるはずです。

　まだまだ厳しい寒さが続いているが、春はもうすぐそこまで来ている。

　春になったら、ジムニーが欲しくてたまらない気もちも、収まるはずである。