
お盆の最中の8/13(月)、オレはロードバイクでどこまで走れるかテストをした。名古屋近郊から北に向かって、ひたすら走る。天気も体調もよくどこまででも走れそうな気がしたが、翌日には大事な仕事があるので、ちょうど100km走った下呂温泉で引き返すことにした。
下呂温泉街の中心を流れる河川敷に、無料で利用できる混浴露天風呂があり、そこで足湯をしたり、栃の実アイスを食べようかどうしようか迷ったりしながら散策をして、さて帰ろうかと思ったその時、ガラゴロと地響きするような雷鳴がとどろいたかと思うと、突然の土砂降りの雨になった。
運よくカフェテラスのような場所に逃げ込むことができたが、叩きつける雷雨に加えて暴風も吹き荒れてきて、オレはテラスの奥の奥のほうに、体を縮めた。テラスにデコレーションしてあった風船の飾りが吹き飛んで、中から慌ててスタッフが飛び出してきた。そのスタッフが、テラスの隅で震えているオレを見つけて、建物の中に招き入れてくれた。
おしゃれなその建物は、インターネットやケーブル工事を行う会社で、数日前にオープンしたばかり。カフェのような店内には、開店祝いの胡蝶蘭が並べられていた。きれいでオシャレなオフィスに、汗臭いオレを入れてくれて本当にありがとうございました。
下呂近郊で、インターネットとか、ケーブルテレビは、シーシーエヌ株式会社さんに頼もう!!
暴風雨は約2時間続き、少し小雨になってきた。雨雲レーダーが正しければ、今から30分間程度は、雲の隙間に入る。すぐ間近には80mmもの強い雨雲が迫っていて、この機を逃せば再び嵐になる。「今だっ」と判断して、オレは走り始めた。
が、しかし、読みは外れ、再び土砂降りの雨が降ってきた。両側に山がそそり立つ国道41号は、ただでさえ日が陰るのが早いのに、雨雲がかかると、まだ16時なのにもかかわらず、夜のような暗さだ。ヘッドライトをつけた自動車が水を跳ね飛ばしながら走っていく。体は冷えるし、ブレーキは効かないし、暗いし怖いし、このままだと死ぬかもしれんと思い始めたその時、目の前に「ビジネスホテル」の看板が表れた。
古い和風の建物で、看板には休憩4000円、宿泊3500と書かれてある。見るからに怪しくて、入るのを躊躇してしまう。しかし、この先にも後にも約20kmほどはコンビニも飲食店もない。体は寒くて震えが来ている。オレにはもう選択肢はないのだ。
勇気を出して扉を開けてみると、電話機が一台置いてある。受話器を取ると呼び出し音が鳴って「ちょっと待ってて」と言われた。ほどなく、年のころなら80歳ほどのおばあさんが、よちよちと歩いてきた。泊まりたい旨を話すと、部屋は空いているとのこと。盆の最中なのに、これはラッキーだと思ったが、空いているどころか、他にお客がいない。オレは、その日唯一のお客だった。
部屋は6畳の和室で、きれいに整理整頓されていた。最後に掃除をしてから、しばらく時間が経っているようで、よく見ると虫の死骸やらなんやらが落ちてはいたが、そんなものは軽く払えば済む話。婆さんが、「クーラーがないで」と申し訳なさそうに言ってきたが、オレは今凍えそうになって走ってきたのだ。それに、網戸にしたら、涼風が流れ込んでくる。行き倒れた急場の宿としては申し分ない。
その日唯一のお客どころか、数年ぶりのお客だったようで、押し入れの中に置いてあった歯ブラシセットの歯磨き粉は、カッチカチのセメント状態。廊下の壁に掛けてあったカレンダーは1992年11月のもの。バスの時刻表は平成3年のものだった。
風呂に入ってさっぱりして、いざという時用に持っていたビスケットで空腹を満たし、テレビを見ていたら、ポツポツと羽アリが布団の上に落ちてきた。最初は1、2匹だったので、気にもせず払いのけたのだが、徐々に数が増えていく。見上げると電灯に虫がわんさか集まっていて、布団や畳の上にも大量の羽アリがたかるようになってしまった。堪らず、婆さんに「蚊取り線香か、殺虫剤を持ってきてぇぇぇぇっ」と電話したが「ここらへんは虫なんかいないから、殺虫剤は置いていない」と言いやがる。それでも、しばらくしてから婆さんがスプレー缶を持ってやってきた。これで何とかならんかと差し出したそのスプレーは、スキンガード。
うぉい、スキンガードってっ。それは体に吹き付けて使う虫よけだぞぃっ。
と、突っ込みを入れたかったが、一生懸命探してきてくれたご好意を無にするわけにはいかんと思い、ありがたくお借りした。幸い、羽アリはスキンガードをかけるとやっつけることができたので、あちこちにシューシューと。どうやら網戸の隙間から入ってくるようだったので、サッシを閉めたらそれ以上の虫の侵入は防ぐことができた。
が。
くさい。そして暑い。
少量を肌に吹き付けて使うスキンガードを、狭い室内で大量に使用したために、ものすごい臭い。サッシを閉めたので、すんげぇ蒸し暑い。その日、そのホテルはオレの貸し切りだったので、入り口のドアを開け放って、暑さと臭さをやり過ごした。
夜中に、山姥に喰われるんじゃないかとか、幽霊が出るんじゃないかとか、目が覚めたら野原で寝ていたりするんじゃないかとか、いろいろ心配したが、疲れていたせいでよく眠れ、翌朝5:30にはホテルを後にすることができた。残り80kmを急いで帰って、10時にはオフィスに出勤することもできた。
いゃあ、よかったよかった。終わってみれば楽しかった。雨宿りをさせてくれたシーシーネット(株)の皆さんと、何年もお客が来ないのに、ずっと宿を維持してくれていたお婆さんに感謝です。
Posted at 2018/08/31 14:16:34 | |
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