◼️アレはシールの剥がし方と一緒
貴方は子供がテレビや冷蔵庫にシールを貼ってしまったり、プレゼントしようとしている品物に値札が貼られていたらどうしますか?
普通の人なら、シールや値札の端を爪などで軽く引っ掻いて剥がし、そこから破れないようにゆっくりと慎重に剥がしていくだろうと思う。
イラな人だと、ついカリカリと勢いよく剥がそうとしてしまうが、残された跡は無残なシールの残りカス…
でも逆に綺麗に剥がせたときは、凄くスッキリとした気分を味わうことが出来る。
…これと同じ快感を得ることは、実はクロカンで得られる快感や感覚によく似ている。
こちらの画像は先日お邪魔した某所での風景。
こちらは、砂と砂利がミックスした河原では非常に多い地形。
斜面に対してまっすぐ登るより、トルクフローを起こし易く下側のタイヤに荷重が偏るのでとりあえず掘りやすい斜めにアプローチするラインを選んで路面との対話を堪能しています。
…こういう砂の斜面は特に重量級は厳しい。
普通の感覚で進入すると いとも簡単に掘ってしまい前進出来なくなってしまう。
スワンパーやジャングルトレッカーなどの凶悪なトラクションタイヤは特に掘りやすく、「バ○にハサミ」を実践してしまい易い。
こういう地形は、雪中行軍をしているときと同じように、二つのことに注意して走らねばならない。
❶とりあえず掘らない
❷自分のタイヤで地形を均しながら走る
当たり前だと思われるかもしれないが、これもこだわり始めたら鬼のように難しいし奥が深い。
◼️いかに掘らないように走るか?
重量車で、しかもギア比が低く、さらにスワンパーやジャングルトレッカーなどの凶悪なトラクションタイヤなどを履いているクルマは、砂の斜面や雨の日などではびっくりするほど路面を掘り易い。
「だから軽量車が優れている、だからジムニー以外は認めない」という意見が聞こえてくるが、例えジムニーといえども、最近のは1t近くもある「重量車」だ。
ランクルになると2t車だが(笑)
もしバイクで1tの車重があるものを操作すると想像してみて下さい。
どんだけ重たいんだ?と後悔したくなるだろう。
どんなクルマにも「限界」ってものは存在するわけなので、上を見ていたら切りがない。
2t車なら2t車としての能力をキッチリ発揮出来て、しかも懐とクルマと地球に優しい走りが出来たらそれでいいと思っている。
自分のクルマは、ランクルの中では比較的軽量、ギア比はやや高めという条件なので、極めて掘り易いとまではいかないのだが、それでも油断して斜面に進入したらあっという間にタイヤ半分くらい掘ってしまう。
自分が掘り易い斜面を走る場合は、いくつかのステップに分けて登り切っていることが多い。
大雑把だが、そのステップを解説してみたいと思います。
❶ロー1速で極力車速を落として進入してみる
→まずは実際に自分のクルマで斜面に当てがってみて、どのくらいグリップするか、最初に引っかかるポイントはどこか、傾きや立ちゴケなどの危険性はないか、などを探っていく。
必要に応じてクルマから降りて状況を確認します。
タイヤと斜面との接触状況を直接自分の目で確認し、極力斜面を自分で荒らさないように気を付けます。
❷ 「❶」でえた情報を元に、ライン、車速などを補正して再度アタックする
→PDCA法でいうところのACTION(改善)とDO(行動)ですね。
つまり、❶と❷でPDCAサイクルをぐる回して、詰将棋のように正解に辿り着くわけだ。
大雑把に言うと、このサイクルを回してクリア出来ないのであれば、それはあなたや貴車の限界を超えたってことなので、撤退してもちっとも恥ずかしくないし、仮に無理して走破しても何らかのトラブルを抱えたとしたらその日のクロカンは終わってしまうし、貴重な遊びの時間が修理という無粋なもので終わってしまうのも馬鹿らしい。
修理が趣味とか生き甲斐って方を否定したりしませんが、自分は修理は本業だけにとどめておきたいので「壊さない走り」をできるだけ追求したいと思います。
脱線したので元に戻すが、こんな風に理詰めで、石橋を叩くように何度も限界まで速度を落としつつ少しずつ足場を踏み固めるように前進を続けていけば、短期間で多くの経験を積むことも出来るし何より安全だ。
ここで重要になってくるスキルがある。
それは、「
最大のグリップを得ながらタイヤを極力空転させず斜面の途中から再発進する技」だ。
要は、通常やっているものより難しい坂道発進だと思ってもらえばいい。
オンロードのソレと大きく違うのは、
「よりシビアな操作が要求される」ことだ。
仮に技の難易度を体操競技のようにAからCまで付けてやるとしたら、オンロードの坂道発進が難易度Aなら、クロカンでの斜面の途中からのソレは難易度C以上だ。
それくらい繊細で奥が深い技だと思う。
ここから先はディーゼル車でMTのランクルなどに当てはまることなので、軽量なガソリン車のジムニーには当てはまらないことが多いが、ジムニーは別の要素で難易度が高いところは同じだ。
ランクルの場合、あの車重を特に急斜面でサイドブレーキのみで保持するのは自殺行為に等しい。
だから僕は斜面で車から離れる場合は必ずサイドブレーキを目一杯 引き、さらにギアをローかリバースに入れエンジンを切るようにしている。
これまで、ここまでやってタイヤが回ってバックすてしまったことはない。
実際の操作だが、急坂になるとランクルはサイドブレーキだけでは保持出来ないので、坂からズリ落ちないためにはフットブレーキが必須になる。
だが急坂を再発進するわけなので、多少エンジン回転を上げねば いくら半クラを使っても車は前進してくれない。
そこで私はヒール&トゥを使い、つま先でブレーキペダルを踏みながら かかとでアクセルペダルを若干踏んで再発進する。
ただ、これは初心者にとってはかなり難易度が高くなるので、最初のうちはエンジン回転を上げるチョークレバーを使えばいい。
ランクル70系や80系はくるくると回すタイプ、40系や60系はレバーを引くとエンジン回転が上がる。
僕自身はチョークレバーを使った再発進はほとんど使わない。
理由は微妙なアクセル開度の調節が困難なためと、技としての難しさで言うと、チョークレバーを使ったブレーキチョークよりは、ヒール&トゥを使ったブレーキチョークの方が数段難しいからだ。
どうせ習得するなら難しいけど効果的な技の方がいいでしょ?
言い忘れていたが、この急坂で極力 掘らずにジワ〜〜っとタイヤを少しだけゆっくり回す再発進では、ブレーキを使いトルクフローを起こしているタイヤの空転を抑えるブレーキチョークが極めて有効だ。
以前も別の記事で書いたことがあるが、ブレーキチョークはぐるんぐるんタイヤが空転している状態でやっても効果は薄い。
効果的なのは、
「タイヤの回し始めの一瞬」だ。
だから僕がよく使う手は、ジワっと回したらすぐブレーキを強めに踏んでタイヤの動きを一瞬止め、またジワっと回すことを短時間で数回繰り返し使う操作だ。
半クラ+ブレーキチョークや、クラッチを完全に繋いでブレーキチョークなど、状況や実際の反応によって使いわけている。
初心者のうちはブレーキチョークは難し過ぎる技かもしれないし、下手にタイヤの回転数が高いときにブレーキを強く踏んでしまうとドラシャが折れてしまうことがあるので注意が必要なのだが、一応ブレーキチョークはクラッチの接続やブレーキやアクセル開度などが絶妙に合った時以外にはほとんど効かないということは覚えておいてもいいかもしれない。
ただ、ブレーキチョークという技はデフロックほど万能ではない。
ほんの少しのトルクフローさえ抑えれば前進出来るライン取りがなにより重要だし、クラッチ、ブレーキ、アクセルの操作がビシッと合ったときでないと効果は得られない。
その代わり条件が全て完璧に整い、それまで空転していたタイヤがグッと止まり反対側のタイヤにトルクがぐぐぐっと伝わった瞬間は、それこそシールが綺麗に剥がせたときのように気持ちがいい。
シールを剥がすのもなるべく慎重にじわっと剥がしていくが、タイヤが空転しないようにタイヤを路面に押し付け じわっとグリップさせていくのも感覚としてはよく似ているのだ。
ヒール&トゥを使ったブレーキチョークについてはまだ書き切れないほど多くのノウハウがあるのでここはこの程度で終わらせておくが、「掘らないための操作」ではもう一つ重要かつ必須技がある。
「ローセコダッシュ」だ。
通常のクロカンでは、トランスファーのローギアと、ミッションのロー(1速)を使うことが多い。
僕の乗っているランクル70は特にギア比が低くないのでほとんどはローローばかりを使っている。
だが、雪中行軍や雨の日のクロカン、掘りたくない地形を最終的にクリアさせるときは、ローの2速、つまりローセコを使ったダッシュで決めることが多い。
ローのセカンドを使うということは、高いギア比を使うということだ。
つまり、それほどエンジンを吹かしあげなくてもタイヤは高速回転する。
ただ急坂ではローセコで繋ぐとギア比の高さが災いしてエンジンに負担がかかる。
だからある程度エンジン回転を上げてやらねばエンストしてしまうわけだが、エンジンに負荷をかけるため、発進時にはタイヤがゆっくり回り始めるので、アクセルをベタ踏むしてもタイヤは空転しにくくなる。
最近のAT車にはスノーモードといって発進時にセカンドでホールドする車も多いそうだが原理は同じだ。
僕の知る限り、クロカンの上手い人はほぼ例外なくローセコダッシュを使うタイミングや使い方が上手い。
先行する先輩が あまりエンジン回転を上げずにスルリと登ったので油断して登ってみたら大苦戦したとか、特にクロカンを始めた当初は多かったですね。
僕の場合、何度もアプローチを繰り返して、段差になっているところを自車のタイヤでなだらかにさせておいて、ここまで準備できたらいけるだろうというとこまで下準備を済ませたら、四輪がキチンとグリップするところまで降りて一気にローセコダッシュで登頂することが多い。
最初から一発勝負でローセコダッシュしてもいいのだが、それでは反射神経勝負みたいになってしまうし、なによりなぜ登れたのかわからないってのは個人的に気持ち悪い。
あと、先ほども少し触れたが 再発進する際に必ず整えておかねばならない条件がある。
それは「
タイヤが四輪、ベッタリと接地していること」だ。
パートタイム四輪の場合、前後にいくら傾けても前後どちらが空転してしまうことはないが、左右の傾きはデフがあるため上側にあるタイヤが前後同時に空転してしまう。
※デフロックがある車はその限りではないが
だから、再発進可能なポイントに車を動かす際には、特に左右の傾きに十分注意をしなければならない。
もちろん、オフロードでは真っ平らな斜面というものはあり得ないし、各車それぞれ脚のストロークやボディサイズも違うので車によってトルクフローを起こしにくいラインやポイント、再発進し易いポイントは違いがある。
ただ、これは本当に多くの人の走りを見ていて思うのだが、明らかに無理なラインを強引に登ろうとしたり、明らかにラインが読めてないのに車の能力に頼り切った走りしか出来ない人が多くいる。
自分自身、まだまだ満足いくまでの腕を持ってないので偉そうなことは言えないのだが、オフを走り込んだ練習量だけはそう簡単には負けない自信はあるので、特にそう思ってしまうのかもしれない。
なにわともあれ、クロカンは競技ではないので何回バックしてもOKだし、僕はクロカン走行の いろはのいが、「積極的に前後に車を動かすこと」だと思っている。
前の方で「地形を均しながら走る」と言ったが、雪中や掘り易い斜面を登るときはどんなに注意して自車の重さで斜面に凹みを作ってみたり、激しいときは立派なモーグルを作ってしまうことがある。
そういう場合は積極的にバックを使い、自車のタイヤで凸部を踏み、凹部を埋めて地面をなるべくなだらかにして再度アタックすることが多い。
これはクロカンをしていて非常によく使う技だが、意外なほど使いこなしている人が少ないのでよく覚えておいて欲しい技なのだが、
地形を均すときや、あるポイントに車を持っていきたいとき、そのポイントを左右どちらかにわざとズラしたラインでフロントタイヤだけ登らせ、バックしながら狙ったポイントに車をもっていく …という技を僕は非常によく使う。
ヒルクライムしているのに狙ったポイントに車を持っていく際に、最初からバックすること前提でラインを組み立てるわけだ。
そのポイントに下から直接登ろうとしたら不必要に掘って斜面を荒らしてしまうときでも、少し横にラインをズラせば そのポイントより高いところなで容易に登ることが出来ることが非常によくある。
下りながらフロントタイヤで段差になっているところをわざと崩し、なだらかにさせることもよく行っている。
斜面の下側から斜面を掘り起こしながら狙ったポイントにフロントタイヤを持っていくのは難易度が高い事が多いが、そんなに難しいラインを選ばなくてもちょっと横にズラせばそのポイントより高い位置に簡単にフロントタイヤ四つを持っていくことが出来ることは非常に多いものだ。
つまり、「モーグルなどのヒルクライムの攻略に積極的にバックを使う」と言うのは、
❶再発進し易いポイントに車を移動させやすい
❷自車や先行車が荒らしてしまった斜面を自車で均して走りやすくする
❸何度も前進後退を繰り返すことで、より安全を確かめながら走ることが出来るようになる
❹全て理論詰めで走るので、同じような地形をまた走っても、同様の結果が再現され易いこと
…というメリットが得られると思っています。
◼️クロカンの基本は車を前後に動かすこと
さきほどはのメリットがあるといったが、中級者以上になったら実はもうひとつ大きなメリットが手に入る。
ただ、これは初心者の間はまだ知らなくていいことだし、最初から真似するのは多少リスクを伴うので、ひとまず頭の片隅にでもとどめておいてもらえたら結構だ。
クロカン初心者のうちは、「バックや車を前後に揺するのは何度しても構わない」ということと、「なるべく四つのタイヤがベッタリと接地するポイントに車を移動させていくこと」、「溝は又越す、車は極力横に傾けない」、「少しでも不安に思ったり地形がわからなくなったら積極的に車から降りて自分の目で地形を確認すること」などに注意すればよい。
中級者以上になったら、「わざと三点倒立の態勢に持ち込むことで、トルクフローを殺す技を身につける」ということや、「わざと車を真横に傾けるラインの中で自分が走れるラインを探していく」というステップに進んでいくわけだが、ここから先はボディの損傷などのリスクも多少高くなってくるので、クロカンがどうしても好きで好きでたまらない、という奇特な方だけ突き進んでいけばいいと思う。
ここまでするのは極端過ぎるかもしれないのだが、もう少し難易度が低い地形を使って、このようにわざとリア一輪を溝の底に落とし、そこからわざと車を揺らして落としたリアタイヤに荷重をかけてやることで、対角線にトルクが逃げてしまうのを防ぐ技は練習してもいい。
ただ何度もいうが、初心者のうちはあくまで基本は
「溝や穴は又越せ」、「車を横に傾けるな」、だ。
これらの練習は本当にあらゆる場所を使って行うことが出来る。
僕のホームグラウンドでいうとスポーツランド岡山の広場で十分だ。
ちょっとした溝を又越す練習、わざと三点倒立に持ち込んでクラッチ操作などで車を揺らして荷重移動させる練習、急坂での再発進の練習などなど、かなり濃密な練習が可能だ。
僕は効率よく練習したいときは数箇所の練習ポイントをぐるぐる回る、徘徊と呼ぶ方法をよく使っている。
キャンバーを走って、フロントタイヤをわざと横滑りさせて、またキャンバーを走って、溝にわざと斜めに進入して対角線にタイヤを浮かせ そこから微妙にラインを変えてやって最終的にはブレーキチョークで前進…またキャンバーで、というような練習法だ。
今でこそJr.にやらせて自分は見物してたり、たまに感覚を思い出す程度にやってみたりする程度だが、もう少し若いころは何時間もぐるぐると這い回っていたものだ。
あまりやり過ぎるとクラッチが怪しくなるので、30分やったら10分休憩して みたいなペースだったが、お陰でクロカンの基礎的な練習だけはしっかりさせてもらったし、理論的なものも今のものに近づくことが出来たんじゃないかなと思います。