”クロカン”に関していうとディーゼルエンジンは非常に優れものだ。
特に古いものは、一度エンジンがかかったらバッテリーを外しても回り続けるようなものも多いし、太いトルクにものを言わせて這い回るような走りも得意だからだ。
もちろん欠点もある。
まず「重くなる」こと。
これは自走だけを追求している人からすると頭の痛い特徴だろう。
エンジンが重くなるのでフロントヘビーは避けられない
なぜ重くなってしまうのかは、専門的に取り扱っているサイトや書籍を参照してもらいたいが、重さが走破性をスポイルすることはもちろんある。
つぎに「排気量の割りに走らない」。
まぁ、ディーゼルなんでガソリン並みにギャンギャン回せるわけではないのでこれも仕方ないですね。
最近のディーゼルはオンロードもよく走るし結構静かだが、昔のディーゼルのソレは慣れないと罰ゲームに近い。
次に「排ガス規制に引っかかり易い」
僕は特定地域外に住んでいるのでなんてことないが、首都圏や関西圏などでディーゼルに乗り続けようとしている人はそれなりに苦労させられる。
余談になるが、うちのハチマルは豪州からの逆輸入なので、輸入車扱いになるのでNox法には引っかからなかったりする。
また、最近のトラックも尿素触媒だかなんだかで、本当に黒煙を吐かなくなった。
僕が仕事で乗っているトラックも、エンジン自体は古いのだが、エンジンをかけるときに多少煙が見える程度で少々アクセルを踏み込んでも煙はほとんど見えない。
技術の進歩ってすごいね、と思ったりするのだが、自分のクルマにはそんなの付いてないのでラフな使い方をしたら後ろが真っ白になってるので、悪りぃことしたなと思うことがある。
あと細かいところでは、水を吸い込んだらエンジンが壊れやすいとか、燃料を間違えてガソリン入れてしまうと壊れてしまうなどポロポロある。
ここら辺は些末(さまつ)なことなので欠点というほどのことはないかもしれない。
逆にメリットを挙げてみると、まず「低い回転域から太いトルクを発生させる」こと。
クロカンなんてものは、常に走行抵抗が高い悪路を無理やり移動させるようなものだから、トルクの細いクルマでやろうとするとどうしてもエンジン回転を上げて、より多くのパワーとトルクを絞りださねばならない。
ディーゼルのランクルと、小排気量ガソリンのジムニーでは2倍近く総ギア比が違う場合があるのはそのためだ* (ノーマル比では2倍まで違いはない)
特に古いディーゼルエンジンの中には、上は全然回らないが、アイドリング付近だとビックリするほど強いトルク感があり、わざとクラッチを繋いだままブレーキを少しずつ踏み込んでいっても、背中をドンドン押されるような力を感じるようなものも多い。
詳しいことは後述するが、このアイドリング付近の頼もしさがクロカン全般で強い武器になることはとても多い。
次のメリットは「燃費の良さ」。
先ほどエンジン回転を上げなくても太いトルクを発生させると書いたが、そのことは燃費にも非常に良い効果をもたらす。
特に”クロカン”は、自車以外にもウインチであったり、レスキュー用品であったり、ボディの上物がやたらと長く大きな場合が多い。
このような負荷をかけてもディーゼルは燃費の悪化がそれほど酷くならない。
例えば、ランクルでほぼ同じくらいの車格で比べると、ガソリンがリッター3km前後なのに対し、ディーゼルは7km前後の場合が多いので、燃費の差は明らかだろうと思う。
次に「維持費の差」
ガソリン車では存在するスパークプラグもディーゼルでは存在しない。
確かにディーゼルでは精密機械の燃料噴射ポンプと噴射ノズルが逝ったら高額な修理費用を請求されるが、ここ20年ほどで僕はまだ一度もそういうトラブルには遭遇してない。
エンジン関係であったのは車齢20年のクルマでラジエターが腐ったとか、自車でタイミングベルトを一度交換した程度。
Tベルトなんて自分でも交換出来るレベルだし部品代も数千円。
ラジエターもちょっと頻繁に不凍液を交換してやれば良かっただけなので、エンジンに対しての出費は極めて少ない。
エンジンオイルも20リッターで3k円くらいのを使っているがこんなので上等だろう、どうせ高回転でギャンギャン回すものじゃないし。
また燃料代もガソリンとディーゼルの軽油とではリッター当たりで10〜20円違う (日本では)。
このように、特にクルマが大きくなってくるとディーゼルとガソリンでは非常に大きな差が出てくる。
◼️ディーゼル使いを目指して
よくクロカンをしていると、「まずジムニーで腕を磨いてランクルへ」などと言うのを聞くことがあるが、ある意味では確かに正解だが、大きなポイントで間違いがあると思っている。
確かに維持費が安いので思い切ったことが出来る、改造費も安い、腕のあるライバルも多い、と良い点も多いことは知っているのだが、ガソリンエンジン使いとディーゼルエンジン使いでは極端に違うところがある。
それは、「アイドリング以下まで使う」こと、「重い車重前提の走りや遊び方や装備をしているかどうか」ということだ。
この二点は、どうがんばっても小型ガソリン車では追求出来ない。
つまり、一流のディーゼル使いを目指すということは、この二点を常に研ぎ澄ませて行くということだ、と僕は思っている。
ここでひとつ、AT車の方には耳が痛いことを言わせて頂きますが、こと「クルマを自分の意思通りに性能を引き出す快感を味わいたい」と思うのであれば、オートマは邪魔以外の何者でもない。
なぜならAT車はトルコンが勝手にスリップしていまうので、構造上、アイドリング以下が使えないためだ。
噴射ポンプをイジれば確かにアイドリング以下にはなるが、それでは車検に通らなくなるし、「ブレーキや外力でアイドリング以下に粘らせて使う」のと、「エンジン回転を単純に下げて使う」には大きな差があるからだ。
やったことはないが、仮に600回転まで最低回転を下げてクローリングしたとする。
アイドリングは当然不安定になるし、トルコンを挟んで動力を伝えているので、ただ単に移動速度が遅いだけ、ってことになるような気がする。
だから、今回の記事は残念ながらAT車に乗られている方には参考にならないと思う。
ただ、僕がいうことが正しいということはないと思うし、それぞれの出来る範囲で技や理論、改造などを磨いていってもらいたいと思います。
ここでは、ディーゼルでのアイドリング以下を使ったクロカンにスポットを当ててみたいと思います。
以前からぽろぽろいっているが、アイドリング以下を積極的に使うことには多くのメリットがある。
まずひとつ目のメリットとしては、「エンジンの脈動をタイヤに乗せることが出来る」こと。
エンジンの脈動ってのは、あまり僕以外誰も使っていない言葉なので意味がわかりにくいかもしれないのでカンタンに説明しよう。
エンジンをアイドリング以下に粘らせていくと、エンジン自体がガタガタと揺れ始める。さらにブレーキなどで負荷をかけてやるとエンストするわけなのだが、僕はクロカンをしていて特にここ一番でグリップを稼ぎたいときはこの領域を多用する。
エンジンが脈打つと、タイヤの回転は非常に不安定なものになる。
同じ速度でジワ〜っと回るのではなく、ガクガクと小刻みに止まったり動いたりを繰り返すような回転になる。
その、一旦止まったり、また少しだけ動くのを繰り返すことが、極限状態で最もグリップを稼ぎ出し易い状態だと思ってる。
これは、単にギア比だけを下げた車では得られない独特なグリップ感だ。
僕の車は、ギア比が高いためクローリングが苦手とされているPZJ70だ。
トランスファーのギア比を1.9→2.3に変更しただけで相変わらず普通のランクル乗りからするとエンストさせ易いことに違いはないみたいだ。
ちなみにこのトランスファーのギア比の変更はのちのフロントコイルの70ではデフォで導入されていて、さらにデフのギア比が4.1→4.3にダウン、さらにエンジンの排気量も3.5→4.2にアップされているのでHZJ71などに乗させてもらうと、別世界のようにクローリングがし易い。
実際、PZJ70使いの多くはロー1速でエンジンをふかし上げながら、振り回すような走りをする者が多い。
トラやスピードを競う競技でP使いが上位入賞が多いのは、Pの特性と、走破するという結果重視の競技に合っているからだと思う。
ただ、そういう走りでは僕が使っている、エンジンの脈動を積極的に使い、なるべく大きなグリップを稼ぎ出しす走り方は出来ないだろうと思う。
僕がよりグリップを稼ぎ出したいときは、クラッチはつないだままエンジンに負荷をかけてアイドリング以下に粘らせてガタガタ震える脈動を使うときと、エンジン回転は極力抑えたまま半クラを使ってタイヤの回転を極限までゆっくりにすることのふたつを同時に併用することが多い。
まず斜面に進入すると自然とアイドリングのままだとエンジンには負荷がかかるのでエンジン回転が不安定になってくる。
タイヤにかかる抵抗はもちろん一定ではないので、転がり抵抗が少なくて速度が速いと思ったらブレーキや半クラなどを使い速度を落とす。
逆にタイヤにかかる負荷が予想以上に大きく、エンストしそうになってら、アクセスを軽く吹かせたりクラッチを切るなどしてエンストを極力回避してやる。
仮にエンストしてもスターターのメンテが容易なランクル70系ならそれほど問題ない。
厳密に言うと、単にタイヤをゆっくりと回すことと、脈動を使ってガクガク回すのとでは、得られるグリップ感に大きな違いがある。
岩などに登るときは一定の速度でジワジワとタイヤを回す方が良い事が多い。
それに対して、ザクザクの砂の斜面やマサ土の斜面などでは、わざとタイヤの回転に脈動を加えてやってタイヤの爪を斜面に食い込ませるような使い方をすることがある。
一定の速度でゆっくりタイヤを回すことも、エンジンの脈動を使ってガクガクとタイヤをゆっくり回すことも多少の違いはあるが、クルマの移動速度は亀が動く速度並みに遅いことがある。
だから見た目地味だし、動画でも撮って解説でも付けないと傍目で見ていても何しているかわからないし、世間一般でも全くと言っていいほど知られてない技なので、またそのうち解説動画でも用意しようと思います。
もう一つのメリットは「クルマの移動速度を落とすことが出来るから」。
複雑に入り組んだモーグルやヒルクライム、キャンバーを斜めにトラバースしていたりすると、より遅い速度域を使いこなせていると、より多くの情報を取り込み、頭の中で整理して、さらに慎重で正確な操作に繋げ易いと感じることがある。
僕は、軽量車とランクルのような重量車とではクロカンのスタイルに大きな違いがあるのが普通じゃないかと思っている。
それは、「コケるのが前提か、なるべくコカさないのが前提か」という違いだ。
もちろん、ディーゼルランクルのような重量車は、なるべくコカさないことが前提だ。
軽量車はコケても笑って誤魔化せることが多いが、重量車だと転倒=廃車 を意味したり、膨大な修理費用が伴う場合が多い。
これはトライアルなど常に四点式シートベルトを締めるのが当たり前と思われている方からは眉をしかめられることなのだが、僕は普段のクロカンではめったに四点式の肩紐は使わず、腰のみしか固定しない。
理由は、肩紐まで付けてしまうと車外の情報を満足に取り入れることが出来なくなってしまうことが多いからだ。
もちろん走る場所に応じて肩紐は使い分けている。
だがほとんどは、まず情報の取り込みを最優先させ、自分で自信をもっていけると確信したとき以外は走らない。
だから、「転倒させないことが前提」なのだ。
その転倒させないこと最優先の走りにアイドリング以下を使うというスタイルは非常に相性が良いわけです。
◼️操作は極めて難しく、忙しい
自分のクルマの場合、ギア比の高さからアイドリング以下で粘らせながらのクローリングを多用するのは極めて難しい。
エンストの兆候も非常にわかりにくいってのもある。
ただ、それでも3500ccもある大排気量ディーゼルであることには違いないので、頑張れば誰でも僕程度はエンジンを粘らせて美味しい領域を使いこなせるようになるだろう。
だが、これは僕自身にも言えることなのだが、実際の難所であの技を使いこなすのは非常に難しく、しかも極めて忙しい(汗)
エンストしそうになったらアクセルを軽く踏んで回転数を上げたり、クラッチを切って逃がしてやるなどの操作も同時にしなければならないし、サイドブレーキも同時に使っていたりするので、右手はハンドル、左手はサイドブレーキかハンドルかシフトレバー、左足はクラッチ、右足はヒール&トゥでブレーキとアクセルペダルを同時に操作していたりする。
さらに運転席から大きく身を乗り出して死角になっている地形の確認や、タイヤが実際にどう路面を捉えているか確認、必要に応じてクルマから降りて周囲や腹下などの確認、ウインチングしているときは右手でウインチのコントローラーの操作も自分一人で行わなければならない。
ついでに言うと、僕の流儀では外部からなるべく助言や手助けはしてもらわないようにしているので、本当にありとあらゆること全てを同時進行で行わなければならない。
だから見た目の移動速度の地味さに反して忙しいことが多い。
だからこそ、極め甲斐もあるし、素人とエキスパートとの違いが分かりやすいと思っている。
いかがだったでしょうか?
以上のようなことは、長男とかには常々言っていたことだし、オフでお会いした人などにも部分的に言っていたことでした。
ただ、ここまでまとめたことはなかったので僕自身も自分が追求しようとしている技術を再度見直すことが出来たと思います。
ただ、これはあくまで僕と僕のクルマがあってのことなので、全てのクロカン乗りにこの考えを普及してやろうとかは思っていない。
これはあくまでも、僕があのクルマを手に入れて、お金がかけれないという制約の中であれこれと試行錯誤して生まれた考え方だし技術だ。
だからこれを読まれた方は、それなりに参考になるところがあれば取り入れてくれたらいいと思うし、もっと楽しめると思うものが別にあるなら、そっちを楽しんでもらえたらいいと思う。