
「下見」って言葉をご存知だろうか?
クロカン的にいうと、走る前に地形を自分の目と足で調べておくことをいいます。
英語だとプレビュー(Previewing)になるだろうか。
下見とか下調べでまず思いつくのは、トライアルなどで競技前に参加者全員でコースを巡って、ああだのこうだの言い合うこと。
参加者が顔見知りばかりになってくると、下見の段階で腹の探り合いというか、三味線の引き合いが始まりますw
自分ならこんなラインいくけど○×さんも当然いくよね?とか、攻めない予定のラインの歩測とかをわざと入念にしてライバルを罠にかけるとか…
自分が用意したトラップにライバルが引っかかってくれたら、順位がよいことより嬉しかったりして。
トライアルに出ていた最後の辺りではコース作りの方にまわることが多かったので、明らかなジムニー殺しを至る所に作って喜んでましたね。
これは違うけどね
当然、初めて走る地形は下見する機会も多くなるだろうし、難易度の高い地形を攻めるときは入念に行うものだ。
ま、ここまでは一般的なクロカン乗りなら誰でもやることだ。
ところがここから先は、宗派というか、流儀というか、風習というかで、するところとしないところが出てくる。
「
インスペクション」という言葉をクロカンしてて聞いたことがあるだろうか?
この言葉を最初に聞いたのは、今は亡きCCVMANからだったのだが、適当な日本語がないので僕は今でもこの言葉を使わせてもらっている。
インスペクション(Inspection)というのは、日本語になおすと「検査」「審査」「調査」「監査」「観察」というような意味だが、ビジネス用語で「今度の週末にISO9000のインスペが入るらしいぞ!」などという言葉を思い出してギクリとする人も多いんじゃないかな?と思う。(笑
クロカンでインスペクション(インスペ)というのは、
ハマった後などに車から降りて腹下の様子やこれから攻める地形をチェックして戦略を練り直すことをいう。
「観察」するだけでなく「再度戦略を立て直す」という意味を含んだ適当な日本語がないので「インスペ」と適当な言葉を造ってみたわけだ。
このインスペ、団体や流儀によってするところとしないところがある。
ちなみに僕個人としてはインスペを何よりも重視するし、ちょっとわからない、ちょっと気に入らないかとがあるとすぐ車から降りて状況確認して、再度走るプランを固めようとする。
だか、実際にクロカンの現場に長く生息しているが、意外なほど積極的にインスペする人は少ないと思う。
実際のところ初心者には致し方のないところなのだが、僕は人が走っていて右だ左だ、ああしろ、こうしろというアドバイスはほとんどしない。
理由は簡単で、僕自身そういうアドバイスは不要だからだ。
自分にされたくないことは、他人にもしないよ、ってことです。
ただ、昔から同じことは何度も言ってるのだが、これは他の流儀の人やチーム、倶楽部などの非難しているわけではない。
大勢でワイワイと冗談でも言いながら、お互いに協力しながら林道や雪道などを走破した時などが楽しいってのはよく分かるからだ。
今はなくなったが、ひと昔前、キャメルトロフィーという競技があった。
用意されたランドローバーを各国代表の二人が一組になって、とんでもない密林などを場合によっては他国の選手とも協力しながら走破していく競技で、当時はマジで出たいと思っていた。
ただ、あくまでも自分個人としては、普段のクロカンではなるべく危険なことがあるときを除いて外からラインを教えたり指示などはしない。
僕自身は、クロカンってのは基本、独立した個人としてやるものと思っている。
僕がクロカンをしている目的は「腕を磨くため」なんで、それを妨げるものはなるべく排除したいと思っている。
実際、自分でハンドルを握っていて、外から誘導してもらって走破したとしても、悲しいほど腕は磨かれない。
大勢で走っていて、自分だけ引っかかって、あーでもない、こーでもないと繰り返しているのだがなにをやっても上手くいかない…などという悔しい目に何度もあって、初めてニンゲンってのは自分の頭で「どうすれば上手くなれるんだろうか?」と本気で考えるようになるんじゃなかろうかと思う。
僕は、特に初心者のうちから安易な改造をするべきではないと思っている。
理由は簡単、
悔しい思いをする機会もないので腕がなかなか磨かれないからだ。
「他人は走れるのになんで自分は走れないんだ?」→
「車の走破性が低いからだ!」→
車高アップ・大径タイヤ装着・足廻り大改造→
「よっしゃ!これで例の場所は走れるようになる!」→
以前ハマった場所は楽々クリア出来るようになる→
クルマの走破性が上がったため簡単にハマる場所が極めて少なくなる→
無理して難所をアタックするようになる→
改造によりあちこちにしわ寄せがきて、修理費がすごいことに→
走り込みするより、修理工場にいることが多くなる→
一走一壊に陥るので、だんだん走らなくなる→
走っても面白くないのでクロカン辞める
…実際、こういうパターンにおちいってやめて行った人は多いんじゃないかと思う。
自分の場合、かなり早い段階で「改造やデフロックを自制する」ってことを覚えたのが良かったのかもしれない。
もう随分昔のことになるのだが、ある男のランクル70幌とよく一緒に遊んでいたことがある。
そのクルマはBJ70のオープンデフ(厳密に言うとリアはLSD)で、サスはほぼ純正。
タイヤは235のマッテレというありふれた仕様だった。
当初、僕もデフロックを使わずに付き合っていたのだが、そのときになって初めて自分が下手くそだということを痛感しました。
サスの改造、デフロックに隠れてクロカンの基礎も固まらないうちから上手くなった気になっていたわけだ。
僕が今みたいな練習法を考えて、走り込みするようになったのはそれからでした。
BJ70というクルマ、オンロードではかったるいと評判で今でもマニア受けはあまりよろしくないクルマなのだが、僕自身のクロカンでの評価はかなり高い。
割とよく粘りクローリングが楽なエンジン、小型化される前の9.5インチのフロントデフ。ランクル70系としては最軽量。
今、僕がしているような、基本オープンデフで這い回るようなクロカンでいうとものすごく適したクルマだったわけだ。
先ほどの写真では見事にハマっていたがこのクルマが不思議とよく走った。
このクルマと同じことを自分のクルマでしようとするとメッチャ大変だということに気が付いた。
まず僕の1PZは、彼の3B型エンジンみたいに粘ってくれない。
エンストの兆候が掴みにくいエンジンなのでラインを狙うのに熱中してたら簡単にエンストしてしまう。
また、ミッションのギア比もかなり僕のクルマの方が高いので脚も早くて、なかなか狙ったラインに正確にじわじわ乗せていくことがわかった。
ここでひとつだけ改造を施すことにした。
トランスファーのローレンジのギア比を1.9から2.3に落とした。
ランクル60系のAT用の純正品を入れた。
これは余談だが、ランクル70系の最終型になったフロントコイルでも、PZJ70や70系プラドに搭載されていたR151Fという乗用車用ミッションが載っているが、最初からトランスファーは2.3が入っている。
開発の人に直接聞いたわけではないが、多分、PZJ70はあまりにもギア比が高過ぎたので後のモデルでは見直そうとなったんじゃないかと思う。
エンジンは僕の3.5リッターではなく4.2リッターあるのでクローリングはデフォルトの状態から容易だ。
最近よく一緒に走っているこのクルマがそうですね。
トランスファーのギア比は適切なものを入れたがそれでもBJ70の総ギア比と比べてまだ若干高い。(汗
まぁそれだけBJ70に載っていたH55Fというトラック用ミッションのギア比が低いわけだが、まあなんとか張り合えるレベルにはなってくれた。
クルマの改造は僕にとってはこの程度がいい。
ライバルがいるなら、そのクルマより若干劣っているくらい。
頑張ったら腕でカバー出来る範囲程度が一番萌えるってもんでしょ。
僕はあまり他人のクルマに乗らないが、乗ってしまうとあまりの扱いにくさで、つい嫌になってしまいそうになるからだ。
実際、うちにもう一台あるランクル80はめちゃくちゃクローリングが楽なので、つい手のひらをじっと見たくなってしまう。
ないものを欲しい欲しいいう前に、今ある状態で可能な限りの能力を引き出す方がいいだろう。
「エンストし易いがレスポンスはよく軽く吹き上がる1PZ型エンジン」
「脚が速くクローリングにはやや不向きなギア比」
「それほどストロークも長くなく、トラクションの掛かり方もあんまり良くないリーフリジットサス」
自分のクルマの特徴を挙げるとこうなる。
その制約の中で、最大限のグリップやトラクション、クローリングでのライン取りの正確さなどを追記した結果が、今みたいに難所になったらヒール&トゥを多用し、ブレーキチョークを使いまくるスタイルだ。
とりあえず超低速域を使うには半クラを多用するか、アイドル以下までエンジンを粘らせなければならない。
ところがこれが極めて難しい作業であると気が付いた。
運転席に座ったまま、周囲の状況判断をしつつ、エンストし易いクルマをエンスト直前まで負荷をかけていくわけだから慣れないうちはエンストの嵐になった。
予め、チョークレバーを回してアイドリングを高くしてやればアクセルペダルの操作は不要になるが、それでは半クラをさらに多用しないといけなくなるので、長時間のクロカンは厳しくなる。
そこで、ブレーキを踏んで速度を落としていく操作をしながら、エンストしそうになったら即座にアクセルペダルを軽くあおることが出来るようにヒール&トゥを多用することにした。
ヒール&トゥは昔、別の用途で使っていたので抵抗はなかったが、クローリングするためのヒール&トゥは瞬間的にアクセルペダルをあおるのではなく、アクセルとブレーキを同時に操作し続けないといけないので、全く別の難しさがあると気が付いた。
ちなみに現時点ではJr.は全くと言っていいほどヒール&トゥでの同時操作は使えていない。
クローリングしているのを横から観察しているといまだにブレーキとアクセルペダルの間をパタパタと行ったり来たりしているのが目に入るが、その操作だと確実にどこかでロスが出ている。
タイヤのグリップが不足している時にブレーキペダルを離せば、当然ブレーキチョークの効果はなくなる。
ブレーキペダルだけ操作してたら、エンスト寸前まで追い込むことが困難になり、結果狙ったラインに乗せてられなくなる。
周りから見てたら乗りこなせているように見えるかもしれないが、僕から見たらまだまだにしか見えないのは仕方ないことかもしれませんけどね。
なんせ、キャリアが違い過ぎるんで。
でもまあ、あの技術はあのような特徴を持っていたクルマの能力を少しでも引き出そうとした結果身についたものだし、他のクルマに乗るのであれば、あそこまで難しい技を身に付ける必要はない。
今回は自分のことばかり書いたが、これはあくまでも僕の格闘の歴史だし、Jr.が同じ道をたどる必要はない。
今は特に昔ほど魅力のあるクロカン車がなくなってきたので僕の世代はまだ恵まれた方だったかもしれない。
これから続けていく人は最も多くのことで悩んだり、僕以上の特殊なスキルを身につけないといけないかもしれない。
だが、これだけは間違いないと思う。
安易にハードばかり手を入れる前にソフトを徹底して磨きあげるとクロカンは急激に楽しくなるし、長続きする趣味になると思う。
ハード面に手を入れるにしても、よりソフトを磨き易くするための改造を優先した方が、クルマとの一体感を得やすい。
僕のクルマのベージュのボンネットは昔一緒によく走り込みした思い出のあるBJ70のものだ
「一体感」というと私も感じてますよ、と思う人も多いかもしれないが、大型車で一体感を得るのは実はものすごく困難なことだ。
ジムニーや、ジープだと簡単に掴める車両感覚が、自分のクルマやさらに大型車になると極めて希薄になると思うことがある。
だが、それは練習次第でかなり埋めていけるものだ。
最初に下見やインスペクションの話をしたが、走る前にあらかじめ地形を見て、自分のクルマで走ればどうなるだろうか?とか、ハマった後でクルマや周囲の状況を確認して自分のアタマで考えていく作業は、自分のクロカン脳を鍛える上で極めて重要なことだと思っている。
ハマりまくって、へんな汁をかくようになって、さらにYOUTUBEとかで自分の恥ずかしい走りをみたり、誰かに下手なのを指摘されて「ふざけんな、この野郎!」と思うくらいが進化していくキッカケになると思っている。
自分自身も「技に溺れたな」と少なからず言われたかとがあるし、自分より有利な条件のクルマを見てイラッとしたことは何度もある。
だがそんなキッカケがあって、やっと自分のアタマと体力を使って経験値を伸ばしていって、大型車だろうがATだろうが、人からクロカンに向いてないと言われようが気にせずクルマとの一体感、地形や自然との一体感を堪能出来るようになるんじゃないかと思うのだ。
ちなみに僕の場合、タイヤは自分の手で直接回しているような感覚で操作している。
左前タイヤで見えない地形を探りつつ、次はこうなるだろう、もっとコッチのラインの方が難しいはずだ。
最近走り込みをサボったのでちょっと鈍ったがそれでも想定した範囲を超えることはさすがに少なくなった。
以前、上手い人の後ろを走っていて思ったのだが、ちょっとしたリカバリー、ライン補正、絶妙なアクセルワークなど、まるで四つのタイヤ全てに神経が行き届いているような領域に入っている人って本当にいるものなんだと思った。
自分は残念ながらそこまでにはまだ達していないがそうなりたいものだと思っています。