「シューレス・ジョー」
映画「フィールド・オブ・ドリームス」は、W・P・キンセラの小説「シューレス・ジョー」(文春文庫)が原作である。
ケビン・コスナー演じる主人公が神の啓示のような「それを造れば、彼が来る」という声を聞き、トウモロコシ畑を切り開いて野球場を造る。ある日、夕闇に動く人影を見つける。1919年のワールドシリーズで起きた八百長事件(ブラックソックス事件)に巻き込まれて球界を永久追放された“シューレス”ジョー・ジャクソンだった。
そのジャクソンが21世紀になって突然、脚光を浴びた。2001年、日本からやって来たイチローが、ジャクソンが持つ233安打の新人最多安打記録を90年ぶりに破ったからだ。
記録達成の瞬間、一塁ベース上でヘルメットを取り、控え目に歓声に応えるイチローを見たキンセラは再びペンを執った。「マイ・フィールド・オブ・ドリームス イチローとアメリカの物語」(講談社)
「イチローは、ベースボールが生まれた国の人たちに、あらためてベースボール本来の素晴らしさを見せてくれた」
アメリカ人にとってベースボールは単なるスポーツではなく、誇りである。AP通信が選んだ「20世紀最高のスポーツ選手」の1位はベーブ・ルースだった。
そこにイチローが現われた。「菊とバット」で知られるロバート・ホワイティングは、日本人選手のメジャーリーグ進出を分析した著書に「イチロー革命」(早川書房)とタイトルをつけた。それほど衝撃的だった。
「君は引っ張る方法を知らないのか?」
大男ぞろいでパワフルな大リーガーに交じると、あまりに小柄で華奢(きゃしゃ)なイチローの成功を、誰も信じていなかった。
オープン戦で、なぜか流し打ちしかしないイチローに、マリナーズのルー・ピネラ監督はいら立った表情で尋ねた。「君は引っ張る方法を知らないのか?」
「もちろん知ってますよ」とイチローは答えた。実はレフト方向へ打つ課題を持って練習していたのだ。「いつだってできます。簡単です」
次の試合で、鋭いライナーを3本、ライト方向に放ってみせた。同時に周囲の雑音を封じた。
42歳で現役最年長野手になった今も、メジャーに入ったころと変わらぬプレーを見せる。常に鍛錬を怠らず、ベンチにいても出番に備えて準備する姿は大リーガーたちの尊敬を集める。
イチロー革命「日米の距離縮めた」
「イチロー革命」にこんなくだりがある。
〈「あなたがアメリカで成功した意義は?」
そう聞かれたイチローは、ずばりこう答えた。
「日米間の距離が縮まったと思います」
たしかに縮まった。〉
かつて米国では「メード・イン・ジャパン」の評価は低かった。オリジナリティーのないものまねと見下していた。が、自動車をはじめ、高性能、高品質の日本製品はまたたく間に米国市場を席巻した。日本の野球もベースボールとは似て非なるとされたが、そんな見方はもうない。
イチローが変えた。
ついにピート・ローズの、メジャー最多安打記録を抜いた。 「日米通算」だから価値がある。(鹿間孝一):産経新聞
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2016/06/16 20:29:29