
「とにかくやることがいっぱいで……」「いつも時間に追われているわりには達成感がない」――。長時間コツコツ働いていれば結果が出る時代は終わり、仕事のやり方そのものを見直す必要があると感じているという人は少なくないのではないでしょうか。
成果を出すには、やるべきことに力を集中させること。それには、まずは今手がけている仕事の「断捨離」が必要です。重要性の判断ができぬまま積み上がった仕事を、今度こそスッキリと仕分ける方法をご紹介します。
仕事の断捨離してますか?
私はコンサルタントとして、多くの企業で業務改革のプロジェクトを担当してきました。業務改革では「4つのC」という手法をよく活用します。具体的には業務を以下の4つに分類していきます。
①Cut(やめる) 目的や必要性を見直し、その業務自体をやめてしまう
②Convert(移す) ベテラン→若手、社員→派遣、社内→外部委託など担当を変える
③Combine(集める) 分散してやっている業務を一箇所にまとめて行う
④Create(作り出す) 問題解決やさらに価値を生む新しい仕事を作りだす
これらは、企業の業務を効率化し、成果の出ることに資源を集中させるための、とてもシンプルですが重要な考え方です。これは個人の仕事の「断捨離」にもそのまま使えます。
私はこの4Cで前任者から引き継いだ仕事をバサバサと断捨離したうえで、自分が取り組むべき新しい仕事に集中できるようにしてきました。自分の時間、気力、体力は限りのある資源です。成果が出る仕事に集中させていきましょう。
では4つのCでどんなふうに断捨離をするのか見ていきます。
やる必要がないことは意外と多い
① Cut 劣後順位=やらないことを決める
「劣後順位」とは、「優先順位」の逆です。つまり、目的と効果から考えて、やらないことを決めることです。
仕事があふれているときには、あれもこれもと無駄に一生懸命に作業するよりも劣後順位から決めたほうが成果が出やすくなります。仕事には大きなものから細々したものまでいろいろあります。3つの場合で考えるとよいでしょう。
(1)そもそもやる必要がない場合
やる必要がないことをやるなんてありえるのか?と思う方もいるかもしれませんが、実は意外と多かったりします。まずはそもそも何のために行うのかという目的の確認をしましょう。「何のために?」を繰り返すことで、やるべきかどうか判断します。
こう書くと当たり前のように思えますが、たとえばビジネス上は「○○がない」という事象があるだけで、やる必要のないことを「やるべき」となるケースが非常に多いのです。たとえば、「標準ルールが整備されてい“ない”」、「コミュニケーションの仕組みが“ない”」などです。このような「ないというだけでやることになってしまうこと」を防ぐためには「何のために?」を数回繰り返しましょう。理由が特定されれば、ほかのもっと簡単なやり方や、やめてもよい理由が見つかります。
(2)状況が変わって必要がなくなった場合
たとえば、お客様からの要望など状況が大きく変わり、今までの作業方針をガラッと変えなくてはならないような場面を考えてみてください。お客様との会議の前までは重要な仕事だったのに、会議後に必要なくなると言うことはよくある話です。このようなときは、自分からどんどん確認をしにいかないと、無駄な作業に時間を費やすことになってしまいがちです。
私はコンサルタントになった当時、マネジャーから「プロアクティブに自分から確認してね」とよく言われました。プロアクティブとは、「積極的に」という意味以外にも「事前に」「自分から」という意味があります。指示を待つのではなく、変化を事前に察知して自分から必要かどうかを確認するということを求められたのです。
新しい仕事を引き継いだ場合も、何も考えずにそのままやるのではなく、今の状況から見てやる必要がなさそうなものを見つけましょう。「前からそうだったので……」という以上の理由がないままやり続けていることはないでしょうか? 状況の変化と必要性をつねにセットで確認しましょう。
(3)過剰品質レベルのことをしている場合
思い当たる人も多いのではないでしょうか。たとえば、アイデア出しのミーティングのために、パワーポイントで精緻に作り込んだ枚数の多い資料を作ってはいませんか? お客様に見せるものではないので、そこまでは必要ありませんよね。関連記事などをざっと集めて、それを元にディスカッションすれば十分です。
報告書などはいったん立派に作ってしまうと、その後もその品質レベルで作成することが“当たり前化”していることがよくあります。日本人は過剰品質になりがちだと言われています。「あったらいいな」レベルの要求をずっと受け続けるのではなく、明確に「これはやらない」「ここまでのレベルにとどめる」など劣後順位を決めましょう。
仕事を移転する
②Convert 自分でやらず、任せる仕事を決める
次のConvertは仕事を移転する、つまり自分がやらないことを決めて誰かに任せるということです。
自社の強みに関係しない業務をアウトソースする企業は増えていますが、これは個人においても同様です。自分の強みを活かし、伸ばせる仕事に集中することはキャリアを積んでいくうえでもとても重要です。つい全部自分で抱え込みがちな人は発想を変えて、人に任せたり、代行サービスを積極的に使うことを考えてみましょう。
ここで、気をつけたいのが仕事の「任せ方」です。
社内やチーム内で人に仕事を任せるとなると、任せ方を工夫しないと期待レベルに達していなくてやり直しになったり、最悪の場合、自分が引き取ったりと時間がかかってしまうことも。一見、面倒に思えるかもしれませんが、「任せ方のステップ」を踏むことで格段に確実に手戻りが減ります。
単純作業よりも少し難易度が高いケースとして、調査報告書を作成する仕事を任せる場合で考えてみましょう。
■ステップⅠ その業務に必要な知識と技術を整理する
まずは、その仕事を完成させるために必要な「知識」と「技術」を整理しましょう。
<必要な知識の例>
調査報告書の目的や提出先、期待される品質や納期、リサーチソース(情報源)、アンケート手法、データを購入する業者や手順、類似の調査報告書や担当者……
<必要な技術の例>
仮説立案や検証方法を考えるスキル、統計解析などの分析スキル、エクセルやパワーポイントのスキル……
自分の当たり前=相手の当たり前ではないと思って、自分では暗黙知になっているものも含めて整理してみましょう。
■ステップⅡ 相手にその知識と技術があるか確認する
次にその知識や技術が相手にあるかどうかを確認します。知識であれば、「リサーチの情報源は何を使えばいいと思う?」などステップⅠであげた知識について質問をすることで確認できます。
技術の確認は少し工夫が必要です。実際に本人が作成した資料やアウトプットを見せてもらうほか、これまでの仕事経験や進め方などを聞き出すと大体のスキルレベルは把握できます。スキルがない場合には、教えたり、チェックする時間があるので、当然、自分でやったほうが速いのですが、後々のことを考えるとここで教える手間を惜しんで自分で抱え込んだままではいつまでたっても変わりません。自分の技術を人も使える「技」として形式知化しましょう。
スキル移転の方法としては以下があります。
A 書籍 そのスキルを得るための書籍を紹介する
B 研修・セミナー 時間に余裕があれば参加してもらう
C 実地で移転 その仕事を一緒にやることで教える
D 体系化して移転 自分のスキルを再現可能な手順にまとめて教える
AからDの順で時間はかかります。一般的なスキルであればAやBですみますが、独自のスキルだとCやDでないと移転できません。時間はかかりますが、自分だけではなくチーム全体のスピードアップにつながります。実際に私は、かなり仕事が忙しかった時期でも社内の研修開発を行い、結果的にチームのレベルが上がったことで、仕事がスムーズに回るようになりました。
■ステップⅢ 行動に落とし込む
仕事の手順やスケジュールに落とし込み、行動ができる状態にします。具体的には、納期を決めるほか、途中のマイルストーンを相手に考えてもらい、決めます。
たとえば、「○月○日までに、リサーチの情報源を3つにしぼり、調査会社に発注完了している」「報告会の2週間前に分析結果が出そろっている」「1週間前にクライアント担当者の合意を得ている」など完成までにとおるいくつかの時期の達成基準を自分で決めてもらうのです。特に相手にスキルがない領域については細かく設定したほうが、納期直前にまったく見当違いのものが出てきてやり直しという事態を防げます。
分散しているために生まれる無駄
③Combine 分散している仕事をまとめる
ここまででさまざまな無駄を省いてきましたが、もっと身近なところにも無駄は潜んでいます。まとめてやればいい作業が、分散しているために生まれる無駄です。
たとえば、以下の仕事は分散されがちです。
■ミーティング
相手があってのことなので、すべてまとめてというわけにはいきませんが、調整が可能ならば、ミーティングはできるだけ同じ曜日にまとめた方がよいでしょう。たとえ同じビル内と言えども、前後の移動時間など箱からの出し入れの時間は予想以上に大きいと言えます。ミーティングが中途半端な時間に毎日ポツポツと入っているとそれだけでまとまった時間が削られていきます。私はミーティング調整で候補日を出す際には、空いている日時を出すのではなく、曜日と時間帯を決めて相手に選んでもらい、なるべく分散しないようにしています。
■メールチェック
メールで仕事を分断されている人は多いのではないでしょうか? そんな方にはまずは、メール着信のお知らせをオフにしてしまうことをお勧めします。集中的にメール対応をする時間を決めてしまいましょう。メールは、緊急度や重要度がさまざまなものが混ざっています。メール着信音にいちいち反応して「急ぎじゃないから後で返信しよう」と判断して、元の作業に戻っても、「あれ、何してたんだっけ?」と箱から出す時間がその都度発生して、どうしても作業時間が減ってしまいます。
■仕事のスケジュール管理
今日一日何をするかを毎日決めている人は多いのではないでしょうか? 私も以前は会社で着席してから、「え〜っと、今日は何しよう?」と確認していました。仕事量が少なく、時間もたっぷりあるときはそれでも問題ないのですが、気がつけば締め切りに追われることが多いような場合には、スケジュール管理を「1週間単位」でまとめたほうが効果的ですし、一日のスタートダッシュも早くなります。
■家事
家事と仕事は関係ないようで大きくあります。たとえば献立を考える作業などは毎日に分散していると、かなり時間がかかり仕事の時間にも食い込んでくることも。食材を思い出し、献立を決め、買い物リストをまとめるなど考えることや決めることが続くと「決断疲れ」が起きます。仕事に集中するためには決断機会をできるだけ減らすことも重要です。
4Cの最後、まずは課題設定
④ Create 課題を設定しやるべきことを決める
さて、今ある仕事を仕分けし、人に割り振り、分散しているものはまとめました。4Cの最後では、いよいよ新しく、やるべき仕事を設定しなおします。
やみくもに新しいことに着手してはいけません。重要なのは、まず「課題」を設定することです。
課題設定とは、「現状とあるべき姿を正確に把握し、あるべき姿になることを阻む根本的な問題を見極めて、あるべき姿に近づける方法を考え出すこと」。
課題を設定することで、本来やらなくてもいい余計な仕事をしなくてすむので、その分の時間をほかの仕事に集中することができます(「課題設定」については、詳しくはこちらの過去記事もご参照ください)。
やるべきこと=課題を設定するには、あるべき姿を決めることがマストです。それをはっきりと明確にすれば、自ずと解決すべき問題や取り組むべきことが見えてきます。仕事を断捨離して、やるべきことを生み出す4C。ぜひ取り組んでみてください。
東洋経済オンライン