
誰も知らない中国調達の現実(239)-岩城真
最近、筆者は中国で生活する時間が増えているが、中国の深刻な不景気を肌で感じる反面、ショッピングモールや空港、高鉄(中国版新幹線)の駅で垣間見る旺盛な消費を見ると、どこが不景気なのか、と考え込んでしまう。一般消費について、筆者は門外漢、ちょっと見と内実は異なるのかもしれない。ただ、BtoB取引である産業機械の世界では、明らかに歯車が狂いだしていると確信を持って言える。
鉄鋼、セメント、ガラスといった投資依存型の装置産業は、慢性的な設備過剰、生産過剰に苦しんでいる。ところが、冷え込むはずの設備投資は、さほど冷え込んでいない。設備過剰であるにも関わらず、設備投資案件の引き合いは、けっこう旺盛なのである。(引き合いは旺盛であるが、実行までの期間は、中国では信じられないほど長くなっている。)環境問題が大きくクローズアップされているため、環境投資(排ガス廃液浄化など)は、ことさら旺盛な引き合いがある。
なぜ、そのようなことが起きるのかというと、これには中国特有の事情がある。日本の感覚で説明したり理解しようとしたりしても不可能だ。中国政府は、国内の過剰な鉄鋼、セメント、ガラスといった産品を、AIBAを上手に使い、輸出に振り向け、設備過剰の解消を狙っているといわれている。しかし、中国政府自身もAIBAですべてうまくいくとは考えていないだろう。そもそも輸出に耐える品質やコストが確立されているか、というとそうではない。正直なところ、安かろう悪かろうが否めない品質、効率の悪い設備、管理の甘さに由来する製造ロスなど、まだまだの面がある。鉄鋼メーカーの大がかりな統廃合に続き、セメント、ガラス等の装置産業の統廃合も進められている。統廃合ともなれば、誰だって統合する側になりたい、間違っても統合される側を希望する経営者はいない。
では、どうすれば統合する側になれるかというと、生産量が多く先進的な設備を有しているということである。その結果、売れても売れなくても生産する、販売が目的ではなく、生産そのものが目的になっているのである。設備投資も同様で、投資の回収などあまり関係ない、買うだけの資金があるかないかが問題であるし、時には資金のあてがなくても買ってしまうといった、とんでもないことも発生している。このカラクリ、日本の民間企業では、真似したくとも真似できるものではない。
資金がなくとも買ってしまうとどうなるかというと、支払が滞る。これを起点に信用不安が始まる。これは、ものづくり、特に原材料の購入から設備の完成(資金の回収)までが長い、設備機械の製造業では深刻な問題になる。日本と同様に鋼材問屋は、顧客の経営状態には敏感である。商品に差別化がなく、基本的には薄利多売の業界であるため、いったん回収不能となれば、自身の経営を直撃されることになる。それだけに、納品月末払いが、納品時、納品前、果ては発注時へとリスクヘッジへひた走る。
こうなってくると、資金力のないサプライヤーは、バイヤー企業から前金をもらわないと経営が成り立たなくなる。概して日系企業は前払いを嫌うが、スポット取引が継続するような設備機械業界では、嫌っていたら商売がまわらない、つまり発注できなくなる。調達の現場の混乱を想像して欲しい。「材料費を立て替えられる余裕がなくなったので、前金で支払って欲しい」というようなサプライヤーの要望を聞いたバイヤー企業のマネージャーはどんな指示をするか?「資金に逼迫しているサプライヤーに発注して、ちゃんと納品されるのか?納品前に破綻になれば・・・」と考える。いわんや「そんなサプライヤーに前金など払えるか?」これがオーソドックスな反応であり、指示だろう。
今まで、育ててきたサプライヤーを見殺しにしてよいのか?これは、人道的な見地で判断に悩んでいるのではない。中国でサプライチェーンを構築するまでには無形の人的投資をしている。サプライヤーの破綻を容認するとは、無形の投資を泡水に帰すことを受容することに等しい。バイヤー企業とて、資金に余裕があるとは限らない。だからどうすべきだ、という妙案は残念ながらない。現場のマネージャーは、苦しい判断を日々迫られている。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子) :サーチナ2015-07-14 11:00
Posted at 2016/10/19 07:31:19 | |
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