
「“労働力”の輸出に頼る中国?」と疑問を持たれる読者諸兄も多いと思う。ちょっと解説しなくてはならない。労働力の輸出、いわゆる出稼ぎに頼る国というと、真っ先にフィリピンを思いだされる。確かに、フィリピンは、“モノ”の輸出以上に海外出稼ぎ労働者の送金に国の経済が支えられている。一方、中国には、そのような一面はほとんどない。“世界の工場”と呼ばれたように工業製品の輸出が主導するかたちで、経済が大発展したのは、ご存知の通りである。
しかし中国から輸出された工業製品の多くは低廉な人件費を武器に加工費を圧縮した製品が多く、人件費の上昇は製品価格の上昇に直結してしまうものばかりだ。“モノ”を輸出しているとは言いながらも、そこには独自の技術といったものが内在していることは稀で、まさに低廉な労働力を輸出しているに等しいのではないか、というのが、筆者の見立てである。
最近でこそ中国資本の自動車メーカーがアセアンや南米といった市場近くに工場を建設するようになってきたが、かつては日欧米系メーカーが域内生産をはじめても中国系メーカーは依然として中国で生産、輸出の形態をとっていた。もちろん当時はそれでも十分にコスト優位性があり、現地生産する必要がなかったのかもしれない。ただしサービスパーツの供給に時間が掛かるなど、現地生産していないがための弱さが目についた。
近年、中国企業のアフリカ向けインフラ輸出は、圧倒的な安さやスピードで、根こそぎ受注しまくっているといった印象がある。しかし、アフリカなど輸入国では、すこぶる評判が思わしくない。評判を落としている最大の理由は、中国企業が建設作業員を丸ごと中国から連れて来ると言われることにある。インフラ建設では多くの労働者が現地で雇用されそれが現地への技術移転となって輸入国にとってもうひとつの恩恵を生むのだが、作業員を連れてきてしまってはこの恩恵が成り立たない。
アフリカのリアルな事情を筆者は知らないが、筆者がインドネシアで携わっていたプラント建設プロジェクトでは、確かに中国企業は、本国(中国)から建設作業員を連れて来ようとした。当初インドネシア政府は、「建設作業員にワークビザを出さないので、連れて来ることができない」と入国させない意思を伝えていたが、中国企業は自社の指定した作業員が架設したものでなければ、設備の性能保証はしないと主張していた。その主張自体は、理解できなくもないが、新興国のプラント建設に現地の作業員を雇わないなど、常識では考えられない。結果的に作業員のビザは発給されたが、それまでの間工事はストップしてしまった。また、ビザの有効期限内に架設は完工できず、ビザ延長もできずに架設は、インドネシア作業員の手で完工した。設備の性能保証問題が、どのようになったのかまで筆者は知らないが、中国企業の建設作業員までの丸ごと輸出体質を知ることになった。
中国の人件費が上昇している現在、中国から遠いアフリカにまで作業員を連れて行く経済的なメリットはない。ならばなぜ連れて行くのか、筆者はそこには中国独特の問題があるとみている。中国人の工業技術の習得は、どちらかというと実用本位だ。「なぜ、このようにするのか?」という探究心に乏しい。ノウハウは、咀嚼せず鵜呑みする傾向が強い。それゆえに、ノウハウが体系化できていない。体系化されていないノウハウを移転することは困難なため、習得している作業員を連れて行かざるを得なかったのではないだろうか。
中国はこの路線を転換しない限り、今後新興国のインフラ設備を受注しても、あいかわらず作業員丸抱え輸出体制を改められない。いずれコスト競争の大きな足枷になるはずだ。また、市場である新興国での工場操業も苦戦を強いられるのではないだろうか。(執筆者:岩城真 編集担当:サーチナ・メディア事業部)(イメージ写真提供:123RF) :サーチナ 2016-10-13 18:56
Posted at 2016/10/20 07:54:07 | |
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