
米軍の最新鋭迎撃システム「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」の韓国配備で、蜜月関係にひびの入った中国と韓国。その亀裂の一端がついに統計にあらわれた。8月に韓国を訪れた中国人観光客が、前月より約4万人減ったことが分かった。韓国メディアによると、繁忙期の8月の実績が前月割れしたのは1998年の月別統計の開始以来、初めてという。9月に朴槿恵大統領と会談した習近平国家主席は「両国は広範な共通利益を有する隣国」と歩み寄る姿勢もみせていたが、中国流の嫌がらせに痛めつけられているのが現実のようだ。
日本人客が「中国人減」をカバー
韓国観光公社の統計によると、8月に韓国を訪問した中国人観光客は、83万3771人だった。前月比5%減で、韓国・朝鮮日報(日本語電子版)は「中国人観光客数が7月より少なかったのは月別統計開始以降、18年間で初めてだ」と伝えた。
一方、中国に次いで観光客が多い日本人は22万5456人で、前月より18%近く増えた。足元の円高によって、日本からの韓国観光客が増えたとみられ、「中国人観光客が減った分、日本人が伸びた」(朝鮮日報)ため、全体の下げ幅を押しとどめた。
とはいえ、日銀の金融政策の変更で、為替動向が見通しにくくなっており、円高を背景にした観光需要は心許ない状況だ。
中国人大量キャンセルで観光列車ストップ
韓国の中国人観光客が減少したのは、7月のTHAADの在韓米軍配備発表に強く反発した中国政府の動きが影響したとの見方がもっぱらだ。
実際、中国人観光客の韓国離れは7月下旬から加速。大量キャンセルによって、観光列車の運行が取りやめになったこともあった。
大邱市のフードイベントに中国人観光客を呼び込むためにイベント主催者側が、ソウルからの観光列車を企画。しかし、中央日報(日本語電子版)によると、THAAD配備の発表以降、申し込みのあった500人余りのうち、半月ほどで300人近くがキャンセルした。結局は200人ほどしか集まらず、バスの代替輸送への切り替えを余儀なくされたという。
「韓国にとって最大級の主力輸出品」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)と位置付けられるKポップスターの中国でのイベントも8月に相次いで中止。韓流人気に水を差す動きに懸念が広がり、韓国のプロダクション企業の株価が下落するほどだった。
THAADはゴルフ場に配備?
ことの発端となったTHAADについて、中国は対立を激化させる火種として、あくまで反対を主張している。北朝鮮の核ミサイル開発への脅威を抑える手段として配備を進める韓国側との溝は埋まっていない。対米核抑止がTHAADによって無力化されることを中国は激しく恐れ、怒っているからだ。
しかし、THAADの配備先は、韓国南部の慶尚北道星州郡にある韓国ロッテグループ系列のゴルフ場に決まり、着々と準備が進んでいる。
経済的なダメージを負ってでも、核兵器から国を守る防衛を優先する韓国の判断は当然だが、中国の核心的利益を損なう琴線に触れた韓国は今後、中国頼みの経済構造の見直しを迫られる可能性がある。
8月の訪韓中国人客の減少は、ささいな統計の動きかもしれないが、距離が開いた中韓関係の変化を象徴している。
中央日報は、THAAD配備の影響と中国人観光客の動向について、韓国の議員の意見をこう伝えている。「国民に事実をありのまま伝え、(観光客減の)対策を立てるべきだ」。
:産経新聞 2016/10/07
Posted at 2016/10/21 18:08:56 | |
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