
誰も知らない中国調達の現実(241)-岩城真
あと1カ月ほどで中国は国慶節休みを迎える。中国経済に陰りがあっても、訪日する中国人の数に大きな変化はないだろう。ここ数週間の円高元安で若干財布の紐はきつくなる程度だろうか。当コラムの読者諸兄の中にも訪日中国人を迎え、アテンドする方も少なくないのではないかと思う。今回のコラムでは、そのような読者に向けて筆者からの提案をお伝えしようと思う。
日本人と中国人のギクシャクした関係がなかなか融解しない理由は、隣国と言いながら庶民同士のリアルな交流が希薄であることも一因であると思う。ちょっと前まで、日本人ビジネスマンが大挙して中国に出張していた。日本人が訪中する場合、特別なケースを除くと15日以内はノービザで滞在できる。一方中国人は、年々発給条件が緩和されてきているものの、依然としてビザなしでは入国できない。そのような制約のあるなかで訪日する中国人には、日本のリアルな庶民生活を体験していただきたいと筆者は考えている。
少々堅苦しい書きだしになってしまったが、そんなに難しい話ではない。日本中どこにでもあり、庶民が気軽に出入りしている百円ショップにアテンドすることだ。そしてできれば100円玉と10円玉をそれぞれ1枚手渡して、1点だけの買い物してもらうことだ。百円ショップというと中国製の駄ものばかりのイメージが強いが、よく探すと日本製の逸品もある。筆者の知るところでは、2膳セットの箸に日本製のものがあった。
筆者のアテンドした中国人は、「これは良い!」と言ってまとめ買いしたものだから、一気に3000円近い買い物になってしまったが、ある意味で、これではダメなのである。1点だけ買ってもらうところに意味がある。つまり、100円は人民元に換算すれば約5元、5元が高額かといえば、少なくとも訪日できる中国人にとって高額といえる額ではない。中国でも高額商品を扱う商店の店員の対応はそんなに悪くない。一方、安価な商品を扱う商店の対応は言わずもがなである。そこには「安いんだからいいじゃないか」の気持ちが確実に存在する。
この言葉は、筆者が中国の製造現場で外観品質の悪さを指摘したときに何度となく投げられた言葉である。30点もまとめ買いすれば上客かもしれないが、たった1点しか買わない客でも、日本の店員の対応に差異はないはずだ。その部分を訪日中国人には体感してほしいと思う。初来日の中国人であれば、きっと驚きと感動、そして学びがあるはずだ。銀座の高級ブランド店にアテンドしても店員の応対が丁寧なのはあたりまえとしか彼らは考えないだろうし、そこには驚きも感動もないだろう。
ではなぜ110円を渡すのか? たった2円、人民元にすると1角の釣銭でも丁寧に返す店員の振る舞いも見せたいからだ。中国の一般の商店で買い物の経験のある人なら想像できると思うが、1角の釣銭など返ってこないこともあれば、投げ返されることもあるだろう。
そして、もう1カ所、高級品しか扱わない百貨店にもアテンドしてほしい。筆者は彼らと、目あてのT社やZ社の日本製水筒を買いに行ったのだが、そこにあったT社、Z社の商品は、すべて中国製か新興国製のものだった。(日本製をウリにしているT社、Z社と比較すると知名度の低いメーカーのものが1種類だけあった。)
筆者が何を伝えたいのかというと、中国の狭義の製造技術は、高級品の日本ブランドでも十分通用するレベルに達している。それでは、日本ブランドと中国ブランドの差は何かというと、以前のコラムでも書いたように、技術をコントロールする力、つまり品質管理を筆頭とした管理力の差である。その差を埋めるためには、最新鋭の機械を導入することでない。その僅かの差を埋めるのは、中国人自らが流す汗に他ならないだろう。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子) :サーチナ 2015-09-08 11:00
Posted at 2016/11/04 21:26:36 | |
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