その3 からの続きです。
出雲市駅の待合室は新しくて暖かく、次の列車までの出発時刻までのんびりと待つことができます。
構内放送によると、やはり列車の遅れが出ている模様。まあ雪が凄いからなあ、と思ったら、なんと山陰線内で人身事故があった影響で遅れている、との由・・・。
岡山からやってくる特急は70分遅れ、などという案内もありますが、私がこれから乗る予定の列車は今のところ、定刻通りの模様。なにしろ、ここからは1本1本が大事で、遅れなどで接続できない、となると、最悪、この日までに普通列車だけでは目的地にたどり着かない可能性もあるわけです。
もちろん、そうなったときの保障は何も無く・・・まあ、これが18きっぷのコスパの高さと引き換え、ということなのでしょう。
ちょうど今が帰省の時期、改札から出てきた人と抱き合って再会を祝したりしている光景をあちこちで目にします。
発車時刻が近づいたのでホームへ。

私がこれから乗り込む列車は、次発の快速「アクアライナー」米子行きです。

アクアライナーが到着、島根県の西部、益田からやってきました。
この列車で米子まで乗ります。
出雲市駅で降りる客も多く、乗り込むと車内は5分~6分程度の乗車率、といったところでしょうか。

乗り込んで車窓からホームを眺めていると、隣に停車していた岡山行き特急「やくも」がまずは発車。その後、向こう側のホームに特急「おき」が到着します。行き先表示を見るとこちらは新山口行き。
こうして見ると、様々な特急列車が走っているものですね。
ほどなくして私の乗る「アクアライナー」も発車。快速、となっていますが、ここから先は米子まで各駅に停車します。
今度は宍道湖の南岸を走ります。
朝までいた松江を過ぎ、「安来節」で有名な安来を通って島根県に別れを告げ、再び鳥取県に。だんだんと周りがまた、雪で白くなってきました。

出雲市から1時間10分ほどで、米子駅に到着。
次の列車まで40分ほどの時間がありますので、ここで昼食にします。
なにしろ、ここから先の行程は、乗り換え時間もわずかで、夕方までほぼ4時間、ずっと乗りっぱなしとなりますので、食いっぱぐれたらちょっと大変です(笑)。

駅構内のお店で、きつねうどんと鯖寿司をいただきます。
熱々のうどんで身体も温まり、鯖寿司は肉厚で美味しかったです。
発車時刻までまだ間があるので、少し駅前に出たり、駅構内を歩きます。さらにはトイレも念入りに・・・。

「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターが出迎えてくれるのは、境線の境港方面ホーム。
私が次に乗るのは、伯備線、岡山県の新見行き普通列車。乗り場に行くと、1両だけの列車が長いホームにポツン、と停車していました。
中には数人の乗客。発車時刻が近づいてくると、さらに何人か乗り込み、全部で10数人の乗客を乗せて発車します。
1両なので、列車というよりはレールバスといった感じです。
半分がボックス席で残りがロングシート、という作りになっていて、ちゃんとトイレも完備されていました。ロングシートの端に腰を落ち着けます。
定刻に、米子駅を発車。この頃から、雪の降りが激しくなってきました。
晴れていたら望むことができる大山も、当然のごとく暗い雲に覆われていて見ることができません。
伯耆大山で山陰線と別れて、伯備線に入る頃には、進むごとに積雪も深く、雪の降りもさらに激しくなってきました。
車内は暖房が効いていて非常の暖かいのですが、外はほぼ吹雪。
1両の列車ということもあって、まさに「ローカル線の旅」に相応しい旅情を感じて、1人窓の外を見入ってしまいます。

深い雪に覆われた途中駅のホーム。車窓から何枚も写真を撮ったのですが、いかんせん窓がすぐに曇るので、そのたびに拭くのですが、やはり水滴や曇りが写り込んで上手く写真が撮れず、外の様子が何とかわかるものはこの1枚くらいでした。
車内の乗客たちも、ほとんど話し声は聞こえません。見た感じ、地元の人と観光客らしき人の割合は半々くらい、といったところでしょうか。途中で何人か乗り降りしますが、常時12~3人の乗客と運転士を乗せた1両の列車が、雪の中を走っていきます。
この路線はほとんど単線ですが、特急「やくも」も1時間に1本の割合で走っているので、駅や信号場で頻繁に行き違いを行います。
そのたびに5分~10分ほど停車するのですが、反対からやってくる特急は遅れがちで、影響でこちらの停車時間も長くなってきます。
「反対側の列車待ち合わせのため停車します。なお、遅れておりますので、しばらくおまちください」というアナウンスがあった後は、乗客は誰一人言葉を発せず、シーンとした時間が流れます。
しかし、予定時間になっても行き違う列車はやってきません。
まわりには人家がほとんど無い山間の駅。いつ来るのかわからない反対方向の列車。
窓の外はしんしんと雪が降り続け、反対からの列車が通るはずの線路はすっかり雪に覆われて、どこに線路があるのかまったくわかりません。
線路にこんなに雪が積もってしまって、ちゃんと列車は通れるのかな? 急にそんな不安が頭をよぎります。そういえば、少し前に大雪で列車が立ち往生して乗客が長時間閉じ込められた、なんてニュースもありました。これで反対側からの列車が来れなくなったらどうなるんだろう・・・スマホで今居る場所の確認をしたり、雨雲レーダーで雪雲の進路や強さを確かめたりして、落ち着き無く過ごします。
10分ほど遅れて、反対からの特急列車が静かに通過していきました。何も無く、ただ真っ白なだけだった地を特急が通過して、その後にはくっきりと2本の黒い線が浮かび上がっています。
ほどなくしてこちらも発車。唸りをあげるディーゼル音が高まると同時に、私の小さな不安もかき消されていく・・・そんな事が何回か続きます。
ちなみに、すぐそばにトイレが付いているのはありがたく、私も安心して飲み物を口に含むことができます。
岡山県に入ってしばらくすると、だんだんと周りの雪は消えていき、新見駅に着くころには、ほぼ無くなっていました。
米子を出発して2時間10分。最大で10分以上遅れたのですが、その後、長時間停車する予定のところを、手前で行き違いが済んだため短時間で発車することもあったりで、結果的には数分の遅れで新見駅に到着します。
1両だけの編成で、あれだけの雪の中、3分の2以上の乗客&運転士は米子からずっと乗り通してきましたので、同じ空間で苦労を共にしたような・・・そんな親近感が何と無く湧いてきました(私だけかもしれませんが)。
ここで接続する岡山方面行きの普通列車の待ち合わせは、本来ならば1分ほどしかありません。この後だと1時間後になってしまうので少し覚悟していたのですが、ありがたいことにちゃんと待っていてくれました。
乗り込むと、すぐに発車します。

発車する列車の車内から、ここまで乗ってきた列車に、ちゃんと連れてきてくれたことへの感謝の気持ちをこめて1枚。
ここから乗り込んだ、岡山経由備前片上行きの3両編成の列車は空いていました。
新見駅を発車して、この先はずっと、夕暮れの高梁川を右に左に見ながらのんびりと走ります。
これまではよく暖房がきいていて暖かかったのですが、こちらはまだしっかりと効いていなくて、若干寒さが・・・上着の襟元をしっかりとしめながら車窓を楽しんでいました。
以前、街歩きをした備中高梁駅を経て、総社駅を出る頃には少しずつ乗客も増えてきました。
倉敷に近づく頃にはとっぷりと日が暮れて、明るい空は西の方にわずかに残るだけになります。
17時過ぎ、倉敷駅着。ここで山陽線の下り電車に乗り換えです。
ホームに降り立ち、コンコースに上ると、夕方の時間帯のせいか行き交う人で大混雑でした。この混みようはこの日初めてのことで、何だか今までとは違う世界に来たようです。
倉敷駅にはやはり数分遅れで到着したのですが、山陽線三原行きの電車もやはり待っていてくれたようで、乗り込むとすぐに発車します。車内は立ち客も多い混雑ぶりで、これまた今までとは違う賑やかさ。
そんな中、電車も今までとは違って静かに、軽やかに、そしてぐんぐんと加速して、今までに無い高速で走り出します。
何かにつけて、今までとは違う環境に急に変わり、若干の戸惑いを感じる中、西に向かう電車に揺られていくのでした。
その5 に続きます。