かつて日本中の電化路線を走り回った、
国鉄急行型電車。
その殆どが2015年3月のダイヤ改正で営業運転を終えて、姿を消したか、に見えました。
が、たった2両だけ生き残り、2020年秋の今も走っている国鉄急行型電車があるのです。
【序章 目撃 クハ455-700番台】
これは2017年3月1日、出張の帰りに金沢駅で捉えた、JR西日本413系電車。
七尾線地域色の「あかね色」に塗られています。
413系はキハ47に似た中央寄りの両開き扉2カ所を持つ近郊型電車なのですが。この編成の米原方に連結されたクハは、特筆すべき車両が・・・!
413系オリジナルの「クハ412」ではありません。
『クハ455‐701』
413系の制御車用に改造されたクハ455-700番台です。 701と702の2両あります。

2両だけ残った国鉄最後の急行形電車「クハ455-700番台」。
2020年11月現在も金沢からIRいしかわ鉄道を経由し、JR七尾線で運用されています。
しかし2021年3月ダイヤ改正までに、ついに引退することが決まりました。
【第1章 413系という電車】
413系は、長らく新車配置のなかった北陸線の普通列車用として、車体のみを新製し、急行型471系、473系の台車、モータ、制御機器、冷房装置を流用して組み合わせ生まれた、車体更新改造車。
台車はエアサスのDT32とTR69、ギヤ比は近郊型標準4.82ではなく、元の急行型と同じ4.17で勾配抑速ブレーキなし。クーラーは元車AU13とAU71の再利用。
同じコンセプトで改造された九州地区と仙台地区向けの交流専用車に717系があります。
私鉄ではよくある改造ですが国鉄では珍しく、103系の車体を載せた旧形国電モハ72系970番台や115系車体のモハ62系の例があったくらい。
地方線区用のため近郊型標準の両開き3扉ではなく、キハ45形、47形のようなステップ付き両開き2扉。先に新製された417系や713系に類似した車体になっています。
(これは、413系新北陸色と言われる以前の塗装)
【第2章 国鉄急行形電車とは?(直流車編)】
1958年から製造、東海形と言われた153系に始まる、長距離用新性能電車。
153系は、80系電車のデッキ付き2扉、4人掛け固定クロスシートを踏襲し、100kWのMT46型電動機(モータ)を搭載したカルダン駆動、ノーシルノーヘッダー2段ユニット窓が特徴。まず東海道線など直流平坦線向けに開発。「準急 東海」から使用が始まり、「東海形」と呼ばれました。
東海道線山陽線急行は『東海』『なにわ』『比叡』『せっつ』『伊吹』『鷲羽』『六甲』『伊豆』など
東海道本線根府川鉄橋を行く153系急行「伊豆」
153系新快速ブルーライナーです。(大阪駅)
153系は山陽新幹線岡山開業後、2代目新快速に転用。
モノクラス6両で、クハには低窓クハ153のほか、クハ165も使用されています。
初代新快速は、大阪万博輸送のため関西に転属したスカ色の113系を、万博終了後転用したものでした。
今年は新快速運転開始50周年、セリカと同じですね。
そして余剰となった153系が2代目新快速の任に就きます。
急行形電車の快速・普通列車転用は新快速から本格化しました。
山岳路線向けには、153系をベースに、120㎾にパワーアップしたモータMT54を装備し、勾配抑速ブレーキを搭載した165系が生まれました。「山用東海形」という日本語的にやや意味不明な愛称。
165系急行は上越線『佐渡』『よねやま』『ゆけむり』、東北線『なすの』、中央東線『アルプス』、中央西線『きそ』など。
リニア鉄道館に保存されている、 クモハ165-108, サロ165-106。
さらに、信越本線の急勾配区間碓氷峠、横川-軽井沢間で補機EF63と強調運転できる169系も登場します。
しなの鉄道軽井沢駅構内に保存されているクモハ169-6。
信越線急行は『信州』『妙高』『志賀』『軽井沢』など
と、ここまでは直流電化区間向けの急行形電車のお話。
【第3章 国鉄急行形電車とは?(交直流車編)】
クハ455が属する455系は、国鉄の
交直流急行型電車です。1961年、153系をベースに、地方路線に多い交流電化区間に直通できる交直流型急行電車451系と471系が、1962年に登場します。モータは153系と同じ100kWのMT46。
当時は変圧器の電源周波数が共用できなかったため、50Hz用の451系と60Hz用の471系に分かれていました。451系は東北、常磐線に、471系は北陸本線に配置されました。その後、直流急行形が165系に改良されたように、120KwモータMT54搭載の453系と473系、さらに勾配抑速ブレーキを追加した455系と475系に発展。475系は九州にも配置され、山陽本線と鹿児島本線、日豊本線の直通急行に投入されました。制御車、グリーン車、付随車は50Hz用も60Hz用も、451系または455系と共通となっています。
その後、50Hz60Hz共用変圧器が開発され、交直流特急型485系の急行版457系が1969年に登場しました。ちなみに交直流急行形では碓氷峠対応でEF63強調運転用の系列(459系?)は作られていません。
ところで、直流用153系のハイパワー版で抑速ブレーキ無しの163系も計画されていましたが165系に統一して増備されることになり、163系はグリーン車サロ163が7両製作されただけで、事実上の飛び番となった163系は「幻の系列」と呼ばれています。
475系クハ455+モハ474+クモハ475(富山港線に運用中、富山駅にて)
北陸本線は、急行『立山』『ゆのくに』『くずりゅう』、快速『こしじ』など
九州方面急行は『つくし』『玄海』『かいもん』『山陽』など
大宮の鉄道博物館に保存されている「クモハ455-1」
東北線は『みやぎの』『まつしま』『つくばね』、常磐線は『ときわ』、奥羽線『ざおう』、磐越西線『ばんだい』など
しかしJR各社に継承された国鉄急行型電車は普通列車に転用されたあと、JR世代の新型車に置き換えられ、次々に引退。
北陸本線の475系は2015年3月ダイヤ改正でラストランを迎えました。
吹雪の中を走る、国鉄色原形大目玉の475系。雪景色が似合う!?
【第4章 概説クハ455-700番台】さて、ちゃっかり生き残ったクハ455-700番台のお話の続きです。
413系はクモハ+モハ+クハの3両一組で1編成。全部で11編成が改造されましたが、そのうち2編成は製作コストを抑えるためモータ付きのクモハ413とモハ412のみ車体を新製。
制御車クハは余剰となっていたサハ455に運転台を取り付け、改造費を抑制して413系に連結されました。これがクハ455‐700番台です。
サハ455-1と-6からクハ455-701と -702 の2両が改造されました。
車端に寄った片開き扉ですが、デッキの仕切り壁は撤去されています。
扉の横にはサハ455には無かった413系と同じ方向幕を装備。
クハ455-700番台の車内です。
本来の急行型は全てボックスシートですが、扉近くは、座席袖の仕切りを挟んでロングシートに交換。中央には4人掛け8組のボックスシートが残り、413系の車内に準じた座席配置と室内に。ボックスシートには急行形の証しである窓側の肘掛けも残されています。
こちらが413系の車内。(延命工事後)
クハ455-700番台の車内が、413系に合わせて整備されたことがわかります。
クハ455-700番台が連結された413系の2編成は、
クハ455-701+モハ412-4+クモハ413-4
(元の車両;サハ455-1+モハ470-7+クモハ471-7)
と
クハ455-702+モハ412-101+クモハ413-101
(元の車両;サハ455-6+モハ473-1+クモハ473-1)
413系の100番台は、ベース車両が473系であることを示します。
473系はクモハとモハの1両ずつのみ作られ、その後の増備車は勾配抑速ブレーキ付きの475系に統一されました。
クハ455-700番台のベースとなったサハ455です。
モータ無し、運転台なしのトレーラ。
クハ455-700番台への改造は、サハ455のトイレと反対側に、クハ412相当の運転台部分を新製し接合して行われました。
左側面の窓と扉配置は「1d D9D1」 全長は近郊型標準の20mに合わせ20,040mm。
左側面が「1d D10D1」、
右側面が「d 1D10D1」で、全長は20,500mm。
クハ455-700番台のほうが、窓一つ分、約500mm短いのでした。

これ以外にも、そもそもクハ455を名乗りながら、単独では455系や475系を直接制御することはできないのでした。あくまで413系のために用意されたクハだったのです。
413系と、475系や415系800番台とは、編成単位での連結は可能です。
JR西日本の413系は、北陸本線が521系に置き換えられた後、415系800番台と一緒に、七尾線の運用に就いていました。
415系-800番台
415系800番台は、直流電化の七尾線開業に合わせ、113系初期型に、北近畿丹後地区用へ転用するため485系を183系化した際、取り外された交流機器を流用搭載して改造された交直流近郊形電車。その成り立ちは、実に模型的な手法で興味深いのですが、この話はまた別の機会に。
【第5章 国鉄急行形電車の終焉】
さてついに、今年2020年10月3日から七尾線用に投入された新型521系100番台が運用を開始。
2021年3月までに、七尾線の413系と415系の全車両を置き換えることが報じられました。
☞521系100番台七尾線投入(Response)
413系に連結され、415系800番台に混じって七尾線で生き長らえた、
最後の急行形電車『クハ455-700番台』
1958年の153系から始まった、日本の急行形電車史62年の最後を飾り、その役目を静かに終えることになります。
(参考)
『Wikipedia』
『国鉄型車両ファイル』
『Response』
『乗りものニュース』
☞通勤電車なのに「洗面所」 ああ懐かしい「最後の国鉄急行形」455形700番台