金沢駅で捉えた、
もう一つの茜色の国鉄電車。
異色の交直流近郊形、JR西日本独自の番台区分『415系800番台』。
国鉄型と言いながらJR西日本独自の、というのも変な話ですが…、その理由はあとで。
415系800番台登場時の塗装色です。
能登の大地をイメージした「アスコットグレー」に、能登の海の「バイオレットブルー」が両端の先頭車、中間車は能登向田の火祭りがイメージの「ロイヤルピンク」。
北陸に初めて配置された3扉近郊形電車です。
北陸本線の支線、七尾線は1991年、津端-和倉温泉間が電化されました。
七尾線では架線施工時のトンネル高さを抑制するため、交流電化の北陸本線と違って、絶縁距離を短くできる直流電化を採用。津端駅から分岐してすぐ、中津幡駅との間に、交流と直流電源切り替えのデッドセクションが設けられています。
このため、金沢から七尾線に直通するには、交直流型電車が必要になります。
そこでJR西日本は、当時同じく直流電化された北近畿地区ビックXネットワーク(福知山をコアに、山陰本線、福知山線、宮津線、舞鶴線を有機的に結ぶJR西日本と京都丹後鉄道のダイヤ構成の総称)に投入する交直流特急型485系から、不要な交流機器を外し183系化するとともに、外した機器を直流近郊形113系に転用して交直流型415系に改造し、七尾線に投入することを決定。
交流機器を取り外し、183系化された元485系のクハ183-800とモハ182-700。
クハ183-800は国鉄色、識別のため窓下に赤2号の細いラインが入っていました。
モハ182-700はJR西日本新特急色、屋上の特高圧機器や碍子が減らされているのが解ります。

余談ですが、交直流電車の直流化改造は、元特急「しらさぎ」用683系2000番台に対しても行われました。北近畿地区の183系置き換え用に改造され、交流機器の使用停止処置をしたグループと、交流機器を撤去したグループがあります。形式名は289系。

289系の交流機器使用停止処置をしたグループの一部は、最近683系に復帰したものもあり、大阪-金沢間のサンダーバードに運用されています。
さて、話を415系に戻します。
113系と415系の形式間改造はこれが初のケース。
性能的には、台車がコイルバネのDT21とTR64、主電動機は120㎾のMT54ですから、50Hz60Hz共用変圧器TM14と整流器回路を搭載すれば、113系が415系になる訳です。
これはこれで、何だか実に模型的な手法であって興味深い!?
JR西日本オリジナルたる所以です。
改造経緯はちょっと複雑です。
まず113系の初期型モハ+モハM’Mユニットがかき集められ、1986年の福知山線電化に合わせ運転台を取り付け耐寒装備を施したクモハ+クモハのMc'Mcと、クハ+モハ+モハ+クハTcM'MTcの113系800番台に改造され、北近畿地区に投入されました。
1974年の湖西線開業時は耐寒耐雪装備の113系700番台が新製投入されたのですが、福知山電化のときは国鉄にはお金が無かったのです…。
さらに七尾線電化に合わせ、113系800番台のクモハ113が11両とモハ112の1両に、初期型モハ112が10両と、クハ111の0番台1両に300番台10両が捻出され、485系から外された交流機器を搭載して、415系800番台に改造されました。
113系800番台ではなかった車両には耐寒耐雪構造強化と乗降ドアの半自動化も施工。先頭車のヘッドライトは全てシールドビームになっています。
形式はクハ411-800、モハ414-800、クモハ415-800で、クハ+モハ+クモハTcM'Mcの3両ユニットを組み、11編成が誕生しました。
415系の制御電動車クモハ415は、800番台だけにある、初めての形式。
415系化改造の元車は、当時余剰の車両を寄せ集めたため車齢が高いものが殆ど。これがのちに車両故障の増加を招くことになります。
111系と113系初期型の特徴を残す、クハ111-1。
名古屋のリニア鉄道館に保存されています。
初期の111系と113系は側窓の裾が丸く窓枠の無い二段式で、急行形のようなボディに後から組み込むユニット窓ではありませんでした。
415系800番台は初期型の113系がベース車両なので、全車ユニット窓ではない二段式側窓になっています。
(111系と113系初期型の二段窓と、113系300番台以降のユニット窓)
国鉄からJR九州に承継された、本家415系です。(小倉駅にて)
常磐線を走っていたJR東日本の415系は、JR九州に譲渡されたグループ以外、全て廃車となりましたが、JR九州ではバリバリ現役。
415系のルーツは、50Hz用交直流近郊型電車401系と60Hz用の421系です。
その登場は1962年登場の111系よりも早い1960年。両開き3扉、セミクロスシートの近郊形スタイルと座席配置は401系と421系が最初ということになります。主電動機は100kWのMT46。
401系は常磐線、421系は鹿児島本線と山陽本線で使用されました。
421系には、1964年当時151系特急「つばめ」「はと」を九州博多に直通させる計画が持ち上がり、あとでモハ420に改造することを前提に、交流区間でのサービス電源供給用電源車として製造されたサヤ420があります。
下関-門司間はEF30が、門司-博多間はED73が、サヤ420と151系を牽引しました。翌1965年には交直流形特急電車481系が「つばめ」「はと」の運用に就き、サヤ420は1年で役目を終えて、モハ420に編入されました。
その後、401系と421系の両系列は、出力を120kWに向上した主電動機MT54を搭載する403系、423系へとモデルチェンジされます。そして交流50Hzと60Hz共用の主変圧器を搭載した415系へと発展しました。
☞この流れは、交直流急行型電車と同じです。
415系の最終増備車415系1500番台は、211系並みのステンレス車体、ボルスタレス台車装備のグループでした。制御装置は界磁添加励磁制御ではなく抵抗制御なので、見た目は違っても性能的に415系を名乗ります。従来型の415系とも連結可能。
国鉄末期に製造され九州と常磐線に新製配置されました。現存するJR九州車には、JR東日本からの譲渡車もあります。(小倉駅にて)
JR九州は、811系以降、軽量ステンレス製の交流専用近郊型電車を多数新製しています。しかし、JR九州管轄である関門トンネルから下関へは、門司駅と関門トンネルの間に交直切り替えのデッドセクションがあり、九州から関門トンネルを通過し下関へ直通する列車は、交直流車でないと直通できません。
しかしこの1区間だけのために高価な交直流車をJR九州単独で新製するのはコストがかさむため、JR九州は当面415系を使い続けざるを得ないのが実情です。
話が大きく逸れてしまいました。
この10月、七尾線では521系100番台が運用を開始し、クハ455-700番台を含む国鉄型近郊形電車の置き換えが始まりました。
太平洋側の直流電化区間から、日本海側の北陸、能登半島に流れ着いた「415系800番台」。

数奇な運命を辿った半世紀近くの活躍も、来年2021年3月までに終止符が打たれることになります。
【おわりに】
「最後の国鉄急行型電車クハ455-700番台」を投稿した11月末、奇しくも先月発売「鉄道ピクトリアル1月号」の特集が「電車急行」。
(マツ・ヒロさんに教えていただきました。早速入手)

まだ読み切れていませんが、興味深い記事ばかり。
しばらくは退屈しそうにありません。
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