私、LEN吉が、
複雑に入り組んだ鉄道番組に鋭いメスを入れ、
謎と疑問を、独断と偏見で究明する、
この不定期シリーズ。
今回は、7月17日(土)放送の、
BSフジ『鉄道伝説』第72回「食堂車の歴史」、に切り込みます。
『鉄道伝説』は2013年から始まった、鉄道ドキュメンタリーの30分番組。
車両や路線の開発秘話や苦労話、をクールに淡々と綴る構成が好きなんです。
現在第6シーズン、土曜日12:00からBSフジで放映中。
さて、今回のテーマ『食堂車の歴史』。
これをみて、30分では収まりきらないのでは?と思ったのですが…。
日本の鉄道の食堂車は、1899年(明治32年)私鉄「山陽鉄道」(今のJR山陽本線)の急行列車に連結されたのが最初、というのは有名な話。
戦前(太平洋戦争前)、鉄道省の官営鉄道では特別急行列車「富士」「桜」「燕」のほか、幹線の急行列車に連結されました。
これは、スハ32系客車の食堂車 スシ37800
戦時中は、軍事輸送優先のため、食堂車の連結は次々に中止され、1944年(昭和19年)には全廃。
戦後の食堂車復活は、進駐軍専用列車から始まり、日本人のための食堂車は1949年(昭和24年)まで再開されなかった。
ここまでは、良かったのですが…。
【疑問その1】戦後の食堂車復活が端折り(はしょり)過ぎ。
戦後初の特急「へいわ」から改称された「つばめ」の食堂車に、新型軽量客車オシ17を投入した、という話は、ちょっと端折り(はしょり)過ぎ…。
オシ17は戦後11年経った1956年(昭和31年)に登場しますが、それ以前にも食堂車は復活していて急行や特急に連結されていました。
戦争で食堂車が被災し、さらに進駐軍に接収され、車両の絶対数が足りなかったので、急行列車用の食堂車は、一般形普通車オハ35やスハ32から改造されたオハシ30から復活します。
しかし、番組ではこの点に触れられていません。
戦後復活した半車食堂車の1両が、京都鉄道博物館に保存されています。
戦前の半室食堂車、元スロシ38000→スハシ38 102を、交通科学館展示に際し全室食堂車に改装したスシ28 301(架空車番)。(京都鉄道博物館)
また、青大将と呼ばれた戦後特急「つばめ」「はと」の客車編成ですが、
最初の食堂車はスハ43系のマシ35やマシ36(のちのカシ36)でした。
番組ではマシ35やカシ36には触れずオシ17の開発話に飛んでしまい、オシ17が石炭レンジ装備なのに対して、20系客車のナシ20ではオール電化が達成されたことが紹介されていました。
しかしそれ以前に食堂車の電化問題については国鉄も試行錯誤を続けていて、マシ35が石炭レンジ、氷冷蔵庫なのに対し、マシ36(カシ36)は試行的に電気レンジ、電気冷蔵庫を装備していたのですが、残念ながら紹介されず仕舞い。
これはオシ17の設計図。
またオシ17は、1972年大阪-青森間の急行「きたぐに」で使用中、電気系統の漏電から北陸本線北陸トンネル内で火災事故を起こし、急行客車列車の食堂車全廃のきっかけになったのですが、番組ではその事実についてもスルーされています。
オシ17は、近代的な外観や内装とは裏腹に一般型客車編成に連結するという宿命から、先進的過ぎたカシ36より実用的に後退し、戦前食堂車の設計を引きずって石炭レンジと氷冷蔵庫を装備していたのでした。
しかしオシ17に限らず、スイス国鉄客車を参考にしたと言われる軽量客車シリーズ「10系客車」が、高度成長期の鉄道車両設計の原型となったのは、番組の説明のとおりです。
そして、国鉄車両設計事務所がそれまでの客車列車の概念を変える「固定編成」というコンセプトを掲げて1958年(昭和33年)に登場したのが「20系客車」。
20系客車は編成中に専用の電源車を持ち、編成全体に電力を供給する方式。これにより、その食堂車「ナシ20」には、オシ17で達成できなかった完全電化キッチンが実現していました。
番組では特にロケもされていませんが、京都鉄道博物館に20系食堂車ナシ20 34が、館内休憩施設を兼ねて保存されています。
車内では、飲み物やアイスクリームが飲食できます。これは弁天町にあった交通科学博物館での所蔵展示時代と同じ。
可能ならば、椅子も当時調のものに復元して欲しい…。
もう1点欲を言えば、次の疑問点にも関係するのですが、オシ17の姉妹車として登場したビュッフェスタイルのサロンカーオシ16にも触れてほしかったこと…。
オシ16は、夜行急行のサロンカーとして、「彗星」「十和田」などに連結されました。
オシ16のカウンター席とテーブル席。
また、食堂車の全国展開がピークを過ぎた頃の紹介映像で、14系寝台車の食堂車オシ14の営業中写真がサラッと出てくるのですが、ココももう少し説明してほしかったかな、と。
【疑問その2】国鉄初の電車特急「こだま」の半室ビュッフェ車モハシ150や、サハシ153を起源とする急行型電車の半室ビュッフェ車に触れていない。
1958年に運行を開始し、東京-大阪間を6時間50分で結んだ特急「こだま」。
国鉄初の特急電車151系です。
番組では、「こだま」のあと客車特急から151系に置き換えられた「つばめ」や「はと」に、電車特急初の食堂車サシ151が投入された、と紹介されています。
サシ151は、オシ17のレイアウトをベースに、151系電車の食堂車として設計。
電車初の全室食堂車です。
しかし、151系は「こだま」として運行を開始した当初は、半室の軽食堂車モハシ150を連結していたのですが、番組ではこの点に触れていません。
モハシ150は、下のイラストのスタイルで、左側が立席カウンター式の軽食堂(ビュッフェ)、中央のドアを挟み、右側が普通座席車としてレイアウトされています。のちに登場した481系や581系では、半室ビュッフェ車は作られず、全室食堂車のみが新製されました。
その代わり、半室ビュッフェ車は、153系から始まる急行形電車に受け継がれ、交直流急行形電車にも半室ビュッフェ車が登場することになります。
これはサハシ153から信越本線・碓氷峠用に改造されたサハシ169。
「つばめ」や「はと」の電車化により、全室食堂車サシ151が連結された後も、モハシ150は編成中に残され、本格レストランと軽食堂ビュッフェの両方が営業する豪華な編成となっていた時期がありました。
このビュッフェと食堂車の関係は、のちに番組で出てくる東海道山陽新幹線でも同じような経緯をたどるので、半室ビュッフェのモハシ150に振れないのは片手落ち、に思えた訳です。
蛇足ですが、モハシ150は電動機を100kWから120kWにパワーアップしてモハシ180になった後、編成から外され、一部は直流電機検測車クモヤ191に改造されています。
まあこれは話が逸れるので、今回の番組で取り上げる必要もないですが…。
東海道新幹線の開業により、東海道を追われた151系改め181系は、山陽、上越、信越、中央の各線の特急に転用されていきます。
番組では、新宿‐松本間の中央東線特急「あずさ」を紹介していました。
あずさ編成のサシ181の車端壁面には中央アルプスのレリーフが掲げられていました。
この紹介はいい内容ですね。
【疑問その3】新幹線のビュッフェの話に触れたのはいいが、開業当初の0系35形半室ビュッフェ車より先に、後継の37形半室ビュッフェ車の写真を掲げたことに違和感…。
これはもう、重箱の隅を突つく領域の話ですが…。
昭和39年東海道新幹線開業。開業当初の「ひかり」は東京-新大阪間を4時間、のちに3時間10分で運転。
この時、151系「こだま」と同様、全室食堂車は設けられず、半室ビュッフェ車が連結されました。
最初に出てきた映像は、のちに全室食堂車36形の増備と併せて、車販基地的扱いを重視して増備された、カウンターだけで窓側に椅子のない37形のもの。
こちらが、東海道新幹線開業時から作られた35形半室ビュッフェ車です。
カウンター式の軽食堂ですが、窓側に椅子席があります。
そして、「ひかりは西へ」を合言葉に山陽新幹線が岡山へ、さらに博多へ延伸。
山陽新幹線博多開業前年の1974年(昭和49年)、新設計の全室食堂車36形が増備され運用を開始。
車体幅の広い新幹線のメリットを生かし、山側に通路を独立して設けたのは良いのですが、乗客から「食事中富士山が見えない」とクレームが。
あわてた国鉄は、急遽壁に窓を取り付ける改造を行い、乗客の声にこたえました。
この改造計画は「マウント富士」と呼ばれました。
しかし、富士山を眺める乗客の視界には、通路で順番を待つ人の姿があり、流れる景気を見ながら食事を楽しむための根本的な解決にはなりませんでした。
このエピソードは良いとして…。
23年間増備され続けた0系に代わり、アコモデーションのフルモデルチェンジを図った100系新幹線。
食堂車の通路問題を根本的に解決するため、食堂車の2階建て構造が検討されました。
これは、番組で紹介された100系2階建て車の試作モックアップ。
2階はラウンジ式のレストラン、1階がカウンター式のビュッフェが検討された要ることがわかりますが、そこまで詳しくは語らず…。
名古屋の、JR東海「リニア鉄道館」には、100系の試作編成の食堂車168形9001が保存展示されています。
今回のロケはここを中心に行われたようですね。
これは、現役時代の168形2階建て食堂車の車内。
さて、
【疑問その4】JR東海の100系の話題なのに、映った画像は、JR西日本の100系「グランドひかり」で、ちぐはぐ…。
JR東海は、輸送力を優先するため、100系増備車の2階を全てグリーン車にする方針を発表。食堂車の代わりに、1階部分に、乗客が自席で食べる食事を選んで購入する『カフェテリア』を設置。
番組では「多様化する好みに合わせ好評だった」と説明していましたが、コンビニスタイルで味気ない、という声もあったことを紹介できなかったのは残念。
そして、JR東海の100系の話題であるのに、映し出された100系編成は!
なんとJR西日本の、食堂車を含む2階建て車4両を連結した100系3000番台、通称「グランドひかり」。
カフェテリア化を推進して食堂車連結を中止したJR東海に対して、JR西日本は旅の楽しさとグリーン車の増結という二律背反する課題を、2階建て車4両連結という形で解決した訳です。
コンセプトが真っ向から対立しているのに、これは痛恨のミス!
さらにJR西日本は、この100系3000番台「グランドひかり」の電動機出力を向上させており、山陽新幹線区間での275km/h運転を画策していたのですが、車体断面の大きさからトンネル微気圧波による騒音基準をクリアできず、高速化を断念。
100系は、高速化の影で、JR東海が開発した300系とJR西日本が開発した500系に押される形で、食堂車営業を止め、さらには引退を迎えます。
こうしたエピソードも触れてほしかった…。
【疑問その5】在来線食堂車の廃止が24系25形「北斗星」の話のみでE26系「カシオペア」には触れられていない。
カシオペア編成の食堂車マシE26は、100系新幹線168形以来の二階建て展望食堂車です。
特別なリゾート列車やクルーズ列車を除くと、乗客が気軽に訪れて食事を楽しめる食堂車は、2015年夏、既に臨時列車化されていた「北斗星」と、隔日交互運行していた「カシオペア」の廃止で消滅。
以降「カシオペア」は団体戦用のクルーズ列車として残りますが『一般の乗客が駅の窓口で切符を買って乗れる列車』というカテゴリーではなくなりました。
ここも説明してほしかった。
【疑問その6】JR東日本の特急「サフィール踊り子」E261系が2020年デビュー。
食堂車が復活したものの、気軽に乗れる食堂車と言えるのかどうか…。
確かにJR一般運行の列車としては5年ぶりに復活した、全室食堂車サシE261が連結されていますが、運転時間のこともあり供食されるのは麺類のみ。
しかも、利用するには乗車前の事前予約が必要なのです。
「サフィール踊り子」自体は一般の特急として運転されているものの、これでは気軽に使える食堂車とは呼べないのでは…?
「そもそも予約して食べる麺類って何?」
って、駅の立ち食いソバと比べてもいけませんが…。
では、
LEN吉が考える、現存する気軽に乗れる食堂車は?
近鉄特急50000系「しまかぜ」!?
時刻表に載り窓口や券売機で切符が買える特急で、6両編成の中間車サ50400は2階建て構造のカフェカーとなっており、車端部にはカウンターと厨房を設置。
温かい軽食が1階席と2階席の好きな方で食べられる「食堂車」になっています。
これは階下の1階席。食事は伊勢海老ピラフのセット。
二階席も乗客が予約なしで自由に利用できます。
食堂車はこうでなくては…。
「しまかぜ」カフェカーのメニューです。松阪牛カレー、海の幸ピラフ、松阪牛重、あおさとカキのにゅう麺など温かい食事も充実!?
という訳で、あれこれと番組のアラ探しをしてみましたが、
【疑問その7】そもそも30分枠ではテーマが壮大過ぎたのでは?
詰まるところ、「食堂車」という壮大なテーマを扱うには、30分の番組枠では消化不良だったのではないかと思います。
鉄道ピクトリアル誌なら、別冊で1誌丸ごと特集が組めるくらいのボリュームがあります。
「鉄道伝説」でもせめて前編と後編の2週連続に分けるか、新幹線の食堂車だけ、などにテーマを絞るべきではなかったか、と思います。
(不許転載、文責_LEN吉_)
(関連リンク)
☞国鉄(JR)から食堂車が消えた本当の理由
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