4台めにやってきたJT150、はるばる横浜から船で届きました。購入価格は1万円。輸送費のほうが高く4万円でした。それでも走行9万キロちょっとでしたから、年式を考えると上等な部類だと思いました。ボンネットに補修の跡はありますが、フレームには問題なさそうです。そもそもは、バンパーが欲しかったので、ついでに入手した車でした。それくらい当時の中古価格は低くなっていました。
初年度登録年は昭和63年のこれが6号となったのは、入手してから10年以上塩漬けしていたためです。残車検をすぐ使い切ったあとは寝ていました。もう少し再生するのが遅かったら内部が腐って没になるところでした。(もう一台のJT190は手遅れで廃棄してしまいました。)
JT190に比べ、JT150ターボ付はトルクバンドがものすごく狭いのに最初はびっくりしました。5000回転ちょっとで実効的なパワーが頭打ちとなるので、おいしいゾーンがとても狭いエンジンです。無理して6000回転以上まわしても有効なパワーがなく惰性で回るだけです。そのためメーカーは、最終減速比を下げてパワーを散らす選択をしました。そのため全体的にパンチに欠けます。話では「どっかんターボ」と聞いていたのですが、実際乗ってみるとぜんぜん普通でした。「いったい、どこがどっかんなんだ?」というのが正直な印象の車です。
ターボは簡単にブーストアップできるので、上げても良いのですが、ガスケット抜けやエンジン破損のリスクを考えて、このジェミニにVVCはつけないことにしました。強化リリーフバルブと一緒に屋根裏に部品はあるんですが,もう故障したら修理できるかどうかわかりませんし。
いすゞのエンジンは、製造品質にばらつきが大きいので額面のパワーはないです。(当事、いすゞの販売店でターボ車の個体差がけっこうあったのは良く知られていました。)それに私自身も何台も乗っていて実際に計測もしていましたし。
部品精度の良いパーツだけで組み上げると性能は額面とおりに良かったといいます。チームいすゞのエンジンはそういうエンジンなのでラリーでは速かったです。でも反則フェアーではないですよね。ターボFFジェミニの場合、いすゞではバランス取り選別エンジン仕様車も販売していました。おそらくこれは、あとからホモロゲーションで難癖をつけられないために販売実績を確保するためか、余ったパーツがあったためかどちらかだと思います。実は僕も試乗したことがあるのですが、あまり良く覚えていません。一緒に乗ったセールスの人は「わあっ、これは調子良いエンジンだ。」と喜んでいましたが、結局DOHCのほうにしました。限定200台くらいだったと思います。カタログもいまだに持っています。(今から思うとちょっと惜しかったな。)
ターボFFジェミニも全然遅い車です。、軽いのでそれなりには走れますが、高速道路やサーキットだととても緩慢な加速でたいくつします。他社のターボ車特有の暴力的な加速はない車です。
ターボ係数は1.5倍なので、当時のラリーCクラスとなり、ラリー選手権ではギャランにもブルーバードにも全く歯が立ちませんでした。世の中の主流は4WDに移っていましたし、SOHC1.5リットルのシングルターボではその時代でもすでに時代遅れ過ぎました。ラリー雑誌に「あの羽豆ドライバーが運転してでさえあの結果なのだから、ジェミニの実力はその程度なのだろう。」と評されていました。
初代FFジェミニの足回りは非常に癖の強い原始的な設計で、ピッチング方向のアライメントはなりゆきです。加速するとフロントが簡単に持ち上がるのでパワーが前輪に伝わりません。荷室優先の設計で、リアアームの支点が車軸より下にあるのも上質な足回りの妨げになっています。
バスやトラックの足回りと一緒で、加速すると必ず幾何学的にピッチングする酷い設計です。アクセルのちょっとした動きでライトの軸が小まめにお辞儀するのが悲しいです。ジェミニ特有のひょこひょこした動きはこれに由来します。アンチダイブジオメトリーの設定のせいか、ブレーキを踏んだときに突っ張るような動きをします。しっとり沈み込むような動きには縁遠い設定です。I型アームとテンションロッドは剛性が低く高速道路の中点が不明確です。いわゆるステアリングインフォメーションが低いのです。Sタイヤなどを使うとアーム回りがタイヤに負けてかなりドタバタし、馬脚を現します。
ためしに他社のファミリーカーを運転してみると、当事はすでにアンチダイブもアンチスクォートも考慮されていたことが、ちょっとそこらへんを曲がっただけで体感できます。いすゞには足回りの開発力がなかったのでしょう。後継車のニシボックサスも不評で、チームいすゞでは、部品で「殺して」余計な動きを排除していました。
ジェミニのピッチング方向の動きを抑えるには、ひたすら足を硬くするしか手段はなく、乗り心地が悪化するのは目を瞑るしかありません。
ただ、ラリーの人達には、「リヤカーと同じ超プリミティブな足回りなので、限界は低いけどコントロールはしやすい。」と考えていたようです。どうせラリーではコーナーはリアは流しますからコントローラブルとは言えたかもしれません。
ジェミニは、舗装道路では、フロント、リアともに接地感は薄く、コーナーでは常にフロントアウト側だけが仕事をしているような感じです。限界は低いのでフロントのインがスリップして鳴くのはとても低いスピードからはじまります。
ハンドルはキックバックが強く腕力が必要です。キングピンの角度かネガティブスクラブの設定、あるいはナックルアームに無理があり、リニアーな動きとなりません。ラリードライバーは、「ハンドルと格闘しているようだった。」と言っていました。このあたりはホンダと対照的で、ためしにCR-Xを運転してみると涙が出るくらいパワフルでコーナーの接地性もボディがくにゃくゃなのに抜群で速いです。地面に吸い付くような猫足です。真っ先に気づくのは同乗の女の子で、「ジェミニはいつもヘコヘコしているけどこっちは違う。」といいます。こういう車と競って勝つ訳がないですね。
足回りではGABを一番硬く設定するとジェミニの欠点を和らげてくれます。純正のイルムシャーではないスポーツ用ショックや業務用ショックもかなり良好です。ビルシュタインも良いけど高価です。それ以上は自分で作るしかない?
現在は買い物車として余生を過ごしているので、ショックは純正のスポーツショックです。イルムシャータイプC用ではないので、色は赤くないですけどね。日常使いには十分です。
フロントスタビライザーは、ロータス用の太いものよりイルムシャー用の細いもののほうが個人的には好みです。ドアのきしみ音やコンソールのきしみ音は大きい部類で安っぽいですが、乗ってみるとサンルーフ仕様のほうが屋根は丈夫かもしれません。フロントの足の付け根は弱く、少しぶつけたり強いショックで簡単に変形するので、注意深い運転が必要です。当時は一般的だったサブフレームがなく直接ボディに足回りが取り付けられているのでタイヤ騒音も室内に多く入ります。高速でカーステレオは楽しめません。
運転席の視認性や操作性は非常に良く落ち着き感があります。レカロの椅子はデザインはジェミニに合っていると思います。
意外なことに、当時車両保険料率が非常に高い車でした。なんとRX-7と同じクラス。保険屋に不思議がられました。「なんか普通と違う車なんですか?」と。たぶん当時統計的に事故を起こしやすい、事故を起こしたら被害も大きいというデータがあったのでしょうね。
過信しない運転をこころがけましょう。
この車の最大の欠点は、足回りに加えて、サイドシル部の水処理。どうもここに水が溜まるらしく、廃車の原因のすべてが、ここからの錆びによるボディの剛性低下です。初期のバージョンにはせっかく水抜き穴があったのに、後期からなくなってしまいました。それが全てではないですが理解不能な改悪です。
トランスミッションは異様に頑丈で2リットルクラス。上の車種のアスカと同じクラスのものです。実は、ロータスエランのミッションは、ジェミニやとアスカのギヤを組み合わせてクロスミッションにしていました。私もその情報を見てクロス化しようと試みましたが、パーツがすでに払底していました。残念。純正は1速だけが異常にローギヤーで非常に使いにくいですよね。ジムカーナなどをやっていた人はとても苦労しただろうと思います。チームいすゞの人は設計をした本人から「出足のパワー感を凄いぞって強調するために意図的に低くした。」と説明を受けてあきれてしまったそうです。でもあんなに回さなくても2速のトルクバンドに載せて欲しかったですよね。とにかく1速と2速が離れすぎです。ターボエンジンなのに、1速5500回転まで回しても2速でターボのトルクバンドに乗りません。設計が悪すぎます。
ミッションそのものは、どの個体もギヤ鳴きはほとんどなく高品質だと思います。反面、せっかくのエンジンの力は最初にこのクラス上の重たいミッションの回転に費やされてしまうので、パワーをロスしてしまいます。
いろいろ乗ってみて、個人的にはジェミニはノーマルの車でおとなしく買い物に使うのがいちばん似合っているのかな?と強く思います。スポーティな売り込みに騙されてはいけません。基本設計が悪くスポーツ走行には向いていないです。逆に、買い物の用途ではコンパクトで取り回しもよく荷物もたくさん積めるので、快適で良い車です。今となっては残った個体も少ないし、パーツも出なくなっているので、ノーマルでのんびり走るのが良いと思います。