○人の身体にやさしい椅子
「クロスオーバー・シンドローム」の記事中、「HP」という言葉を多用しました。これはヒップポイントのことで、運転席の座面が地表からどのくらいの高さにあるかを示す数値です。そんなことに、何でこだわるのかと思われるかもしれませんが、でも、この「HP」って、考えていくとけっこうおもしろいんですね。
まず、そもそもの「椅子の高さ」というのがあります。椅子というのは、座面が高ければ、よじ登る感じになるし、それが低ければ、身をかがめないと椅子に収まれない。この場合、背筋などをかなり使っていますし、腰部にも負担をかけています。
そして、ソファなどの低い椅子に座ると、今度は立ち上がるのがメンドウになったりする(笑)。これはもう一度、背筋などをいろいろ使わないと立ち上がれない。それを身体が知っていて、できれば現状を維持してね、とマッスルが信号を発しているのでしょう。
では、椅子がどのくらいの高さであれば、人体各所の筋肉や腰部に負担が少ないか。これはカー・メーカー各社の研究によって、既に結論が出ています。それは「600ミリ」。つまり、地上から60センチあたりに座面があると、その椅子は、多くの人が「座りやすくて、立ち上がりやすい」という感覚を持つ。
これについては、室内にいろいろな高さの椅子を置いておき、それにブラインドで多くの人に座ってもらって、出口でアンケートを採ったというメーカーがあります。あるいは、人体各所の筋肉にセンサーを付けて、テスターにいろいろな椅子に座ってもらい、その際の筋肉の“緊張度”を調べてみたという話も、複数のメーカーから聞きました。
まあ、何やかんやで、単体の椅子については、とくにその高さは、どのようであれば人の身体に負担が少ないか。この結果は一応、出たわけです。( → 地表から600ミリの高さ)ちなみに、いわゆるダイニング・テーブルに対応する椅子が、だいたいこの高さになっているとか。そういえば食事の際に、その椅子の高さってあまり気にしたことがなかったですよね。違和感が少なかったから記憶に残らない、そういうことなのだと思います。
ただ、これは「椅子」だけのハナシで、クルマのシートというのは、ドアを開けた向こうの車室の中にあるものです。ルーフの高さ、またドアの広さや、それをどう“切る”か、またAピラーの角度など。シートの「座りやすさ/降りやすさ」では、そういったことも絡んできます。
そして、人間工学という言葉が(クルマ作りと絡ませて)使われ始めたのは、90年代に入ってからだったと思いますが、このアプローチからも、クルマのシート高は考察されたようです。ユニバーサル・デザインということが声高に言われたのは、21世紀になってからでしたね、たしか。
さて、椅子についてはある程度わかっても、その椅子とクルマとの関係では、そう簡単に行かない。でも、だからこそ、探求のし甲斐があったのでしょう。90年代半ば以降、この「HP」を開発の基本にしたクルマ作りが各メーカーで始まりました。
(つづきます)
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茶房SD談話室 | 日記
Posted at
2014/02/12 16:51:08