• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+
イイね!
2022年12月31日

三菱造船「MKW」電氣扇(大正7年頃)のレストア

今年ももうあと少し。
全く年末という気がしませんが、今年最後の記事となります。
皆様、今年もありがとうございました。


という事で、令和4年の締めくくりも扇風機の記事になります。
前回ご紹介しました、「MKW」のエンブレムが付いた三菱の扇風機。
それの三菱造船銘板の方をレストアしましたので、今回はその記録になります。
歴史的一台という事もあり、写真がかなり多くなっております。


さて、前回と同じ写真になりますが、まずは入手時の写真です。



「ちょっと痛んでる古い扇風機」といった、ジャンクの定番コンディション。
年式とレアリティから言えばかなりの良品ではないかと思われます。

ファンガードが一部欠損している他、ファンが少々曲がっているようです。
よく見ると羽根のピッチがずれており、4枚羽根の隣同士が90度ではなくなっています。
一言で言えば、「昔の鉄製ラジエータファンみたいな形」…余計分からないか。

ファン自体はその後の三菱電機製と同形状なので、部品取り機から移植で済みそうです。
ガードが欠損している事も含めると、過去に転倒したか何か重い物が倒れてきたかで変形してしまったのでしょうか。

他に気になる点と言えば、この時点で分かったのは現状不動という事。
しかし大元の電源コードに断線箇所があるようで、テスト用に用意しているビニル平行線へ変えたところモートルが唸りました。
とりあえず重傷ではなさそうです。


という事で分解パートです。
まずはファンガードとファンを外します。
この時期のものは三菱に限らずガードが一体物なので、知恵の輪のようにファンを避けつつガードを潜らせる必要があります。



いつもの「マイクスタンド」状態。
この機体の古さについては前回の記事を参照頂ければ幸いですが、こうして見るとその後の三菱製とはかなり異なっているのが分かります。

モートル上のハンドルが「初号扇12吋」以上に高さがある事に加え、リベット留めで外せない構造です。
そして2枚目の通り、モートルの通気口が芝浦と同様の水滴形。
「初号扇12吋」の時点では丸穴になっており、戦後型まで同様ですので、三菱製ではこの時期にしか見られない特徴ではないでしょうか。



モートルを基台から外すべく、次は碍盤を外します。
奇跡的に裏蓋が残っていたためそれを外すと、前回も掲載しました碍盤が見えます。
これまたその後のモデルとは色々と異なる設計です。



参考までに、「初号扇12吋」の碍盤です。
これ以降は特に大きな変化無く戦後まで続いたようですが、スイッチバーにかかるアーチ金具の有無などが異なります。



碍盤が外れました。
緑のビニールテープがある通り、比較的近年に手入れがされているようです。
そのためか固着箇所が無く、最後まですんなりと分解する事ができました。



折角だから、俺は十干で分類するぜ…という(どういう?)事で、甲乙丙と振ってみましたが…
この配線、何かおかしくない…?



この「丙」の辺り…3つ並んだナットの内、中央にはトランスからの線が巻いてあります。
つまりは中継端子のはずなのですが…先には何も繋がっていません。
最初にモートルが唸るだけだったのは、てっきり油切れか何かかと思っていましたが…モートル・碍盤間の配線が間違っている可能性が大です。



とはいえ、他の整備を先に済ませてしまいましょう。
お次は首振りアームの外し。
ローアングルからの煽りですが、基台側のビスが代用品となっているようです。
何かそれらしいものを見つけないと…



アームのカム側を外せば、いよいよエンドベルが外せます。
というところで一旦観察…
写真は首振り機構のギアボックスですが、三菱電機の「甲型」「乙型」のいずれとも異なる形です。
エンドベルに一体成型されていますし、全体的に甘いというか粗いというか…黎明期感溢れる作りになっています。
内部は後程…





エンドベルが外れました。
首振り付きの機種なので、主軸の後端にはスクリューギアが切ってあるわけですが…これまた粗いピッチのギアになっています。
技術水準的にそうなったのか、歯の強度を重視したためかは不明ですが、これも「初号扇12吋」以降と異なる点です。
幸いにも異常無さそうですが、摩耗させてしまうと終わりになる恐れが大きいでしょう。



モートルを外しましたが、先に首振りアームをお見せします。
良く見れば心なしかカーブしていますが、ほぼ直線形状です。
作り・塗装からするとオリジナルと思えますが、ここまで真っ直ぐなのは見た事無いかもしれません。
それに、ビス穴の根元で少々くびれている辺りが大変レトロ。
これだけ見ても、相当古い設計であるのが窺えます。
真鍮製なので強度を稼ぐべく、その後のモデルや他社の鉄製のように、薄い板状に補強リブという構造ではありません。そのまま正直に太い造りです。

こうなると、首振りの動作はなかなかぎこちないんじゃないかなぁ…やっぱり極初期の製品と見て間違いなさそうです。
一応は基台側・カム側でビス穴径が異なっているため、前後方向では間違わないようになっています。



モートルの去った後の基台。
少々奥まっていますが、首振り動作用のベアリングは一般的な構造でした。
この辺りから古いグリスとの戦いが始まるのですが、今回は前例に無い程の「粘土化」したグリスでした。
「ベジマイト化」は定番なんですが…そこから更に油分が抜けると、粘土になってしまうのでしょう。



という事で、エンドベルとギアボックスに入ります。
初めて扱う型なので、どんな構造なのか気になるところです。



裏側。ビスが無い事からも分かる通り、ギアボックスは一体成型です。



開けてみました。
グリスの状態はまぁ置いておくとして、減速機構はGE製を彷彿させる「2段スクリューギア」方式。
先日の展示会にも出した川崎電機の戦後型もそうでした。

軸方向が2回変わるのが特徴で、この機種では2段目のスクリューギアが取外し不可能な設計になっていました。
軸受けの固定がイモネジではなくピン打ち込みになっており、外すならドリルで揉むしかありません。
そんな事をするなら、しつこくパーツクリーナで洗浄してからスプレーグリスを吹き付けた方が良いでしょう。



粘土のようなグリスと戦う事暫し。無事奇麗になりました。
首振りカムは珍しくイモネジでの固定でしたので、これまた簡単に外す事ができました。
普通はロックピンを圧入してあるので、プレスを使わなければ外せません。



ギアの近影です。
手前の高枝切り鋏みたいなのがクラッチ兼首振り切り替え機構。
今までに見た事の無い形です。
シャフト部分には、写真中央のリングギアと隣のワッシャが入ります。
ワッシャの溝は…グリスの循環用でしょうか。

首振り切り替えの仕組みについては、以下の感じになります。
シャフト部の太いところに写真左端のスプリングが内蔵され、「鋏」部分は普段閉じた状態となります。
写真上端の蓋にあるノブを押し込むと、その先端が「鋏」に入り、梃子の原理でスプリングが圧縮されます。
それと同時にシャフトから出っ張っていた「鋏」の反対側が引っ込み、リングギアがフリーになる(首振りオフ)…という仕組みです。

つまりは、「ノブ引き上げで首振りON、押し下げでOFF」という、その後定番となった機構とは逆の操作となるのです。
何とも珍しい…

そして良くできていますが…これ、本当に独自設計かなぁ。元ネタがありそうだなぁ…

と思っておりましたら、偶然にもそれらしいものを見つけました。
先に「GEを彷彿させる」と書きましたが、そのGE製「AOU」という機種です。
1920年頃の機種という事で、時代的にも合っています。
「Loop Handle」という愛称があり、その名の通りリング状の支柱の上下でモートルを支えている構造が特徴です。
碍盤の作りも非常に似ているようですので、後の三菱電機がウェスティングハウス社と提携する以前には、GE製を参考にしていたと推測されます。

先の記事で匂わせた下りはここに繋がるのですが、三菱造船から電気製作所が立ち上がった際、パテント的な理由で首振りをオミットした可能性を考えました。
より後年の機種が機能的に退化するのは一見すると不自然です。
ですがもし、電機製作所(Electrical Engineering)銘板のラインナップに首振り付きが本当に無かったのだとすれば…こう解釈する事も出来るのではないでしょうか。
…ちょっと穿った見方ではありますが。



ギアボックス側の清掃も完了。
左のビス穴や首振りカムシャフトの穴がセンターからずれているあたりも、手作り感や駆け出し感が見られるポイントでしょう。
いやしかし…ギアの下に入り込んだグリスを取るのがなかなか難儀でした。



こちらはギアボックス蓋の裏面。
首振り切り替えノブのシャフトには板バネが仕込まれており、これで引き上げた状態を維持するようでした。
緩んでいたので、マイナスドライバーで少々コジっておきました。



珍しい機種なので、普段なら省略する部分も撮りました。
こちらはモートルのロータ。
シャフトの前後には結構な枚数のシム・ワッシャが入りますが、これでも盛大に前後のガタが残ります。
とはいえ摩耗でもなさそうなので、当時の仕様という事で納得したいと思います。
なお、シムはロータに近い側から真鍮・ゴム(リアのみ)・圧縮紙・ゴム(リアのみ)という並び。
正解かどうかは不明ですが、手違い以外で変える部分でもないでしょう。



こちらはモートルケース(コイル付き)。
コードが前方引き出しタイプのモートルなので、ロータ取外しはしやすいですが断線時が厄介です。
ゴムブッシュも失われているようで、跡が残っていましたが…穴とケーブルの隙間がけっこうクリティカル。
入るサイズあるかなぁ。
というか、そもそもゴムブッシュだったのだろうか。
時代的に、タイトか何かのブッシングだった可能性があるかも。

で、汚れに関してはほぼ油汚れでした。
パーツクリーナと研磨剤で、当時の塗装が奇麗に蘇りました。
上記でも特に溶けたり削れたりする様子が無かったので、恐らくは漆の焼き付けでしょう。
グリースカップはフェルト軸共々、シンナーに浸して一晩放置しました。



単体になった基台です。
こうして見ると、その後のモデルよりも扁平な形になっているのが良く分かります。



この辺も油汚れでしたが油分がすっかり飛んでおり、パーツクリーナより研磨剤の方が効く印象でした。





銘板も磨きます。
今回は少々工夫して、背景の塗装部をできるだけ落とさぬようにしてみましたが、良い感じではないでしょうか。

銘板の右寄りの箇所には、恐らくファンガードが当たったらしい傷があります。
ガードの欠損と羽根曲がりに何か関係あるのかもしれません。
やはり重い何かが落ちてきて当たったか、地震か何かで頭から転げ落ちでもしたのかもしれません。
いずれにせよ、これも歴史の一つでしょう。

次はいよいよ配線の謎解き。
分解の時点では、本来の位置とは異なる箇所からモートルへ行っていました。
設計もその後の三菱製とは異なるので、どうなるかと思いましたが…



これが正解でした。
つまりはその後のモデルと同じく、中継端子から3本出す方式。
後は三相の並び順を1/9で確定させるだけでした。
余談ですが、最初に振った文字で言えば左から丙乙甲。

しかしながら、線の固定位置…碍盤の表か裏かは微妙な所です。
理由は基台が扁平形状で高さ方向の逃げがあまりとれない事と、ちょうど基台の引き出し穴と合う位置に碍盤の切り欠きがある事。



なのでこうしてみました。碍盤の裏から逆留め。
元々、分解時点でモートル配線に圧迫痕があったので、この方が断線予防にもなるでしょう。
ゴム被覆も奇跡的に弾性を留める範囲ではありましたが、すぐに千切れてしまう程度には弱かったので収縮チューブで補修。
長さに余裕があって良かった。



適当なビスで代用されていた、首振りアームの基台側ビスも交換しました。
…適当な穴埋め…いやいや、誰の事でもないですぞ獪岳殿。

段付きビスは芝浦睡蓮から拝借し、イモネジはジャンクから漁ったJISのすり割りがぴったりでした。
切ってから新たにすり割りを入れ直してイモネジとしても良かったのですが…何となくこのままとしました。
なお、この部分は元から雌ネジが切られておらず、そもそもイモネジだけで留める構造のようでした。
これまた初見の設計也…



組み立て途中。グリースカップも綺麗になりました。
モートルも見違えるように輝いております。

モートルの引き出し線にも、無事ブッシュを通せました。
ブッシュの内に入る側にちょっと加工を施しまして、押し込むだけで済むようにしたのが良かったようです。
基台に入る方も無事通過。懸案事項が一つクリアです。



お次はその欠損したファンガードの再生です。
歪みを修正して補修部材を載せた状態です。
真鍮線とはいえ、Φ4をペンチだけで手曲げするのは難儀でした…力が無いだけか?

このファンガード、外周の円は鉄線ながら、雷光部分と背後のビス穴の線は真鍮です。
なのでオリジナルに沿って真鍮線を使いました。
オリジナルは大体Φ3.5~3.6程度のようでしたが、そんなものは無いので素直にΦ4を使用。
黒塗装で引き締まるのを考慮すれば、やや太めでも問題無いでしょう。





作った部材のペンチ跡を削り、鈑金半田で固定。
エンブレム部は敢えて接着等せず、取り付け時のストレスを吸収するようにしました。
このタイプのガードはどうしてもビシッと寸法を出せないので、ある程度撓らせて取り付けする事になります。
するとどうしても半田部に応力が集中するので、それを少しでも逃がせれば…と思っての工夫です。
何処まで効くのかは不明ですが…

後はエンブレムをマスキングして塗装します。
2枚目の写真は作った部材とオリジナル部分の地金の比較です。
元の塗装は少々引っ掻くだけで落ちる状態でしたので、一通り剥がしています。

なお、ここで考えたのは「オリジナル塗装は生かしたいが、補修部材だけ塗るのも変なので全塗装するしかない」というジレンマです。
普段から「オリジナル度の重視」と言っていながら矛盾する事をしているようですが、実はこれも一つのこだわりでして…

今回、奇跡的に部品取りの個体もあり、ビス類の一部は拝借しています。
ガードも無事だったので流用しようかと思ったのですが…前回の記事の通り、僅かな年式・会社組織の違いで素材が変わっていました。
そこで安易に交換してしまうと、「ガードが鉄と真鍮の合わせ技だった」というオリジナル性を失う事となります。

対して塗装は変われど同じ真鍮線で補修を行えば、その点は維持されるわけです。
塗装と言うのは得てして痛みがちで、ファンガードは本体よりもはがれやすい傾向にあります。
現にこのファンガードのオリジナル塗装も、爪で引っ掻いた程度で剥がれる程度に弱っていました。

なのでここは素材のオリジナル性と仕上がりの自然さを優先し、敢えてガードのみ再塗装としました。
この辺りの判断は、結構迷うものです。



乾燥中。錆の上から塗れる塗料なので、強い代わりに乾燥が遅いです。
この時期の様に寒いと尚の事…







最後にエンブレムの陽刻部分だけ塗装を剥がし、磨いて完成。
2枚目の写真は塗装を剥がした後、続いてリュータで地金を出した段階と磨いた後です。
この部分はいつかの時点で再塗装されたようですね。



ファンガード再生と並行して、ファンの再生にも取り掛かります。
元々のファンはハブが曲がってしまっているので、幸運にもすっかり同形状の部品取り機から拝借し、塗装剥がしと磨きをかけます。



…と思ったのですが、剥離剤を4回かけ、内2回を半日ほど放置してこの程度。
全く効かない訳でもなく、明らかに気泡やムラがあったので後年の自家塗装でしょうが…ここまで厄介なのは初めてでした。



という事で作戦変更。
塗装が頑固な方はバランスは良い感じなので、元のファンをそれと重ねながら矯正します。
やればできるもので、許容範囲内には収まりました。
写真は修正後、酸化膜を落とした段階です。
「曲げ直しってこんなもんだっけ?」というのが正直な感想ですが、それは後ほど分かる事に…







そして磨きました。1枚目は磨き具合の比較です。
最近の自分のやり方として手磨きオンリーで仕上げましたので、バフや研磨剤の飛び散りを防げました。
液体ピカールとかだと結構飛ぶので、なかなか厄介なんですよね。
それに意外と疲れるので、手磨きの方が幾分か楽で早かったりもします。
変な磨き跡も付きませんし。
この季節は工作室も寒いし…夏は暑いんですけどね。

ところで、モートルや基台の設計はこの後の三菱電機「初号扇12吋」で一新レベルの変化を遂げているのですが、ファンの設計はこの時点で完成されていたようです。
というのも、三菱のファンはハブの羽根取り付け部に進角が付いており、羽根先端が回転方向と逆へスラントした独特の形状になっているのです。
その特徴がはっきりと現れています。
しかしやはり、後年の物とは細かく違っておりました。







後は組み立て、ファンに油を塗り完成。
読み通り、ファンガードはエンブレム部から少し引っ張られる感じでの取り付けになりました。
塗装されていない部分も引き出されましたので、タッチアップ的に塗り直しています。

それにしてもこの個体、現存しているであろう数を考えれば、奇跡的なコンディションではないでしょうか。
最初こそそれなりかと思った塗装の状態も、磨いてみれば大部分が奇麗に生きておりました。
欠品もモートルのエンドベル側ナットが一個と、ファンガード固定部の変形ワッシャが2個無い程度。
これも良くある欠品で、部品取り機からの調達で無事解決できました。
首振りアームの段付きビスも、芝浦と同じ径だったのは幸運という他ありません。

更には、モートルへ行くケーブルがオリジナルのまま生きているのが嬉しい点です。
交換した場合はエンパイヤチューブでそれなりに仕上げる事もできますが、やっぱりオリジナルには敵いません。
前方引き出しタイプなので、交換自体もなかなか神経を使いますし。

動作も当時の元気が蘇りました。
先述の通り首振りアームがほぼストレートなので、首振りの動作は正面から向かって左寄りに偏っています。
当時は機能をここまで漕ぎ着けるだけでも苦労したのでしょう。
予想通りかなりぎこちない動きで、ロータの前後のガタも相まって不器用感ありありな動作をします。
それもまた愛いのでOKです。

ただ、配線がまだ間違っているのか、あるいはそういう特性なのか、初動のトルクが弱く手のアシストが必要です。
動いてしまえばケガをしそうな程の勢いに至るので、単に始動時だけの問題なのですが…
そういえば、ミニ四駆のモータでタッチダッシュってありましたね。あんな感じです。


という事で、三菱電機という会社自体よりも古い三菱の扇風機が当時の姿を取り戻しました。
この機種の部品については「三菱電氣扇部分品一覧 昭和十一年度」にも一切登場しないので、早々にモデルチェンジしたのでしょう。
もしかすると伝説の川北電氣企業社「タイフーン」よりも、レアリティは高いのかもしれません。

いつか何かの形で、公式にも注目頂ければなぁ…なんて思いますが、それは贅沢というものでしょうね。
とりあえずは現役復帰という事で、それだけでも感謝です。残ってくれていてありがとうという思いです。

まともに現存する個体は、もしかするとこの一台だけかもしれません。
少なくともレストア済の実働機としては間違いないんじゃないかと…
それは言い過ぎかなぁ。

ではせっかくなので、「初号扇12吋」とも比べてみましょう。



こうして見ると背の高さから違うんですね。
右が今回直した「MKW型(造船)」、左が「初号扇12吋」です。



まずはこちら。基台のデザインが違います。
MKWの方がより扁平で、初号扇はそれ以降にも受け継がれる少々縦長のデザインです。





続いてモートルの前端。
1枚目が初号扇ですが、通気口が丸穴でケーブルの引き出しは向かって左寄りです。
首振りアームの固定箇所も向かって左側と、他社と同様になっています。

しかしMKWの方は、ケーブル引き出しは中央。
通気口も水滴形で首振りアームの固定は向かって右。
基台の左から刺さる仰角固定ボルトの向きで決まっているので、これが正解です。

引き出し位置の変更については、実際に動作させると理解できました。
中央引き出しだと、向かって左に首を振り切った際にファンとケーブルが接近します。
それで断線する事故を防ぐため、ケーブルを左寄りの逃げられる位置としたのでしょう。



後ろ姿。
ギアボックスが違います。





1枚目は初号扇。この後の神戸製作所時代を通して使われた「甲型」ギアボックスです。
対して2枚目のMKWは、甲とも乙とも違う構造。
名称も不明(そもそもなかった可能性)で、恐らくはこの一代限りではないでしょうか。





そしてファンの裏側。羽根の固定されるハブ部分にご注目。
これも1枚目が初号扇、2枚目がMKWです。

リベットの配置も若干違いますが、リベット穴部と軸の間にある「捻り」の部分が異なります。
MKWの方がかなり細いのです。
つまり、歪みを手で直せる程度の強度だったという事…
今回は良い方へ転びましたが、転倒や異物衝突で変形しやすい弱点があった事でしょう。





表から見るとこんな感じです。
一番大きな差はハブが貫通しているかどうかでしょう。





お次はスイッチ部。並びは上記の通りです。
スイッチつまみのデザインが異なり、MKWの方がローレット模様が粗いです(陶器製で欠けていましたが、金属部が出ていないので敢えてそのままとしました)。
スイッチ銘板も様式は同じながら、左下の小さな番号は「928」から「M.928」になっています。
三菱電機として独立した頃という事を念頭に置くと、MitsubishiのMなのかなぁ…造船にしろ三菱なんだけど。



以上、奇跡の一台と思われる、三菱造船の扇風機復活の記録でした。
さて…次は同じ「MKW」でも「電機製作所」銘板の方。
あちらは塗装もなかなかの荒れ具合なので、一苦労しそうです。
先に別の隠し玉を済ませようかなぁ…
赤十字病院の備品銘板が付いた、大正末期の芝浦電氣扇です。
これまたいろんな歴史を経験していそうな物で。
いずれにせよ、乞うご期待。

そして、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
車の方もやりたい事はあるので、ちゃんと手を付けたいと思います。
ブログ一覧 | アンティーク家電 | 趣味
Posted at 2022/12/31 16:54:33

イイね!0件



今、あなたにおすすめ

関連記事

ハンターカブを二輪駆動化の考察 #3
アミクさん

ハンターカブを二輪駆動化の考察 # ...
アミクさん

シエラ4駆に切り替えて走行です!
きたもんさん

TA02 RWD〈第3章〉:⑥ ギ ...
TAMIYA TA02さん

この記事へのコメント

2023年3月4日 16:34
初めまして。
以前から電気扇のレストアの際に参考にさせていただいている者です。

自分が以前に入手しまして、ファンガードは芝浦の物ですが
本体がどうにも三菱っぽい電気扇が有りまして長年謎でした。
https://ameblo.jp/teamjunker/entry-12616964941.html

最近フォロワーになられた方から菊菱工廠様のブログに
同型が有るとの情報を頂き、お邪魔させて頂いたところ、
長年の謎が解けました。
かなり古い時代の三菱製のようですね。

当方の所有機はオリジナルではありませんが、
黎明期のレアな電気扇のようですので
今後とも大事にしていきたいと思います。
コメントへの返答
2023年3月4日 18:00
初めまして。
フォロー・コメントありがとうございます。

ご紹介のリンクを拝見しました。
確かに、ファンガード以外はこの記事のMKWに見えますね。
ファンの形状(センターの進角)からしても三菱製と思えます。

首振り機構が無いので、同じMKWでも「造船」ではなく「電機製作所」の方でしょうか。

黎明期~戦後直後あたりの扇風機は各社とも似通った設計・寸法でしたので、ガードやファンが別のメーカに置き換わって修理されている個体も多いです。

かなりニッチな話題の記事でしたが、お役に立てて嬉しく思います。
これからもレストア記事を色々と書きたいと思いますので、お付き合い頂ければと思います。
2023年3月4日 21:28
お返事ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

プロフィール

「最終調整と塗装 http://cvw.jp/b/2115746/48450988/
何シテル?   05/25 21:32
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/5 >>

    123
4 5678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

愛車一覧

三菱 エクリプスクロス 三菱 エクリプスクロス
アウトランダーPHEVと迷った結果、偉大な先代、コルトプラスの跡を継ぐこととなりました。 ...
シボレー サバーバン シボレー サバーバン
Super Wagon, Texas Cadillac… それはアメリカで最も長く続くモ ...
三菱 コルトプラス 三菱 コルトプラス
家族の車です。 私が免許を取った際の練習にも活躍しました。よって、免許取得以前からの付き ...
三菱 パジェロ 三菱 パジェロ
荒野の山猫、パジェロの初代後期型でございます。 88年9月MC版、4D56 I/Cター ...
ヘルプ利用規約サイトマップ

あなたの愛車、今いくら?

複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!

あなたの愛車、今いくら?
メーカー
モデル
年式
走行距離(km)
© LY Corporation