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菊菱工廠のブログ一覧

2023年10月29日 イイね!

名機「睡蓮」の大型タイプ 芝浦製作所 C-7061 昭和9年頃 (おまけ:シュレッダーのギア修理)

大正・昭和初期と昭和40年代を行き来する、当方の扇風機レストアコーナー。
今回はまた古い方へ戻ります。



今回のお題はこちら。
「睡蓮」の名で知られる芝浦電氣扇の16吋タイプ、C-7061です。
特に珍しいかと言えばそうでもない、けど持っていなかった一台。
睡蓮系を充実させつつあるので、基本を押さえる意味で買ってきました。
…なのに一番基本の黒いC-7032を持っていないという珍事よ。

さて、この機種は何度かマイナーを繰り返して長期間販売された睡蓮の一種です。
故にそっくりな見た目のマイナー違いが存在するのですが、恐らくこれは二期型。
芝浦製作所の名前で日本語銘板でありながら、逓信省型式認定が無いためです。
同じC-7061でも英語銘板があり、それが一期型と見て良いでしょう。
この辺の流れは12吋の睡蓮(C-7032)と同じだと思います。

16吋型のモデルチェンジの流れとしては、大正期の2000番台に始まり、本機の先代に当たるのはC-7018(ガードネット、通称「鳥籠型」)と推測します。
が、番号にある程度乖離があるため、その間に別のモデルがあったかもしれません。
芝浦のガードのデザイン変遷としては、鳥籠(大正14年7月)→煽風型(大正14年9月)→睡蓮(昭和2年11月)で合っているはずですが、こと16吋に関しては煽風型ガードの存在を確認できていません。
鳥籠と睡蓮はそれなりの頻度で見かける一方、「煽風型ガードの16吋」という個体は未確認なのです。
恐らくは煽風型が12吋向けにしか展開されなかったのかと思いますが、もしかするとごく少数存在するのかもしれません。

そしてこの個体の年代特定ですが、上記の通り一度マイナーが入った後のC-7061だと考えています。
まず、「認定制度の始まる昭和10年よりは前で、且つ睡蓮ガードが誕生した昭和2年よりは後」と範囲が決まります。
加えて日本語銘板タイプには型式認定のあるものと無いものがあり、時期的に隣り合っていると見て間違いないと思います。
結果、昭和2年よりは昭和10年に近い、認定制度開始近辺の製造ではと予想が付くのです。
という事で…昭和9年頃と推定してみました。





こちらは昭和9年のカタログで、型式も同じC-7061として掲載されています。
なのでこの個体もそうだ、とも言えますが、銘板を始めとする差異の有無は分かりません。
ですが一応…カタログ掲載機種がまた一つ揃ったと言えるのは確かかと。

で、よく見ればこのカタログイラストの睡蓮、電源プラグがセパラボディかアタッチメントプラグ(通称アタチン)になっていますね。
銘板が英語か日本語かは…小さすぎて読めなぁい!
某ルーペが入用か。


はい。それではここからレストアコーナー。
特段変わった点の無い芝浦扇なので、正直に言えばあまりやる気が出ない(失礼)。
予想としては、モートルへ行く線がカッチカチなのと塗装がイマイチでしょうから、その対応が必要でしょう。
漆塗りじゃなくなった年代の機種なので…塗装面の磨き込みもまた少々テンション低めなんですよね…





とにかく分解。
結構固着の酷い個体のようで、ファンは軸が強力にロックされた状態。
ファンに積もったホコリも中々の量でした。
更にファン自体の固定がイモネジのずれた位置になっており、ファンだけ回せてしまうようになっていました。
CRCを吹いて取外し。



ガードの背面を外す前に一枚。
この辺りの睡蓮は、ガードを止める4か所のビス穴の内、向かって右下だけ四角くカットされています。12吋も同じです。
睡蓮ガードは表裏を合わせるビス穴位置が決まっているため、背面の向きを間違うと前面のエンブレムの向きまで変わってしまうのです。
それを防ぐための工夫なんですね。当時から品質管理や生産効率が意識されていたのを感じ取れるポイントです。



いつものマイクスタンド。
セオリー通り裏蓋へ行きます。



電源線がユーザ取り付けから出荷時取り付けへ変わった後の機種のため、スライド窓はありません。
固定ビスも2か所に簡略化されています。



碍盤は奇麗ながらホコリが中々。
モートルの方も凄そうなので外でエアブローかな。



見慣れた芝浦の碍盤。
外すと電線被覆も奇麗に残っていました。ただし定番のゴムカチカチ状態。
首振りを考えると余りに固いので、少々残念ですが交換します。
碍盤上面と基台の間に入る紙ワッシャも全箇所残っていたので、分解歴無しかも。



配線が外れたのでモートルを開けましょう。
軸が固着しているので注意しつつ。



開きました。予想通り細かい塵が積もっています。



エンドベル内側も中々。



それからエアブローして、固まってるネックピースに注油しながら梃子とパワーで動かし…として全バラに。
全バラ状態の写真って、案外載せた事が無かったかもしれません。

以降はちょっとダルいけど終わると気持ちいい、清掃・再生パートに入ります。
羽根磨きが無いのが助かりますかね…





まずはロータです。
埃は少なく軸の変な摩耗も無さ気。
あれだけ固着してたのに…単に油の固化でしょうか。



活躍の歴史を物語る真鍮ワッシャ。
あるあるですが、段摩耗が出ています。
軸の潤滑は何とかなっていた一方、こちらは文字通り身を削っていた訳ですね。
逆向きにして組もう。



スクリューギアのグリスも除去して奇麗になりました。



お次はギアボックス。
今回のグリスは生チョコ並の硬さで、むしろ奇麗にボコッと取れてくれました。
清掃も楽に終わって何より。



この通り。
ギアボックス内は特に異常無しでした。
ギアの谷には固化したグリスが残りますので、それは粉末パーツクリーナで漬け置き洗い。



エンドベルは清掃と塗装面の磨きを行いますが…





あまり変わりませんね。
というのも、C-7032やこの7016、またその直前の7017辺りもそうだったと思いますが、塗装が2コートになっています。
2000番台の機種は漆焼き付け1コートらしく、錆での剥がれはあっても、残った箇所はしっかりと艶が出ます。
しかしこの辺りの機種では上塗りが劣化しやすいようで、細かくクラックの入った状態のものが多数。
今回の個体はまだ良い方で、こんな感じに若干の艶が出てくれました。

なお、下地にあるのはどうも漆に似た硬い塗装なんですよね。
パーツクリーナで拭くと上塗りが溶けるのですが、下塗りはちゃんと残るし磨けば光る。
しかし全体の上塗りを落とせば良いかと言えばそうでもない…オリジナル塗装を剥ぐわけですから。
なので「これもまた味なのだ」と捉え、敢えて光らせ過ぎないよう仕上げて行きます。

しかし今回のエンドベルは、ゴムブッシュ穴の肉厚が薄いですね。
これなら普通のブッシュが無理なく使えそう。



こちらはモートルケース。
上記のようにパーツクリーナで塗装が溶けるため、何処までが油汚れなのかイマイチ分からないのがスッキリしない。



キャリーハンドルを外したところです。
よく見ると塗装面が細かい皹に覆われているのが分かるかと。
しかしポロポロ落ちるレベルではないので、このまま軽く磨いて済ませます。
どうしても研磨剤が皹に残るので、そこは油で誤魔化します。
それで良いのかい。



こんな感じでしょうか。
一部上塗りが落ちて艶が出ています…これを見てしまうと全剥ぎしたくなる。
三越の茶色や高能率型の深緑など、特殊仕上げなら割り切って手つかずに出来るのですが…
ちなみに、C-7032睡蓮には「銀狐色」なるレアカラーが存在するようです。
羽根はシルバーメッキだとか…三越仕様の7017型と同じ要領ですかね。



次はモートルへ行く電線を交換します。
正直ここは替えたくないのですが、睡蓮系はカチカチになっている事が多く、変えざるを得ないのがパターン化しています。
この個体はギリギリ実用に耐えそうでしたが…付け根付近で芯線が露出しているのが決定的でした。残念。
内部のゴム被覆が固まるのと同時に、外装の布巻きも固まってしまうのが原因のようです。

大正期の2000番台だとこうはならないのですが、一体何が違うのか。
外装の布が黒っぽいので、ワックスか何かで染めてあるのかしら。
大正期のはベージュ系で何も塗られていないので。



最近はここを奇麗にオリジナル再現するのにハマっています。
まずは結線部を留めている紐を切って、外装の絶縁シートを取ります。



取れました。
続いて線の色を間違わぬよう、1本ずつ交換していきます。
まずは手前にあった赤から。



絶縁シートをさらに剥がせばハンダ部が出てきます。
捩った上にハンダ上げしてありますが、しっかり熱すると意外な程アッサリと引き抜けるんですよ。
これが結構気持ち良い。
気持ち良すぎだろ…という程ではないですが。



残り2本も交換するとこうなります。
線長はオリジナル+αにすると、碍盤との結線が楽で良いでしょう。



後は各線に絶縁処理を施してエンパイヤチューブを被せ、オリジナルの外装だったシートを巻き直せばOK。
黒い糸で縛って完了。
中々オリジナルっぽくなったと思います。



続いては基台。
16吋なので大きいですが、改良された結果か肉厚が薄くなっています。
よってブッシングも加工無しで取り付け可能。
大正期のものより軽いような気もします。



塗装が幾分か良好でしたので、ある程度の艶が出ました。
銘板は…やはり磨くと薄くなってしまいますね。方法をもう少し工夫すべきか。
補修法はとりあえず確立できたのでまぁ良いとも言えますが、そのせいで磨きが雑になってる説。



碍盤も特に問題無しなので、清掃と接点グリス塗布でササっと。

ここからはファンとガードを洗いつつ、組み立てれば終了…だったのですが、急遽シュレッダーの修理が入ってしまいました。
以前、リレーのハンダ不良で不動品だった業務用を自分が修理したもので、家族が仕事で使っていたのです。
それが「詰まって逆転もできなくなった」との事で見てみれば…ギア鳴りと共に空転しておられるご様子。

嫌だなぁ、怖いなぁと分解すれば、ピニオンと咬むプラギアが見事に歯欠け。
更にギアが妙な傾き方をしていたのですが…Φ7の鉄軸が摩耗で折れてました。衝撃。
で、どうせダメならと修理してました。

軸は同じΦ7のSUSパイプで代用し、欠けた歯は脱脂してプラリペアを盛って削り出し。
すると見事に直ってくれました。
刃を回す各軸もかなり重くなっていたので、スプレーグリスを吹いてモンキーで回しつつ潤滑。
まだまだ活躍してもらいましょう。

余談のついでに書いておけば、RCもそうですが金属のピニオンに咬むギアは大抵樹脂なんです。
今回のシュレッダーもそこだけ樹脂ギアだったので、「そういえばいつか理由を読んだ事が…」と調べ直しました。
すると、摩耗度合いを偏らせて定期交換部品を減らす意味と、過負荷時に破損する事で重大事故を防ぐ意味があるとの事。
摩耗関係だったなぁとぼんやり記憶していましたが、もう一つ意味があったのですね。
で、シュレッダーは構造的にも後者でしょう。しかもちゃんと機能しましたよ。

とりあえず、驚きの摩耗を見せてくれた軸と再生したギア、テスト動作中の4枚だけ載せておきます。









最初の写真、軸の出ていないギアの左に米粒みたいなのが映っていますが、それが軸受けと摩擦し続けた軸の成れの果て。
旋盤にかけたみたくなっています。
3枚目の再生した歯は結構適当ですが、ピニオンが削って当たり出ししてくれると思いザックリで済ませました。
他の軸もグリスアップして抵抗が減ったので、その分負荷は軽くなっているはず。
グリスは高負荷と摩耗を意識してモリブデンを驕りました。他にはあまり使わないし。

…なんて事をしておりましたら一週間ほど放置してしまいました。
組み立てに入りましょう。
と思えば今度は家族が怪我からの感染症で緊急入院してしまい、またまた一週間放置…
当然そちらが優先なので、睡蓮さんは珍しく全バラ&組み立て直前でのサスペンドとなりました。



ようやく組み立てに入りました。
碍盤取り付けは元の線色を再現してあるのでそのまま素直に。



電源線はオリジナルと思しく、端末処理も綺麗でしたので加工せず再利用。



背面ガードまで付きました。
あと一歩です…何だか長かった。



前面ガードを付ける前にエンブレムを磨きます。
イマイチかと思えばオリジナル塗装がしっかり残っている模様。
これは期待できるか。



おー。イイ感じじゃないの。



ガードの固定ビスは4本かと思えば5本でした。
16吋の睡蓮はそうなのですね。
で、これが全箇所失われていたので、それっぽいマイナスビスで補修。
上手い事JISのビスで良かった…手持ちのJIS M3ナットが使えました。



一方こちらはプラグですが、オリジナル…なのかなぁ?
というのもスギモトの茶色(認定番号付き)なので、認定無しのマツダじゃないの?と思った次第。
マツダじゃない個体も無印だったような。





とはいえケーブルはオリジナルっぽいので、プラグも交換せず再生します。
ケバケバな端末処理をちょっと切り詰めてやり直し、プラグは清掃と酸化膜落とし。
すると何とクロームメッキの端子じゃないですか。
これは珍しい。
スギモト自体は結構ありますが、大抵は黒で真鍮無垢端子です。



という事で完成しました。
最初の写真から2週間半…意外と経ってないな。



モートルの固着が酷い個体でしたが、かなりの高速で動作するようになりました。
本来の性能が蘇ったようです。



「睡蓮」たる所以の花辯型電氣扇保護枠の模様。

しかしながら、黒一色の睡蓮というのもド定番ながら良いものですね。
真鍮羽根の煌びやかさや雷光ガードのストレートなレトロ感からは一歩引きますが、端正で上品な雰囲気が良い。
それが16吋だと重厚感も加わって…つまりはイイ。



最後は当時のライバル、三菱電機の16吋型(名電製、乙型ギア仕様)と2ショット。
どちらもガードが細かくなり羽根が塗装仕上げになった、昭和初期の代表的スタイルです。
真鍮の輝きはありませんが、その分外観の維持が楽なのがいい所でしょう。

安全面でも雷光ガードとは比較になりません。
もう90年も前の機種ながら、ちゃんと指の入らない細かいガードになっています。
一応実用的…とは言えますが、細身4枚羽根の豪快なサウンドと16吋の強風は、現代の家庭にはちょっとオーバスペックかも。
コンデンサの入る前の機種なので、3段(三菱)・4段(芝浦)変速もあまり変化はありません。どれも強風です(笑)
とはいえそれもまた味の一つ。三菱ジープやスーパーセブンみたいなものだと思えば良いのです。


さて…次回は何をしましょうか。
まだまだストックはあるのですが…趣の違うものも扱ってみたい気分です。
と言いつつ、いつもの通り昭和40年代に行きそう。
Posted at 2023/10/29 22:04:06 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2023年10月11日 イイね!

ただ消えゆくのみ…とはなれなかったハイテク老兵 三洋電機 EF-6EZ 昭和45年

あの異様な暑さはどこへやら、関東以南はいざ知らず、仙台はもう秋の気配がぎゅんぎゅんしております。
とはいえやる事が変わる訳もなく…扇風機レストアはまだまだ続きます。

さて、今回は三菱電子コンパックに続く、昭和40年代のハイテクな一台でございます。
その中でも少々悲運といいますか…「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」とは行かなかった機種です。
事情は下記の通りで個体数が減っているのか、製品年代に対して入手までに少々時間がかかりました。







実機がこちらです。今は無き三洋電機のダイナミックワイド・レッドモーターシリーズの一台。
型式名はEF-6EZで、種別は30cm高級お座敷扇。
更には「超高速電子扇」なる渾名までついている、情報量多めの個体です。
またコンパックと同じコンセプトで「キャリパック」という省スペース収納設計も取り入れていました。

製造は1970年(昭和45年)で、以前ご紹介した三菱電子コンパックの初代「R30-SX」の2年後になります。
なので見た目も似たスタイルになっていますね。
これはパクリではなく、車のデザインと同じように当時の流行故。
白基調の本体色と透明プラ羽根にメッキが映え、多連スイッチやインジケータランプで操作部が豪華なのが魅力です。
今回のレストアは、R30-SXとの比較をしつつ進めたいと思います。


さて、この機種にまつわるエピソードとしましては…良い内容ではございません。
今から凡そ16年前の2007年、「古い扇風機が火事の元になる」と話題になった事がありました。
その発端と言えるのが他でもない、このEF-6EZなのです。

2007年8月23日、当時の三洋電機より、同型機からの出火による死亡事故が起きたと発表されました。
同時に、2日後の朝刊へ使用中止の社告掲載すると共に、webサイトでも同様の呼びかけをする事を明かしています。

当時のwebニュース記事によれば、事故が起きたのは発表の3日前にあたる2007年8月20日で、火災により2名の方が亡くなられたとの事です。
また本件以外にも同年5月14日施行の「改正消費生活用製品安全法」に基づく「重大製品事故」の一覧では、8月23日までに扇風機による事故は7件起きています。
その全てが火災事故であり、内2件は「製品起因が疑われる重大製品事故」、そしてどちらも三洋電機製の同じEF-6EZとEF-6NZ(昭和42年製)でした。
つまりは、昭和40年代の三洋製扇風機の寿命(というよりも設計上の限界点突破)がこの時期に一斉に訪れたという事でしょう。
事故により亡くなられた方々には、この場を借りてご冥福をお祈り申し上げます。

実は我が家でも、同様のヒヤリハット事案が起きています。
もう10年以上前でしたが、祖母が「扇風機の回りが遅くなってきた」と話した事がありました。
上記の事故から然程時間の経っていない時でしたし、何より同じ三洋のEF-30KD(昭和46年製)で使用中止対象でした。
これは買い替え一択という事で、DCモータの扇風機を買ってきて、当該機は引き取りました。
もちろんレストア対象として。
不調はコンデンサではなく軸の油切れでしたが、他と同様にコンデンサ交換と清掃・再生を実施。
今では現役復帰を果たし、ホリデイズさんでの第一回扇風機展示会にも出させて頂きました。

なお、本件に続くように報道された同様の事故の原因は、コンデンサ劣化による運転不良からの発火の他、油切れによるモートル過負荷に配線のショートやホコリへの引火等々「経年劣化」にまつわる種々のもの。
それ以来、三洋電機以外にも「古い扇風機にご注意」という通知が各社から発出され、その意識が広く根付く切っ掛けとなったのでした。

ここで重要なのは、これら事故はどのメーカのどの製品にも起こり得るという事です。
流石に固体コンデンサやボールベアリング軸受けの機種でもあれば例外でしょうけれども、一般的な扇風機ならば三洋に限らず内包しているリスクなのです。
レストアを手掛ける立場から言えば、そうして一度寿命を迎えた者達を蘇らせるのが醍醐味なわけですが、レストア完了後も終夜運転などの使い方はしない事を徹底しています。

「使う時だけコンセントへ挿し、常に目の届く範囲で使う」
「何か変だと思ったらすぐに使用中止して点検する」

古い家電を愛着持って使いたくば、事前に整備をした上でこれを鉄則とすべきでしょう。


さて、これら事故とその後の各社対応では何が齎されたかを考えますと、一般目線では「古い家電への注意と買い替え促進」や「点検意識の向上」と言ったところでしょう。
古い家電やメカ関係を扱う身としては、日常から意識を向けたり仕組みを知ろうとする風潮が高まるのは良いと思う一方、中古に出回る以前に廃棄されてしまう個体が増える(た)であろう事実が少々悲しくもある…という複雑な思いです。
敢えて使うならばこのようなリスクが伴うと、改めて意識せねばとも。

一方で視点を変えてみますと、古い扇風機収集における有難い資料が提供された事実もございます。
それは各社の製造年一覧表。
今回の機種については報道でも明かされていますが、他の数多の機種達がいつ生まれたのかを知られる貴重な資料です。
本来は「うちの扇風機はいつのだろうか」を見るための表ですが、このような形で役立ってもいるという事…

更に深堀りすれば、一連の事故は「扇風機の手入れ不要・長寿命化」の負の側面が出た物と考察もできます。
ちょうど本機あたりの時期に、各社がモートルのメンテナンスフリー化を実現しています。
オイルレスメタル軸受けや循環給油システムの採用です。
それぞれ仕組みは異なれど、要はオイルを循環させたり長期間保持したりする機構を搭載して、「シーズン前にミシン油を入れる」というひと手間を省きました。
オイル漏れによる汚損の防止にも役立ったでしょう。

しかしそれが「扇風機は放っておいても壊れない」という意識を根付かせてしまったのではないでしょうか。
同時期にプラスチック成型ボデーの機種が多数登場し、低価格化したのもそれに拍車をかけたでしょう。
「壊れにくいし、壊れたなら買い替えれば良い」と…

本機はそんな既存のユーザ意識に一石を投じる出来事の当事者となった機種。
そして「火事を起こした扇風機」として実名報道されてしまった機種なのです。


続いて本機の詳細を語ってみましょう。
まず三洋電機がブランドとして当時打ち出していた「ダイナミックワイドモーター」と「レッドモーター」について。

ダイナミックワイドモーターは1964年(昭和39年)に登場した三洋独自構造のモートル。
正式には非対称誘導電動機とされます。
一言で表せば、右回転方向に力を発生させやすくしたモートルとなります。
その4年後、1968年(昭和43年)に名称を改めたのがレッドモーターという事のようです。
三洋電機記念資料館(旧北条製造所)にカットモデルと表彰状(近畿地方・全国発明協会と社内で賞を取っています)が展示されていたようですが、この地は現在イオンモールとなっているとの事…
パナソニックミュージアムに引き継がれていると良いのですが…

実機を見てみますと…







本体操作部の向かって左上、「W」のマークがダイナミックワイドモーターのロゴマーク。
そしてモートルケース背面には赤地にRedMotorのステッカーがあります。
どうもダイナミックワイドを全面に打ち出していたのはレッドモーターに代わるまでの4年ほどだったようですが、名称とロゴはその後も生き続けたようですね。
この後に登場した機種でも「Dynamic Wide」の文字ロゴと併記されているものがありますが、本機については「SANYO SOLID STATE」となっています。
余談ですが、祖母宅から引き取ったEF-30KDもレッドモーターシリーズの一員です。

機能面では細かい所まで作り込んでいる印象が強いです。
カタログ掲載と思しきデータから特徴的なモノを挙げますと、

・電子制御6段変速(超微風・超高速ボタン搭載)

・ナイトランプ(超微風レンジで操作部前端が緑に光る)

・120分タイマー連動コンセント装備

・ボタン式コード自動収納機能

こんな所でしょうか。
電子コンパックがタッチスイッチで「分かりやすい先進性」の一歩先を行っていたのに対し、こちらは堅実というか実用性に振った感じです。
なお、本機の同年にはファンガードに触れると自動停止する「電子安全ストップ扇」が登場しましたが、本機にはその機能は搭載されていません。
時期的なモノでしょうか、理由は不明です。
というかこれ三菱の電子スイッチとほぼ同じやんけ…

後、タイマのインジケータはドラム式となっており、設定時間が長い程にバーが伸びて行く見た目となっています。
このための機構がタイマとは別に組まれている点からも、なかなかコストを掛けた仕様なのだと分かるのです。

「30cm高級お座敷扇」と「超高速電子扇」は箱に書かれていた文言でして、本体には表記は有りません。
しかし電子扇としては「SANYO SOLID STATE」と英語表記されています。
ソリッドステートとは当時流行したフレーズの一つでして、元は真空管に対するトランジスタ(半導体)の呼称でした。
真空管は、文字通り真空引きした管球の中で空間を使って電子をコントロールする素子です。
対してトランジスタを始めとする半導体の内部は個体となっていますから、固体を意味するSolidが使われた表現となりました。
それがいつしかトランジスタ回路(現代的な電子回路)を意味する言葉として定着し、電子制御ブームの時代によく使われたのでした。

という事で、本機の「SOLID STATE」が活躍している箇所は上記の6段変速となります。
通常、扇風機の変速は戦前から大体3,4段が主流でして、超微風や超高速(メーカにより呼称が異なりました)というのは本機の頃に出てきた機能でした。
モータ側の進化もさることながら、制御回路の進化によって実現した機能と言って良いでしょう。
未再生状態でもしっかり動作はしており、確かに「超高速」レンジでは今年のリビング扇の役を担う三菱R30-SXより強力な風が来ます。


…いつも以上に前置きが長くなった気がします。
それではレストアに入りましょう。
今回も伸縮する首の機構はサラっと済ませたいと思います。

<写真>

まずはファンガードとファンを外し、モートルカバーを外しにかかります。
ファンとガードは分解収納前提のツールレス設計なので、特に考える事も無く終了。

モートルカバー内部は少々の油と塵の汚れが。
とはいえ、しっかり現役を張ったであろう事を考えればかなり奇麗な方。



モートル側です。
一見元気に動いていたのですが、ケミコンはパラフィンを噴いておりました。
これが事故に繋がるのです…
しかし奇麗ですね。埃が本当に少ない。





そして気付いたのですが、この機種には給油口が付いています。
フロント側もありました。
以前、三菱と三洋の無給油機構について記事を見かけた記憶があるのですが、データが出てきません…
少なくとも、この機種までは給油前提の設計だったという事でしょうか。



コンデンサは3.5μF。
ぴったりのはあるかしら。4μでも良さそう。



エンドベルを中継無しで貫通してたら…と懸念していたモートル配線は、ちゃんとラグ端子で中継されていました。
これならモートルの分解もやりやすい。



フロント側もカバーを外しました。



こちらは首振りの切り替え部分。
クラッチ付きギアを上下させるワイヤ機構です。
スプリングが弾けた時やワイヤの位置関係等、「大丈夫だろう」とスルーすると後悔しかねないので撮っておきます。
現状でもシャキシャキ切り替わってくれます。
ワイヤ式でも三洋は不具合を起こしにくいイメージが勝手ながらあります。



モートルの煽り。
普段通りですが、モートルの取外しにはアームを外せねばなりません。



その前に配線から。
ケミコンも撤去。



モートルが分離できました。
良い調子です。



この日は外出予定も無かったので基台側の整備に入りました。
首振り角度調整機構の付いたネックピースをバラします。
今回の比較対象であるR30-SXですが、あちらが基台操作部でのノブ回転式なのに対し、こちらはネックピース後部に切り替えレバーが付いています。



開けました。実にシンプル。
アームの支点位置をレバーで移動するだけです。



外すとこんな感じ。
ネックピースの下部には仰角ラッチ用のスプリングと鉄球2個が入っていますので、落とさないよう注意(一度パイプ内に落としました)。



ここも分解清掃。
切り替えレバーにもスプリングと鉄球のラッチ機構内蔵。



蓋を戻して完了。



さて、こちらは基台側のネックピース基部を外したところですが…鉄球を落してしまったのでここまで分解する羽目に。
ただこの部分も清掃と注油できたので結果オーライでしょうか。



続いてギアボックス。
樹脂製の蓋に蜂蜜のような色になったグリスがこの年代の機種の特徴。
グリスの色と質については、経過年数により「現在この状況」という事でしょうから、当初は普通に透明感あるグリスだったでしょう。
…そうでもないのかしら。



清掃完了までカット。
左下の軸付きスパーギアはその右にあるワッシャを挟んでカムに繋がりますが、カムには止めビスと共にリベットが打ち込んでありました。
入念に緩み止めされていたわけですが、薄いニッパで隙間を作ってやったら抜けました。
まだ固まっていないグリスは、戦前機のようなこげ茶になったグリスよりも洗浄に手間がかかります。
しっかり油分があるせいか、パーツクリーナを吸い取る感じでしつこく残るんですよね…それがこの年代の機種を手入れする中で嫌な所。
なので当たり前ながら、全バラできた方がしっかり隅々まで清掃できるんです。



エンドベルも奇麗に。



裏面。
軸受け周囲にはオイル保持のスポンジが入っています。





ギアボックス戻し中。
お座敷扇なので首を伸ばすと床置きで作業に丁度良い高さになります。



こちらはフロント側のスポンジなのですが…
当然というか何と言うか崩壊しつつあります。
触れるとホロホロ。
交換すべきでしょうけど…生憎と良い感じのスポンジが手持ちに無いんですよねぇ。
まぁファンとハブだけ取ればアクセスできる箇所なので、宿題としておきましょうか。



モートル周辺がスムーズに済みましたので、続いて基台側に入ります。
とはいえここからは殆どが清掃となります。
まずは裏蓋を外しましょう。



電源コードの引き出し口はファンネル形状になっていましたが、そのパーツがゴム脚と融合しつつありました。
当初はただ支えるだけの設計だったのでしょう。しかしゴムや軟質樹脂はこの罠にご注意。
ビニール電線とプラ筐体といった箇所もこうなる事があります。



中々密度の高い内部です。
三菱コンパックの手動リールと異なり、自動式のコードリールは基台の方に固定されています。
左端の赤い蓋が目立つボックスは、ナイトランプのリフレクタ部。
その中身は…





何と枕球。しかも24Vなのでまんまトラック用。
マップランプの他、マーカーランプとかにも入っているアレでした。
こんな所で出会うとは…交換可能になっているのも含めて意外なポイントでした。
コンパックのインジケータはネオン管でしたから、長寿命な代わりに交換しない前提の設計でした。
どちらも正解な、設計思想の分かれ道ですね。

そして気付いたのは、グリーン発光のナイトランプがブルー着色レンズであった事。
ブルーレンズへ電球が黄色っぽい光(つまり電球色)を当てるので、合わさるとイイ感じのグリーンになるんですね。
イインダヨ。グリーンダヨ。

しかしグリーンの照明は良い物だ。メータ盤面もネオクラ~90年代のグリーンが好きです。
あの黄緑は、昨今の高輝度LEDでは出しにくい色です。
初期からある色付きレンズだったら近いけれども。



もうちょっと分解を進めてみました。
内部はプラ製の基台にダイカスト製のシャーシを介して部品が付いているようです。
敢えて重くする事で安定性や防振性を高めたのでしょう。

何故ここまで来たかと言いますと…首の付け根のガーニッシュにメッキ剥げがあり、前後逆にしたかったから。
ただこの段階までバラしてもシャーシを外せず、今以上深入りすると沼になりそうでした。
なので元に戻し、メッキ剥げは別の作戦を取る事にします。

で、ここまで来て思った事が一つ。

電子回路、どこ…?

「電子制御6段変速」と謳っていた事から、何かしらの制御回路が入っていると思った訳です。
「電子扇」という名も付いているし、原子(電子の軌道)のエンブレムまであるので。
勝手な思い込みや当時まだ緩かった誇大広告だと言われれば、まぁそれまでなのですけれども…



回路図が蓋の裏面に付いていたので見てみますと、やっぱりそれらしい存在は居ません。
R30-SXの方は、タッチスイッチ+ステッピングリレーであるが故に検出とリレー制御回路が必須でしたから、プリント基板にトランジスタが載った回路がありました。
しかしこちらはオーソドックスなピアノスイッチですのでそれは不要。

ならば6段変速のモートル制御はどうなのかと言えば、それまた巻き線切り替えとリアクタンスによる運転なので違います。
ポジスタが入っているので、とは言えますが…それだけでは何となく物足りない気がしてしまいます。

なお、ポジスタなる部品はあまり馴染みがありませんが、一般名称はPTCサーミスタであり、「ポジスタ」は村田製作所の商標との事。
主に温度検出センサとして使われる他、電流による発熱で抵抗が増す性質を利用して、電流制限素子としても使われるそうです。
そして電子回路の定義は「能動素子が含まれる事」とされるので、まぁ間違ってはいないのでしょう。

ポジスタは「超高速」レンジの回路にチョークコイルとパラレルに居ますが、サーモスタット的な役割でしょうか。その前のダイオードはチョークの逆電圧対策で間違いないかと。
夏に使う家電で熱を持つ要素がある訳ですから(適当な事言ってますので、間違ってたらすみません)。

しかし、この後登場した「電子安全ストップ扇」ならば間違いなく回路が入っているでしょうから、より名称に相応しいと言えましょうな。
そしてもう一台入手した同年代の三洋機「EF-6UZ」は、タイマ回路が凝った仕様のようです。
それならきっとしっかり電子制御しているはず。



という事で別の作業。
こちらはスイッチボタンですが、メッキにくすみと点錆が出ています。
まぁ定番中の定番。



相変わらず気持ち良く奇麗になってくれる。
ボタンはしっかりと取り付いていて、無理に外そうとすると割るリスクを感じました。
そのまま再生施工したので水洗いできない状態でしたが、何とかふき取ってここまで。
後は機構部をグリスアップすればスイッチは完了でしょう。







続いてはプラパーツ各種。
清掃と磨きです。









モートルカバーは特に見違えるようになりました。
「Red Motor」のステッカーは退色や紛失の多い部分ながら、かなり綺麗な状態を保っています。



どんどん行きましょう。操作部前面のメッキガーニッシュとナイトランプのレンズ。



完全とは行かずとも、輝きを取り戻しました。
メッキパーツとクリアパーツが光ると一際綺麗に見えます。
同様にネックピース下のメッキカバーも再生しました。



そして今回の課題の一つ。スイッチつまみ。
タイマの方は錆び落としだけですが、問題は首振り切り替えの方。



三洋の定番、つまみの樹脂割れ。
とはいえこれには前例があります。
以前修理依頼を頂いた機種も近い年代の三洋機で、同じ状態になっていたのを直しました。



穴は凡そΦ8なので、M8ボルトにマスキングテープを巻いて刺します。
そしてプラリペアを盛る。



固まった後にピンの嵌る切り欠きを再現すれば完成。
あまり差し込みがきついとまた割れてしまいますので、軸の方を少し狭めて調整しましょう。



綺麗に揃いました。



仕上げに入ります。
モートルのコンデンサは4μを使い、このようにマウントしました。
純正の固定位置にはビス穴がギリギリ届かず、カバーに収まる位置を考慮した結果です。



組み立て中の気付きポイント。
フロント側の給油口がモートルカバーに見当たらないと思っていたら、通風孔の一つが若干大きくされておりました。
何ともさり気ないカモフラージュ。



最後は基台の立ち上がり部分にあるメッキパーツ。
残念な事に正面側にメッキ剥げがあります。
前後対称っぽかったので逆にできれば良かったのですが、生憎と分解困難な箇所でした。
なのでそれっぽく補修します。



こんな感じでどうだろうか。
一応、ガイアのプレミアムミラークロームですが…腕の問題でしょうね。
ミラーフィニッシュとかを貼っても良いかもしれませんが、あれはあれで伸ばした跡が経年で顕在化するんですよねぇ…







という事で完成しました。
この時代の機種は戦前とはまた違ったカッコ良さがあります。
状態の良い個体だと尚の事。



操作部もシャキッと。





タイマはこのようにバーが伸びて行くデザイン。



これが超微風モードで点灯するナイトランプ。
就寝時にタイマと併用する想定だったのでしょう。
まさか青レンズと電球色が合わさった色だったとは。

実際に動作させてみた感想ですが、スイッチが通常のピアノタイプなのでどのレンジからも切り替えが効きますし、超微風と超高速も便利そうです。
電子コンパックはタッチスイッチが面白いですが、切り替えがシーケンシャルなので1速からのオフでも2,3速を通過する必要があります。
それにリレーの動作音が賑やか(なのが魅力の一つなのですが)なので、それを気にするシチュエーションでは使いにくい側面もあったり。

という事で、こちらはやはり先進性より実用性を重視した中身なのだと感じました。
来年の夏はこれに活躍してもらおうかしら。



次回…時代を行き来するリズムになっていますが、次もそうなりそうです。
今度は有名なアレの大きい奴…然して状態は良くないかもしれませんが、埃を払ったら化けるかも。
Posted at 2023/10/11 22:54:36 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

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