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2023年02月18日

スペースエイジなトライポッド~東京芝浦電氣 HA型「よいまち草」(昭和33年頃)

前回の宣言通りに昭和30年代まで逃げてきました。
20年代と言っていましたが、ちょっと行きすぎましたか。

さて、今回レストアする機種はこちら。



やっと手に入れた一台。
レトロな扇風機の中でも、見た事のある方が多いかもしれません。
東芝の傾奇者、HA型「よいまち草」です。

待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな…竹下夢二ですね。

植物としては「マツヨイグサ」という名の方がメジャーでしょうか。
近い仲間なだけに月見草とよく勘違いされ、なかなかタフなので空き地や花壇から道端まで良く生えてきます。
所謂雑草とされてしまう部類です。
背も高くなるので、大きい物好きな私は結構気に入っている野草です。
子供の頃はよく摘んで帰った想い出があります。

と、今ではすっかり野草扱いですが、そもそもは江戸後期から明治初期に園芸種として輸入されたとの事。
人為的な切っ掛けによる帰化植物という事です。

…すると、君の鬼歴と同じくらいかもなぁ、猗窩座殿。
でも「月」って事からすると黒死牟殿の方が似合いかな。

唐突に失礼。
で、その名の通り夜に咲く花でして、月を連想させる鮮やかな黄色なのも勘違いの原因かもしれません。
ちょうど花弁も4枚で、この機種の「背の高い4枚羽根」という特長に合っています。
それを意識してか、羽根の色も黄色です。

話を戻しますと、電気スタンド一体型の「夕顔」共々、高騰する機種としても知られていましたが、この度まともな金額での入手が叶いました。
それ故か、外観に少々傷みがあります。

特徴は言うまでも無く、この三脚のような形状でしょう。
一見すると「コードは何処通ってるの?」という奇抜なデザインですが、3本の足はパイプになっており、その中を通っております。

時期的にも「スペースエイジ」や「レトロフューチャー」といった単語が似合いそうですが、個人的にはH.G.ウェルズ作の「宇宙戦争」に登場する「トライポッド」を思い出します。
可愛らしいと不気味の際どいラインを攻めている気がします。
このかなり攻めたデザインに惹かれる人が多いのか、ずっと高値が続いておりました。

ちなみにタイトル末尾に入れた製造年は昭和33年頃としていますが、その根拠がこちらになります。





昭和33年、1958年発行の東芝冷蔵庫のカタログ…というかパンフレット。
その中に何故か扇風機の掲載もあり…





ここに居ます。
白黒印刷なので「水色」がどんな色かは不明ですが、調べてみると箱付き出品の同色が「水色」表記でしたので、この個体もそれで合っているでしょう。
ファンの黄色が印象的なのも、あまり水色感が得られない一因かも。

別に持っている昭和35年のカタログはカラーですが、ピンクっぽく写っています。
他にもファンごと水色の物等あったようですが、一番多いのがこのカラーらしい…体感的に。


それではレストア、行ってみましょう。



裏面です。到着時よりガタついていたのですが、ゴム足が失われており裏蓋中央のボルトが相対的に出っ張った状態になっているようです。
裏蓋全体が回転する構造ですね。液晶ディスプレイ的な。

元はどこかの店で使われていたのか、「竹 五」と手書きの張り紙が。
よく見れば、「虎屋」とペン書きされたのが消された跡があります。
羊羹…? いやまさか。
あんこなんて嫌いだね。生クリーム最高!…これまた懐かしいネタで。





裏蓋を開けました。が、センターのスタッドボルトが長く、このままではやはりちゃんと立ちません。
まぁ外せはするのでしょうが…そこまで頑張らなくても良いかと。
トレーの縁にでも引っ掛けて、下駄を履かせればそれで問題無し。

下の写真は中で遊んでいた金具達。
多分ゴム脚のボルトだと思うのですが…ワッシャが1枚足りないのは良いとして、なぜ一本だけ太いんだろうか。

そして使われているコンデンサですが…



シバノール入り。つまりはPCBでございます。
毒だよなぁ…処分って個人でできるんだっけなぁ…保管ならちゃんと密封しねぇとなぁ…
性能はともあれ、物質的にまずいので個体ACコンに交換します。

PCBはアスベストと同じような経緯があり、毒性が分かるまでは非常に優れた素材特性から重宝されていました。
高い絶縁性からコンデンサやトランスの絶縁油としての採用が定番でしたが、カネミ油症事件でも知られる通り、クーラントとしての使用例もあったようです。

また、やはりアスベストと同じく、PCBにもいくつかの種類があります。
一番ヤバいのがコプラナー型だったかと。
この辺は完全に仕事上の知識だなぁ…
趣味のブログなので、程々にしときましょう。

しかし不思議なのは、素直に日付を読めば1971年製だそうで。
この扇風機、そんなに新しいかなぁ…カネミ油症事件が1968年、それを受けたPCBの使用禁止が1973年なので、PCB入りコンデンサとしては末期頃です。

それに1958年のカタログに載っている機種ですし、70年代初頭と言えば、ほぼ全プラ構造になっていた時代です。
とはいえかなり個性的なデザインなので、Y31セドリック営業車とか130クラウンワゴンみたく例外的に長生きしたのかも。

ですが、東芝が公開している製造年一覧(1964年~)には該当なしなんです。
本当に71年製なら、スタートがそれ以前だから除外という事も無いでしょう。

オイルコンはそうそう壊れる物でもないですが、特に漏れた形跡もありません。
予防整備でそこだけ新しくなった可能性もありそうですが、それならゴム足の金具が中で遊んでたのも不自然…
そしてこれが漏れてたらそれだけで怖い。

あまり気にしないでおきましょう。



続いてファンとファンガードを外しましたが…
こうなるとトライポッドそのものだなぁ。
偶然かもしれませんが、モートルの通風口も大きく、脚と同じ3本スポーク形状。
これだけでもオブジェになりそう。
ピンポンツリースポンジとかと並べたい。



モートル後部のカバーを開けました。
…凄ぇホコリ。
この機種、モートル自体の通風口は大きいのですが、リアカバーには下の方にそこそこのスリットがあるだけ。
それでもこれだけ詰まったという事は、かなり活躍した機体という事でしょう。
しっかりリフレッシュしてもらいましょう。





モートル分離完了。上に書いた通りですが、3本線はやっぱりそれぞれの脚を通っていました。
なので引き出し線がやたらと長いです。

しかしこの時代に、ここまでデザイン性に特化して設計したのは相当の気合ではないでしょうか。
うっかりそのまま引き抜いてしまうと次に通す場所を間違えて、基台内部で配線が届かなくなりそうでした。
なので事前に写真を撮りましたが、ちゃんと黒と赤のスリーブで色分けされておりました(白はコード自体の色で代用でしょうか)。



エンドベル開けました。
コイルとロータもホコリだらけ。
コイルとケースの間も隙間が大きく、冷却性は高そうですがホコリも溜まりやすそう。
刷毛で落としつつ掃除機で吸って大まかに除去した後、改めて拭き掃除しました。





今度はギアボックス清掃。
この時期あたりからエンドベルと一体になったものが多く、分解清掃のしやすさという点では一歩劣る気がします。
ダイキャストの質が良くて裏面も滑らかなのと、ビス関係が固着してない確率が高いのは良い点ですが。

本体表面の清掃ですが、塗装がそれなりに痛んでおり、特にモートルケースは油汚れが結構。
パーツクリーナよりもセスキが効きました。

ちなみにカタログによれば、塗装はメラミン焼き付けだそうです。
なので傷からの錆びは出ても、無事な部分は汚れを落とすだけでそれなりに艶が復活します。

後は細かい発見ですが、給油口からのパイプは贅沢にも銅製。
戦後暫く経った頃の物は、ポリ系の半透明樹脂のが経験上多く、劣化で割れるのが常なので嬉しいポイントです。



こちらは電源コード。普段あまり撮らない箇所です。
クリーニングすると、右端の位には見た目が復活します。
今回は白系なので、最悪は現行新品でも良いのですが…やはりオリジナルが使えれば、それに越した事はありません。



こちらは基台の中、裏蓋との間に位置するローラーです。
本機は東芝機の特徴である「ロータリーベース」を採用しており、それ用のローラーになります。

モノは単なるゴム車輪で、いわばキャスターの小さい奴。
太いゴムブッシュに金属パイプが軸受けとして入れてある感じですが…経年劣化で円形ではなくなっていました。
こういった部分って、地味に代用が利かなくて修理に困るんですよね。
これの場合、キャスターの交換タイヤでは大きすぎますし、自作するにしても奇麗な円形(荷重あり)というのが地味にハードル高し。



…誰が困ると言った? いやあんただろ。
キャスターが無ければゴム足を加工すれば良いじゃない。
という事で、寸胴形状のゴム足を使いました。
隣が純正ローラーで、ほぼ同じサイズが見つかりました。

左の加工ゴム足に入っているカラーは、純正ローラーから外した真鍮パイプです。
ローラーはサイズの制約が意外にシビアでして、内径Φ5程度、外径Φ16~17程度、幅10mm程度でないと、干渉したり寸足らずだったりします。



コンデンサも交換完了。

この後はファンガードの清掃なんですが、よくあるパターンで全体に錆びが回っており、気合を入れて掃除しても大して見た目が変わらない感じでした。
かといって再塗装する程でもありませぬ。
「味」として捉えるべきレベルかと。

なのでさらっと洗い、敢えてあまり深く突っ込まない事にしました。
…面倒だからね。しょうがないね。
でもちゃんと洗浄してますので手抜きではないはず…そう信じたい。

写真は割愛しますが、プラパーツはメラミンスポンジで清掃、メッキされているビス類は錆び落としして組み立てに入ります。



そして組み立てれば完了…かと思いきや、ファンとファンガードを付ける時点で断線が発覚しました。
コンデンサ交換の後、すぐに動作確認すれば良かった…
モートルに至る3本線の内1本が切れているようです。やる気の削がれる瞬間。
写真はもう一度分解して、断線箇所を特定した時。
コイルは無事ながら、黒マークの線がどこかで切れておりました。

この機種は特に引き出し線が長く、測ったところ80cm近くありました。
それが3本なので凡そ2.5m、メートル買いなら3m必要…平行線ならありますが、シングルで白の0.75Sq程度の線は持っていません。
しかもこの日は日曜、これまで年中無休だった部品屋さんが日曜定休になってしまいましたので、仕方なく通販を使う事に。



昭和30年代の機種で引き出し線交換は初でした。
お陰で奇麗に真っ白くなりましたが…色々特殊な構造の機種なので、こうなった時は面倒臭さが爆血ですね。
いや…エンドベル分離できないお座敷扇の整備よりはマシか。

なお、使用したのはAWG18という事で0.75Sq相当ですが、被覆の厚みがかなり違います。
なので芯線は純正より太くなった一方、仕上り外径としては細くなっています。





という事で、一波乱ありつつも完成しました。
プラグは残念ながらドンピシャなものが無かったので、できるだけオリジナルに近いのを選びました。
コードとグレー揃いのもう少し古いマツダならあるんですが、それはちょっと違うので。
本来はマツダロゴで角丸の四角っぽい最中合わせプラグです。色違いなら持ってたんですが…

この時代のプラグ系は何故かナショナルばかり持っていて、次点でTORII等のサードパーティ製。
もう少し東芝・マツダや三菱が増えて欲しい所ですが、欲しいと思っても出てこない以上は仕方ありません。
ナショナルが多いのは、今と同様に単体売りしていたからかもですね。

ゴム足も新品に付け直し、ちゃんと立つようになりました。
オリジナルは年代的に白ゴムだったのかなぁ。全く失われていたので不明です。

ファンはセンターのメッキキャップは無理に取らない方が良さそうでしたので、このまま錆び落としをしています。
羽根はセスキで汚れを落とし、プラ用コンパウンドで少々の艶出し。


扇風機の性能としては、実にごく普通の30cm扇です。
とはいえ、かなりデザインに振った設計ながら変速と首振りはオミットしておらず、ちゃんと使える一台に仕上がっているのが良い所でしょう。
まぁ首から上は、他の普通の機種と共通でしょうからね…
ボディが特殊なだけでこうも印象が違うのです。だが実に馴染むぞ。星の痣はありませんが。

それにしても改めて「扇風機」として観察すると、初めからそれなりの高さに設計された機種というのも珍しいと思います。
これのデビュー年は不明ですが、手持ちの昭和33年版カタログに載っている事を基準にすると、その前年には国内初のお座敷扇(高さ調整機能搭載)、三洋電機の「きりん」ことEF-122が発売になっています。
そうすると、床置きでそれなりの高さになるものが欲しいという要望に応えた結果…とも言えるでしょう。
戦前から「扇風機台」が存在するくらいですから。

しかしながら、実際にそれなりの高さに設計すれば用途が限られるので、販売面でのリスクは高くなります。
そういった点を相互にカバーし合う意味でも、この独特のデザインでGOが出たのかもしれませんね。



さて…一台直すと一台増える感じです。
また買ってしまったんですよ。しかもまたしても芝浦。
それはまぁ置いておくとして、今度はどの時代に飛びましょうか。
また戦前か、あるいは上に書いた三洋の「きりん」か。
実はもう居るんです。きりん。
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Posted at 2023/02/18 19:35:54

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