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2023年03月26日

国産初の”お座敷扇” 三洋電機 EF-122「キリン」 昭和32年

まだたまに寒い日もありますが、もう桜の話題が聞こえる時期になりました。
このブログの背景も、今年は更新したいものです。


さて…少々前に購入しており、記事の予告にもちょこちょこと存在を匂わせていた三洋の「キリン」。
今回はようやく手を付けましたので、その記録ですが…まぁ色々ありました。



まずは入手時の状態。
現状でも動作はする上、前オーナ曰く「整備済」との事ですが…
確かに状態自体は良いのですが、色々とツッコミどころがありまして。

まず、凄まじく煙草臭い。
これはもう運としか言えませんが、これまで100台近く古今東西の扇風機を扱ってきた中でも、煙草臭いのはほぼありませんでした。
埃臭いのは当たり前ですが、何故でしょうね。

思い起こせばラジオもそうでした。エルマンのmT管マジックスーパー位かなぁ。
元々茶色いキャビネットを洗ったら、流れる水も真っ茶色になったという。
で、その臭い抜きの為もあって暫く放置しておりました。



また、各部のゴム部品がオリジナルなのは良いですが、この時代特有の色付きゴムの宿命で、溶解・崩壊祭り。
見切れてますが、コード根元のスプリングも先端がへろへろになってました。
そしてもう一つ…



嫌な感じに油が染みています。
少し置いておくと、このようにゴム脚の形に油がスタンプされるんです。

これがマシンオイルなら良いんですが、時代的にオイルコンが入っていそうなので、万一それだったら恐ろしいのです。
東芝「よいまち草」で書いた通りPCB全盛期の製品でしょうから、その原因も特定せねばなりませぬ。

…と、整備済というよりは簡易清掃済みの奇麗な個体といった方が良さそうな本機。
初の三洋電機製という事もあり、慎重に進めましょう。



さて、ここで一旦蘊蓄コーナーへ。
この扇風機は一見するとよくあるレトロ系…1950~1960年代初頭頃の姿をしていますが、タイトルの通り、国産機で初めて高さ調整機能を搭載した機種だそうです。
これまたタイフーン繋がりで「産業技術史資料データベース」から知った機種になります。

一言で表すならば、所謂「お座敷扇」の嚆矢というわけであります。
お座敷扇は卓上と床置きの両用として、首の伸縮機構を備えた扇風機の一般名称(どこかの商標だったらすみません)。
昭和40年代から一気に各社が取り入れた機構で、有名なのはボタンを押すと内蔵のスプリングでシュッと首が伸びるタイプでしょう。

ですがこちらは、ボタンこそあれど首を伸ばすのは手で引き上げてやる必要がありました。
3段階に高さが固定でき、ボタンはロック解除のため最初に押すだけで良い作りです。
そのまま引き上げれば、カチッとボタンが戻ってロックが効く仕組み…車のヘッドレストと同じ機構です。

とはいえスライドの精度は中々で、むしろ後発のスプリング式よりも質の高い印象。
部品も金属主体の時代なので、余計にそう感じるのかもしれません。
プラはどうしても摩擦で著しく劣化しますので、油分さえあれば金属の方が長持ちする訳です。

そしてこの機体、銘板に型式名が一切書いていないんです。
先日整備した三菱電機のD10-Bもそうでしたが、1950年代の機種は皆こうなのでしょうか…?
なので実機を入手するに当たっては、産業技術資料DBの小さな写真や、例によって箱付きで出品された際の写真を画像検索して特定しました。
箱には書いてあったようです。
当時のアサヒグラフとかを買えば広告が載っているかも…いずれ欲しいものです。



それではレストア、行ってみましょう。
三洋の扇風機はどんな造りになっているでしょうか…



何はともあれ分解。
オイルコンが心配なので、初めに裏蓋を開けてみる事に。
ゴム脚は揃っていますが、劣化故に用を成していないので交換ですね。





…やっぱオイルコンですね。そして嫌な滴が…
ですが漏れた感じはありません。
とりあえず触れないように、パーツクリーナで拭いておきました。

お次はファンガードとファンの外し。
と、早速ファンガード止めナットが一個足らないのが判明…第一の挫かれポイント。



早々とここまで来ましたが、足止めを食らいました。
モートルカバーがリアだけでなくフロントも二重という珍しい構造でしたが、それを取り払うと再び煙草臭さが復活。

…それは良いとしても、エンドベルが外れません。
ファン側から軸を叩くのが我流セオリーなんですが、普段はゴムハンで軽く叩けば済むところ、金属ハンマで叩いてもダメ。



こんな事までやってみてもダメ。



結局、以前使っていた大きいゴムハンで思い切り叩いたら行けました。
ゴムが劣化して叩く度にポロポロ崩れるので、一線から引いてもらった奴でした。
エンドベルは単にガッチリ固着というか勘合していただけのようです。

そしてお気づきの通り、お座敷扇あるあるの「エンドベル宙吊り」。
まぁ戦前型も同じなのですが、伸縮機構があるだけ配線外しが面倒なので…お座敷扇の整備はここが嫌いなのです。

で…配線が抜けない。
折角オリジナルの配線なのに、シュリンクは硬化・中の配線外装は溶解という地獄。第二の挫かれポイント。



何とか補修しようとも思いましたが、このままならショート・断線は時間の問題と考え、思い切って交換する事としました。
そうしないとゴムブッシュを交換できないのも理由でした。



という事で、モートル引き出し線のビフォー。
シュリンクの境目で既に溶けています。
ゴム被覆の定番パターンですね…黒は固まり、色付きは溶ける。
カーボンブラックとか硫黄の有無でしょうか。



はい交換。アフターです。
芝浦は赤白黒ですが、今回は赤白緑。トリコロールカラー。
…それじゃ「頭痛が痛い」と一緒でしょうが。

外に出る部分の仕上げは、最近思いついたエンパイヤチューブ被せ。
戦前型は黒を使いますが、こちらは本体が水色なので白。
本当は塗装できれば良いのですが、シリコン含侵してあるので無理なのです。
もうちょっと進化させたい手法です。



所変わってギアボックスへ。
エンドベルとの間にガスケットが入っているのは初めてですが…無いといけない精度って事かい? それは無かろうに。
戦後型ですがグリスは固まっていたので、清掃は楽でした。
首振りカムもイモネジで脱着可能なのが助かりました。



清掃完了。
グリスはそこそこにして、とりあえず組んでおきます。
この辺はごく普通の構造ですね。
三菱の乙型と同じスパーギア2段での減速です。



そして第三の挫かれポイント。
エンドベル内側の写真ですが、この機体の軸受けは「自己調整式」。
かの川北タイフーンもそうであったという、軸の回転に合わせて方向が微調整される、完全には固定されていない軸受けです。

その周囲にはオイル保持用のフェルトが詰めてあるのですが、その封止が問題。
金具を4点のリベットで留めてありますが、そこから油が駄々洩れするんです。
給油口からパーツクリーナを吹いたら全周から滲んできて「うわぁ…」となりました。

思わず「そこにもガスケット入れとけよ」とか言いかけましたが、半世紀以上前の製品にそんな文句を垂れても仕方ありませぬ。
新品時は何ら問題無く、劣化故にオイル漏れしたのかもしれません。
何か旧車のエンジンみたいな話になってきたぞ。モータの癖に。

で、最初の油染みはこれのせいでした。
この構造に加えて、前オーナが注油したのでしょう。それが染み出て伝わって、結果内部からゴム脚にまで至ったと考えられます。
軸受け → エンドベル前方下部切り欠き → スライドパイプ(高さ調整ポール) → 基台内部 → 裏蓋の穴といったルートでしょう。
…PCBじゃなくて良かった。

とりあえず変な油ではなく安心でしたが、油量に気を遣わねばならぬのは確かです。
ちょっと三洋が嫌いになった瞬間…いや、芝浦や三菱がもっと好きになった瞬間、と言った方が適切でしょう。
君の事を嫌ってる訳じゃないんだぜ。もっと好きなのがあるってだけさ。



さて、お次は基台と外装へ。
まずは感触が緩くて変だったスイッチを見てみれば、何かが足りないご様子。
そう。ロータリスイッチに付き物のボールが2個とも何処かへ旅立ったようです。

真空管ラジオでも一度ありましたが、酸化して摩擦が増してくると、何かの拍子に飛んで行ってしまうようですね。
それが無いと、カチカチというクリック感と各レンジへの位置決めが機能しません。



という事でステン球登場。
実はこれ、缶スプレーの攪拌球なんです。
プラモ少年の時代から使い切った缶を開けては硝子球を取っていたのですが、ソフト99のボデーペンとかには硝子球と一緒にステン球も入っているんです。
それを取っておいたのが大正解でした。測ったようにぴったりの寸法。
しかしこのステン球も、まさかこんな風に役立とうとは思うまいて。



状態は元より良かったので、外装は軽く磨くだけで済みました。
メッキリングは一度取り外して錆び落とし。
リングの去った箇所には歴史を感じさせる埃が。

この後、モートルは先にスライドパイプとの接合部まで組んでしまい、その状態でパイプへ取り付けしました。
基部の穴とパイプの穴に配線が通るので、普段と異なる順序となりました。
メーカが変われば設計が変わりますので、それぞれの特徴が現れる点の一つですね。



こちらは電源コード清掃の様子。
貴重なオリジナル品でしたので、多少固いですがこのまま使います。

写真の通りプラグ内も分解して確認しましたが、やはり芯線が際どくなっていました。
そして珍しく、プラグの端子との結線はビス式でなくはんだ付け。



補修はこんな感じに。
端子の直前まで被覆が残るようにしました。



電源周りの組み立て途中。
コンデンサはいつもの通り個体ACコンとしました。

毎度思うのですが、この形は絶妙でして、今までのどの扇風機にもちゃんと収まってきました。
何かしらの形で固定でき、大きさ的にも収まるんです。
まぁ、元が古いのでこれより大きかった、と言うのが主な理由でしょうが…

ビスは純正では短かったので、手持ちのM4×10 JIS規格を使用しました。
端子は250ですが、スペースの関係上半田で処理しました。





ゴム脚は新たな試みとして、純正にも似た押し込みバンパーを使ってみました。
今はこんな物もホームセンターで売っていて有難いものです。



ちょっと戻りますが、フロント側のモートルカバー内側です。
油量に気を付けないと、こんな風に油まみれになってしまうんですね。



最後にファンガード。主な作業はエンブレム周辺の再生。
ラジオ共々のあるあるですが、クリアプラの裏から塗装されたエンブレムは、水洗いでサラリと落ちてしまいました。
仕方ありませんが、何とか調色してタッチアップしてみます。



という事で完成。
写真ではあまり違いが分かりませんが、確実に奇麗さが増しています。
この状態は卓上扇モードでして…



伸ばすとこうなります。フロア扇モード。
もう少し後の、基台が角ばったりプラ製になった時代の機種では当たり前のようについている機構ですが、このように丸みを帯びた金属ボデーの機体では新鮮に見えます。
流石、国内初採用ですね。

動作の方は、プラ製の幅広3枚羽根ファンにキャパシタ付きモートルのお陰で、静か且つ風量も十分。
実用性の面からすると、日常で違和感なく使える最古級の機種かもしれませんね。
重量はありますが、戦前型に慣れてしまったので特に重いとも感じず…それは自分特有の感想か。





伸びていたスプリングも可能な限り復元し、交換したモートル配線も良い感じです。



さて、今回は初めての三洋電機製扇風機(1950年代以前として)でしたが、以前整備した川崎電機の戦後型のように、他には無い特徴や整備上の注意点が発見できました。
改めて自分は三菱と芝浦が好きな事が認識でき、デザイン的にも機構的にも、今後増えるのはその二社製でしょう。
とはいえ、こういった変わり種的機種はやはり面白く、整備が大変でも経験値が得られる分、やりがいもあるというものです。


…次回、どうしましょうか。
戦前型のストックはセオリー通り行きそうなのが2台、重整備になりそうなのが2台あります。
ほぼジャンク状態のが更に2台。

そこに来て部品取りの目論見を外した高額商品の戦前型が1台増え、更に昭和40年代の電子制御機が続々集まっています。
次の展示会のテーマも絞らねばなりませんし、どう手を付けましょうか。

一方で、そろそろタイヤ交換もしないと。いい加減に雪は降らないでしょうから。
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Posted at 2023/03/26 19:16:52

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