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イイね!
2023年05月21日

ドナーのつもりがレストア対象に 芝浦製作所2035型(大正9年頃)

今回もまた芝浦電氣扇。
もうそろそろ飽きてきた感もありますが、敬意をもって再生させて頂きましょうぞ。

という事で入手しましたのはこちら。



もうおなじみの雷光ガード。
写真を撮った自分の背後にも既に2台居る、大正期の16吋型です。
この時点でモートル配線の無事は確認済みで、全体的に良好かつ欠品も無いようです。


さて、こちらの個体は以前にも少々書きました通り、当初ドナーとして購入したものでした。
部品の使用先は2024型でしたが…意外とマイナーチェンジしている箇所が多く、流用を断念したのです。
それに加えてこちらの状態が思った以上に良かったため、「大枚はたいたのに部品取りはもったいない」とも。
結構したんですよこれ。

で、実際には何が違ったのかといえば…





これも以前出したものですが、まずはモートルの全長。
配線の前方引き出し設計は同じながら、ケースが若干長くなっています。
これ以降の芝浦製16吋はこの長さのようなので、モートルの性能特性を改良したのでしょう。
起動トルクの関係か。あるいは消費電力や発熱の具合か。

そして、使いたかったのがモートルとステータ(コイル)だったために、ドナーとしては要らない子になってしまったのです。
それが2024型の単独修理への切っ掛けになったので、まぁそれだけでも役に立ったとは言えますが…

後はファンガードの素材が地味に(失礼)変わっておりまして、真鍮から鉄になっています。
真鍮は加工しやすく錆びても脆くなりにくいですが、ガードの性能としては剛性に劣ります。
溶接技術の向上から、素材変更に踏み切ったのでしょうか。
またこれは個体差の範疇かもしれませんが、16吋型の特長である「ファンガード下端の逃げカーブ」も、曲率が違うようです。

という事で、本来想定していた役目からは外れてしまった本機ですが、せっかく手元に来てくれたのです。
しかも既に持っている2025型…大正8年型の首振り付き16吋とは僅かに違うという面白い部分も持っています。
なので奇麗にして差し上げましょう。

…そんな出来事がございました。



ではまず、こちらの製造年や立ち位置についての考察を少々。

型番や設計からすれば、まず2025型(大正8年型)のMC版と言って差し支えないでしょう。
そして2000番台なので、大幅な改良を受ける以前とも分かります。
当方の手持ち機種なら7007型や7017型の7000番台がビッグマイナー後となります。
ネット情報だと6000番台の機種が見つかり、それではモートル配線はまだ前方引き出し。
なので、昭和期にも続く後方引き出しとなったのは、やはり7000番台からと見て良さそうです。

型番の命名規則が今一掴めないのですが、同じ「2000番台で末尾5」、そして機能的には同じという事からすれば、下2桁目がMC数or年式での割当なのかもしれません。
そうすると違いは2と3で隣り合っているので、もしかするとMCの関係でも隣同士かもしれません。
なら直近でその翌年かもなぁ…と思ったため、大正9年頃とさせて頂きました。



では続いて、いつものレストアコーナー。
今回はどんな発見があるでしょうか。
難工事になりませんように。




何か、意外な程サクッとこの段階まで至りました。
外装を見る限りフルオリジナルで、初めの写真の段階で外していましたが、電源コードが比較的新しい以外に補修跡はありませんでした。
しかし各部のビス・ナット類が気持ち悪い程スムーズでして、全く痛める事無く分解できています。
こんな事もあるのだなぁ…



最早見慣れたギアボックス。
今回も先に外してしまいます。





ロータを抜きました。
ステータはホコリがある位で特に変な所は無し。
スクリューギアは結構減ってるなぁ。一応首振りはできるみたいですが…



ギアボックスを開けました…グリス少なくないか?
前回の7017型が目一杯詰まっていたのに、こちらはスカスカ。
今まで見た中でも特に少ないです。



続いて裏蓋へ。
こちらは2021型の型取りに使いましたので、既に外した経験あり。
説明書きor検査証の紙は失われているものの、錆も無く奇麗なものです。



碍盤も問題無し。
強いて言えば、電源コード端子の一方がグラグラするくらい。
カシメ止めが緩んでいるようです。



取れました。
モートル配線もオリジナルですが、付け根すら手つかずなのは大正期の機種としては珍しいオリジナル度です。
とはいえ被覆は崩壊していますので、後で収縮チューブを施工したいと思います。



位置のメモも忘れずに。



という事で単体となりました碍盤。
スイッチつまみに古い絶縁テープ(どうやら蝋漬けの布らしい)が巻いてあるので、欠けがあるのでしょう。
最悪は別個体から型取りできるとはいえ、あまり大幅でないと良いのですが。





テープを剥がしてみると、主要な部分は残っている模様。
裏面の先端が欠けているので、最低限その部分だけパテ成型すれば良さそうです。





ここからは清掃パート。
まずロータの洗浄からですが、スクリューギアの削れ具合がよりはっきり見えてきました。





これは凄い。明らかに山が削れていますし、当たる方向が一定なので偏摩耗もしています。
そしてヘリカルギアと当たっていた箇所は磨かれてピカピカ。
それ程に活躍していたのか、グリスの量からすると余り良くないコンディションのまま使われたせいなのか。
この部分だけでもモリブデングリスを塗った方がよろしいかな…?

続いてはギアボックス。
グリスが少ない分、楽かと思いきや…



…カム直結の軸、遊星ギアのベースとギアボックスの隙間に何か居る。シムか?
軸に通っていたならグリスで張り付いてくるでしょうから、手元に来る以前の分解時か、ややもすると製造時かもしれません。



取れました。格闘する事10分…意外と短いな。
経験上、クラッチ一体のヘリカルギア辺りに入りそうな感じです。
後で組んでみよう。



黒塗装のパーツを磨き、まずは首振り機構の清掃完了。
やはりこの時代の芝浦は磨くと光りますが、それだけに手を抜けません。

なお、首振りアームは「直線+丸」ではなく、軸穴付け根で絞られていてカーブが連続しているデザイン。
三菱の極初期にも見られる特徴ですが、これだけでぐっとレトロ感が増しますので好きなポイントだったり。
真鍮一体成型なので、肉厚にしてあるのも愛いところ。
7000番台の頃には鉄板プレスのアームに真鍮の軸受け圧入へ変わっています
(余談ですが、最近の出品を見たところ2065型というのがあり、その時点でプレスタイプとなっていました)。



こちらは基台の銘板。
見ての通り塗装のはみ出しがあり、銘板だけ後から黒塗りされています。
元の塗装は恐らく漆でしょうから、剥離剤が使えるはず…





OK。全体も磨きました。



次はモートルの磨き。
こちらも一部再塗装らしい垂れ跡が見られましたが、艶や質感からすると微妙な線。
あまり弄らず素直に磨いてみる事に。

場所によって上塗りが脆くなっているようで、やりすぎると結構剥がれそうな感じ。
良い塩梅というのも中々難しいものです。
アフターは例によって撮り忘れにて失敬…

続いて、ファンを磨く前に本体を組んでいきます。
部品が場所を取るのと、今回のファンは歪みがあるため修正したいから。
実際に取り付けて手で回しつつ、可能な限り曲げ直すのです。



…と、分解時に気になっていたのがこのシム、というか樹脂系のワッシャ的な…?
これがモートル取り付け軸(首振り部分)に入っていたのですが、2000番台の機種では見た事がありません。
三越の7017型には確かにありましたが…というかこれ、外周も荒仕上げだし、ユーザの手作り部品では?



てな訳で、清掃の済んだベアリングに載せてみました。
もう明らかにNG。
内側に見えているシルバーの部分がベアリング上面なので、シムが載っているのはもう一段上。
このままモートルを付けると、ベアリングが効かない状態で首振りさせる事となります。



念のためモートル側にも仮付け。
ベアリングと接するのはもう一段細い部分なので、この場所にこのシムが居るのはダメなのです。

ここで先ほどの摩耗したスクリューギアを思い出しました。
もしかすると、抵抗の大きなまま首振りを続けた結果の異常摩耗だったんじゃないかと。
単なる長期使用ではなく、間違った整備(改造?)による可能性が出てきました。

まぁ、いずれにせよこのシムは外して組みましょう。
しかし何でこんなの入れたんでしょ。
ガタ取りなのか、敢えて首振りの速度を落としたかったのか。



グリスに埋もれてしまいましたが、ギアの間に居た真鍮シムは、遊星ギアの押さえプレートに乗せました。
7017型と同じ位置です。
スクリューギア・ヘリカルギアの当たりも変わりますので、偏摩耗にも効くかもしれません。



こちらはファンガード。
本来はもう少し後の工程ですが、この先は雨が増えるようなので、天気のいい内に塗装を済ませてしまいます。
このガードは鉄製のため、粗く錆び落としをしてからの塗装です。
が、錆の影響で凹凸は残ります。しかし真鍮製には無い味。それもまた良い。



エンブレムの磨きを先に済ませ、錆び落としとマスキング完了。
錆鉄用塗料で塗ります。
アサヒペンの錆鉄用スプレーです。

この塗料、錆の上から塗れて防錆効果が高いのが美点ですが、乾燥に暫くかかるのが難点。
なので冬季や湿度の高い時期はあまり使いたくありません。あと急ぐ時。
それとミストが強力で、缶を持っている手にもガンガン降り掛かります。
なので使用時は両手に手袋がお薦め。あと黒い服か汚れても良い服。
普通のスプレーの感覚でやると色々と汚れてしまいます。
やはりシャーシの高級錆止めと同様、ベトつきが強いようです。
それ故にミストも粗いのかと。





ガードの乾燥を待ちつつ、今度はファンの磨き。
さぁ面倒なのがやって参りました。
まずはいつもの通り酸化膜落としから。





今回は結構頑固でした。流石100年の重み。
羽根の先端付近はどの個体も酸化の強い箇所ですが、今回は全体へ2回施工してこんな感じ。
どうしても残る部分も弱くはなっているので、スクレーパで軽く落としてピンポイントで錆び落とし。
この後は磨く前に歪み修正を行います。





一回目の磨き完了。
今回は準備の酸洗いをしっかりやったからか、16吋ながらサクサクと磨きが進みました。
そして磨いてみると、痛んでいる一枚が目立ちますね…
まぁこれも歴史という事で。



二回目も完了。取り付けまでやってしまいました。
ここまで来ればレストア工程は終わったも同然。

とはいえ、今回はスイッチノブの補修もありました。
上面は後方、下面は前方がそれぞれ欠けています。
上面はまぁ良いとしても、下面はバーが出てしまっているので感電の恐れあり。
故に上面共々パテ補修してしまいます。
まぁ100V程度なら…とか言ってはいけない。一応資格持ちなんだから。



実はこれはtake3の図。グレーの部分はロックタイトのパテですが、僅かに余っていたのを使ったのが悪かったか、しっかり練ったつもりが混ざり切っていませんでした。
削るとチョコチップ的に練られなかった箇所が出てくる有様。
それによる硬化不良が2回続いてしまい、残りも無いのでポリパテに切り替えた次第です。
強度と色的にどうかと思いましたが、まぁ問題無さそう。





盛りました。
ポリパテはちゃんと混ぜれば(後は古くなければ)1時間で固まるので便利です。
ただ多少緩めのテクスチャなので、しっかり盛って造形するには何回かに分ける必要があるかも。





さて、こんなもんかしら。
一応ローレット模様もそれっぽく刻みましたが、色を塗ってみるとスジ彫りが1本おきに…
まぁ気にしない事にします。



これでやっと組み立てに入れる…ので、早速コードの被覆を補修します。
今回は3台目の芝浦16吋(雷光ガード)にして初となる、オリジナルの生きているモートル配線です。

で、布巻きになっている箇所はまぁ良いとして、基台の中でゴム被覆だけになっていた箇所…がこちら。
もうゴムがほとんど消失しておりますな。
残っているのはゴムと芯線の間にある糸巻きだけ。



なので収縮チューブで補修。





からの碍盤取り付け。
電源線は綿打ちではなく袋打ち。

手持ちから掘り出してきた当時モノですが、もう在庫がありませぬ。
一応新品のカラー綿打ち(風)を売っているのも見つけまして、それもまた良いのですが、やはり当時モノには敵いません。
特に思い入れのある機種くらいは当時モノを使いたいところ。
オクを注視しときましょうか。

雷光ガード(2000番台)の芝浦は、電源線とモートル線の穴が同じサイズなので、電源線に綿打ちを使うとブッシングがかなりきつくなります(線にもよりますが)。
知っている内では7000番台以降だと穴が大きくなるので、綿打ちでも普通に通ります。
モートルへ行く線の穴もスプリング施工に伴って拡大されているので、使うブッシングも分ける必要が出てきます。

後はファンとガードを付けるだけ。
ファンの仕上げ磨きから取り付けは一気にしてしまわないと、余計な汚れや指紋がファンに付いてしまいます。
そして油の塗布までやってしまうのです。





完成しました。
エンブレムもいつも通り綺麗に。



プラグはドナー先の予定だった2024型に付いてきた物を使いました。
逓信省認定番号の無い物なので、時代的にも合っている筈。



という事で、同じ「雷光ガードの芝浦16吋」である2025型と比べてみましょう。
正面はほぼ同じです。



背面もほぼ同じ…ですが、長さだけ異なると思っていたモートルは直径から違っていました。



背中合わせで上から撮りました。
明らかに径が異なっています。
よく見れば首振りの切り替えつまみまで変わっています。
これがどういう事か考えてみましょう…

モートルの専門家ではないので掠める感じのアプローチになりますが、確かに2024型のレストア時には、「ロータが随分大径に見えるなぁ」と思ったものでした。
それもその筈、というのが上の写真ですが、モートル自体が「短い大径」から、「長い小径」にMCしたわけです。

タイヤの径に例えるならば、大径は慣性が大きく素早い加減速に不利だが最高速は上がる。
小径はレスポンスが良く登坂や抵抗での減速に強いものの、一回転で進む距離が短く高速が伸びない。
ミニ四駆の基本で出てくる話です。

今回はタイヤではないので移動速度は関係ありません。
単に回転数の話と見れば、より高速回転に適したのはどちらかと言えば後者…即ち「長い小径」になりましょう。

ドリルの径とボール盤の変速で出てくる角速度の話からも、逆説的に同じ事が言えるかと。
太いドリルほど角速度が上がるので低速で回す、というアレです。

さすれば、記事の最初の方で「トルクアップのために長くしたんじゃないの?」と書いたのはちょっと外れだったのでしょうな。
「小径にして回転数を稼ぎ、小さくなった分ロータにかかる磁力を落とさぬよう長くした」が正解かと思われます。
とか言っといて的外れだったら申し訳ございませぬ。

思えば、GEの「パンケーキ」辺りを見ても、その後の機種よりモートルが平たくて直径が大きいんですよね。
なので初期の扇風機(モートル)はそういう設計が普通だったのでしょう。
それが時代を経て、より目的に最適となるよう進化したのかと。
単なるデザイン変更ではない、性能や生産に関わる部分のMC…地味ですがアツく深いです。

そして最後に…



基台の下部、ビス穴のあるフランジ部分の厚さも違いました。
強度上問題無いので、余分な厚さを減らしたという事でしょうか。
ぱっと見は殆ど同じような機種なのに、見比べると色々進化しているんですね。



次回…まだまだ続く戦前のマシン達。謎の川崎型がやってきた、です。

何だか昔のアニメっぽいな。ロボットじゃなくて扇風機なんだけど。
あと、時期は未定ですがガラッと時代を進めて、三菱・電子コンパック特集とかやりたいなぁと。
戦前の機種をご紹介する裏で着々と集まっているのですよ。
…全部手入れできるのはいつになるであろうか。
ブログ一覧 | アンティーク家電 | 趣味
Posted at 2023/05/21 23:10:29

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