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2023年07月22日

探すと出ない戦前の換気扇 25糎交流通風扇 芝浦製作所 C-7089(昭和10年頃)

梅雨でありながら、ここ数年の通り「雨の多い夏」のような感じとなっておりますこの頃。
屋外作業は日の陰ってから…となりがちです。
と言っていたら東北も梅雨明けと。今年は季節が早いですなぁ。

そんな中、今回は珍品が手に入りましたのでご紹介しましょう。








タイトルの通り、当方初となる換気扇でございます。
銘板には通風扇とあり、SEWマークのある通り芝浦製作所製です。

型式はC-7089、型式認定番号は9-0,130。何故かカンマが付いている…
前オーナは「昭和30年頃のもの」とキャプションを付けておられました。
しかし型番と以下の特徴より、戦前の製品ではないかと予想ができます。


・銘板は真鍮製でメッキ無し、エッチング部分が黒

・羽根が真鍮無垢仕上げ

・社名が芝浦製作所(逓信省型式認定あり)

・銘板の漢字が旧字体


銘板には「壓力(圧力、換気扇故の性能表記)」の下に何故か実用新案の番号が書かれていますが、これはヒットしませんでした。
扇風機でも該当無しになる実用新案・特許・意匠登録番号がよくありますが…古すぎるためなのだろうか。

話を戻しますと、理由に挙げた1,2番目は、戦前製扇風機に共通する特徴です。
絶妙なのは3番目でして、型式認定が始まったのは昭和10年の事。
そして芝浦製作所は、昭和12年に東京電氣と合併し東京芝浦電氣となっています。
つまりこの条件が揃うだけで、概ね2年間の製造と見られるのですね。

ちなみに、東京芝浦(東芝)誕生後にも「芝浦製作所」を名乗った企業が実は存在します。
現在の社名は芝浦メカトロニクス。
東芝から一部の事業を継承する形で、昭和14年10月に芝浦京町製作所として誕生、12月に芝浦製作所と改称しました。

時期的にはこちらの可能性もありそうですが、当初の本業は重電分野だったとの事。
元の芝浦製作所もそうでしたから一層関わりがありそうですが、C-で始まる7000番台の型式名は、東芝に受け継がれた12吋扇風機の名機・睡蓮にも通じるもの。
もっと言えば、この通風扇の戦後型と思しき機種が東芝のカタログに載っています。





こちらは昭和30年版の東芝扇風機カタログ。
睡蓮など、戦前から見慣れた機種に交じって、これとよく似た外観で12吋標記の換気扇が載っています。
扇風機と違って実用性に特化していて良い物のため、ほぼ形を変えずに生産が続いたのでしょう。
ここからも、本流の東芝系…即ち昭和12年以前の芝浦製作所製ではないかと考えられます。

そこに型式認定番号がありますので、最古でも昭和10年かなと予想してみました。
ちなみに銘板にあるシリアルは「3789551」。
もし頭の2桁が製造年だとすれば、それでも昭和12年となりギリギリ合う計算です。
とはいえ番号の規則性が不明なので何とも言えませぬが。


旧字体については、いきなり全国規模で切り替わった訳では流石にないようです。
昭和21年の当用漢字制定後、暫くかけて移り変わったと言われているとの事。
そもそも昭和21年と言えば終戦翌年ですから、この点から言っても「戦前製」である可能性が高くなりそうです。

なお、SEWマークも根拠となりそうなのですが、こちらは東芝となってからも使われたマークなので何とも言えません。
戦後の昭和20年代、「東芝(傘マーク)」・「SEW」・「マツダ」という3つのブランド標記が乱立状態となった時期があり、「ひまわりR-1(C-4760)」等の扇風機にも、初期型にはこの特徴が現れています。
ファンガードには「SHIBAURA」と「SEW」が付き、社名は「東京芝浦電氣」、電源プラグには「マツダ」といった風に。
ラジオについては元々東京電氣系であるからか、SEWは付かずにマツダと東芝だけだったようです(初期には「ジュノラ」等、芝浦製のものもありましたが)。

SEWマークの消滅はどうやら昭和28~29年に掛けてのようで、扇風機の広告から読み取れば昭和28年の時点で「東芝扇風機」と称しており、「芝浦」を象徴するSEWが相応しくなくなってしまったようです
(論文「我が国における扇風機用の機能,形態及び色彩の変遷」より)。


また、同じ「戦前の電動ファン」という存在ながら、換気扇は扇風機に比べて圧倒的に現存数が少ないと思われます。
まぁ考えてみれば当然なのでしょうが、嗜好品・贅沢品より実用品の面がほぼ100%で、購入後は壁なり何なりに固定されてしまい、外す時は買い替えか建物解体時…というのが換気扇の主な立場・ライフサイクルでしょう。

そんな背景を鑑みれば、例えば芝浦や三菱の極初期型扇風機ですとか、川崎型電氣扇後期型のバリ物等よりもレアリティは高いかもしれません。
それが価格や見出される価値に比例するかどうかは、また別ともなりましょうが…
未再生現役ワンオーナーだけどマイナーな商用車、的な?
自分はそんなのこそ大好きなのですが。



さて、それではいつものように手入れしていきましょう。
今回は換気扇という事で、あまり作業も無さそうですが…違う部分もありそうな予感がします。

どう手を付けるか考えましたが、せっかく取付枠兼ガードで自立しているので、先にエンドベルを開けてみたいと思います。
扇風機と異なり密閉構造なので、軸受けの油交換と電線交換が主たる目的となります。

なお、この時点でしっかり動作はします。
手でファンを回すと「コー…」と言って軽く回りますので、軸受けは滑りではなくボールベアリングの模様。



銘板は軸受けカバーを兼ねておりました。
そして中にはスプリングが。
やはりボールベアリングで当たりでした。

スプリングはアウターレースをロータ側へ押し付ける役目をしているようです。
今でこそ時間の経過で固着状態ですが、本来は割とすんなり抜ける構造なのでしょう。

して、扇風機とよく似ていながら何故ボールベアリングなのかと申しますと…
恐らくはメンテナンス環境の差ではないでしょうか。
扇風機の簡易的な滑り軸受けは、コストと騒音低減には有利ですが注油が必須になります(この時代は)。

対してボールベアリングならば長期間メンテフリーにできますし、騒音については換気扇なのであまり問題にならないでしょう。
それらのプラス面がコストのマイナス面を上回ったから、だと思います。



そのため、取外しにはギアプーラの出番となります。
ベアリングのインナーレースと軸はぴったりの寸法で軽く圧入してあるので、こうしなければ楽に外す事はできません。
一方、圧入とはいえあまりキツくはないようでして、プーラは手でも回せる程度でした。



取れました。
ベアリングはやっぱり半バラ状態となるので、取り付け時はインナーレースを先に圧入してしまうのが良さそう。
アウターレースごと外せれば、もっと深く洗浄できそうですが…ファン側も同じ構造でしょうから、飽くまで簡易にした方が身のためと思えます。
インナーレースが完全に外れ、ボールもリテーナごと遊ぶくらいの作りなので…戻せなくなりそうで怖い。
また、エンドベルの裏面は軸穴程度にしか開口しておらず、アウターを引き出すには軸を前から叩くくらいしか無さそうです。
…内掛け式のベアリングプーラは持ってないし。

内部は正しく戦前の扇風機と同じ見た目をしており、最早見慣れた感すらあります。
電線は綿打ちや袋打ちではなく、現在で言うCT。ゴムのキャブタイヤです。
とはいえ店頭売りのものより若干細いらしく、買ってきた1.25SqのCTではぎりぎりブッシングが入らなさそう。
引き出し部からの直角カーブも、外装そのままでは無理でしょう。
さてどうする。



とにかく既存の線を外しましょう。
扇風機と同じく、絶縁テープを切ってハンダを外します。

コンセント直結なので単相運転ですが、モートル(コイル)自体は引き出し線が3本の分相タイプですね。
片方が2本の引き出し線に直結しています。



電線は0.75SqのCTを通販で買い直しました。
これでブッシングも入るはず。



お次はエンドベルを戻すべく、ボールベアリングの清掃。
パーツクリーナとブラシで古いグリスを落としましたが、ここで一つ発見。
ベアリングのアウターレースに「SKF GERMANY」の刻印が。

SKFは明治40年創業のスウェーデンの機械メーカで、ベアリング生産の世界最大手との事。
ドイツ進出は翌年の明治41年ですので、予想した時代的にも十分マッチします。
そしてこの換気扇の製造年として予想した昭和10年頃のドイツと言えば、正しく第三帝国の時代。
時と国を超えて目の前にあるとは感慨深し。

そして洗浄後に判りましたが、青白く見えていたリテーナは真鍮製でした。



こちらは別の刻印。「E8」と「CE」。
CEは欧州製品のCEマークでは当然ありませんので、ロットか工場の記号でしょうか。
そしてE8ですが、こちらは現在も販売されているSKFの品番らしいです。
こういった部品は早い内に規格が決まっていると、それこそ100年単位で供給が続いていたりするんですよね。
…て事は万が一があっても交換が利くって訳だ。これは安心。



さて、エンドベルを戻したら次はファン側のベアリングです。
エンドベル側は予想通り、インナーレースを先に軸へ入れ込んでしまい、後からボール・リテーナを入れる順番で行けました。
こちらはバラさないので簡易的な清掃とスプレーグリスでの充填に留めます。
まぁその気になればバラせるんですが…そこまでやる必要も無いかなと。



やりやすくするため、このタイミングで取付枠と分離しました。
油と埃の汚れはありますが、換気扇というモノとして見ればかなり綺麗なんじゃないか…?
少なくともキッチン系ではないところで使われていたのでしょう。



側面。これより汚い扇風機とかあるからなぁ。
しかも取付枠が錆び気味なので、ここだけ磨く感じでもあるまい。
簡単に済ませましょう。その方がバランス良く仕上がるはず。
…とか言っておいてファンは磨くんですけど。
ファンの輝く換気扇なんて、そうそう無いだろうな。



こちらは銘板。
順番が前後しましたが、エンドベルの軸受けカバーと共締めなので、先に仕上げてしまいます。



綺麗になりました。
扇風機と違い、印刻部分も削れている印象はありませんでした。戦後の製品っぽい感覚でしたが…多分戦前製だよなぁ。

で、ふと気になったのが左下の小さい番号。「8700185」という奴です。
これは恐らく銘板自体の品番と思われ、芝浦の扇風機にも付いているものです。
そしてこれ…時代によって書式が変わるんです。

所有する中でも古い世代、大正期の機種は「V-709001」(大正8年、2020型の主銘板)のように、V-7で始まります。
7017型等、大正末期から昭和初期にかけては頭に記号が無く、数字は8からスタートになり「8700021」(7017型の主銘板)のようになります。
C-7067高能率型なら「8700101」。近づいてきました。これは昭和9年の製品です。
睡蓮でおなじみC-7032型の主銘板は、日本語表記タイプなら「8700170」。かなり近い。
肝心の日本語銘板睡蓮が何年製なのかが不明ですが、とにかくこれと同時期だろう、という予測が立ちました。
戦後の製品はまた頭に記号が付くようなので、やはり戦前製と考えて間違いなさそうです。

さて、本体が終わりましたので次はファンですが…





こいつ換気扇のくせして真鍮無垢ですぜ。
誰だお前。別に良いじゃないか。
塗装仕上げの方が好きか?

という事で何故か無垢仕上げのファン。
傷もあるのでもしかすると後年に剥離したのかもしれませんが、とりあえず無垢になってから長そうなので研磨仕上げします。
塗ってから落として磨くのは大変ですが、磨いたものを塗るのは簡単ですし。

本来の姿が気になったので少々調べてみますと、当時の芝浦製品の元ネタであろうGEの換気扇がヒットしました。
手持ちの大正8年版カタログに載っている、16吋6枚羽根ファンの方でしたが、そちらはやはり真鍮無垢羽根でした。
なので当時の換気扇は扇風機に準じた仕上げと見て良いようです。





いつものように酸化膜落とし。





そして磨き。
それなりに傷があるのと、やはり換気扇(即ち十割の実用品)なので、あまりこだわって磨きはしませんでした。

なおこのファン、羽根が四角く同時期の扇風機とは大分印象が異なりますが、実際に見ると厚みが全く違いました。
サイズや軸径からすると恐らく扇風機にも付きそうですが、扇風機のファンと比べるとかなり分厚いのです。

この時期に有圧換気扇という物が存在したか否かは不勉強故に知りませんが(形状からの見分けも含め)、何となく圧に負けないための板厚なのかなと思います。
後は耐久性…真鍮なので錆には強いですが、長期間回しっぱなしにするのを考えると腐食の他に振動が気になるはず。
なので、強度とブレ対策のための厚みかもしれません。



そしてプラグ。
貴重な型式認定無し時代のマツダ製です。
恐らく製造時or設置時からのオリジナルでしょう。
よくぞ残っていてくれました。







という事で完成。
当初は30cmばかりの短いケーブルにプラグが付いており、恐らくすぐ横の壁面にコンセントがあった環境だったと思われます。
とりあえず現状は3mのCTケーブルにそのままプラグを付けました。
設置状況が決まり次第、詰めたり何だリしたいと思います。



動作中。
加速はやや鈍いですが、なかなか強力な風が吹きます。
流石換気扇。



寄ってみました。
ボールベアリングのお陰で、電源を切ってからの慣性での回転時間が非常に長いです。



さて、本音を言えば壁面や窓に取り付けたいものですが、流石にそれは厳しいかと。
規格は現代と全く違いますし、何より重いので適当な設置は色々危なそうです。
シャッタも無いので、それも考えないといけません。

角材か何かでスタンドを作って置き型にしてしまおうかな。
サーキュレータモドキとして。
吊るして全方位扇にする、という奇天烈な案も有りか。
それこそ重量が気になりますが…
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Posted at 2023/07/22 23:23:34

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