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2023年09月30日

松下幸之助の碍盤 川北電氣企業社 N型(首振り無し) 大正6年 1/2

今年の夏は特に異常な暑さが続いていましたが、何とか落ち着いて秋めいて参りました。
春は花粉が飛びますので、秋が一番好きなのですが…最近は秋の存在感が希薄で困ります。

職場で聞いた話では、出張でバリ島へ行ったら日本国内より過ごしやすかったそうで…
気温は大差無くとも湿度が低かったとの事。
個人輸入代行の方にも丁度お話できたところ、今は乾季で過ごしやすいシーズンらしいです。

自分も現地のトラック・バスカスタムから入るという変わった切っ掛けで、昨年からインドネシアに興味が湧いていましたが、「気温30度でも通年それで安定してるなら、慣れたら住みよいのでは?」と思っていました。
赤道直下の日常より厳しい最近の夏を思えば、実は一理あるのかもしれません。
しかし「バリへ避暑に行く」というのも中々パワーワードな気がしますが(笑)


さて、そんな夏もやっと終わりが見えてきましたが、相変わらずに夏の家電と戯れ続けます。
この先、木々の葉が落ち雪が降ろうとも。
そんな今回のお題はこちら。



既に分解状態でスミマセン。
川北電氣企業社のN型、首振り無しタイプです。
S型に続いて同社が一から独自に設計製造した2番目の機種のようです。
製造年はエビデンス付きで大正6年と分かっています。

この個体が分解されているのは他でもなく…購入後3年ほど眠らせていたから。
収納上の都合で箱サイズを押さえるべく分解していました。

購入当時に修理をしなかった本当の理由は忘れてしまいましたが、恐らく部品不足とコイル断線か何かでやる気を失ったのでしょう。
先日購入した部品取り機からいくらかは調達できたものの、まだ裏蓋と仰角固定蝶ナット(ノブ破損)、モートルケースの袋ナット(2個代用品)が足りませぬ。
真鍮のファンガードも歪みは無いものの、骨が2本折れて外れています。
取り付けが溶接やろう付けではないカシメ式で、更に無塗装とあって直し方に一工夫要りそう。
とはいえ形になる程度には揃ったため、この度着手と相成りました。

なので今回は、普段のそれなりに良好なベースとは趣が異なります。
ちょっとボロいけど行けそうな個体を復活させてみよう、というもので…レストア本来の在り方に近いかもしれません。


さて、この機体についての情報は「タイフーン」の事をパナソニックさんとやり取りする中で、副次的に頂けたものです。
早速話が逸れますが、タイフーンは部品集めが難航しており、もう暫くは眠ってもらう事となりそうです…
似た時代の似た機種は時々出てくるので狙うのですが、軒並み高騰してしまい手を引くのを繰り返しています。

このN型は、川北時代のタイフーンに始まる歴代製品を記載した資料抜粋の中に記載がありました。
大正5年デビューのS型に続いて大正6年~7年にかけて販売された機種で、途中で首振り機能が付加されたようです。
実はそちらも眠っていたものがあり…近々レストアに着手予定です。

型式名は単純にアルファベット順ではないので…何か理由や法則がありそうです。
タイフーンがシーメンスの協力を得て作られ、自社製造もそれを基にしていたので、SiemensのS型なのでしょうか?
でもS型は下記の通り、初期はイタリアMarelli社の製品を模していたようです。
そしたらNに該当するメーカってどこだろうか。ちょっと思い当たりません。
Nelsonという会社はアメリカにあったようですが…全く似ていないので違うでしょう。

S型の方は大正6年にMCを受けており、本体形状がマレリー型から変更されたとの事。
手元にはそのS型の実機もあるのですが…どっちなんだろう。MC前か後なのか。
このN型とそっくりだからMC後だろうな。

そしてその資料にはN型の仕様も簡単に記載されていましたが、下記のようになっています。

・回転方向が左となる
・速度調整がリアクタンス式となり、コンパウンド製碍盤を使用

首振りについては別項に書かれており、一重首振り機構を外枠のボックス部分に収納とあります。
カムとアームがカウリングされている、MURZを経て戦後のナショナルまで続く特徴はこの時に出来たようです。
わざわざ「一重」と書かれている通り「二重」もあり、これは「うづまきガード」のK型以降に採用された機構。
大正8年10月25日に実用新案登録との事です(第50219号)。

また碍盤については、別資料にてあの有名な話も見られました。
松下幸之助氏のサクセスストーリーの発端となった、「川北向けの扇風機碍盤」です。
同社が松下氏に碍盤1000枚を発注したのは正に大正6年の事であり、1枚16銭だったとの事です。
そのため今回のN型に使われている碍盤は、松下氏謹製の物の可能性が高いでしょう。
…流石に最初の1000枚の内の1枚って事は無いでしょうけど。

余談ですが、川北の他は富士電機などが採用していた「左回転ファン」についても少々触れてありました。
何でも試験用風速計の回転方向に合わせると技術的に都合が良いとの事で、各社右回転になっていったそうです。
そこから考えれば、戦後昭和40年代の自社製造末期まで左回転で粘った富士電機は、「富士サイレントファン」ブランドの一要素としてこだわりを持っていたのでしょうね。


それでは直してみましょう。
部品は足りないながら各部の状態は案外と悪くなく、今後更にアップデートができそうな予感です。

とにもかくにも本体を分解せねばなりませぬ。
既にマイクスタンドとなっていますが、ここからスタートです。

入手時点でモートルへの配線が切れておりましたが、コイルの導通は…NG。ヒヤリとする瞬間。
とりあえず単相なので交換するコードは2芯で良く、古い袋打ちのジャンクから切り出して使えそうです。
三相の方が動作の質は良いですが、単相のメリットはこんな所にもあるのです。



開けました。
うわぁ…



うわぁ…(2回目)
引き出し線が片方根元から切れ、巻き線部も合計6か所の断線。
ここまでザックリと切れているのは初めてです。
巻き線部は絶縁シートごと奇麗に削られた感じなので、鼠か何かが齧ったのでしょうか。
Gはさすがに銅線までは切らないでしょう。
購入時にそっと閉じたのはこれが原因だったかな。

この前の部品取りからコアも抜いておくべきだったか…
でもあれK型だったからな。同じ左回転だけど寸法が違うかも…



とはいえ何もしなければ何も変わりません。
じっと探れば、ちゃんと一対一に対応する線が見つかるものです。幸運でした。
それをちゃちゃっとハンダした写真です。



折れた引き出し線は、写真左側の隈取り巻き線端部に見える銀色の点の位置(ってこの写真じゃわかるかい)。
根元から折れていて、強引にハンダしようにも面積が足りなさすぎる。
ならばとすぐ横の巻き線を削ってみれば、数Ω程度の差で導通が取れました。
それが銀色の線に写っている箇所。
だったらここで良いや。時に思い切りも大事なのです。

進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む…誰が榊歌淡だ。
いや、それを言うなら諭吉先生でしょうよ。

彼女が人形師ならば自分は修理師ってか。
それこそ歌榊村みたいなところで、車や扇風機と戯れて生きられれば…
でもあそこはちょっと縛りが厳しいか。

妄想終了。
引き出し線はオリジナルの線を使おうと思ったところ、外装の布がちょっと動かしただけで崩れる程に劣化進行していました。
なので電源コードの解れた部分を切り詰めた余りをリサイクルする形にしました。
この個体に付いてきた電源コード、引き出し線とほぼ同じ色の綿打ちな上にかなり長かったのです。





という事で、コイルが嘘みたいな復活を果たしたようなので先へ進みましょう。
本機は首振り機構が無いため清掃は楽なはず。
しかしグリースカップが固着しており、モートルケース側(フロント)はフェルトが切れ、エンドベル側(リア)はフェルトだけエンドベルへ残るという珍現象発生。
切れたフェルトは新しく作ろうか…。



裏面です。
表側がそこそこ汚れているのに対し、意外とさっぱり。





ハイ奇麗。
やはり戦前機と言えど、これくらい初期の物は漆塗りが多く磨くと光ります。
フェルトはパーツクリーナに浸しながら抜こうとしましたが、残念ながら千切れました。
今回の個体はグリスの劣化(による固着)が一際進んでいます。
煮凝りを通り越して土のようになっているのは初めてかも。



こちらはモートルケースの方。
一見普通な感じですが…



グリースカップの付け根は緑青が吹いております。
鉄と真鍮の異種金属が合わさる部分ですが、こうなっている個体は意外と出会った事がありませんでした。
油分のお陰でしょう。
グリースカップ側も凄かったですが、それは後程。





これも奇麗になりました。
フェルト軸の通る穴には切れたフェルトが残っていましたが、カチカチに固まっておりドライバで押す必要がありました。
これもまた珍しいくらいの固着です。
大抵は油分がある程度残っていて、ネットリしながらも抜けてくれるのですが…

なお、カップ内のグリスはこのようになっておりました。



掘り出したグリス。土じゃありません。
チョコミントでもありません。
ドライバで掘ってもしっかり固いくらいには固まっておりました。
グリスって一世紀経つとこんな事になるんだね…

ふと思えば、ゴムブッシュ付近や軸周辺に薄く固まっている油はこの状態なんですよね。
あれは物理的に薄く広がった分、油分が早く飛んでそうなったのでしょう。
しっかり体積がある状態で変質しきると、このように土状態になるものと思います。



モートルの再生に目途が立ったので、基台の方に入ります。
裏蓋は元々失われているのでいきなり碍盤外しから。



すると…思いのほか長くコードが引き込まれていました。
この頃の川北製はモートル引き出し線がやたら長い印象ですが、これで正しいようですね。

そして、この碍盤は冒頭にも書いた通り「コンパウンド製」。
確かに軽く、質感も陶器よりプラスチック系の感じです。
型からの抜けも良い印象。エッジがシャープです。
恐らくベークライトかその仲間でしょう。
後年のマーツライトに繋がるのかしら。
富士電機もこんな素材だった気がします。
あっちの名前はレペリットか。



清掃と端子磨き、接点グリス塗布を施して完了。



単体となった基台です。ゴムブッシュ崩壊しているので撤去しました。





良い艶です。
やっぱり磨いていて楽しいのはこの頃の機体ですね。





こちらは何気なく手つかずにしていたロータです。
これも軸が真っ青に。
下の写真がリア側ですが、こちらも少々の緑青と腐食による凹凸が。
清掃の後は磨いてやらねばならんかね?

油の劣化度合いが飛びぬけている一方、ホコリの堆積はほぼありませんでした。
あまり使われずに放置状態になってしまったのでしょうか。
ガードの状態も悪くなく、真鍮無垢パーツも割といい感じなので案外遠からずかも…?



ロータのリア側に入っていた圧縮紙シムは分解時に崩壊してしまったので、初の試みとして自作してみました。
ガスケットシートを使いましたが、中々近い質感で良い感じ。



そして真鍮小物達。
夏バテなのか何なのか、普段から生気溢れる方ではないのが更に落ち込み気味なので、軽い作業を進めます。
本機は他に見られない特徴として、モートルケースの袋ナットやファンガードといった部分も真鍮無垢仕上げです。
なのでグリースカップと一緒に錆び落としを行い、軽く磨いてしまいます。
袋ナットが2か所代用品なのが惜しい所…同じ川北製のK型から取ったものですが、すり割り付き六角ナットでした。



こんな感じでどうでしょう。
上の写真で撮り損ねた物も揃いました。

すり割りには定番のササクレが出ていたので、ついでに少々修正。
なお、エンドキャップもK型のものですが…合わせてみたら大きさがかなり違いました。
キャップの外径よりエンドベルの穴が大きく、すっぽりと入ってしまいます。
仕方ないので、板でも切り出してスペーサというかレデューサというかにしましょう。
色々と部分品の足りない中での修理なので、こういった実験的な試みも精神的ハードルが低くてよろしい。



ちなみにグリースカップは始めこのような状態でした。
緑青が付いているのがフロント側にあった方です。
両方ともフェルトを保持するスプリングがグリスで固められていました。





何だかやる気が出ず、ずるずると放っておいてしまったモートル。
メインの部分品は再生が済んでいるので、9月の3連休で作業を進めました。

写真は首の軸と軸受け。
この個体は首振り機構無しなのでベアリングは無く、軸の凹部に嵌るロックビスの締め具合で左右動のフリクションが決まる方式です。
軸受けに出ているピン状突起はお察しの通り回転止め。
ほぼ360°回転しますが、モートルコードの引っ張り防止のため一回転以上しないよう工夫されています。



マイクスタンド再び。
ここまで来ると、「コイルは繋げたが本当に回るのか?」と俄然気になります。



という事で、まずは配線とその準備。
断線修理箇所の絶縁を行います。
今回は複数の平行している線を補修しましたので、絶縁テープで下にある巻き線をまずカバー。
その後補修した線に交互にテープを潜らせて個々を独立させ、最後に全体を覆って完成としました。



こちらは引き出し部。
本来は直接綿打ちor袋打ちの布巻き電線が繋がります。
ですが今回は片方を巻き線に直接ハンダしていますので、テンションを逃がすために敢えて回り道させました。
完成後に引き出し線(布巻き)が引っ張られても、巻き線に結わえたビニルコードが受け止めてくれるはずです。
つまりは、半田部と細い引き出し線を守るため。



碍盤と仮接続して…



回りました。
3段変速の全段とも問題無く動いています。
良かった。これでダメでしたでは悲しすぎる。



今回は色々と手がけたポイントがあり、写真もかなり多くなりました。
本エントリはここまでで前半とさせて頂き、残りは後半へ続きたいと思います。
次はファンガードの再生からです。
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Posted at 2023/09/30 23:26:25

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