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2024年02月03日

本に載った個体の兄弟 ブルウル兄弟商会 22型商館時計 明治25年頃

今日は節分でしたね。
イベントとしては縁遠くなって久しい年齢(と環境)ですが、「鬼」というワードに常人と異なる感情の湧いてしまうここ数年でございます。

元より妖怪の類やオカルト話も割と好きな身でして、学生時代に嵌った東方プロジェクトでは、それらに対する認識が大分変わりましたね。
更に、ちょうど新シーズンの公開された鬼滅のファンと言う意味でも。
なお、私は言うまでも無く(?)鬼側のファンでございます。

今シーズンは控えめでしょうけれども、無限城に入ると出費が心配ですなぁ。
いや、それでもマシな方でしょう。
主人公サイドが推しだったなら、最初から最後までグッズやコラボが展開されますから。


さて、内容との乖離が著しい話をしてしまいましたが、今回も明治の時計でございます。
あの方が持っていたであろう時計もこんな感じでしょうね。
誰とはこの口からは言えませぬが。

またしても溜めていたネタですが、素人レベルの手入れですと、時計は扇風機よりも早く仕上がります。
よってネタの溜まるスピードも速いのです。

という事で今回の個体はこちら。





当方初のアメリカ商館、ブルウル兄弟商会の時計です。
ダイヤルに「Ho-o」とある通り、裏蓋のマークは鳳凰です。



ちょっとデフォルメされた可愛らしい鳳凰さん。
これとは別に立派な鳳凰のマーク(下部に「TRADE MARK」と併記)も同社にあったようですが、今一資料が見つかりません。



機械です。
到着時はゼンマイを巻き上げてあり、振ると少し動いて止まる状態。
分解清掃で行けそうな感じです。
ぱっと見アンクル脱進機っぽい天輪ですがシリンダー脱進機です。


それでは、初めて扱う商館なので概要を書いてみましょう。

ブルウル兄弟商会(Bruhl bros&Co./Bruhl Freres)は、この名前となったのは1888年(明治21年)の事でした。
元は1848年(弘化5年)にまで遡り、フランス人のダビット・ブルウル氏がアメリカで始めた宝石輸入業となります。
故にアメリカ商館ではあるのですが、アメリカ人による設立や経営ではありませんでした。
ちょっとややこしい。
まぁフランス商館とされるオロスヂ-バアク商会も、設立はハンガリー出身のユダヤ人2人でしたから、同じような例は他にもあるのでしょう。

話を戻します。
その後1880年にダビット氏は弟のモーゼス氏と共に「D.&M.Bruhl&Co.」を設立しました。
横浜に開業したのは1887年で、その時の名前は「D&Mブルウル商会」。
D.&M.Bruhl&Co.の支店でした。
「ブルウル兄弟商会」の名は、ダビット氏とモーゼス氏が引退する際、息子のポール氏とアンリ氏に継がれた際に変わったものです。

日本での同社の取扱い品目は電信電話・化学・天文関係の機械をはじめ、活動写真関係(キネトスコープ、キネトフォン)、フォノグラフといった今でいうAV機器、そして時計に自動車等幅広く展開していました。
特に自動車としてはアメリカ製蒸気自動車「ナイアガラ」を輸入した事が知られていますが、これが販売目的で輸入された車の第一号だそうです。
全ての新車並行輸入はナイアガラに通ず。

時計については自社での販売の他、服部時計店向けにも多く卸していたようです。
以前紹介しました、フォンテメロン製機械を自社ケースに収めた服部時計店の商館時計もこの一部かもしれません。
それがタイムキーパー20型の開発に繋がり、完全自社製造のエンパイヤを経て、現在のセイコーまで続くのです。
そう考えると壮大なスケールの話となりますね。

住所は居留地24番に始まり、1899年の内地雑居(外国人の居住・旅行・外出の制限撤廃、内地開放とも)以降は横浜市山下町61番A、1902年(明治35年)以降は同22番となりました。

時計に描かれたマークはブドウや競馬など多数あり、今回の鳳凰もその一つのようです。
商標登録などは見つかりませんでしたが、実はこの時計…あの「ポケット・ウォッチ物語」にほぼ同じ物が載っているのです。
それで扱った商館が判明した、というか購入に至った次第でした。







こちら。「写真4-38」のものです。
機械はブリッジが同じデザインながら構造は左右逆となっており、サイズも今回の個体(ケースΦ59)に対しΦ53と一回り小さいです。
しかし、ダイヤルの「Ho-o」や三段エトウ(ダイヤルが3段階に窪んでいる造り)が同じで、裏蓋のマークも同一という点から、同時期の同社取扱いで間違いないでしょう。
別途検索した折にも、商館スタイルではない時計で、裏蓋の鳳凰マークと共にダストカバーに「Bruhl Freres」の刻印がされているものの画像が見つかりました。
この鳳凰マーク、同社のマークとしては少々マイナーらしいですね。

なお、本には特に年代は書かれておりませんが、ダボ押し式且つシリンダー脱進機という事で、大体明治25年頃ではないかなと思います。


では分解清掃に参りましょう。



まずは機械の取出しから。
今回もダイヤル裏には何もありません…が、やたらと油っぽい。
ダイヤルに日の裏車が貼りついてきました。ギトギトです。
「よく分からんけど、とりあえず油をかけたら何となく動いた」って事かなこれは。
もう動いてないけれど。
そういえば日の裏車のシムって、入っていない個体が多い気がします。



ナンバーズマッチ確認。
オリジナルのペアと確定です。



ここからが本格的な分解になりますが、よく見ると過去の手入れの痕跡が現れています。
各ビスの頭の出具合や仕上りに微妙な差があります。
ビスがいくつか交換されている証拠でしょう。
ちゃんと場所を把握しておかないと、入らなくなったり変に飛び出たりしそう。



順当に分解していきましたが、やはり全体的に注油過多です。
角穴車裏は真付近に黄色い固まりができていました。



こちらはテンプ。
表から見ると「拙者チラネジ付きでござる」みたいな形ですが、一体成型なので実質丸テンプです。
チラネジ風の出っ張りの裏面を、ドリルで削ってバランス取りしてあります。

天真は無事ですがひげゼンマイは偏って…いや、油滴で張り付いていました。
どんだけぶっかけたんだか。
これではマトモに動かなかったのも当然。流石に素人でもわかる。
ひげゼンマイって、ちょっと曲げ具合が狂ったり偏っただけで、大幅に進み・遅れが出たり止まりやすくなったりするので。

そしてシリンダー脱進機なので当然アンクルはありません。
機械に対して小さいテンプだなぁと思っていたら、こんな事実があったとは。
シリン式故にガンギ車との距離が近く、ガンギ車ブリッジとの干渉を避けるのに大径化できなかったのでしょう。
まぁ悪い事ではありません。
一つの個性です。



香箱。今回は主ゼンマイは切れておらず、一応無事なようです。
この中もそれなりに油が。



全バラできました。
今回はエボ―シュメーカの刻印は無く、ただ22型のシリン式と分かったのみでした。
天輪の作りや8石という事もあり、普及グレードと言えるでしょうか。
しかしアンクル脱進機以前の個体という事で(?)、地板のグラスバックから見える面(裏面)は定番のペルラージュ仕上げ。
清掃後はどんな仕上りになるでしょう。



こちらは洗浄に使ったベンジンの写真ですが、地板と主ゼンマイを洗っただけでこの汚れ。
ギトギト注油の際には洗浄しなかったのかもですね。
…そんな事するなら当然か。バラさないでスプレーしたのかも。
他の部品は超音波洗浄をかけています。



組み立てて動作確認。
テンプの振りを見る限りは良さ気。
当初偏っていると思っていたひげゼンマイも、油を落としたら大丈夫そうです。
後はダイヤルと針を組んでみて、実際の歩度を見ないと分かりません。

タイムグラファー、いつか買う日が来るんだろうか。
費用は別として、日差や姿勢差も一瞬で分かって便利なのは承知ですが、いざ買ってしまうと精度を詰めたくなりそう。

携帯のアプリは使い始めましたが、どれだけ信用できるかは分かりません。
同じ条件にしているはずでも、測る度に結構違う値を出してきたりします。
その辺も含めてあくまで趣味ですし、古い精密機械なので寛容でもありたいものです。



さて、ところ変わってこちらはケースです。
全体的に状態の良い個体ながら、側面に大きい凹みがあります。
これが結構気になる…ので、デントリペア的に直せないかチャレンジしてみます。

なお、このようになっている個体がいくつか手元にあるのですが、いずれも蓋の跳ね上げバネが通る方が凹んでいます。
マーフィの法則的な事なのか…?
今回も同様で、今まではバネを外すのが少々怖く見送っていました。鉄なので折れたら嫌だなと。
下手に力を入れてケースを変形させたりヒンジを折ったり…なんてのも。
これが上手くいったら他のも直してみましょう。





鉄バネは無事に外せまして、仕上りも中々じゃないでしょうか?
流石に元通りとは行かずとも、この位戻ってくれれば良いかと思います。







ケース磨きも終わって完成。
22型ムーブメントを収めるケースが直径60㎜に迫る大型機です。

凹みができた際のものでしょうか、ダイヤルにヘアクラックがあるものの然程目立ちません。
「Ho-o」の銘は現代の感覚で言えば脱力というかダサいというかですが、時代背景を分かっていれば「味」に一変します。



今回のムーブメントは特に高級な仕上げではないものの、ウェーブした2・3番車ブリッジと、それに沿った4番車とガンギ車のブリッジがお洒落なデザインです。
チラネジ風テンプとシリンダー脱進機という組み合わせも、「アンクル脱進機のフェイク」と捉えてしまうとチープです。
しかし「丸テンプでも精度は出せますが?」というエボ―シュ工房の皮肉だったとすれば面白いですね。
そういう捻くれ者は大好きです。
実際、私の素人整備でも日差+1分程度になりました。
もう120年以上経っているだろうに。

ちょっと逸れますが、機械がバリバリに装飾彫りしてあったりすると価格は上がりますし、確かに見栄えも立派です。
そうでなくても、以前直した鍵巻き時代のファブルブラントや鶴印のコロン商会等、本当にハイグレードだと派手じゃなくてもカッコいい。
風格とも言えましょうか。

しかしこんな感じで「コスト重視ながらちょっと洒落っ気のある機械」というのも良いんじゃないでしょうか。
それもまた良し。という奴です。
これはスイスの時計でしょうけれども、テンプの件を含めるとフランスの車のような感覚がしてきます。
合理性と個性的な工夫が味と美しさを成り立たせる…みたいな。
ブログ一覧 | 時計他アンティーク系 | 趣味
Posted at 2024/02/03 23:05:44

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