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2024年03月03日

標準時計の前身、正体は巨人 逓信省 24型電話交換時計 大正期

今回も時計のネタですが、商館時計からちょっと離れてみました。
そしてこの文も一度書いては消し、もう一度書いたもの。
少々回り道がありました。

蘊蓄コーナーもいつもより長いので、作業をご覧になりたいだけでしたらスクロール推奨です。

さて、今回のお題はこちら。





いきなり2個写っていたり分解途中だったりで失礼…
とはいえどちらも役割は同じ。
ケース裏蓋に「逓信省」の銘が入った、通称「電話交換時計(交換時計、逓信時計とも)」。
24型機械搭載で、ケース直径は65㎜を超える巨大さです。

今回はこちらをニコイチにして修理しますが…本当なら左の個体だけで仕上がる筈だったもの。
その理由は後程。
メインとなる個体は右側の、風防が割れている方になります。


まずはこの時計の概要について。
電話交換時計という名前と逓信省の銘からも伝わってきますが、この時計は電話交換手が通話時間を測るためのものです。
交換局の写真を検索すると、机にスタンドを置いて立てていたり交換機に引っ掛けてあったりするものが出てきます。

日本で電話が使われ始めた、即ち電話交換事業が始まったのは明治23年の12月16日。
東京と横浜の交換局からのスタートでした。
市内通話は定額制で月額40円、現在の価値に換算すると約15万円だそうで…とても個人では持てない代物ですな。
更に市外通話は5分で15銭、大体2250円相当との事で、これを計測するための時計が電話交換時計となります。

ケース・機械とも懐中時計の様式に倣っていますが、このように壁掛けやスタンド設置で利用する時計ですので、24型という巨大なサイズです。
落ち運びはそもそも想定しない用途から、文字盤が大きく正確に時間を読める事が優先されたのでしょう。
後は交換機前の狭いスペースでも置ける事との両立かなぁ。

そして、昭和6年になると服部時計店(精工舎)がこの交換時計の供給を開始したそうです。
かの19セイコーがデビューしたため、それをベースとしてケースのみ24型にしたものでした。
そのため裏蓋を開けると、ケースに対して小さな機械が収まっている形でした。
陸軍精密時計や海軍甲板時計など、軍用にも派生したとの事です。
鉄道時計は昭和4年に先んじて登場しており、同じく19セイコーベースでした。

またこれがベースとなり、時計店向けの標準時計(修理調整の際に歩度の基準とするもの)にもなりました。
電話交換手が過去の存在となってからも、鉄道時計と共に昭和46年まで作られたそうです。
確か5姿勢検査で、検査証(時差記録)付きだったはず。


一方今回扱う個体は、特に精工舎や服部を示すマークは無く、機械自体が24型となっている古いタイプのようです。
メインとする方には内蓋裏に「ARGENTAN」や「SWISS MADE」の刻印はありますが、先に入手の方にはダイヤル下部の小さな「SWISS MADE」のみ。
共にメーカー不明です。

ではスイス製なのは間違いないとして、元ネタは何であろうか…
機械まで24型であるため、最初からこのサイズで設計されたのは確か。
ならば理由がある筈で、特注よりかは現地で別の目的があったと考えるのが自然でしょう。

調べてみれば、どうも正体は「ゴリアテ(Goliath Watch、巨人時計とも)」ではないかと思われます。
直径6cm(24型)以上の懐中時計をこう呼ぶのですが、身に着けて持ち歩くための時計ではありません。
戦前には懐中時計を「提げ時計」と呼んだ通り、馬車の車内に吊り下げて使うのが主だったようです。
大型の為かパワーリザーブも長く、30時間~8日巻きとの事です。

生まれた頃には馬車しか走っていなかった…誰がDIO様だ。
ですが真面目な話、ジョースター家にもゴリアテはあったかもしれませんね。ジョースター卿は爵位持ちの名士ですので。

「Argentan Goliath Watch」等で検索するとこれと似た感じの時計が出てきますから、19セイコー以前の時代はこれを輸入して交換時計として使ったのではないでしょうか。
…なんて考えたところで、「ポケット・ウォッチ物語にもゴリアテの記述があったなぁ」と確認したところ…



写真4-44としてしっかり載ってました。
「逓信省」が縦書きで機械もシリン式との事で別機種ではありますが、目的や特徴は同様。
これを斜め読みした時の記憶が朧げにあって、それで導けたのかも…
ちょっと内容を引用させて頂きますと、

「戦前、電話を所管していた逓信省には、通話時間を計るのに使い、交換時計とか、逓信時計とかよばれたゴリアテがあった。国鉄でも標準時計として使われていた。そういう意味で『業務時計』という呼び方もある。」

との事。
やっぱりルーツはゴリアテで合っていましたね。


という事で「とりあえず昭和6年以前のものであろう」というのは確かかと思われます。
19セイコー及びセイコーシャ鉄道時計のデビュー以前まで考えるなら昭和4年以前。
そして商館時計でおなじみの玉ねぎ龍頭でありながら、時刻合わせがダボ押しから龍頭巻きに進化している、という点からすると…
まぁ大正時代のどこかだろうなと予想ができます。
ダボ押し式の末期がちょうど明治終わりと重なり、交換時計が19セイコーベースになるのが昭和初めだからです。

この交換時計自体にも結構な種類があるようで、24型機械だけでも数種ある模様です。
19セイコーベースのものでも、銘が電電公社になったりセコンドが黄色と白で塗り分けになったりと進化していきました。


そして次に、予定外のニコイチになった理由。
本来修理を進めていた方ですが、分解清掃と動作確認まではスムーズでした。
しかしいざケースへ納めようと言うところで、机の上で数cm落下させてしまいました。
それが致命傷となってしまい、天真の穴石が割れてしまったのです。
元よりいくつかの石はヒビが入っていましたので、予兆はあったのでしょう。
大きく重い機械なのが災いしたかもしれません。
試行錯誤はしたものの回復できず、仕方なく部品取り待ちとなったのでした。
一時扇風機修理に逃げるくらいにはショックでしたね…

そんな折、暫し待って出てきたのが今回メインの個体でした。
本当はテンプ周りだけ移植して…なんて思っていたところ、ほぼ同じ仕様ながら僅かに違うモデルのようで、そう上手く部品取りとは行きませんでした。
しかし意外な事に、3mm位ありそうな厚い風防が酷く割れいている一方で、機械の状態が良く石の割れもありませんでした。
それなら足りないビスや無事なダイヤル等を移植しつつ、こっちを直してしまおう…となった訳です。

尚、どちらの個体もケースと機械のシリアルが合っていません。
普通の時計と異なる製造方式だったのか、あるいはそれこそ服部の商館時計のようにケースだけ国産とかかもしれませんね。
機械とケースの工房が違うのは当時のスイスでは普通ですから、単にそれだけの理由かも。

そんなこんなで風防も奇跡的にほぼ同じサイズでしたため、パーツ移植による修理としたいと思いました。
こんなに大きな風防、多分手に入らないでしょうし…


…いつも以上に長い前置きとなりましたが、分解清掃に参りましょう。




まずケース裏蓋の内側から。
ARGENTANとありますが、銀を意味するArgentとは何が違うのか…?

これは洋銀、洋白またはニッケルシルバーと呼ばれる素材で、銅・ニッケル・亜鉛の合金。
故に銀ではありません。
銀に似た見た目と良好な特性(高い硬度と加工の容易さの両立等)で知られ、2代目500円硬貨が身近な存在かと思います。
バイメタルとなった現行3代目も、外周は引き続き洋銀だそうです。
そのほか楽器の素材としても使われるとの事。

外観は白銅に似ており、亜鉛が入れば洋銀、無ければ白銅となりますが…見た目から判断するのは難しいそう。
洋銀はGermanSilverとも呼ばれ、その通りドイツで製法が進化したものですが、Argentan(アージェンタン、ドイツ語読みならアルゲンタンでしょうか)と呼ばれるのは、1823年にエルンスト アウグスト ガイトナー氏が確立した方法によるものだそうです。
同年にヘニンガー兄弟も同様に製法を編み出したそうで、そちらはNeusilver(ノイシルバー、新しい銀ですね)と呼ぶそうです。



機械を取り出してダイヤルを外しました。
機構的には龍頭巻きであること以外、特に変わったところは無いようです。
しかしデカい。ホルダに収まりません。



ここでエボ―シュ工房のヒントらしき刻印を発見。
スイスの十字に「DEPOSE」。

結構調べたのですが、フランス語で意匠登録や特許を示す単語だとか、いやそれなら最後のEがアクサンテギュになるとか、特定に至る情報は掴めず。
十字マークも単にスイスを現すようで、Lorsaに近いマークながらあちらは盾に十字。
商館時計でも見た事のある組合せなのですが…
もっと勉強しないと分からない事なのでしょう。



裏面です。
先に直そうとした方は青焼きのブレゲひげでしたが、こちらは銀色の平ひげ。
何となくこちらの方が若干古そうな印象です。
とはいえ奇麗な状態で…クラッシュした外観とのギャップがなかなか。
1個目共々15石の機械です。

状態自体は良さげなものの、ブリッジのビスが足りません。
ケースへ固定するビスも片方しか無く、1本あるのも丸頭でオリジナルではなさそう。
更には角穴車が無理矢理右ネジのビスで止めてありました。
強引な事するねぇ…



はい全バラ完了。
ビス関連以外では特に気になるところ無し(素人目線)。
汚れも一見して汚いレベルではありませんでした。

強いて言えば若干ゼンマイが短い気がするくらいでしょうか。
念のため先に来た方から移植しようか。



ゼンマイ比較。
左がメイン機に入っていたものですが、やはり少々短いようです。
香箱に占める割合が少なく感じました。



移植する方は山形に曲がっていたので修正。
ひげゼンマイもそうですが、「90°ルール」と「180°ルール」を知っていれば割合簡単に直せます。
詳しくは海外動画を検索くだされ。



部品洗浄と足りない部品を補いつつ、まずは機械の組み立て完了。
角穴車の左ネジも何とか山が生きていました。

ドキドキしつつ巻き上げれば、途中から既にテンプが回り始めました。
かなり元気よく振ってくれています。良かった…
大型のテンプが勢いよく振っているので、動作音も中々のものです。





そしてケース。
外側は真鍮みたいな酸化状態になっていますが…果たしてどうなるでしょうか。
出来上がってのお楽しみ。



こちらは機械をケースに固定するビスです。
移植にあたって若干サイズ差があり、本当ならぴったりのが見つかればベストなのですが…
特に大型のためビスが長く、更に時計用とあって非常に細い。
なので仕方なく加工しました。

頭の径が大きかったので、写真右のものを左のサイズまで削りました。
ビス穴径も0.1mmほど小さかったので、少々心苦しいながらも地板・ブリッジの穴を拡張しました。



そして完成です。長かった…
風防も移植していますが、こちらは1mmほどベゼルが大きく、接着で対応しています。



裏面。確かに銀っぽい色になりました。
ヘアライン風の仕上げは元からのようで、「逓信省」を消そうとした感じではありません。
配布元の組織名を削ってあるものがあるんです。時計に限らず。



1個目との比較です。
裏面の「逓信省」は共に右読みの横書きですが、深さと書体が明らかに異なります。
機械にも感じた印象ですが、修理した個体の方がより古そうな感じ。



蓋と機械。
一部ビスを移植していますが、違和感なく仕上がりました。
素人仕事でこれなら十分満足です。

とはいえ結構な進み傾向なので、そこは今後調整が要るかもしれません。
Advance側にする程やや遅れ設定になるのは何故なんだぜ…
ひげの偏りか何かでしょうかね。





そしてこんな2ショットも。
ホリデイズさんから購入の「仙台逓信局」湯飲み。
地元にあった局なので愛着も割り増しです。
もしかすると、当時この組み合わせが現役としてあり得たのかもしれません。

しかし逓信局(逓信省)は「〒」マークが示す通り郵便事業も所掌していましたので、電話交換業務とは別の場所だったかも…
とはいえ、「逓信」繋がりのペアという事でひとつ。



統制番号は「会18」。
お隣福島県の会津本郷焼と思われます。
本郷焼の統制陶器はおろし金が多いらしく、これだけでも貴重な品になると思います。
仙台逓信局自体も空襲で焼けてしまったため、戦火を逃れて現在まで存在しているのは大変有難い事です。


以上、当方初となる業務用時計のご紹介でした。
次回は…また扇風機に戻ると思います。
こちらもまた、時間がかかってやっと進んだ個体がありまして。
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Posted at 2024/03/03 22:45:46

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