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2024年03月23日

鍵巻き兼用、英式レバーの3FB エストマン商会 21型商館時計 明治30年頃

今日も引き続き商館時計の再生です。

古い機械式懐中時計に嵌って暫く経ちましたが、基本的に惹かれるのは商館時計ほぼ一択。
裏蓋を開けて内蓋がグラスバックでないと、どうも買う気が起きないのです。
例外は先日の逓信省 電話交換時計のような業務用くらい。
まぁ余計な出費や場所が取られないのは良いので、集中型のコレクションとしてやっていきたいと思います。
全部に手を出していたら収集がつきませぬ。
蒐集だけに。

という事で今回の時計はこちら。





エストマン商会と思われる個体です。
既にそこそこ奇麗で動きもします。
近年に手入れされてあるようですが不明なので、内部を知る意味も込めて分解清掃します。



完全ジャンク状態の別個体と。
左に写っているのがそれですが、「エストマン」とカタカナ表記されています。
同じ王冠マークながら形が若干異なるものの、名無しの方もエストマン商会として出品がありましたので、そうなのだろうと判断しました。



購入の決め手はこの機械。
鍵巻き兼用設計にスリーフィンガーブリッジ、しかもイングリッシュレバー脱進機採用です。
機械をいつでも見られる商館時計にとって、多石仕様に負けないカッコよさではないかと思います。



このチラッと見える勾玉型のカウンターウェイトがそのヒント。
仕組み自体はアンクル脱進機なのですが、爪石が通常のアンクルと異なり直角に付いています。
テンプとガンギ車との間で動力が90度向きを変えるんです。

で、この個体は暫く購入を迷っていました。
オク購入ですが開始価格が高く、誰も手を付けなかったのが理由の一つ。
金額的には格安スタートの終値と大差ないかそれ以下なのですが、スタートが高いと何故か人が寄らないんですよね…あれ不思議。
何かウラがあると思うのでしょうか。Ada Gajah Dibalik Batu。
「岩の後ろに象が居る」転じて裏の意味があるよ、というインドネシアの諺です。同名の歌もお薦め。

もう一つの理由はこの写真の通り、「機械の風防が無いじゃない」という点。
人気のアウラ構文。
ただそれも入手のアテがあるので大した問題ではないのですが。

ところで…例の台詞に始まる一連のシーンが(本来の意味でもネタとしても)人気ですが、「葬送のフリーレン」や「断頭台のアウラ」等と渾名されると、どうしても「北海のハリマオ」がつられて出てしまいます。
仕方ないじゃない。デコトラ好きだもの。

ハリマオの綴りはHarimauでして、マレー語で「虎」の意味。
ドイツ語じゃありませぬぞbosku。
いやboskuの皆さんなら常識だろうよ。現地語だもの。


脱線が過ぎましたが、ここでエストマン商会について概要を。
とは言ってもこの商館は情報が少なく、ネットで見つかる日本語の資料は「開港のひろば」がほぼ唯一でした。

エストマン商会(Oestmann&Co.,A.)は、アントン エストマン(Anton Oestmann)氏が設立した会社で、当時のシャム バンコックより明治2年に来日しました。
L.クニフラー商会やカール・ローデ商会へ勤務した後に、横浜に支店を開業したのは明治20年の事でした。
アントン氏は明治15年に設立していた神戸の支店で仕事をしていたそうで、横浜支店を切り盛りしていたのは弟のカール(Carl Oestmann)氏でした。

輸入専門商社であり、時計の他には織物・ガラス板・皮革製品・薬品・洋酒等を取り扱っていたそうです。
所在地は、横浜居留地では74番(明治22年~)、明治28年から34年までは76番で、日本での同社の活動は明治41年頃までだったようです。
なお、アントン氏は明治35年にドイツへ戻っており、ハンブルクに設立した支店で日本の事業を調整していたとの事です。

マークは「王冠にエストマン」が代表例ですが、「エストマン」表記が無い物も多く、王冠の意匠にもいくつか種類があるようです。
「騎馬」が複数の商館で使われたマークであったように、別の商館でも王冠をトレードマークにしていた可能性が捨てきれません。

今回の出典は「開港のひろば 第59号」とドイツのサイト「Meiji Portraits」より。

そしてこの時計の年代予想ですが、ちょっと難しい。
活動期間の短い商館でもないし、後で書きますがこの脱進機はシリン式とアンクル式の間です。
ただ鍵巻き兼用設計でダボ押し採用という事から、ダボ押し全盛期の真ん中である1900年、つまり明治33年よりちょっと前位かなと思います。
明治30年頃としておきましょうか。



さて分解です。
特に変わった意匠があるケースではないながら、前面風防はヒンジの無い摩擦式。
商館時計では少数派かもしれません。
単なる経験不足かもしれませんが…



機械を出しました。今回は特に修理歴の記載は無いようです。
こちら側はごく普通の設計。
ダイヤルもクラックなく奇麗ですが、特に豪華な仕上げではありません。



ナンバーズマッチを確認。



裏面です。
初めて分解するイングリッシュレバーが楽しみ。
よく見るアンクル式と異なり、アンクルのブリッジも輪列と同じ作りです。
テンプの下に隠れていないのですね。



出ました。アンクルです。ガンギ車と一緒に。
この形がイングリッシュレバー式の証拠となります。

通常はクレーンゲームのアームかマジックハンドの如く、カウンターウェイト(無しの場合もあります)から爪石までが一直線。
しかしこちらはレバーの側面に爪石があります。

余り深い事を語れるほどの知識がまだありませんが、シリンダー脱進機から一段進化した、アンクル脱進機の初期の姿。
名称の通りイギリス発祥で、王室の宮廷時計師トーマス マッジ氏による発明。
マッジさんは時計にまつわる様々な発明をされた凄く凄い方です。

発明の意図はシリン式の弱点であった摩擦の低減を狙ったものでした。
1756年(宝暦6年)頃と言われており、その後のスイスレバー脱進機(クラブトゥース、一般にアンクル脱進機と呼んでいる方式)に繋がりました。

こと商館時計に限ってみれば、まだまだ目にした個体数自体が少ないものの、大多数はアンクル式かシリン式のようです。
イングリッシュレバー式は、歴史的にはアンクル式とシリン式の間に位置する筈ですが、何故かシリン式よりも希少な様子です。
やはり商館時計の多くがスイス製であった事が大きいのでしょうか。
以前の記事にも書いた事ですが、当時は国や地域によって技術が独自に発展や普及していたとされ、同じ時代でも全く違う機構を持った時計が色々とあったそうです。



途中経過。
今回の機械はダボがケースとは別パーツとして付いており、機械だけの状態でも指で押せる作りです。
ぱっと見はほぼ一緒でも細かい部分に個性があるのが、商館時計の面白さの一つかと思います。



全バラできましたが、今回も筒かなは固く嵌っていました。無理せず進めます。



洗浄した部品が乾くまでの間にケースを磨きます。
今回は既に奇麗めなので、酸洗いを省いて研磨していきます。



風防ベゼルとの隙間に、分解せずにコンパウンドを使った形跡あり。



無事に組めたので動作確認…何かテンプの振りが弱い気がする。
巻き上げ回数も僅か8回と少ないので、少々主ゼンマイが長いのかも。
分解時にも「何か長いし反発が弱い気がする」と思ったので。
テンプはぱっと見問題無さそうなので、トルク不足の可能性を疑ってみます。



以前ジャンクから外したゼンマイと比較。
左が今回の個体に入っていたもので、右がほぼ同じサイズのジャンクから取ったもの。
やはり長さが違います。



巾もほぼ同じだったため組んでみました。
良い感じの占有具合かと。

…ですがテンプの様子は大して変わらず。
ひげを調整して少々良くなった気はしますが、やはり頼りない感じ。
平置きならまだ良いものの、立てると途端に弱くなります。
まぁ、100年以上経っている時計ですから仕方ないでしょうか。

縦置きで放置しても1日止まらない事は確認したので、とりあえずケースに組んでみます。
大幅なズレが無ければヨシにしましょうか。
暫く動かす内に元気が出てくるかもしれません。
次は買ってきた風防ガラスを微調整しないと…







という事で完成。
ガラスの調整は撮るのを忘れました。
元がそんなにくすんでいなかったので、見違える程の差は無いですね…



風防はほぼぴったりでしたが、薄さもあって無理を避けるべく若干削りました。
多分1mm位じゃないかな…
意外と深く嵌るベゼルだった事もあり、良い感じにフラットな見た目となりました。

動きの方も暫く置いたところ調子が出てきたようで、結局日差-数十秒~1分程度になりました。
テンプの振りが緩やかなのは個性という事で良さそうです。



素敵な機械を正面から。
緩急針が振り切ってるのは突っ込まないでくだされ。

イングリッシュレバーはその後のアンクル式よりも動作音が大きいと言いますが、テンプの振り具合のせいか然程気にならず。
機械時計の魅力でもあるので、少々残念でもあり…まぁ良いでしょう。


次回も多分時計です。
次の扇風機はまだ少し先。
車は…もっと先になりそうですね。
エクリプスクロスのネタはできるかもしれません。
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Posted at 2024/03/23 22:50:57

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