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菊菱工廠のブログ一覧

2022年12月25日 イイね!

三菱電機「初号扇」より古い? 三菱造船・同電機製作所「MKW」電氣扇

雪と氷の季節となりましたが、扇風機ネタがアツい今日この頃。
暫く眠らせておいたものを掘り出して参りました。

ですがその前に…まずは先日の展示会で出させて頂きました、三菱電機の「初号扇12吋」をご覧ください。



雷光型ガードと真鍮無垢羽根が何ともレトロな、大正期を代表するスタイルです。やっぱりカッコいい。
そしてこれが、三菱電機が最初に販売した扇風機とされており、羽根ガード以外の各部はその後の同社製に通じる部分が多く見られます。

…が、同じ三菱ながら更に古い機体があるとしたら…どうでしょうか?




「MKW」のエンブレムが目を惹く扇風機。
雷光型ガードが示す通り、「初号扇12吋」にそっくりの大正期の機体ですが…正体は何でしょうか?
実はもう1台(正確には更にもう1台で計3台ですが、そちらは部品取り)ありまして…



それがこれ。
正面から見るとほぼ同じですが、首振り機構の有無がまず違います。
そして銘板も…





上が最初の写真の方、下が2枚目の方の機体です。
少々見にくいですが、それぞれ「Mitsubishi Zosen Kaisha. Ltd.」と
「Mitsubishi Electrical Engineering Co,. Ltd.」となっています。
そして共に、「Kobe Works」とも刻まれています。

そうです。「三菱」ではありますが「三菱電機」ではなく、「造船」と「電機っぽいけどちょっと違う」会社の製品。
いずれもかなり古そうですが、これだけでは良く分かりません。

MKWというエンブレムも含め、これがどういう事かと言いますと…
まずは三菱電機という会社の興りから知る必要があります。

以下、このMKWエンブレムの機体を「MKW型」、2台を分ける場合は「MKW型(造船)」並びに「MKW型(電機)」と便宜上呼ぶ事とします(型式名が無いためですが、公式の名称ではありません)。


さて、三菱電機や三菱重工(当時の三菱造船)ホームページにある沿革には、簡単に各時代のハイライトが紹介されていますが、それだけでは不十分でした。
そこで社史や資料として残されていないか、あるいは公式の時代推定やそのヒントを頂きたく、三菱電機へ質問を出させて頂きました。
ここからの情報は、掲載の許可を含めて回答を頂く事が出来た内容を含みます。
この場を借りて感謝申し上げます。

まず三菱電機の前身から独立までについて、扇風機を主体とすると下記のような流れになります。
三菱重工・電機両社の沿革および、三菱電機より頂いた情報を合わせております。


大正6年
「三菱合資会社 造船部」が「三菱造船株式会社」として独立(神戸)

大正7年
三菱造船神戸造船所で扇風機の生産を開始(初号扇12吋の発売)

大正8年
三菱造船の電気部を分離し「電機製作所」を設立

大正10年
「三菱造船 電機製作所」を母体に「三菱電機株式会社」が独立

昭和9年
「三菱電機 名古屋製作所」(通称「名電」)で扇風機の生産を開始
(Wikiによれば、この時点で三菱電機本店も名古屋へ移転しているため、生産拠点自体が名電に移転したと思われる)


という感じになります。
つまり、「三菱電機」という名称よりも、「Zosen(造船)」や「Electrical Engineering」の方が古いであろうと推測できます。

「Electrical Engineering」は三菱電機を「Mitsubishi Electric」と表記する事を見れば、それとは異なる組織と考えられます。
直訳すると「電気工学」となるため、「三菱電気工学会社」みたいな意味になるのでしょうか…? いや、それは安直すぎるでしょう。

恐らくは大正8~9年に存在した、三菱電機の前身である電機製作所の英語表記ではないかと考えています。
とはいえ三菱重工の沿革をグローバルサイトで見てみても、「Electrical Engineering」の表記はありませんでした。
三菱電機サイドとしても不明との事で、推測の域を出ない内容です。


続いて2台の「MKW型」の正体ですが、三菱電機より頂いた回答では、「大正7~9年と大正10~昭和9年の間にそれぞれ作られた製品ではないか」との事でした。

「MKW型(造船)」の方が社名からしても古く、上記年表の通り大正7年の生産開始から大正10年の三菱電機発足の間、即ち大正7~9年と推定されるわけです。
また「MKW型(電機)」については、「Kobe Works」の表記もあることより、大正10年の「三菱電機」の誕生から昭和9年の名電への移転までに製造されたと推測しますとの事でした。

ここに私のこれまで見てきた経験を合わせますと…
まず「MKW型(造船)」については、大正7年かそれに近い年の生産と見て間違いないでしょう。
シリアルが7568とかなり若く、そもそも社名が「三菱造船」となったのが前年の大正6年、そこから「電機製作所」が分離されるまでも2年しかありませんので、それが理由です。

また「MKW型(電機)」については、三菱電機サイトの沿革では「大正10~12年に約1万台の扇風機を生産」とありますので、大正10年頃ではないかと考えます。
あるいは、「Electrical Engineering」が「電機製作所」ならば、大正8年頃でしょう。
大正10年頃と見た場合の理由は、下記の写真をご覧頂き…



これは本エントリ最初の写真「初号扇12吋」の銘板ですが、シリアルは16912と、通し番号ならばなかなか進んでいます。
「大正10~12年に約1万台の扇風機を生産」からも7000番近く足の出た数字です。

一方で「MKW型(電機)」のシリアルは4940と非常に若い数字です。
なので首振りの有無で番台を別にされていないと仮定すれば、より生産開始年に近いものではないかと考えています。
そして銘板の様式は同じ。社名も両者「Electrical Engineering」なので、あまり離れていない年式という事になります。

するとこの「初号扇12吋」(シリアル16912)については、展示会では大正7年と記載したものの、改めて考証するともう少し後の可能性が大でしょう。
上記の通り、同じ会社名ながらより古い「MKW型(電機)」が大正10年頃だろうと言うのも理由です。

もう一つの理由ですが、これは唐突ながらカナデンという会社のお話を出さねばなりません。
その沿革にはこの様な記載があります。

「大正11年夏、三菱電機株式会社が新製品として扇風機を開発し、三菱商事株式会社経由で販売を開始(中略)生産台数は年間約3万台であり、当社の取扱量はその10%、3,000台であった。」

そしてページ内には「初号扇12吋」の写真も掲載されています(「第1号電動扇風機(12卓上扇)」と表記、上記文とも「カナデンを知る」より引用)。

即ち、この辺りで既に大規模な生産能力を三菱電機は持っていたと考えられます。
昭和9年の名電移転より前の大正12年には、米国ウェスティングハウス社との技術提携も結んでいます。
銘板から「Kobe」が消える前に通称「菊水ガード」の機種まで進化した(こちらのエントリ参照)という流れの速さも、「初号扇12吋」がもう少し新しい理由の一つと考える事ができるでしょう。

「MKW型」から「初号扇12吋」までには各部の設計が大きく進化しています。
その進化がカナデンの沿革にある「大正11年の新製品」かもしれませんし、それこそが「初号扇12吋」の登場年なのかも知れません。

なお、MKWが何を意味するのかはエビデンスが失われているようでした。
ですが芝浦製作所(Shibaura Engineering Works)が「SEW」とイニシャルを取ったエンブレムとしていた事からも、何等かの略称であると考えるのが自然です。
そこで「Mitsubishi (Zosen Kaisha / Electrical Engineering) Kobe Worksの略ではないでしょうか?」とお聞きしたところ、恐らくそうでしょうとの事でした。

ちなみに「初号扇12吋」で検索をかけると本エントリ最初の写真と同じ機種がヒットするのですが、それより古い「MKW型」をそう呼称するのはNGとの事です。
これも掲載に当たって三菱電機へ確認させて頂いた点なのですが、考えてみれば同社の製品と確定できない(完全独立以前の製品である)以上、それを「初号」と呼ぶべきかと言えば答えはNOでしょう。
重ねてになりますが、上記(本エントリの写真を見比べても、基台のラインが若干異なっています)の通りで設計が大分進化していますので、その有無も関係するはずです。


…という事で、正体が見えて参りました。
まとめてみますと、

1.
2台の「MKW型」は「初号扇12吋」より古いが、「三菱電機の初号」ではない

2.
「MKW型(造船)」は大正7年頃、「MKW型(電機)」は大正10年頃の製造と考えられる

3.
MKWとはMitsubishi (Zosen Kaisha / Electrical Engineering) Kobe Worksの略である

4(おまけ).
「初号扇12吋」は大正11年型を示すのかもしれない

となります。

しかしここで、一つの疑問が湧いてきました。
鋭い方はお気づきかもしれませんが…「MKW型(造船)」の方が古いであろうに、「MKW型(電機)」の方がシリアルが若いのです。
この矛盾についても質問していたのですが、そもそもシリアルが通し番号であったか自体が不明との事(芝浦等、機種別に番号だけの型式名が存在したパターンもあるため)で、真相は忘却の彼方です。

しかし一つの仮説としては、「三菱造船」から「三菱電機」として新たに独立したため、その時点でシリアルもリセットしたのではないか? と考えられます。
そもそも同じエンブレムを使っており、設計も細部以外ほぼ同じなのでシリアルも連続するものとばかり思っていましたが、それが先入観というものでしょう。

ここでふと思い出したのは、測定機器の「hpがAgilentになった」という出来事でした。当時はまだ学生でしたが、実験室にはエンブレム違いのマルチメータとかが混じって置かれていました。
同じ製品のままエンブレムだけ変わったりしていたので、このような落とし穴にはまったのでしょう。



そしてここからは、「造船」と「電機」2台の「MKW型」の違いを見ていきましょう。

まず最も大きな違いは、機体背面の首振り機構です。





これは機種の違いと言っても良さそうですが、手元にある「Electrical Engineering」名の2台は共に首振り無しです。
会社が新しく独立したのに機構的に退化するというのも不自然ですので、繰り返しになりますが機種的な違いでしょう。
でももしかすると…





続いては碍盤。
分かりやすくはスイッチバーに被るアーチ状の金具の有無です。
上の写真の「造船」にはありますが、下の「電機」にはありません。
スイッチバー自体の成型も変化しています。
その後の「初号扇12吋」から戦後型に至るまでの同社製にもありませんので、早々にオミットされた部分なのだと推測できます。



参考までに、こちらが「初号扇12吋」の碍盤。
基本的な配置は似ていますが、細部に違いが見られます。

そして、実はこの部分と「造船」の首振り機構には元ネタがあるようなのですが…それはレストア記事の方に書きたいと思います。
上記の「銘板の違いと首振りの有無の繋がり」にも関係するかもしれません。

後は写真には撮りませんでしたが…羽根ガードの素材の違い。
どちらも同じ構造で作られた雷光型ガードで外周部分は鉄ですが、「造船」は雷光部分とそれに連続する背面は真鍮製です。
まさかの異種金属。

一方で「電機」の方は、雷光部分も鉄製。磁石がくっつきます。こちらは溶接での接合でしょう。
なので、今後の整備にあたっては「造船」の方から着手しますが、部品取りの「電機」の方からの移植は避けた方が良いかもしれません。
そちらは損傷も無いのですが、「造船」共々奇跡的な現存機なので、できるだけオリジナルに忠実にしたいと思います。

なお、羽根自体は共に真鍮製で形状も同じでした。
オークションでも良く見られる、その後の三菱電氣扇と同じタイプ(ハブの羽根取り付け部に進角が付いているタイプ)でした。
但し、軸穴が貫通しているのはこの時期だけのようです。



…という事で、普段よりアカデミックでマニアックな内容となりましたが、いかがでしたでしょうか?
やはり古い物というのは、辿ってきた歴史やその中での立ち位置が気になるところです。
そしてそれを知る事ができた時、より愛着が湧き、他の同時期の製品との比較もでき…つまりは楽しみが増すのです。

古い物自体の良さに留まる事無く、そこから一歩踏み込んだ世界も知ってみる…というのは、謎解きや冒険のような魅力があります。
戦前の製品であれば当然戦火を潜り抜け、金属供出も免れてきたわけですし、扇風機ならば当時は高級品ですから「どんな所に居て、どんな景色を見てきたのだろう」と思うだけでも面白いものです。

そういった「モノ」にまつわる歴史や背景も愛し、知りたいと興味を持つ事…とある友人は、それを「抒情性・リリシズム」であると表現しました。
先日の展示会を開催頂いた「道具屋ホリデイズ」の代表です。
彼もまた「抒情性」を大切にする方でして、古物商という本業と兼ねる上での割り切りの一方、単なる「売れる・売れない」だけではない扱い方をしたいと言っています。
私自身も同じ思いです。

かなりディープかつニッチな話題にはなりますが、これからも「この物の正体は、背景は何だ?」と掘り進めたいと思います。
お付き合い頂ける方が居られましたらご幸甚でございます。
Posted at 2022/12/25 22:42:27 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

プロフィール

「仕上げ進行中 http://cvw.jp/b/2115746/48580997/
何シテル?   08/03 23:12
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
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