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菊菱工廠のブログ一覧

2023年02月18日 イイね!

スペースエイジなトライポッド~東京芝浦電氣 HA型「よいまち草」(昭和33年頃)

前回の宣言通りに昭和30年代まで逃げてきました。
20年代と言っていましたが、ちょっと行きすぎましたか。

さて、今回レストアする機種はこちら。



やっと手に入れた一台。
レトロな扇風機の中でも、見た事のある方が多いかもしれません。
東芝の傾奇者、HA型「よいまち草」です。

待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな…竹下夢二ですね。

植物としては「マツヨイグサ」という名の方がメジャーでしょうか。
近い仲間なだけに月見草とよく勘違いされ、なかなかタフなので空き地や花壇から道端まで良く生えてきます。
所謂雑草とされてしまう部類です。
背も高くなるので、大きい物好きな私は結構気に入っている野草です。
子供の頃はよく摘んで帰った想い出があります。

と、今ではすっかり野草扱いですが、そもそもは江戸後期から明治初期に園芸種として輸入されたとの事。
人為的な切っ掛けによる帰化植物という事です。

…すると、君の鬼歴と同じくらいかもなぁ、猗窩座殿。
でも「月」って事からすると黒死牟殿の方が似合いかな。

唐突に失礼。
で、その名の通り夜に咲く花でして、月を連想させる鮮やかな黄色なのも勘違いの原因かもしれません。
ちょうど花弁も4枚で、この機種の「背の高い4枚羽根」という特長に合っています。
それを意識してか、羽根の色も黄色です。

話を戻しますと、電気スタンド一体型の「夕顔」共々、高騰する機種としても知られていましたが、この度まともな金額での入手が叶いました。
それ故か、外観に少々傷みがあります。

特徴は言うまでも無く、この三脚のような形状でしょう。
一見すると「コードは何処通ってるの?」という奇抜なデザインですが、3本の足はパイプになっており、その中を通っております。

時期的にも「スペースエイジ」や「レトロフューチャー」といった単語が似合いそうですが、個人的にはH.G.ウェルズ作の「宇宙戦争」に登場する「トライポッド」を思い出します。
可愛らしいと不気味の際どいラインを攻めている気がします。
このかなり攻めたデザインに惹かれる人が多いのか、ずっと高値が続いておりました。

ちなみにタイトル末尾に入れた製造年は昭和33年頃としていますが、その根拠がこちらになります。





昭和33年、1958年発行の東芝冷蔵庫のカタログ…というかパンフレット。
その中に何故か扇風機の掲載もあり…





ここに居ます。
白黒印刷なので「水色」がどんな色かは不明ですが、調べてみると箱付き出品の同色が「水色」表記でしたので、この個体もそれで合っているでしょう。
ファンの黄色が印象的なのも、あまり水色感が得られない一因かも。

別に持っている昭和35年のカタログはカラーですが、ピンクっぽく写っています。
他にもファンごと水色の物等あったようですが、一番多いのがこのカラーらしい…体感的に。


それではレストア、行ってみましょう。



裏面です。到着時よりガタついていたのですが、ゴム足が失われており裏蓋中央のボルトが相対的に出っ張った状態になっているようです。
裏蓋全体が回転する構造ですね。液晶ディスプレイ的な。

元はどこかの店で使われていたのか、「竹 五」と手書きの張り紙が。
よく見れば、「虎屋」とペン書きされたのが消された跡があります。
羊羹…? いやまさか。
あんこなんて嫌いだね。生クリーム最高!…これまた懐かしいネタで。





裏蓋を開けました。が、センターのスタッドボルトが長く、このままではやはりちゃんと立ちません。
まぁ外せはするのでしょうが…そこまで頑張らなくても良いかと。
トレーの縁にでも引っ掛けて、下駄を履かせればそれで問題無し。

下の写真は中で遊んでいた金具達。
多分ゴム脚のボルトだと思うのですが…ワッシャが1枚足りないのは良いとして、なぜ一本だけ太いんだろうか。

そして使われているコンデンサですが…



シバノール入り。つまりはPCBでございます。
毒だよなぁ…処分って個人でできるんだっけなぁ…保管ならちゃんと密封しねぇとなぁ…
性能はともあれ、物質的にまずいので個体ACコンに交換します。

PCBはアスベストと同じような経緯があり、毒性が分かるまでは非常に優れた素材特性から重宝されていました。
高い絶縁性からコンデンサやトランスの絶縁油としての採用が定番でしたが、カネミ油症事件でも知られる通り、クーラントとしての使用例もあったようです。

また、やはりアスベストと同じく、PCBにもいくつかの種類があります。
一番ヤバいのがコプラナー型だったかと。
この辺は完全に仕事上の知識だなぁ…
趣味のブログなので、程々にしときましょう。

しかし不思議なのは、素直に日付を読めば1971年製だそうで。
この扇風機、そんなに新しいかなぁ…カネミ油症事件が1968年、それを受けたPCBの使用禁止が1973年なので、PCB入りコンデンサとしては末期頃です。

それに1958年のカタログに載っている機種ですし、70年代初頭と言えば、ほぼ全プラ構造になっていた時代です。
とはいえかなり個性的なデザインなので、Y31セドリック営業車とか130クラウンワゴンみたく例外的に長生きしたのかも。

ですが、東芝が公開している製造年一覧(1964年~)には該当なしなんです。
本当に71年製なら、スタートがそれ以前だから除外という事も無いでしょう。

オイルコンはそうそう壊れる物でもないですが、特に漏れた形跡もありません。
予防整備でそこだけ新しくなった可能性もありそうですが、それならゴム足の金具が中で遊んでたのも不自然…
そしてこれが漏れてたらそれだけで怖い。

あまり気にしないでおきましょう。



続いてファンとファンガードを外しましたが…
こうなるとトライポッドそのものだなぁ。
偶然かもしれませんが、モートルの通風口も大きく、脚と同じ3本スポーク形状。
これだけでもオブジェになりそう。
ピンポンツリースポンジとかと並べたい。



モートル後部のカバーを開けました。
…凄ぇホコリ。
この機種、モートル自体の通風口は大きいのですが、リアカバーには下の方にそこそこのスリットがあるだけ。
それでもこれだけ詰まったという事は、かなり活躍した機体という事でしょう。
しっかりリフレッシュしてもらいましょう。





モートル分離完了。上に書いた通りですが、3本線はやっぱりそれぞれの脚を通っていました。
なので引き出し線がやたらと長いです。

しかしこの時代に、ここまでデザイン性に特化して設計したのは相当の気合ではないでしょうか。
うっかりそのまま引き抜いてしまうと次に通す場所を間違えて、基台内部で配線が届かなくなりそうでした。
なので事前に写真を撮りましたが、ちゃんと黒と赤のスリーブで色分けされておりました(白はコード自体の色で代用でしょうか)。



エンドベル開けました。
コイルとロータもホコリだらけ。
コイルとケースの間も隙間が大きく、冷却性は高そうですがホコリも溜まりやすそう。
刷毛で落としつつ掃除機で吸って大まかに除去した後、改めて拭き掃除しました。





今度はギアボックス清掃。
この時期あたりからエンドベルと一体になったものが多く、分解清掃のしやすさという点では一歩劣る気がします。
ダイキャストの質が良くて裏面も滑らかなのと、ビス関係が固着してない確率が高いのは良い点ですが。

本体表面の清掃ですが、塗装がそれなりに痛んでおり、特にモートルケースは油汚れが結構。
パーツクリーナよりもセスキが効きました。

ちなみにカタログによれば、塗装はメラミン焼き付けだそうです。
なので傷からの錆びは出ても、無事な部分は汚れを落とすだけでそれなりに艶が復活します。

後は細かい発見ですが、給油口からのパイプは贅沢にも銅製。
戦後暫く経った頃の物は、ポリ系の半透明樹脂のが経験上多く、劣化で割れるのが常なので嬉しいポイントです。



こちらは電源コード。普段あまり撮らない箇所です。
クリーニングすると、右端の位には見た目が復活します。
今回は白系なので、最悪は現行新品でも良いのですが…やはりオリジナルが使えれば、それに越した事はありません。



こちらは基台の中、裏蓋との間に位置するローラーです。
本機は東芝機の特徴である「ロータリーベース」を採用しており、それ用のローラーになります。

モノは単なるゴム車輪で、いわばキャスターの小さい奴。
太いゴムブッシュに金属パイプが軸受けとして入れてある感じですが…経年劣化で円形ではなくなっていました。
こういった部分って、地味に代用が利かなくて修理に困るんですよね。
これの場合、キャスターの交換タイヤでは大きすぎますし、自作するにしても奇麗な円形(荷重あり)というのが地味にハードル高し。



…誰が困ると言った? いやあんただろ。
キャスターが無ければゴム足を加工すれば良いじゃない。
という事で、寸胴形状のゴム足を使いました。
隣が純正ローラーで、ほぼ同じサイズが見つかりました。

左の加工ゴム足に入っているカラーは、純正ローラーから外した真鍮パイプです。
ローラーはサイズの制約が意外にシビアでして、内径Φ5程度、外径Φ16~17程度、幅10mm程度でないと、干渉したり寸足らずだったりします。



コンデンサも交換完了。

この後はファンガードの清掃なんですが、よくあるパターンで全体に錆びが回っており、気合を入れて掃除しても大して見た目が変わらない感じでした。
かといって再塗装する程でもありませぬ。
「味」として捉えるべきレベルかと。

なのでさらっと洗い、敢えてあまり深く突っ込まない事にしました。
…面倒だからね。しょうがないね。
でもちゃんと洗浄してますので手抜きではないはず…そう信じたい。

写真は割愛しますが、プラパーツはメラミンスポンジで清掃、メッキされているビス類は錆び落としして組み立てに入ります。



そして組み立てれば完了…かと思いきや、ファンとファンガードを付ける時点で断線が発覚しました。
コンデンサ交換の後、すぐに動作確認すれば良かった…
モートルに至る3本線の内1本が切れているようです。やる気の削がれる瞬間。
写真はもう一度分解して、断線箇所を特定した時。
コイルは無事ながら、黒マークの線がどこかで切れておりました。

この機種は特に引き出し線が長く、測ったところ80cm近くありました。
それが3本なので凡そ2.5m、メートル買いなら3m必要…平行線ならありますが、シングルで白の0.75Sq程度の線は持っていません。
しかもこの日は日曜、これまで年中無休だった部品屋さんが日曜定休になってしまいましたので、仕方なく通販を使う事に。



昭和30年代の機種で引き出し線交換は初でした。
お陰で奇麗に真っ白くなりましたが…色々特殊な構造の機種なので、こうなった時は面倒臭さが爆血ですね。
いや…エンドベル分離できないお座敷扇の整備よりはマシか。

なお、使用したのはAWG18という事で0.75Sq相当ですが、被覆の厚みがかなり違います。
なので芯線は純正より太くなった一方、仕上り外径としては細くなっています。





という事で、一波乱ありつつも完成しました。
プラグは残念ながらドンピシャなものが無かったので、できるだけオリジナルに近いのを選びました。
コードとグレー揃いのもう少し古いマツダならあるんですが、それはちょっと違うので。
本来はマツダロゴで角丸の四角っぽい最中合わせプラグです。色違いなら持ってたんですが…

この時代のプラグ系は何故かナショナルばかり持っていて、次点でTORII等のサードパーティ製。
もう少し東芝・マツダや三菱が増えて欲しい所ですが、欲しいと思っても出てこない以上は仕方ありません。
ナショナルが多いのは、今と同様に単体売りしていたからかもですね。

ゴム足も新品に付け直し、ちゃんと立つようになりました。
オリジナルは年代的に白ゴムだったのかなぁ。全く失われていたので不明です。

ファンはセンターのメッキキャップは無理に取らない方が良さそうでしたので、このまま錆び落としをしています。
羽根はセスキで汚れを落とし、プラ用コンパウンドで少々の艶出し。


扇風機の性能としては、実にごく普通の30cm扇です。
とはいえ、かなりデザインに振った設計ながら変速と首振りはオミットしておらず、ちゃんと使える一台に仕上がっているのが良い所でしょう。
まぁ首から上は、他の普通の機種と共通でしょうからね…
ボディが特殊なだけでこうも印象が違うのです。だが実に馴染むぞ。星の痣はありませんが。

それにしても改めて「扇風機」として観察すると、初めからそれなりの高さに設計された機種というのも珍しいと思います。
これのデビュー年は不明ですが、手持ちの昭和33年版カタログに載っている事を基準にすると、その前年には国内初のお座敷扇(高さ調整機能搭載)、三洋電機の「きりん」ことEF-122が発売になっています。
そうすると、床置きでそれなりの高さになるものが欲しいという要望に応えた結果…とも言えるでしょう。
戦前から「扇風機台」が存在するくらいですから。

しかしながら、実際にそれなりの高さに設計すれば用途が限られるので、販売面でのリスクは高くなります。
そういった点を相互にカバーし合う意味でも、この独特のデザインでGOが出たのかもしれませんね。



さて…一台直すと一台増える感じです。
また買ってしまったんですよ。しかもまたしても芝浦。
それはまぁ置いておくとして、今度はどの時代に飛びましょうか。
また戦前か、あるいは上に書いた三洋の「きりん」か。
実はもう居るんです。きりん。
Posted at 2023/02/18 19:35:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2023年02月12日 イイね!

「DIESEL」ステッカーの自作再生

扇風機に染まって久しい当ブログでございますが、ようやく本来の車ネタができましたのでご報告。
…といっても少々残念な事ではありますが。


さて、去る1月末の事。
何度か雪道を走ったので下回りを洗った際、ついでにとボディサイドも洗ったのですが…



何か落ちてるな…と思ったら、給油口の「DIESEL」ステッカーがご臨終。
分離して印字面だけ綺麗に剥がれてしまいました。
止めは高圧洗浄のせいではあるものの、流石に30年は長かったか…

そして予想通り、貼り替えようにも純正品は製廃。
一応パーツナンバーを載せておきますと、MB247355。
海外オークションに一件あるようですが、結局買ったとて同じ結末が待っているんですよね。

という事で、いつものようにカッティングで作ってしまう事にしました。
まずは除去前に実寸を測り、縁部分とシルバー部分に分けてカット。



右端に居るのが残った欠片の一番大きい奴です。
この2枚を重ね張りしますと…



この通り。非常にそれっぽくなります。
そして本日は気温も良い感じでしたので、除去だけしておいたところに貼りました。



…ちょっと縁が細いか。
重ね張りしているので、段差ができて縁が細く見えてしまうようです。
次回作る時にはもう少しシルバーの方を小さくしましょうか。


何か…扇風機のネタに比べてボリューム少ないですね。
まぁ、やった事自体が小ネタレベルなので仕方ないのですが。
仙台は昨日・一昨日と今季2度目の大雪でしたが、それを除いては温暖で雪の少ない冬です。
市内でも積もる地域に居る身としては有難い限り。
Posted at 2023/02/12 20:44:11 | コメント(0) | トラックバック(0) | | クルマ
2023年02月04日 イイね!

芝浦の傑作「睡蓮」の原型~芝浦電氣扇 7017型「煽風型ガード仕様」(大正14年頃)

昨年の展示会以降、「扇風機熱」が再燃しております故にネタが尽きません。
修理待ちのまま眠っていた個体も複数…
それに新たに買ってきた物が増えております。
展示会で依頼頂いた修理案件も実施の運びとなり、2台預かって参りました。



さて、今回の記事も芝浦製作所の割と初期の方に当たる機種になります。
タイトル通り、「睡蓮」の初期型…もとい原型です。

まずは購入時の写真を…





…何か粉っぽいと思ったら、ド派手に割れてるじゃねぇの。碍盤。
箱が無傷で緩衝材もしっかり詰まっていたので運送事故ではないと思い、出品写真を見直したところスイッチの隙間から白い物が…
どうも出品時点で割れていたようです。
インパクトは大ですが断線は無さそうなので、これも直す前提で進めましょう。
過去にも一度、盛大に割れていた碍盤を直した事がありました。



はい。こちらが手を付ける前。ですが既に碍盤は抜いている状態です。
既に何度か登場している写真ですが、直すより先に写真を何度か使った個体は初かもしれません。

パッと見はよくある睡蓮で、せいぜいファンが真鍮無垢なので古めの奴かな…と言った印象。
ですが正体は、睡蓮の中でも極初期の物。
…と、これまでの記事では書いてきましたが、改めて考えれば「原型・元ネタ」と称するべきかなと思います。
いずれにしても、その証拠がこちら。



先に分解中の写真を出してしまいますが、本体(基台)の銘板とは別にガードのステーにも銘板が巻いてあります。
何か腕時計用カレンダーみたいな感じです。
逆さまでしたので反転したものが緑枠の中です。

で、そこに書かれている意匠登録番号「28521」こそ、「初期型睡蓮」あるいは「睡蓮の原型」と呼べる理由になります。

他の睡蓮の記事でも紹介しました通り、意匠登録第28521号は「煽風型扇風機保護枠」(以下、煽風型ガード)です。
登録は大正14年9月となっており、同番号の類似意匠に「放射型扇風機保護枠」というのもありました。

そして繰り返しになりますが、現在入手できる大部分の睡蓮はこれと異なる意匠登録となっており、それは第36243号「花辯型電氣扇保護枠」(以下、睡蓮ガード)です。
こちらの登録は昭和2年11月ですので、この個体の煽風型ガードは凡そ2年ほどしか生産されなかった事になります。
睡蓮ガードはその後30年ほど使われましたので、かなりの少数派と言えるでしょう。
花の意匠が別に登録されている事と、そもそも名称からして異なるのもあり、「初期型」よりも「原型」と呼ぶべきかと思い直しました。


では両者の何が違うのかというと、「縦線のカーブ方向」と「最中合わせで固定する方法」の2点。
一つは、煽風型ガードではファンの前後に付くガードが共に同じカーブを描いており、上の写真からもそれが分かると思います。
一方の睡蓮ガードでは前後のカーブが逆になっており、重ね合わせると花の模様に見えます。睡蓮たる所以です。

もう一つについては、煽風型ガードは単に鉄の丸棒でガード外周が作られており、前側の方が一回り大きいサイズになっています。
前側ガードの左右と下の3か所にフックが付いており、後側ガードに引掛けた後、上端を金具か針金かで固定する構造です。専用パーツがあったかどうかは不明。
この時、直径の違いで前側が後側に少々かぶさる形となります。
で、この構造が精度的に今一でして、強度的にも弱くバシッと位置が決まらないのがウィークポイントでした。

睡蓮ガードの方ではその点が改良されており、フラットバーで外周が作ってあります。
それにビス穴が開いており、上下左右の4か所でビス止めする分かりやすい&丈夫な構造になりました。

つまり「睡蓮」といっても初期の物は睡蓮模様には見えず、その前段階の意匠が採用されていたわけです。
製造期間が短い上に耐久性も今一つとあって、まともな状態での現存率は、経験上雷光型ガードよりも低いと思われます。
ガード各部の部材が雷光型よりも細いため、単純な破損以外に錆びによる折損も多い事によるのでしょう。
この個体も例に漏れず、数か所が錆びて折れてしまっています。
今回はこの部分の補修も含めて直していきたいと思います。

そして今更ながら製造年ですが、煽風ガードの意匠登録年より「大正14年頃」となるでしょう。
少しずつですが、芝浦電氣扇の歴代年代特定ができてきました。

しかしながら、私自身「睡蓮」と何気なく呼んでいるこちら…東芝に言わせると「水蓮」なんですよね。
昭和30年前後のカタログを見てみても、上記の睡蓮ガードの機種が「ADF-30B 水蓮(B)」として載っていますし、本体が全プラ製の時代になっても「水蓮」の名は生き続けました。
「睡蓮」の表記はいつ誰が生み出したのでしょうね。
「コンデンサ」みたく出自不明の可能性が濃厚かなぁ。



それでは、ここからは恒例のレストアコーナー。
今回はどんな発見があるのでしょうか。
…発見どころか初の修理事例でございました。



まずはガードを外してファンも外しますが、この個体はとにかくモートルの軸が重い。
油切れして久しい(実は別の原因が後から判明)らしく、当然ファンと軸も固着しておりました。
ここ最近の経験から、素直にドライバーを挿してロータをロックし、捻りながら外しました。



ギアボックスも取外し。このビスの内の1本が欠品していましたが、部品取り機からの調達で間に合いました。

なお、この時点でモートル配線は切ってあります。
というのも、過去の修理で色分けの上交換されていたのでそのまま切れたのと、碍盤を先に修理すべく外していたから。

そして分解中に思いましたが、この頃の芝浦(でそれなりに錆びている個体)にしては塗装の状態がいい感じです。
磨くと輝くかも…ちょっと期待できます。





これまた恒例のギアボックス清掃。
ここ最近よく出てくる「芝浦の大正末期タイプ」ですが、蓋の固着があった以外には状態が良いです。
グリスもある意味うまく固化しており、除去も楽に済みました。
パーツ表面にコーティングされる感じで固くなっている事が多いのですが、それがギアの谷とかだとドライバーで一々掻き出す必要があるので…

ちなみに、蓋の縁とちょうどその下のギアボックス本体に、最近できたらしい傷とP剥げがありました。
碍盤が割れた時にできたものかもしれません。どこか台の上からでも落ちたのでしょうか。
単にコケたくらいでは碍盤まで割れはしません。

可哀想に…私が救ってあげよう…だから分解してるんでしょうが。
いや、「俺は優しいから放っておけないぜ」の方が良かったか。

いずれにせよ、その傷以外は予想通りに磨いて光るほど良好でしたので、タッチアップしようかと思います。
また、左に写っている2枚のワッシャはギアボックスの取り付けビス穴にくっついていたもの。恐らく圧縮紙製。
同じ7017型でも三越特選品の方にはありませんでした。
この辺の細かい違いは追いきれませんが、それぞれ特徴があって面白いのは確かです。

ちなみに、落下の痕跡と思われる箇所は他にもありました。





それぞれギアボックスの下側取り付けビス穴と、モートルエンドベルの配線引き出し穴。
共にクラックが入っており、結構な衝撃が加わったのがわかります。
欠けるレベルではないので問題は無さそうですが…これでも打ちどころが良かった方なのだろうか。
いや、だったら割れてないか、碍盤…

こうなるとロータの軸に歪が出ていないか心配になりますね。
一応大丈夫っぽいですが…(フラグ)



続いてはそのロータ。
この位ホコリが付いている個体は、意外にも久しぶりだったりします。
しっかり活躍した証です。



スクリューギアもきれいになりました。
4つの通気穴の他にもドリル跡が見えますが、この年代辺りの機種ではしばしばみられるものです。

最初は穴位置をミスった跡かと思いましたが、恐らくはバランス取りの為に製造時に削ったのではないでしょうか。
軽い箇所にウエイトを貼る車のホイールとは逆に、重い箇所を削る方法という事です。

専用のバランサーがあったかどうかは不明ですが、時代的に職人の勘でやっていたようにも思います。
卓上グラインダの砥石交換みたくやるんでしょうか? それなら想像がつきます。



次はモートルのケースとコイル側。
ホコリを飛ばして軸を清掃し、配線を交換します。







ピンクのビニールテープって珍しい気がしますが、オリジナル配線をそれなりに残した位置で交換されていました。
今回はオリジナルの引き出し部分から交換になります。

こちらも塗装が良好なので、軽く磨いてみました。
本当は塗装用のワックス入りコンパウンドが良いのでしょうが、手持ちのはワックスが飛んでしまっています。
仕方なくピカールを使いましたが、組み立て後にでも軽くやってみましょうか。
塗装自体は芝浦はラッカー系らしく、あまり気合を入れて磨くと塗膜まで削ってしまいます。
それが故に錆びや皹が出やすいのかもしれませんね。

余談ですが、私はこういった事ばかりやっているくせに「紐を結ぶ」のが大変苦手です。
なので、コイルの引き出し線や古い綿打ち電線の端末処理なんかでは凧糸を使うのですが、緩みなく結ぶのに苦労するのがしょっちゅう。
靴紐くらいなら問題ないんですが…
後は字と絵も下手ですね…上手い人が羨ましい限り。

残るは基台やネックピースの清掃と磨き。
それが終われば本体の準備は完了です。





碍盤取り付け。
あんなにバッキバキでもちゃんと治るもんなんです。アロンアルファ凄い。
何故アロンアルファ(つまり瞬間接着剤)かと言えば、弾性より硬度に特化しているから。

スイッチバーがスプリング的にテンションを掛けるので、碍盤は継続的な応力に耐えなければなりません。
そこで弾性を持つ接着剤を使ってしまうと、次第にテンションに負けてくる恐れが出てきます。
つまりは、陶器である碍盤の元の特性に近いものを使うという事ですね。

一方で、振動に耐えたり隙間を埋めつつ接着するなんてシチュエーションでは、ゴム系やシリコン変性系の強みが発揮されます。
接着剤の使い分けも大事なのです。



更に組み途中。と、ここで事件発覚。
上でフラグを立てた通り、エンドベル側の軸受けとロータ軸に僅かな歪みが見られました。
普段通りの組付け方だと、ほぼロック状態の抵抗になってしまいます。

この写真で見える白い線。これがクラックで裏面までしっかり割れています。
そしてよく見れば段差が付いており、ギアボックスに押されて歪みが出たものと思われます。
相当の衝撃を受けたのでしょう。
にしても、ファンガードやファンに損傷が無くて良かったとも言えます。
私が救ってあげよう…しつこい。いやそれ本人が言う方。

結局、エンドベルはプレスで修正した後、軸受けをΦ8.1でボーリング(軸径7.93mm程度でした)。
それでも回転に引っかかりがあったので、軸にも僅かな歪みがあると判断。
半信半疑で修正(三越の時と同様、プレスに引っ掛けて手曲げ)したところ、嘘のように直ってしまいました。

まぁ、当然どこが曲がってるかを見極めた上での事ですが…一発で決まるは思わなんだ。
この扇風機、かなりの運を持っているようです。

碍盤も補修が問題無いようで、無事動作確認できました。
後は運転しつつ軸のアタリを出せば良いでしょう。
…滑り軸受けって本当は浮動するもんなんですけどね。まぁ簡易版って事で。





さて…最後の砦、ファン磨きに入ります。
とはいえ自分なりのメソッドが確立されたので、手磨きでも比較的短時間に終えられるようになりました。
機械を使うと素人故にバフ目が残る他、ドリルの重さで意外と疲れますし研磨剤も飛散します。
ファンブレード程度の面積ではメリットを生かしきれない感もあり。
今回は歪みも無く後年の塗装も無いので、純粋に磨くのみで済みそうです。





酸化膜除去完了。

時代にもよると思いますが、芝浦は磨くとややマット系の仕上がりになります。
芝浦の羽根は傾向としてあまりビカビカにはならないようで、磨いた後の輝きは三菱が一番だと思っています。

なお当然ではありますが、コンパウンドは地金の状態によって使い分けます。
ちょっとヒントを置いておくと、番手の低い順にラビングコンパウンド・ピカール(練り)・ピカール(液)といったところ。
偶然ながら全部日本磨料製ですね。
ラビングコンパウンドはほぼ使わないので、赤十字病院の芝浦の時に開けたら油分と分離していました。

より強力に磨きたい時は、「さびとりつや之助」。
研磨力が強い一方で、研磨中に目に見えて番手が上がってくるので、使い方次第ではかなり効率的に磨けます。
ただ放っておくと油分が飛んで固化するので、私のは強引にシリコンスプレー(CRCだったかな?)で溶かしています。その辺は自己責任でどうぞ。
作業中にも、落ちて乾燥した液剤が粉っぽくなるのでご注意を。

樹脂ならホルツのワックス入りプラスチック用ですが、塗装面用共々分離が早いので、気を付けないとワックスの方だけサラっと出てしまいます。
あれが無ければ凄く良いんですが…それに最近のマイナーチェンジでちょっと臭くなった気が…





そしてファンガードの補修。
入手時は後ろ側がファンに当たる状態でしたので、分解前にある程度歪みを修正してあります。

補修は錆びで溶接が剥がれた箇所の半田付け。そしてタッチアップになります。
一か所だけ欠損がありましたので、そこは手持ちの針金で補いました。
まぁそのままでも良さそうな気もしますが、線が細いだけに、うっかり引っ掛けたり折ったりが怖いので。

後は固定フックの内一か所が折れていたので、そこも鉄板を重ねて補修しました。
トラックRC製作で余った端材が役立ちました。



いよいよ組み付け。そしてエンブレムを磨きます。



輝くSEW。
これほど元の塗装が残っているSEWエンブレムは初めてです。
黒部分の艶は錆び止めの油ですが、奇麗に塗り分けられているのが良く分かります。
落下の損傷が無ければかなりの美品だったろうに。それでも奇麗ですけど。





いつも通りに銘板も磨きました。
そしてこちらも。



ガードの意匠登録銘板。
この銘板、元の位置は正面向かって左上で、他の出品個体でも同じ位置に見た事がありました。

しかしこの個体は裏向き(ガード内に向いている)な上、紹介の通り逆さになっていました。
なのでガード自体を回転させて、対角の位置に持ってきました。
オリジナルの位置ではないかもしれませんが、本体銘板とも近くなって良いのではないかと。

そしてこのガード、前側との合わせピンとかも無いので、リア側の正しい取付方向は有って無いような物なんです。
睡蓮ガードではビス穴があるので「SEW」の向きから分かりますし、もっと後の個体(多分、C-7032漢字銘板あたり)だと、正面向かって左下のみステー先端が四角くなっていて、位置決めがされています。



という事で完成しました。
ファンガードは修正しましたが、今一合わせ位置が決まりません。それなりの所で修めました。

しかし出来上がってしまうと「元からこうでしたけど?」みたいに見えるのが何ですが、それもまぁ仕上りが自然という事の証左でしょうか。
自画自賛もいいとこだ全く。

とはいえ、碍盤割れ・エンドベル破損(ベアリング曲がり)・ロータ軸曲がりの三重苦から見事に復活できました。
部品交換ナシ、完全な自己復旧というのが誇れるポイントでしょう。

自身のレストア経験値としても、ひと際大きなものを得られました。
やはりどこかから落ちたのが破損の原因でしょうが、そのまま部品取り機にならず、満足してくれているものと願いたいです。



おまけ。
関西から出品の扇風機によく見られる、鉛の封印…というか検査タグ。
マークからすると大阪市のようですので、大阪市電気局による検査証でしょうか。


さて…まだあと一台あるんだよなぁ、芝浦…
しかもまた睡蓮で。
といっても、またちょっと変わり種なのですが。
雷光ガードも合わせると2台…そっちは結構手間がかかりそうですので後回しで。

あまり同じような機種ばかり扱っていると飽きるので、今度はまた昭和20年代に逃げてみようと思います。

…車の記事も書きたいですが、寒すぎて作業する気が起きませぬ。
暑さも寒さも不得意だからなぁ。どうしたものか。
Posted at 2023/02/04 20:39:43 | コメント(1) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

プロフィール

「仕上げ進行中 vol.2 http://cvw.jp/b/2115746/48592454/
何シテル?   08/10 22:31
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
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