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菊菱工廠のブログ一覧

2023年03月26日 イイね!

国産初の”お座敷扇” 三洋電機 EF-122「キリン」 昭和32年

まだたまに寒い日もありますが、もう桜の話題が聞こえる時期になりました。
このブログの背景も、今年は更新したいものです。


さて…少々前に購入しており、記事の予告にもちょこちょこと存在を匂わせていた三洋の「キリン」。
今回はようやく手を付けましたので、その記録ですが…まぁ色々ありました。



まずは入手時の状態。
現状でも動作はする上、前オーナ曰く「整備済」との事ですが…
確かに状態自体は良いのですが、色々とツッコミどころがありまして。

まず、凄まじく煙草臭い。
これはもう運としか言えませんが、これまで100台近く古今東西の扇風機を扱ってきた中でも、煙草臭いのはほぼありませんでした。
埃臭いのは当たり前ですが、何故でしょうね。

思い起こせばラジオもそうでした。エルマンのmT管マジックスーパー位かなぁ。
元々茶色いキャビネットを洗ったら、流れる水も真っ茶色になったという。
で、その臭い抜きの為もあって暫く放置しておりました。



また、各部のゴム部品がオリジナルなのは良いですが、この時代特有の色付きゴムの宿命で、溶解・崩壊祭り。
見切れてますが、コード根元のスプリングも先端がへろへろになってました。
そしてもう一つ…



嫌な感じに油が染みています。
少し置いておくと、このようにゴム脚の形に油がスタンプされるんです。

これがマシンオイルなら良いんですが、時代的にオイルコンが入っていそうなので、万一それだったら恐ろしいのです。
東芝「よいまち草」で書いた通りPCB全盛期の製品でしょうから、その原因も特定せねばなりませぬ。

…と、整備済というよりは簡易清掃済みの奇麗な個体といった方が良さそうな本機。
初の三洋電機製という事もあり、慎重に進めましょう。



さて、ここで一旦蘊蓄コーナーへ。
この扇風機は一見するとよくあるレトロ系…1950~1960年代初頭頃の姿をしていますが、タイトルの通り、国産機で初めて高さ調整機能を搭載した機種だそうです。
これまたタイフーン繋がりで「産業技術史資料データベース」から知った機種になります。

一言で表すならば、所謂「お座敷扇」の嚆矢というわけであります。
お座敷扇は卓上と床置きの両用として、首の伸縮機構を備えた扇風機の一般名称(どこかの商標だったらすみません)。
昭和40年代から一気に各社が取り入れた機構で、有名なのはボタンを押すと内蔵のスプリングでシュッと首が伸びるタイプでしょう。

ですがこちらは、ボタンこそあれど首を伸ばすのは手で引き上げてやる必要がありました。
3段階に高さが固定でき、ボタンはロック解除のため最初に押すだけで良い作りです。
そのまま引き上げれば、カチッとボタンが戻ってロックが効く仕組み…車のヘッドレストと同じ機構です。

とはいえスライドの精度は中々で、むしろ後発のスプリング式よりも質の高い印象。
部品も金属主体の時代なので、余計にそう感じるのかもしれません。
プラはどうしても摩擦で著しく劣化しますので、油分さえあれば金属の方が長持ちする訳です。

そしてこの機体、銘板に型式名が一切書いていないんです。
先日整備した三菱電機のD10-Bもそうでしたが、1950年代の機種は皆こうなのでしょうか…?
なので実機を入手するに当たっては、産業技術資料DBの小さな写真や、例によって箱付きで出品された際の写真を画像検索して特定しました。
箱には書いてあったようです。
当時のアサヒグラフとかを買えば広告が載っているかも…いずれ欲しいものです。



それではレストア、行ってみましょう。
三洋の扇風機はどんな造りになっているでしょうか…



何はともあれ分解。
オイルコンが心配なので、初めに裏蓋を開けてみる事に。
ゴム脚は揃っていますが、劣化故に用を成していないので交換ですね。





…やっぱオイルコンですね。そして嫌な滴が…
ですが漏れた感じはありません。
とりあえず触れないように、パーツクリーナで拭いておきました。

お次はファンガードとファンの外し。
と、早速ファンガード止めナットが一個足らないのが判明…第一の挫かれポイント。



早々とここまで来ましたが、足止めを食らいました。
モートルカバーがリアだけでなくフロントも二重という珍しい構造でしたが、それを取り払うと再び煙草臭さが復活。

…それは良いとしても、エンドベルが外れません。
ファン側から軸を叩くのが我流セオリーなんですが、普段はゴムハンで軽く叩けば済むところ、金属ハンマで叩いてもダメ。



こんな事までやってみてもダメ。



結局、以前使っていた大きいゴムハンで思い切り叩いたら行けました。
ゴムが劣化して叩く度にポロポロ崩れるので、一線から引いてもらった奴でした。
エンドベルは単にガッチリ固着というか勘合していただけのようです。

そしてお気づきの通り、お座敷扇あるあるの「エンドベル宙吊り」。
まぁ戦前型も同じなのですが、伸縮機構があるだけ配線外しが面倒なので…お座敷扇の整備はここが嫌いなのです。

で…配線が抜けない。
折角オリジナルの配線なのに、シュリンクは硬化・中の配線外装は溶解という地獄。第二の挫かれポイント。



何とか補修しようとも思いましたが、このままならショート・断線は時間の問題と考え、思い切って交換する事としました。
そうしないとゴムブッシュを交換できないのも理由でした。



という事で、モートル引き出し線のビフォー。
シュリンクの境目で既に溶けています。
ゴム被覆の定番パターンですね…黒は固まり、色付きは溶ける。
カーボンブラックとか硫黄の有無でしょうか。



はい交換。アフターです。
芝浦は赤白黒ですが、今回は赤白緑。トリコロールカラー。
…それじゃ「頭痛が痛い」と一緒でしょうが。

外に出る部分の仕上げは、最近思いついたエンパイヤチューブ被せ。
戦前型は黒を使いますが、こちらは本体が水色なので白。
本当は塗装できれば良いのですが、シリコン含侵してあるので無理なのです。
もうちょっと進化させたい手法です。



所変わってギアボックスへ。
エンドベルとの間にガスケットが入っているのは初めてですが…無いといけない精度って事かい? それは無かろうに。
戦後型ですがグリスは固まっていたので、清掃は楽でした。
首振りカムもイモネジで脱着可能なのが助かりました。



清掃完了。
グリスはそこそこにして、とりあえず組んでおきます。
この辺はごく普通の構造ですね。
三菱の乙型と同じスパーギア2段での減速です。



そして第三の挫かれポイント。
エンドベル内側の写真ですが、この機体の軸受けは「自己調整式」。
かの川北タイフーンもそうであったという、軸の回転に合わせて方向が微調整される、完全には固定されていない軸受けです。

その周囲にはオイル保持用のフェルトが詰めてあるのですが、その封止が問題。
金具を4点のリベットで留めてありますが、そこから油が駄々洩れするんです。
給油口からパーツクリーナを吹いたら全周から滲んできて「うわぁ…」となりました。

思わず「そこにもガスケット入れとけよ」とか言いかけましたが、半世紀以上前の製品にそんな文句を垂れても仕方ありませぬ。
新品時は何ら問題無く、劣化故にオイル漏れしたのかもしれません。
何か旧車のエンジンみたいな話になってきたぞ。モータの癖に。

で、最初の油染みはこれのせいでした。
この構造に加えて、前オーナが注油したのでしょう。それが染み出て伝わって、結果内部からゴム脚にまで至ったと考えられます。
軸受け → エンドベル前方下部切り欠き → スライドパイプ(高さ調整ポール) → 基台内部 → 裏蓋の穴といったルートでしょう。
…PCBじゃなくて良かった。

とりあえず変な油ではなく安心でしたが、油量に気を遣わねばならぬのは確かです。
ちょっと三洋が嫌いになった瞬間…いや、芝浦や三菱がもっと好きになった瞬間、と言った方が適切でしょう。
君の事を嫌ってる訳じゃないんだぜ。もっと好きなのがあるってだけさ。



さて、お次は基台と外装へ。
まずは感触が緩くて変だったスイッチを見てみれば、何かが足りないご様子。
そう。ロータリスイッチに付き物のボールが2個とも何処かへ旅立ったようです。

真空管ラジオでも一度ありましたが、酸化して摩擦が増してくると、何かの拍子に飛んで行ってしまうようですね。
それが無いと、カチカチというクリック感と各レンジへの位置決めが機能しません。



という事でステン球登場。
実はこれ、缶スプレーの攪拌球なんです。
プラモ少年の時代から使い切った缶を開けては硝子球を取っていたのですが、ソフト99のボデーペンとかには硝子球と一緒にステン球も入っているんです。
それを取っておいたのが大正解でした。測ったようにぴったりの寸法。
しかしこのステン球も、まさかこんな風に役立とうとは思うまいて。



状態は元より良かったので、外装は軽く磨くだけで済みました。
メッキリングは一度取り外して錆び落とし。
リングの去った箇所には歴史を感じさせる埃が。

この後、モートルは先にスライドパイプとの接合部まで組んでしまい、その状態でパイプへ取り付けしました。
基部の穴とパイプの穴に配線が通るので、普段と異なる順序となりました。
メーカが変われば設計が変わりますので、それぞれの特徴が現れる点の一つですね。



こちらは電源コード清掃の様子。
貴重なオリジナル品でしたので、多少固いですがこのまま使います。

写真の通りプラグ内も分解して確認しましたが、やはり芯線が際どくなっていました。
そして珍しく、プラグの端子との結線はビス式でなくはんだ付け。



補修はこんな感じに。
端子の直前まで被覆が残るようにしました。



電源周りの組み立て途中。
コンデンサはいつもの通り個体ACコンとしました。

毎度思うのですが、この形は絶妙でして、今までのどの扇風機にもちゃんと収まってきました。
何かしらの形で固定でき、大きさ的にも収まるんです。
まぁ、元が古いのでこれより大きかった、と言うのが主な理由でしょうが…

ビスは純正では短かったので、手持ちのM4×10 JIS規格を使用しました。
端子は250ですが、スペースの関係上半田で処理しました。





ゴム脚は新たな試みとして、純正にも似た押し込みバンパーを使ってみました。
今はこんな物もホームセンターで売っていて有難いものです。



ちょっと戻りますが、フロント側のモートルカバー内側です。
油量に気を付けないと、こんな風に油まみれになってしまうんですね。



最後にファンガード。主な作業はエンブレム周辺の再生。
ラジオ共々のあるあるですが、クリアプラの裏から塗装されたエンブレムは、水洗いでサラリと落ちてしまいました。
仕方ありませんが、何とか調色してタッチアップしてみます。



という事で完成。
写真ではあまり違いが分かりませんが、確実に奇麗さが増しています。
この状態は卓上扇モードでして…



伸ばすとこうなります。フロア扇モード。
もう少し後の、基台が角ばったりプラ製になった時代の機種では当たり前のようについている機構ですが、このように丸みを帯びた金属ボデーの機体では新鮮に見えます。
流石、国内初採用ですね。

動作の方は、プラ製の幅広3枚羽根ファンにキャパシタ付きモートルのお陰で、静か且つ風量も十分。
実用性の面からすると、日常で違和感なく使える最古級の機種かもしれませんね。
重量はありますが、戦前型に慣れてしまったので特に重いとも感じず…それは自分特有の感想か。





伸びていたスプリングも可能な限り復元し、交換したモートル配線も良い感じです。



さて、今回は初めての三洋電機製扇風機(1950年代以前として)でしたが、以前整備した川崎電機の戦後型のように、他には無い特徴や整備上の注意点が発見できました。
改めて自分は三菱と芝浦が好きな事が認識でき、デザイン的にも機構的にも、今後増えるのはその二社製でしょう。
とはいえ、こういった変わり種的機種はやはり面白く、整備が大変でも経験値が得られる分、やりがいもあるというものです。


…次回、どうしましょうか。
戦前型のストックはセオリー通り行きそうなのが2台、重整備になりそうなのが2台あります。
ほぼジャンク状態のが更に2台。

そこに来て部品取りの目論見を外した高額商品の戦前型が1台増え、更に昭和40年代の電子制御機が続々集まっています。
次の展示会のテーマも絞らねばなりませんし、どう手を付けましょうか。

一方で、そろそろタイヤ交換もしないと。いい加減に雪は降らないでしょうから。
Posted at 2023/03/26 19:16:52 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2023年03月21日 イイね!

ラリーアート成分の入れ込み(エンジンスイッチ・エンブレム類・アルミペダル化)

扇風機のブログと化して久しいですが、飽くまでメインは車でございます。
エクリプスクロスの事も久々に書くなぁ…

さて、目出度く復活しましたラリーアートブランドですが、この度ようやくグッズに手を出す事が叶いました。
といっても大したものではないのですが…





エンジンスイッチとエンブレムが2種類。
キーシリンダーの蓋に貼れる奴と、色々使える奴。
純正品だけあってそこそこ値が張りますが、やはりそれでこそでしょう。

そして今日はこれらの取り付けをやったわけですが、前々から準備していた物もありまして…





結果からお見せするとこちら。
デリカD:5でもおなじみのアルミペダル化でございます。
エクリプスクロスには前期ブラックエディションから設定され、物的にはエボ10と同じになります。
よって取り付け方法も然り。

ブレーキは単純にパッドを交換するだけなのですが、アクセルはペダルAssyからして別品番。
ノーマルペダルがアームごと樹脂で一体成型されているせいです。

真面目にやるなら専用品を買うわけですが、約1.8万程と結構なお値段。
ですがノーマルを加工すれば嵌ると聞き…そちらへと舵を切ったのでした。

という事で加工からご紹介しましょう。
準備したのはこちら。







ノーマルアクセルペダルAssy。
今時の車はアクセルアームまで樹脂なので驚きです。
フライバイワイヤなので実質スイッチです。
品番1600A186で、ディーゼル車(GK9W)の取り外し品ですが、ガソリン車(GK1W)も同じ。
お値段は\3,900でした。

余談ですが、走行僅か8900kmからの外しという事で非常に綺麗。
そして恐らくは、不幸にも短命に世を去ってしまった個体の物でしょう。
或いは真面目にアルミペダル化したからかもしれませんが…前者なら生かしてあげましょうぞ。
君は先代コルトプラスの様に、14年・18万キロを超えられるかな…?

さて、これをアルミパッドが嵌る形に加工していくわけですが、裏をよく見ると…



アルミパッド用と金型を共用するからなのか、パーティングラインがうっすら見えています。
プラモ的視点ですね。
なので、大まかにはこれに沿って削れば良いのです。



そう。こんな感じにね。
…誰がiPhoneだ。









で、こうなりました。
最初のペン書きよりももう少し削り込んでいます。
この辺は現物と合わせながら進めましょう。
そして実際に嵌めてみますと…







ちょっとやりすぎた感もありますが、しっかり嵌りました。
なお、当然ですが樹脂ながらかなり固い素材でして、リュータのディスクで切っていったのですが…2本ダメにしました。
いずれも刃の固定ビスが捻じ切れるという。

表面のキラキラ感と、カッターで削った時のシャリシャリ感からすると、カーボン混入ABSっぽいです。
タミヤRCの強化パーツと同じアレ。


それでは取り付け編へ行きましょう。





まずは簡単なところから。
いかにも「キーシリンダ塞ぎました」な蓋が気になっていましたが、こうすると良い感じになるので不思議です。
というかよく考えたなコレ。

お次はエンジンスイッチ…と思ったのですが、大着しようとしたせいで苦労する羽目となり、一旦ペダル交換へと逃げました。



まずノーマル状態。
アクセルペダルは先ほど見ての通り、ボルト3本で止まっているだけ。
正確には車体側からボルトが生えているので、ナットを3個外せばOK。



はい取れました。
正直、ナットは意外とトルク弱めでした。覗き込みながらカプラを外す方が大変…



そしてこれと交換。



先にブレーキペダルのパッドを交換し、保護シートを剥がせば…



…Mantap。良いじゃないですか。
でもこうなると、フットレストが気になる始末。

では改めて、エンジンスイッチへ行きましょう。
当初はステアコラムカバーを外して下から手を入れて…とやろうとしたのですが、ギリギリ外せず手を痛めただけでした。
なので正攻法で、メータパネルを浮かせます。



まず、ウチのはGプラスパッケージなのでタッチコントローラが付いています。
同じ場合は初めにベゼルを外しましょう。



それからシルバーのガーニッシュを引っ張ると御覧の通り。
ですが、先ほどのガーニッシュに内装クリップが一か所隠れているのでお忘れなく外しましょう。

これでメータパネル左下に隙間ができますので、そこに指を引っかければ浮かせられます。



そう。こんな感じにね(2回目)。
俺はAndroidユーザだっての。

そうすると、裏に手を回して楽にエンジンスイッチを押し出せます。
後はカプラを外してラリーアートと差し替えるだけ。





できました。やはり良いですな。これだけですが気合が入ります。
上はACC、下はイグニッションONの状態。
発光色が違うと説明書に書いてありましたが、ONポジションでの色が緑から青になっています。
アイスブルー的なのも、単なる青LEDじゃなくてKerenです。

ようやっと苦労したのが終わりましたので、後はぼちぼちエンブレム貼り。







まぁこんな所でしょうか。
あまり貼りまくってもしつこくなるので、かつてのランサーやコルトのラリーアート仕様を意識してみました。



本日弄った箇所の全景。
後の課題はブレーキ全点灯キットの取り付け…もう買ってから2年くらい経ってる気がするぞ…

そしてリアのナンバーフレームにP剥げが発生してしまいました。
納車時に付けてもらったチタン調の奴、ブラックメッキにフラットクリア塗装なんですね…そりゃ剥げるわけだ。
ついでにラリーアートにしてしまいたいですが、予算的にもう少し先。
…また夏の茄子頼りかな、これは。

とはいえ、エクリプスクロスのラリーアートパーツはMC後用にしか設定が無いので、前期には使える物が少ないのが惜しいところ。
しかもウチのはレッドダイヤモンドなので、赤いサイドデカールも映えない…
マッドフラップやフロアマットは使えますが、値段が張るのといずれ劣化するのが目に見えているので、何となく手出しする気になれず。

現行US用フロントフェンダーでも買おうかな。
北米で必須のサイドリフレクタがヘッドランプ内からフェンダーモールへ移動したのですが、それが前期にも流用できるそうです。

Posted at 2023/03/21 20:29:39 | コメント(0) | トラックバック(0) | 車(エクリプスクロス) | クルマ
2023年03月12日 イイね!

割れて折れたベーク羽根の復活~富士電機 RCF-335型「富士サイレント(四ツ葉)高級電気扇」昭和10年

2度の最強寒波到来もありましたが、今やすっかり春めいて…
今度は杉花粉ですか。しかも凄まじい量の。
シーズン前からのアレグラ先行服用では遂に対処しきれなくなり、数年ぶりに薬が変わりました。

そして季節感などどこへやら、今日も今日とて扇風機の手入れでございます。


さて、今回は久々にやってきました富士電機。
ちょっと前に手放したのと同じ機種を買ってしまいました。
予告しておきますと…今回は濃くて長いです。

キャパシタ付きモートルの低速運転と軽量なベーク羽根による高効率・低騒音をいち早く達成し、先進性を売りとしていた機種です。




戦前の12吋富士電機製ですが、ちょっと珍しい4枚羽根のタイプです。
そして見ての通り、ファンが思い切り割れております。
というのも、このファンは戦前ながらベークライト製なので、衝撃や負荷には強くないのです。





とりあえずファンを外しました。
出品写真で1か所大きな皹ありとされていた箇所が、届いた時には分離してしまっていました。
更には再塗装前に別の羽根もテープを巻いた跡があり、そこも折れかけという状態…

まぁ、何とかなるでしょう。どうせ塗り替えないといけないし。
にしても…段ボール箱に緩衝材無しで送ってこられるとビビります。
ダイカストも強くない富士電機製、よくぞご無事で…羽根折れてますけど。

そして面白いのが、羽根がこんな状態でありながら、他はファンガードから電源コードまで非常に奇麗と言うところ。
三菱電機共々「戦前型あるある」なダイカスト部品の崩壊も、この個体は無事なのです。
カムの回りがきつい程度なので、シャフト穴のボーリング等で復活できるでしょう。

それにしても、「ファンだけ最悪、他は最高」なんて極端なコンディションは初めてです。
ちなみに以前に同じ型を手放したのは、黒い個体を買ってみたら元の黒の上にオールペンされていたから。
富士電機は塗装がラッカー系らしく、剥離剤をかけるとオリジナル塗装まで剥いでしまいます。
更に基台は巣穴をパテ仕上げしており、それまで落ちてしまうので更に手間がかかります。

それで直し方を考えあぐねた挙句にやる気を失い、数年寝かせた後に放出となったのでした。
可哀想な事をしたなぁ。あの時は救ってやれなかった…
こう言うと一気に胡散臭いな。教祖様、ファンなんですけどね。


なお、この機種が「四ツ葉」と呼ばれる事は、実は最近になって知りました。
ネット上にそう書かれていたのは見ていましたが、証拠となるものは見た事がありませんでした。
昨年手放した別の箱付き3枚羽根タイプも、その名称は書かれていなかったからです。
しかし、この度別バージョンの箱を入手できました。





こちら。隣の本体は既に持っていたもので、昨年の展示会に出させて頂いた物です。
この機種、本体は高騰しているのに、箱単品では誰もウォッチすらかけず激安で買えました。
これでこの個体は「箱付き」に進化しました。

そして、箱にはしっかり「三ツ葉」と書かれていますね。
という事は4枚羽根は「四ツ葉」だろうというのは容易に想像できます。

なお、この年代の富士電機製では、この箱の三ツ葉タイプの方が多く出てきます。
同社の型式名は下一桁が製造年らしいので、同じデザインでもRCF-334や336といった「前後賞」があります。
そしてどれにも三ツ葉と四ツ葉があるようです(無かったらすみません)。

詳細は不明ながら型式名が同じである以上、羽根の枚数でもって別の機種としていた可能性は低いように思います。
他メーカで言うなら色違いのような感じで、機種名より一つ下の階層での区分として「三ツ葉」と「四ツ葉」があったのではないでしょうか…?

では何故そんな展開をしたかという点になりますが、これも今のところ想像するしかありません。
思うに、このRCF-335ならば1935年…昭和10年製になりますので、当時の多くの扇風機はレシプロ飛行機のような細い4枚羽根のファンでした。
なので「扇風機と言えばこの形」というのがそのファン形状共々定着しており、「本当は幅広3枚羽根のが高効率だけど、トラッドな見た目も用意しよう」という戦略だった…なんて考えています。

ちなみに昭和10年と言えば、逓信省型式認定制度が始まった年でもあります。
そのため「逆三角に〒マーク」が付いた認定番号が記載されるはずですが、この個体にはありません。
恐らくオリジナルであろう電源プラグも同様です。
一見不自然にも思えますが、実は製品への表記にあっては1年の猶予期間があったそうで、昭和10年製でも記載が無い場合があるとの事。
この個体も多分そうなのでしょう。

そしてこの機種というか富士電機のラインナップが売りとしていた「高能率・低騒音」ですが、これは銘板にある特許第86770号「單相電動機」に原理が載っています。
昭和4年11月8日に出願、昭和5年2月3日に広告となっています。
ハイパーざっくりとポイントを言うならば、「キャパシタが付いてるから起動回路が不要&高力率で、巻き線抵抗(多分変速用)が昇圧回路も兼ねてるから、電源電圧が低くても位相差を得られる上に省エネだぜ」という事。
…間違ってたらすみません。



という事で蘊蓄コーナー終わり。
以下はレストアコーナーです。
メインはもちろんファンの補修…果たしてうまく行くのか。

なお、今回は例外的に分解よりも先にファンに手を付けました。
ファンが無事仕上がるかどうかで、この個体の行く末が決まるといっても過言ではありませぬ。
勿論、部品取り機が入手できるまで眠ってもらうか、このまま進めるかという意味ですが。


何をするにもまずは取外しからです。
油切れか何かで軸がロックしており、そのおかげでファンはすんなり外れました。良いのか悪いのか。
これみたく変な理由じゃないといいけど。

しかし上の写真の通り、見事にパカーンと割れてます。
前回は碍盤で今回はファンとは。
過去の補修で撒かれたセロハンテープは何と塗装の下なので、とにかくそれを剥がしてみましょう…



無事なの一か所しか無ぇじゃんか…
とはいえ幸か不幸か、泣き別れになっている羽根は向かい同士なので、補修後のバランス取りには好都合かもしれません。
方針としては、塗装剥離してから羽根を接着補修、見えている皹を埋めて研いで塗装…といった段取りです。

色も本体が黒なので、正直に黒く塗れば良いのはラッキーです。
下手に茶色とかだと、市販のスプレーでは色合わせが困難になります。
…しかしベークにパテって乗るのかなぁ。塗装できるんだから行ける…はず…?



塗装剥離完了、そして大きいパーツをとりあえず接着した段階です。
届いた時点で完全分離した箇所はこんな感じで奇麗に行けそうですが、元から割れてテープ留めしてあった箇所は接着剤も付いており、削って調整しないとピタッとは行かなそう。

しかも複数に分かれている始末。
果たして強度が出るのか、不安しかないぞこれは。
何とか繋いだ後で薄いプラシート(プラペーパー)でも貼って、境目を研いで一体化しようか。

本当ならグラスメッシュと一緒に塗り固めて…となるのでしょうが、表裏ともに見た目を奇麗にしたい&薄く仕上げたいパターンでは不適です。
…四ツ葉の部品取り機があれば一番なんですけどね。





とりあえず破片を繋いでみました。
接着中はクランプで押さえ、なるべく浮きが出ないようにしました。

この時気づいたのですが、ベークは割れ口が層になって剥がれるので、薄手でも意外と接着面積が取れたりします。
なので多少歪でも強引に接着してしまい、その後で余分な接着剤と歪みを削ってプラペーパーを貼り、パテで段差をなくし…で良いかと思います。

そんな予想をしていたら、狙い通りにそれなりの強度が出ている模様。
何となく行けそうな気がしますが、こんな修理は初めてです。
プラモ・RCで培った腕が生きるか…?









以外にもしっかりと固まったので、リュータで段差を取りました。
これまたイイ感じに滑らかになってくれましたので、次は小さく欠けている部分の補修です。





悩みましたが、軽さ重視でポリパテで埋めました。
ついでに皹の埋め方も。
プラペーパーを貼るのは試したのですが、接着強度が今一でしたので却下となりました。
瞬間接着剤だけでもなかなか強力にくっついてくれたのも理由の一つ。
ベークの層にしみ込ませ、また皹も埋める勢いで盛ったのが良かったのかもしれません。











ポリパテを粗く削った後、面の出具合を見るため軽くサフを吹きました。
リュータの跡も見えてきましたが、思った以上に良い感じ。
後はラッカーパテで小さい凹凸や傷を埋めてしまいましょう。

ちなみに、この段階に至ってはたと気づきました。
ファンは戦前の扇風機でも奇麗に作ってあるものですが、四散していたものを補修したのですから、ごく僅かな凹凸まで拘って仕上げる必要はあるのか…?と。
基台やモートルは「錆びも味の一つ」と普段から言っているので、ファンの補修跡も消し過ぎなくて良いかな…とか思ったり。
金属製のファンなら、それこそ凹みや多少の歪みも許容しているくらいです。

…なんて奇麗事を言っていますが、要は面倒という事。
面出しはこだわるとキリがないので。



面出しもそこそこ済んだので、実際回すとどうなのよ? を確認してみます。
テスト機は既にレストアの済んでいる、箱と共に登場しましたRCF-337(三ツ葉)。ファンの枚数以外は単なる年式違いの同じ機種です。



すんなり回りました。意外な程にブレが無い。
良い事なんですが…そもそも君、何か遅くない?
3速にすると止まりそうなんだけど。

という事で、この後はRCF-337を緊急整備しました。
写真は割愛しますが、開けてみれば割と最初の方に買った機種でした。
当時の自分がやった整備の特長が見て取れたんです…

ギアボックスにグリスを最低限、という点が一つ。
それ自体も当時ケチって使っていた変質グリス…液状化してしまった奴でした。

写真を見返すと2013年6月の入手。もう10年も前ですね…
当時直したはずの首振り不良(アウトプットシャフトが渋い)も再発してました。
富士は三菱同様、ダイカスト部品が崩壊する持病が多いのですが、じわじわ進行しているという事でしょうか…
油を一通り交換、軸穴もボーリングし直して回復させておきました。



という事でファン補修のラスト、塗装に入りました。
適当にあったM8の全ネジにテープを巻いたら、丁度よく持ち手になりました。
乾燥中の様子は何と言うか…造花と言うかオブジェというか。独特の存在感を放っております。







3~4回に分けて塗って完成しましたが、実に良い感じの仕上りです。
2枚目と3枚目が、バラバラになっていたり泣き別れになっていたりした部分。
ここまでになれば十分OKでしょう。

ギラギラ度抑え目の艶が、見ていて心地良い質感。この機体の本体とも合っています。
今回の塗装に合わせて初めて購入した塗料でしたが、それが大当たりでした。
使ったのはカンペハピオの水性シリコンスプレー。

吹き付け直後は少々泡立ちが出て不安になりますが、焦らず放置しておくと見事に均一になります。
ソリッドブラックでも隠ぺい力(エッジ近辺)が高く、5℃程度の下限ギリギリでもカブらず塗れました(缶は温めましたが)。
速乾性も偽りなしで、少々厚塗りして10℃程度の室内乾燥でも半日で触れるレベルに至る有能さ。
これは今後も選びたい一品です。


という事で、一番の懸念でありましたファンの再生が完了しました。
これでようやく本体の整備に入れます。



まずは分解から。
富士電機製は早くから密閉型モートルとなっているので、通気口の無いモートルケースが特徴。
またモートルに至る配線も首の中を通っているので、外見がすっきりしています。





前オーナの名残。ファンを青く塗った時は、取外しせずに作業したようです。
これ…上手く落とせるかしら。







ファンガードは普通に取り外すだけですが、ここで一つ発見が。
ファンガードの受け部分にカラーが入っておりました。
この辺の処理の仕方も「高級電氣扇」たる所以なのでしょうか。



とか言って分解を進めていたら、余計な所の塗装が落ちました。
いつものようにロータをゴムハンで叩いて抜こうとしたところ、その衝撃でモートルケースの塗装が剥がれましたんですが…
つぅか剥がれ過ぎだろ。



こんな事ある?
いや、あるんだよ。
プラスクレーパでカリカリしたらこんな状態に。90年前の鉄の輝き。

下地は鉄ながら錆びは一切といっていい程に無く、奇麗に塗装だけが浮いていたようです。
それがハンマの衝撃で皹割れ、一気に剥がれたと。
これではオリジナルも何も無いので、ここだけ急遽再塗装する事に。





マスキング完了。
ファンと同じく、水性シリコンスプレーを使います。あれは良い物だ。
この日は天気が良く、気温も良い感じだったのが幸運でした。
結果は組み立ての辺りで。



更には何年ぶりかという半田ごてのヒータ断線。
一時期切れまくった時があり、当時の買い置きが役立ちました。
切れたヒータと空焚き中の風景なり。

という事で予想外の作業が入りましたが、少々戻って裏蓋を開けたところから。





蓋も碍盤もホコリ以外は極めて奇麗。
富士電機の個体って、時としてこんな風に不自然な位奇麗なのがある印象。

配線にも他社と違う特長があり、モートルに行く線が碍盤裏面(蓋を開けて見える方の面)に留めてあります。
しかも端子上げ仕様。
ですがこれを外すのがいくらか大変でして…





取れました。薄い碍盤は陶器ではなくベークライト製。
そして碍盤の上に聳えるのはキャパシタ。

この時代の物としては大変珍しく、製造年月日が明記してあります。
個体一つで製造年特定が可能という稀有な機種なんです。
とはいえ性能は確実に落ちている筈なので、いつもの通り個体ACコンに交換します。
約90年間お疲れ様でした。ちゃんと捨てずに取っておきます。

ですが肝心の容量記載がありません。過去修理した個体を参考にすると、1.5μの時と3μの時があり…どっちが正解だよ。
RCF-337は2台修理していますが、片方は1.3μと記載があったのでそうしたのですが、もう片方はこの個体同様に未記載で、そちらには3μを使ってました。

ちなみに、古いコンデンサと言えばPCBの懸念が付いて回りますが、この時代まで行くと古すぎて入っていません。
世にPCBが登場する以前の代物だからです。
缶から黒いモノが漏れている事も多いですが、それはタール。
体に良くはないでしょうが、PCBに比べればマシ…なはず。

端子外しが大変なのは、碍盤表(アクセスする時の見た目上は裏)からビスを通してあるだけなので、正直にナットを回すと供回りするから。
碍盤をちょっと浮かせて指で押さえて…としないといけません。
しかも円筒状のコンデンサの中を配線が通っており、端子を外したら強引にモートルの方を引き出すのが正攻法かな、という感じ。
断線の恐怖に抗う勇気が要ります。

高性能な上に構造自体も凝っているので、その辺が独逸の血なのかなと感じさせますね。
何と言うかベンツみたいな…いや、時代的にはⅡ号戦車辺りですね。ベンツもありましたけど。
…富士電機なんだから、そもそもジーメンスの血でしょうが。



容量が書いていないならば測ってしまえ、という事で測ると…1.3μ。
ちゃんと容量残ってますね。抜けてないなんて凄い。
だから前は1.5μを使ったのか。
今回もそうしましょう。





お次は恒例のギアボックス清掃。
富士電機のこのタイプは、上下から分解するちょっと変わったスタイルです。
清掃しやすくて良い造りだと思います。

そして例によって、下段側の軸受けが渋くなっています。
富士電機製はこれのせいで首振りができない個体が多いです。
そもそもギアボックスが崩壊しているのも多数。
いずれにせよ、結晶粒界腐食が原因でしょう。
三菱電機のと乙型ギア時代と同じです。



なのでバラしました。
富士電機や三菱電機は、カムにピンを打ち込んで固定してあります。
なのでプレスがあれば割と簡単に分解できますが…両者ともダイカストの劣化度合いに個体差が大きいので、割ってしまわぬよう注意しましょう。

ピンを抜いてみれば、軸穴径は良い感じでした。
上下方向の詰まりだったようです。
なので、カムの上端部分を少々削って対応しました。
削った部分はこの後でタッチアップしています。
清掃・調整できましたので、後は組み立てるだけ。



組み立て途中。
再塗装した部分(モートルケース)がオリジナル塗装のパーツに隣り合っていますが、驚くほど違和感がありません。
黒というのも大きいですが、艶感がかなり近くなったのが決め手かと。
なお、軸と軸受けの当たり具合はエンドベルを叩きつつ調整しますが、つい癖で軸を右に回してしまいます。
何も問題は無いのですが…この機種は左回転です。



キャパシタも交換しました。
この後インシュロックでトランスに縛っておきました。



待ち望んだ瞬間。
よもやここまで綺麗になるとは、本人(人に非ずですが)も思わなかったでしょう。
…と、ここまで来て事件発生。
線を繋いだところ動きません。



ヒヤヒヤ半分うんざり半分で見つけた原因はこちら。
モートル引き出し線が1本断線してました。ギリギリ数本の芯線で繋がっていたのが切れたようです。
この機種は首の中を線が通る設計なので、パイプの縁で傷みが進みます。
さてどうしたものか…





結局、エンドベルを開けて配線を特定、ちょっとずらして作業できそうな長さを確保して繋ぎました。
この後は3本まとめて太いエンパイヤチューブに通し、今後の保護としました。





という事でやっと完成。
動作は全く問題なく、パテ修正したファンも上手く重量バランスが取れたようでブレ無く回ります。
ずっと揃えたかった富士の四ツ葉、念願叶いました。
恐ろしく綺麗な電源線とプラグもオリジナルです。



最後に、三ツ葉との2ショット。
これをずっと撮りたかったわけで。

三ツ葉の方はRCF-337なので、2年後の機種になります。
といっても構造は殆ど一緒ですので、実質同型かと。




終わってみると、普段整備している芝浦や三菱とは全く違った特徴を改めて感じました。
それは良くもあり悪くもあり。
作りが凝っているため、ギアボックスは清掃しやすい一方で、モートル配線がトラブってしまうと面倒なのも実感しました。
今回は塗装の状態がかなり良かったので、モートルケース再塗装以外の苦労はありませんでしたが、これで汚れが酷いとか雑にオールペンされているとなると、直す気も失せてしまいます。


そして次はどれを直しましょうか。
ストックはまだまだあるので迷いますが…最近名前を出している三洋の「きりん」でしょうか。
珍しく整備済みとして入手した個体ですが、ブッシュが崩壊したままだったり油が垂れてきたりと気になる点があります。
やはり一度、しっかり見てみなければなりませぬな。
Posted at 2023/03/12 20:26:48 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2023年03月04日 イイね!

芝浦製高級機の魁か~芝浦電氣扇 C-7060「特殊型」(昭和8年頃)

3月になり、順調に気温が上がって参りました。
花粉は嫌ですが作業はしやすくて良い事です。

そして3月最初の更新も、まだまだ続く芝浦祭。
当時からバリ展が豊富で販売数も多かっただけに、色々と細かい違いを持った機種が出てきます。

今回も昭和初期の芝浦電氣扇シリーズの一台です。
三洋の「きりん」も考えましたが、この間に修理依頼品を手がけましたので、戦後の機種が続くのも…と思い、戦前に戻って参りました。
きりんさんにはもう少し寝ていてもらいましょう。お眠りぃ…



何だ、また睡蓮か…
とか言わないように。

確かに睡蓮の一種ではありますが、こちらはタイトルの通り「特殊型」なのです。



以前レストアした三越特選品の7017型と並べ、上から撮った写真です。
ガードのデザインはどちらも同じ、睡蓮たる所以の意匠登録第36243号「花辯型電氣扇保護枠」。
ですが厚みが違います。
そしてファンのピッチ角の違いも見て取れます。
更にファンは銀メッキ仕上げ。
この特長…見覚えがあるぞ…



こちら。
同じく以前レストアした、C-7067「高能率型」です。
型式も近い事から分かる通り、今回の「特殊型」はこの「高能率型」の先輩あるいはテストベッドにあたる機種と思われます。
一言で言えば「C-7067のコンデンサ無しバージョン」。
共に6極モートルによる低速・高トルクのチューニングになっており、ピッチ角の大きいファンとの組み合わせで静穏性を狙った設計です。

名称についても、「高能率型」を入手する経緯となったこちらのカタログがヒントとなりました。





以前にもご紹介しました、昭和9年版のカタログ。
この中に同じC-7060が掲載されており、「特殊型」とされています。
説明文には、


30糎交流特殊型電氣扇

特殊型電氣扇は標準型電氣扇(四極)よりモートルを大きくして六極とし羽根の廻轉」をゆるやかにし其上羽根の角度を改良してありますので噪音は全くなく然かも風量も豊富です。

30糎銀狐色交流電氣扇は34年度新型として必ず御好評を得る事と確信致します。


とあり、この年に新色として「銀狐色」が追加されたようです。今で言うシルバーメタリックでしょうか。
なので、今回入手しました個体は黒い事からも、それ以前のマイナーであろうかと思われます。
もしかすると銀狐色と黒が併売されていたかもしれませんが、今では何とも言えませんね…


それでは、何を狙ってこの機種が誕生したのか…
ちょっと考察してみましょうか。

時は昭和一桁、扇風機は依然高級品ではありましたが、レンタル制度の普及や富裕層への浸透は既に落ち着いてきました。
そこで各メーカは、次なる戦略を練る必要に迫られたのではないでしょうか。

それならば、「風を送る機械としては完成したので、今度は風の質を良くしてみよう」と、早くも進化の一歩を踏み出したと考えられます。
この時参考となったであろう存在は、恐らく富士電機の製品群。
「富士高級電氣扇」、後に「フジサイレントファン」と称される、独自の先進設計を売りにしていたシリーズです。



参考までに一枚。
こちらがその一台となり、「富士高級電氣扇(三ツ葉)」です。
撮影は昨年の展示会にて。

型式はRCF-337なので、1937年…昭和12年製。
この数年前から同形状の機種を売っていたようで、他にも4枚羽根の「四ツ葉」がありました。

ベークライト製の幅広3枚羽根ファンをコンデンサ付き低速モートルで回す事で、大風量と静穏性を両立していました。
この頃には芝浦や三菱といった大手も挙って高級路線を展開し始めるのですが、機能面では揃ってこの系統でした。

そして今回の「特殊型」は、芝浦製作所が高級路線展開をするにあたって、まずはコンデンサ無しで確実に進めようと売り出したものではなかったでしょうか。
それが一定の結果を齎したため、いよいよもってコンデンサ付きの本命、「高能率型」がデビューした…とかどうでしょう。


あるいは、当時のコンデンサは信頼性が今一つでしたので、故障率や耐用年数を重視した機種として、「高能率型」とは別のコンセプトで併売されていたのかもしれません。
同じ時期の真空管ラジオを以前よく扱っていましたが、戦前のコンデンサは故障の代表格だったようです。
例外はビクター(RCAビクター)製くらいでしょうか。そんな記憶が。
この例だと、車で言えば高級車のベースグレードやトラッド系のラインが先発し、それに色々チューンが入ったスポーツグレードが追加されました…みたいな感じかと。


第三の説は、性能差と価格差で訴求先を分けていたというものです。
この特殊型はモートルこそ高能率型と同じ(はず)ですが、両者の性能を比べるとなかなか面白い事になっています。
以下の数値はいずれも後者が特殊型です。

特殊型は標準型よりも消費電力がやや大きく(51 vs 55[W])、一方で風速はやや劣っています(320 vs 300[m/min])。
回転数では1380 vs 840[rpm]と明らかに差がついていますので、省エネ性能や風量を捨ててまで静穏性に全集中した機種である事が伺えます。

対して高能率型と比較しますと、消費電力は35 vs 55[W]と大差がついており、加えて風速も370 vs 300[m/min]と負けてしまっています。
高能率の謳い文句に偽りなしと言った所でしょう。
しかしその分高価だったでしょうから、静穏性第一で少しでもローコストを狙うなら特殊型を…というラインナップだったとも考えられます。



という事で、レストアに入りましょう。
折角の6極モートル機なので、その比較もしてみたいと思います。



何はともあれ分解から。
電源線とモートル配線を外すため、今回は裏蓋から。
見慣れないゴム脚(というかフェルト代わり)が付いていますが、これはオリジナルだろうか…?
特殊型というくらいなので、もしかすると元から付いていたのかも。

碍盤は奇麗そのもので、6極モートルに合わせた4速ベースの3速改造仕様。
ここは高能率型と同じです。



取れました。
配線の引き出し位置も通常のタイプとは異なります。



そこそこ錆びが浮いている様子ですが、大した固着箇所も無いようです。
すんなりとここまで来ました。



最初、「コーキングかプラリペア的な物で埋められてる?」と思った引き出し部分。
余りに滑らかだったのでそう思いましたが、単にゴムブッシュが一度溶けて固まっただけのようです。

なお、この時期の芝浦製は純正の引き出し線の外装が硬化している個体が多い印象です。
折角残っていても交換せざるを得ないパターンばかりで少々複雑。



エンドベルを外してロータを抜きました。
ここでモートルの比較をしてみましょう。



こちらは以前レストアした7017型「三越特選品」のモートル。
よく見るとコイルの巻き方が異なるのが見て取れます。
そして7017型(標準型)は4極なので、4つのブロックに分かれた巻き方なのが簡単に分かります。

一方の特殊型は6極となっており、ループ状というより捻じれている感じ…
最近の誘導電動機にそっくりかと。
しかし巻き線については詳しくないので、深入りはしないでおきます。

とはいえ、この機種が「特殊」である事はわかるという点でした。





そして初めての発見。
ロータを引き出してみましたら、前後に冷却ファンが付いていました。

それにしても、戦前型でこのようになっている扇風機は初めてです。
昭和40年代頃になるとロータにフィンが一体成型され、当たり前の構造となるのですが、この頃からあったとは思いませんでした。
また、誘導電動機という意味でも一般的な構造のようです。
そして、同じモートルを使うはずの高能率型にはありませんでした。

この違いのヒントとなるのは、最初の蘊蓄コーナーでご紹介した諸元表でしょう。
標準型よりも消費電力が大きく、かつ回転数が低いため風量も少ないこの機種は、とにかく静穏性を第一に考えた設計だったと思われます。
そのため当然発熱の問題が出てくるわけで、使用期間が夏である事も拍車をかけたでしょう。

その点から排熱効率を上げるため、この特殊型に限ってファンが付けられた…と予想します。
高能率型に付いていなかったのは、消費電力低下で発熱量が減った上に風量が増え、十分な冷却性能が確保できたからでしょう。
似たような機種にも細かい違いがあって面白いですね。





お次はいつもの光景。ギアボックスの清掃。
これまたいつも通りにしっかりと固まっていましたが、むしろこの位(ポコッと奇麗に塊になって取れる位)に固まってくれていると楽に清掃できます。
昭和40年代頃のものだとまだネットリとしていて、却って洗浄に手間が掛かったりします。

とはいえ毎度思うのは、芝浦は首振りカムとアウトプットシャフト(勝手に命名)が分解できないので、そこの油を取りずらいという事。
三菱や富士ならバラせるんですけどね…とはいえ、プレスを使わないといけないので結局バラさない事が多いですが。







モートル引き出し線の交換。
今回は元のテープ(?)が綺麗に剥がせたので、一番外側のまとめに再利用してみました。
6極といっても引き出し線の出方は同じなので、普段通りに根元から交換です。

さて…この個体は塗装の状態がある意味微妙でして、全体的に均一な艶消し状態。
磨けば光りそうな一方、単なる油汚れでもなく塗装劣化らしい…ので、やるなら地道に磨くしかないという事。
さてどうするか…





結局磨きました。銘板の比較もついでに。
この辺りの芝浦製でしっかり塗装が光るのって、意外と少ない気がします。
ピカールでの大着は効かなかったので、塗装用コンパウンドでちゃんとやりました。



組み立て途中。
碍盤の配線ですが、白線がスイッチ端子の中間から出るのが他と異なります。



グリースカップとフェルト軸も再生。
フェルトは溶剤に数日漬け込むのがうちの常套手段です。





そしてファンの磨き。
シルバーメッキなのでちょっと気を使いますが…これが中々厄介者でした。
歴代の中でもごく最近、しかも3台しか扱った事の無いメッキ羽根ですから、未だちゃんとしたメソッドの確立には至りませぬ。



途中経過。
このくすみ、単なる酸化膜ではなく、クリアorニスとの合わせ技でした。
なので、普段通りに錆び落としを掛けただけではクリアが落ちず、強引に磨いた表側は奇麗にこそなったものの非常に疲れました。

その時点で既に一度塗装剥離をかけていたのですが、「やっぱりまだ足りないんじゃ?」と思って裏面は2度目の施工。
それでようやく落ちやすくなりました。
酸化膜・塗装・酸化膜といった感じに重なっていた印象です。ピンホールからの酸化かなぁ。

にしても…90年前のメッキにしては非常に奇麗。そしてガンガン磨いたのに普通に耐えてくれました。凄い。
もちろん、様子を見ながら最終的に「ガンガン」レベルになった訳ですが…





できました。90年経っているとは思えない輝きへ復活しました。
一か所傷があるのですが、その一枚がごくわずかに曲がっています。何とも残念ですが致し方なし。

また、クリアに覆われていた箇所とそうでない箇所で模様ができてしまいますが、これまたどうしようもない点。
ここまで奇麗になったので、一つの味という事で受け止めましょう。
後、シルバーメッキは真鍮地金よりも油が目立ちやすいですね。
錆止めにいつも通り塗ったところ、何とも汚い感じになりました。
少々薄めにした方が良いようです。
この写真で線傷に見えるのも、油を塗った跡なのです。



後はファンガードのエンブレム補修。
今回は元の塗装がかなり落ちているので、心おきなくタッチアップできます。



できました。
ガード自体はそこそこ錆びが出ているので、簡単に洗うに留めました。
気合を入れて洗っても、大して見た目は変わらないので…



という事で完成。
一見普通な黒ボディに、シルバーメッキのファンが個性を主張しています。

運転してみますと、確かに回転が遅い一方で風量があり、静穏性に富んでいるのが感じられます。
ただファンの歪みが影響しているようで、少々ブレがあります。



最後に、進化版である高能率型と並んでの一枚。
この2機種が稼働状態で並ぶのは相当珍しいのでは、と自己満足。
しかし芝浦は機種が多く、集めるとキリがないですね…そろそろ同じギアばかり掃除するのにも飽きてきたぞ…

そうそう、折角カタログスペックの判明している2台なので、実際に風量計で測ってみようかしら。
「戦前の扇風機のカタログスペックと実測値の比較」なんて、誰もやってないでしょうし。

…となるとノーマルの睡蓮も必要か。
7017型で代用できるか…?
どうせならワットメータも欲しい…これはアンメータで代用しようか。


そして次回予告。
ベークライトファンの補修に(多分)成功したので、久々の富士電機製をレストアします。
個人的にかなり良い経験を得られた作業でした。
…何故過去形か、それは平行してやっていたからでございます。
Posted at 2023/03/04 21:56:56 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

プロフィール

「仕上げ進行中 vol.2 http://cvw.jp/b/2115746/48592454/
何シテル?   08/10 22:31
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
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