お久しぶりです。
コドモがちいさいとなかなかヒマのないもので、色々書きたいと思ってはいたのですがなんだか何もしないまま今に至ってしまいました。新型ロードスターに80kmくらい乗ったりした話とか書きたかったんですが完全にタイミングを失いましたね…。
さて現在巷を賑わすVW問題。毎日毎日よくもまぁこんな色々というようなことが出てきて大変ですねほんと…。
とりあえずマツダからは
「まじめにやってます!」という声明が出たので、CX-3オーナーとして一応は一安心ではあります。
で、とりあえず現状や基本的な話について僕の理解をまとめてみました。今回の問題の理解の手助けになればと思います。マツダ(の、しかもディーゼルエンジン)オーナーなのでわりと自己擁護強めです(笑)。
…いや、なんというか色々知識不足のまま語ってたり間違ったことを言っているひとがいるような気がするという事例がついったーとかでわりと観られたので、ちょっと自分の理解をまとめてみようかと思った次第です)。
◆今回何が問題になったの?
・VWが、車が排ガス検査していると判断すると排ガス浄化機能をフル活動させ、そうでない通常走行時には浄化機能を弱めるプログラムを組んで量産車に搭載し、アメリカ・欧州の排ガス基準検査をパスし、世界で1100万台ほど販売していた。
・これはアメリカの法律で禁じられた行為で、
「不正」どころか明確に「違法」。
◆なんでそんなことしたの?
・詳細は不明だけど、排ガスをクリーンにしようとすると実燃費が悪くなってパワーも落ちるのが一般的なので、それを避けるためという説や、アメリカの「20万キロ走った後も浄化性能を維持せよ」という基準に通せるほど耐久性に自信がなかったという説などがある。
・たしかにCX-3も200kmに1度位の頻度でDPF再生モードになり燃費が落ちるので、もし可能ならばEGR(燃焼済の排ガスを再度エンジン内に再導入して吸気内の酸素を薄くする装置)を弱くして酸素超過多にして燃やせばPMが出にくくなってDPF再生頻度が少なくなり燃費もパフォーマンスもアップするでしょうね。そのかわりNOxがだばだばになるけどね!(良い子は真似しないでね!!…って「マツダはNOx触媒ないから不正できない!」って言い切ってるヒト、上記の通りやろうと思えばたぶんカンタンに出来ますよ)
・…いずれにしてもVWはメーカー挙げてわざとやってるため企業として完全にアウト。
◆マツダとかBMWも欧州の基準を超える排ガスが検知されているとの一部報道もあるけど大丈夫?
・マツダのSKYACTIV-Dは欧州のEURO6・日本のポスト新長期規制という最新基準を、厳格に法令順守しながらクリアしています、だそうです(
今回の声明)。
・BMWもVWのような違法プログラムの使用を否定しています。
・「実際に走行試験したら基準を12.6倍超えていた」という一部の報道は、「バンプ付きの上り坂」のような負荷の高い領域の話。排ガステストは(公平性を期すために)室内の試験場のローラーの上で実施されていて、決められた走行パターンで走行した時の平均値で判断している。
・よって、決められた走行パターンを超える高負荷時や、低負荷でも瞬間的に基準を超えることは当然ある。排ガステストを行う側もそれを想定して基準を厳しくしている。基準値を超えたから即有害、即死というものではない。
・たとえるなら、
VWは「テストでカンニングした」、
その他は「テストは真面目に受けてクリアしたけど試験範囲外のことを聞かれても答えられなかった」という違いです。
・それをゴチャゴチャにして「VWが目立つけど他社もNOx出してるやないか!!アカンやろ!!!」っていうのは、ズルしないで国がこれクリアしたらオッケーだよーって言ってる基準をクリアしてる会社がちょっとかなり可哀想です。(アマチュアのひとはともかくプロまでこういうこと書くひとが一部にいて残念でなりません)
・ちなみにディーゼルの普及しているヨーロッパの空気が汚いのは事実ですが、あちらは日本と違いEURO3やらEURO4やらEURO5やらのザルに近い過去のユルユル基準の古いくるまがまだいっぱい走ってるという状況もあり(しかも一部VWとかいうメーカーはそれクリアするのすら不正してたそうで)、EURO6や日本のポスト新長期規制をクリアしたクルマまでダメっていうのは時期尚早な気がします。
◆マツダはなんでアメリカでディーゼルエンジン売らないの?
・規制を通すだけでいいなら今すぐできるけど、そうすると「退屈な車はつくらない」と約束しているマツダ車として、性能面で満足できるものではなくなる為で、なんとかしようと努力中、とのこと。以下北米マツダCEOのインタビュー(英語)。
http://www.carscoops.com/2014/12/after-emissions-now-performance-causes.html
・
アメリカでのレース活動をわざわざディーゼルエンジンでやってる以上、売る気はあるんでしょうけど商品として満足行く商品力を魅力あるコストで実現するための技術が追いついてないということでしょう。
・というかアメリカでSKYACTIV-D発売できないとディーゼルエンジンでレースしてる活動費(=広告宣伝費)をガンガンドブに捨ててることになるわけで、まったく正直な会社ですね。
◆排ガス浄化ってそんなメンドいの?何をそんな浄化してんの?
・ディーゼルエンジンの排ガスで厳しく制限されているのは下記の2つ。
1.NOx(窒素酸化物:光化学スモッグや酸性雨の原因となる)
2.PM(粒子状物質:昔のディーゼルエンジンの黒煙の主成分)
で、ディーゼルエンジンの原理上、何も対策をしなければ上記2つがどうしても出てしまうため、上記それぞれに別の浄化方法を用意してやる必要があります。
ちなみにガソリンエンジンもNOxは出ますが、70年代終わりに登場した「三元触媒」というNOx・CO・HCを同時に除去するユメのような触媒がなんか全部解決しちゃって、それがほぼすべてのガソリン自動車に装着されるようになったのでおおむねオッケーとなりました。でもこれが排気中の酸素量が多いと使えない子のため、基本的に酸素多めに燃やすディーゼルエンジンでは使えなくて大変なのです(ガソリンエンジンでも、酸素も燃料もきっちり燃やしきる割合(理論空燃比)で燃やさないとコレが働かなくなるため、一時期流行ったリーンバーン(希薄燃焼:燃料薄めで酸素過多状態で燃やす=排ガス内に酸素多くて三元触媒使えない)が廃れました)
1.NOxの浄化方法
(1)尿素SCR
排気中に尿素水を噴射して化学反応で別の物質に変える。定期的に尿素水の補給が必要・デカい・重い・高価という欠点がある。サイズが問題にならないトラックやトヨタの新型ランドクルーザーなどの大型車、メルセデス等高級車で採用。マツダもSKYACTIVになる前に欧州向けのCX-7(MZR-CDエンジン)で採用してた。
(2)NOx吸蔵還元触媒
排気中のNOxを一旦吸着し、溜まってきたら燃料を多めに噴いて還元する。プラチナなどの貴金属をたくさん使うためメチャクチャ高価。(1)よりも小型のため小型車にも搭載できる。今回問題のVWはこの方式。その他、BMW・MINI、日産の先代エクストレイル、三菱デリカD:5/パジェロなどが採用。
…BMWなんかは排ガス浄化基準の最もキツいアメリカ向けには、(1)(2)両方積むという車両価格高いブランドでしか出来ないような力技でクリアしてるっぼいです。マツダやVWのような大衆車にはとうていムリな芸当ですね。
(3)マツダ方式
エンジンの燃焼自体に様々な工夫をすることで、そもそものNOxの発生を抑制し、高価なNOx後処理装置なしで日本・欧州の規制をクリアできるだけの綺麗な排ガスを実現。メリットはコストの安さ・コンパクトさ・軽さ。178万円のコンパクトカーにディーゼルエンジンを載せて利益出せるのは(1)(2)を採用してるメーカーからしたら驚異的でしょう。他社が日本でディーゼルを売りたがらないのも恐らく主にコストが原因ではないでしょうか。
SKYACTIV-Dが何をやってそんな奇跡みたいなエンジンをつくったのかは
このへん参照のこと。
簡単にいえば「圧縮比下げたりたくさんEGRしたりでエンジン内の温度下げて燃料吹いてから着火までの時間を稼いだ上で、すごい高性能な燃料噴射装置(インジェクタ)使ったりピストン形状工夫したりして燃料と空気を混ざりやすくして、燃料と空気がちゃんと混ざってから火がつくようにしました」ということです。
…あんまり関係ないけど「SKYACTIVはデンソーの技術」とか書ききってる記事なんかも(プロ・アマ問わず)散見されますが、
開発の話をまとめた本なんか読んでてもどうみても理論や設計はマツダがつくってるので、「共同開発」とは言えるかもだしデンソーの高性能なコモンレール&インジェクタが貢献してるのも事実なんでしょうけど、「デンソーの技術!!!」って言い切るのはいくらなんでも乱暴だと思いますよ。ぜんぶデンソーの技術だったら他メーカーからも同じものが出るはずだしね、ボルボとかモロにデンソー製インジェクタを謳ってるのにSKYACTIV-Dとは全然違うエンジンだしね。
2.PMの浄化方法
◆
DPF(ディーゼルパーティキュレートフィルタ)で吸着。フィルタなので当然ほっといたら詰まるので、溜まってきたら燃料を多めに噴射して焼切る(DPF再生)。トラックみたいな大型車から小型車までほぼ全社全車この方式(違うのがあったら教えて下さい)。主な構成物はセラミックだけど、貴金属も使ったりしてけっこう高価。
…たまに「マツダのSKYACTIV-DはDPF無しで規制クリアしてる」とか書いてるヒトみかけますが、
マツダSKYACTIV-DもDPFはついてますからね!!!!(まあそれも他社比でかなり小型なヤツなのでたぶんそんなに大量には出ないようになってるんでしょうけど。)
これだけとりあえず理解していれば(まぁこんなとこ見る人は理解していることでしょうけど)、VWのニュースがより深く理解できる、ハズです。
間違ってる所があればコメント等で指摘いただければ幸いです。
では今回はこれで。
…画像が1枚もない!ウオオオ!
(9/30追記:はてブのコメントで「NOxとPMがトレードオフの関係にあることが書いてないのでダメ」って書かれましたが、「高EGR下で燃料と空気をキレイに混ぜてから低温でゆっくり燃やす」マツダ式だと同時に減らせるという理解だったので敢えて書きませんでした。
確かに空気過多で高温で燃やせばPMは出にくくなるかわりにNOxだばだばになります。でもNOx出ないように低温でゆっくり燃やすとPMが増えるのは、空気が足りないまま燃料が蒸し焼きになって不完全燃焼しちゃうからで、高性能超高圧なインジェクタでメチャクチャ細かく噴霧してよく空気と混ぜればちゃんと完全燃焼する割合が増えてPMも同時にそれなりに減らせます。
もし完全にトレードオフならば、NOxが殆ど出ないスカイアクティブDのDPFは超大型になるはずですが、実際にはかなり小型な部類に入ります。そのへんがマツダによって既にブレイクスルーされてるので、「NOxとPMはトレードオフ」という表現は古いものになっている…という理解をマツダ技報などからしたのですが誤っていたらご指摘ください。
DPFののほうがどっちかといえば処理がカンタンだからなるべくNOxが出ないように低圧縮にするというディーゼルエンジン業界のトレンドの話は今回のVWとあんまり関係ない気がするし、それ書き出したらディーゼルエンジンのしくみから全部書かねばならなくなるしね…。)