
5月、6月とそれぞれ1台ずつのミニカーをご紹介してきた、「さすがに実車は見たことがありません」というシリーズ。いや、別に本格的にシリーズ化しようというのではありませんが、以前にも記したようにミニカー収集の醍醐味のひとつとしては、「実際にお目にかかる機会の無い車を、間近にして楽しめる」というものがあると思いますので、こうしてミニカーを通じて“珍車”をご紹介していこうと思っている次第です。
3回となる今回の題材は、旧・ソビエト連邦の自動車です。ロシア革命を経て社会主義国家として誕生し、1991年に解体した「ソ連」。東西冷戦下では、国家の詳細な実態は厚いベールに包まれており、自動車産業についても断片的な情報しか日本には届いてきませんでした。
だからこそ私などは興味の対象として深い関心が芽生え、インターネットも無かった当時は色々な書籍などの情報を頼りに、ソ連や東欧諸国の自動車事情を、機会を見つけてはいろいろと調べてみました。そうしているうちに、キーワードとしては「ZIL(ジル)」や「GAZ(ガズ)」というメーカーの存在を知るようになったのです。
当然、重化学工業は国家の基盤を守る上で重要視され、特に自動車や航空機、鉄道などの交通インフラは国民生活の利便性向上はもちろんですが、より軍事的な意味合いから重要視されている部分もありました。こうした中で共産圏では庶民が自動車を気軽に購入することは経済的にも制度的にも決して容易なことではなく、自動車は軍用車や大型トラックにバスといった公共性の高いものが優先される傾向が強かったように思えます。
ゆえに乗用車も製造はされていたものの、多くはタクシーや公用車に割り当てられていました。もちろん社会主義体制下で一般的な庶民が購入出来るような小型車も生産はされていましたが、社会主義というのは生産効率が著しく悪化するのが当たり前。例えば庶民向けの「モスクヴィッチ」にしても、購入申込みから納車までは数年待たされることが当たり前で、かつ納車町の順番も癒着や汚職がはびこる社会主義体制下ですから、簡単に“横はいり”されてしまうことも珍しくなかったでしょう。
こうして庶民が車を手にするのが難しかった一方、独裁的に国家を指導している共産党の幹部には、高級車がしっかりとあてがわれていました。
例えば冷戦下のブレジネフやアンドロポフといった、党中央の書記長にはZIL(ジル)製の大型リムジンが公用車として用意されていました。これらはニュース映像などで稀に画面に片隅に映っていることもあり、私自身もそうした映像を見つけては興味深く見ていたものです。
また、冷戦終結後の書記長であるゴルバチョフは、来日にあたってZILのリムジンを日本に持ち込みました。この時の模様は映像や写真に多数残されていますが、その直線を多用した前時代的なデザインに、若干の驚きを覚えたことも思い出します。
かように共産党の中央幹部には最高級車としてZIL(ジル)が愛用されていたのですが、一方でGAZ(ガズ)というブランドの車にもリムジンがラインナップされていました。ただし格としてはZIL(ジル)よりも一段低く、同じリムジンと言えどもそこには明確な差がつけられていました。
実は社会主義というのは、ある面で資本主義・自由主義よりも、身分差別が明確に存在するものです。前述の通り、党中央幹部に供されたZIL(ジル)は、一般庶民はもちろん共産党員として一定の地位より上になければ、乗ることは絶対に許されなかったでしょう。ゆえにZIL(ジル)よりもワンランク下の位置づけとなるGAZ(ガズ)は、党中央の中堅幹部以下や、党地方組織の幹部などが使っていたと言われています。例えどんなに実力者であっても裕福であっても、当時の厳密な社会主義体制下では、相当に根回しをしない限りは限られた党幹部しか乗れない車というのが存在していたことは、紛れ無い事実です。
今回ミニカーとしてリリースされた「GAZ(ガズ) 14」。前述の通りZIL(ジル)はゴルフバチョフ氏が日本に持ち込んだこともありますが、さすがにGAZは日本に存在しないだろうと思います。本格的リムジンの14以外にも、モスクワなどではタクシーや有力者の自家用に人気を博した中型モデルもZILのラインナップにはありましたが、さすがにどの車種も日本海を渡って日本に上陸したという話は、今まで一度も聞いたことがありません。
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ミニチュアカー | 日記
Posted at
2012/07/25 18:37:29