
車好きにとって、車のスペックは気になるものです。オプションも気になります。
同じように、フルート奏者にとって、楽器のスペックは気になるし、オプションも気になります。
フルートのスペックといえば、材質、管厚、頭部管の種類、リング・カバード、インライン・オフセット、C足部管・H足部管などがあります。便利機能のオプションといえば、Eメカニズムが一番有名です。Cisトリルキー、G-Aトリルキーなどの便利トリルキー。さらに、サンキョウにはFisメカニズムもあります。
写真は、サンキョウのEメカニズムとFisメカニズムが両方搭載された楽器です。
フルートはリングキーが良い
オケや吹奏楽で吹いていると、周りの音がうるさくて自分の音が聞こえなくなることがある。
そして、スッと周囲の音が小さくなり、ソロが始まるということもある。
今までどんな音で鳴っていたのかわからなくなり、ソロで音をはずしそうになることがある。
大合奏の中では、カバードキーだとかなり大きな音で吹かないと楽器の振動がわからない。でも大きな音を出していると、急に華麗な音を出せと言われても難しいものがある。
一方、リングキーなら小さい音で吹いても振動を感じられるので、Tuttiでは加減しながらも音の振動を感じておいて、次のソロに備えるということもできる。
上級者がリングキーを使う理由のひとつがここにある。
トラディショナルなインライン配置にEメカを付けると問題があった
リングキーは伝統的にインライン配置である。何よりシンプルで美しい。
普通(Gisクローズ式)のフルートは3オクターブ目のEが鳴らし難い。そこで、Eメカニズムというものが発明された。
しかし、インラインリングキーにEメカニズム(スプリットE)を付けようとすると、問題が発生する。
トラディショナルなピンシステムのインラインキー配列のフルートにEメカを付けると、高音F→Fisの動きの際にキーの動きが渋くなるそうだ。
トラディショナルなインライン配置では、Aisキーのシャフトが左手薬指キーパイプの中を通っているので、Eメカ無しでも左手薬指キーを押した状態でAisキーを開けようとすると、左手薬指のキーを押さえる力がキーポスト付近でシャフトを挟む方向に加わり、戻りが悪くなりやすい。
さらに、A音孔よりGis音孔の方が先に塞がる方向に調整がずれてくると、シャフトを挟む力が大きくなってくる。さらに、Eメカが付いていると、A音孔キーとGis音孔キーを連動させるジョイント部分でもシャフトを挟む力が発生するため、Aisキーの戻りが悪くなりやすいのだ。
なので、昔はインラインキー配列にはEメカ無しが一般的だった。
その後、フルートの製造精度が上がり、インラインのフルートにEメカを付けても、ある程度支障が無いレベルになったために、インラインのEメカも選べないこともない。
そして、インラインEメカでもキーの動きに全く支障の無い左手ピンレスシステムが開発された。
インラインEメカでも問題が起こらない左手ピンレスシステムだが、個人的には嫌いである
ピンレスシステムでは、Eメカのような追加ブリッジが左手部分に付く。せっかくシンプルなキーシステムで美しいインラインの楽器に、ピンレスシステムで余計なキーブリッジを付けるのは好みではない。
しかし、Eメカは捨てがたい利益がある。しかし、オフセットリングは見た目も操作性も個人的に嫌いである。
そこで良いシステムが、ブローガーシステムやアンダーキーピンレスである。
ブローガーシステムは元々回転シャフトが全く無いので、インラインの楽器にEメカを付けてもキーの動きに支障は発生しない。つまり、余計なブリッジを取り付けないでも、リスクの無いインラインEメカが可能である。
しかし、ブローガーシステムはブランネンかミヤザワしか選べない。
その他のメーカーでは、バーカート、ナガハラもブローガー系メカニズムです。マスターズとサンキョウも左手アンダーキーブリッジを選べるので、インラインEメカでも追加ブリッジ無しでいける。
Eメカ付き楽器でG-Aトリルを行うには、クラッチ付きEメカかCisトリルキーかG-Aトリルキーか
しかし、Eメカを付けると、高音G-Aトリル運指が良い指でできなくなる。
そこで、Eメカ礼賛のドイツではG-Aトリルキーが普及している。G-AトリルだけでなくH-Cisトリルが容易にできる便利オプションだが、Cisトリルキーの方が用途が多いので、最近は廃れ気味である。
アメリカでは、Cisトリルキーが普及している。G-Aトリル、H-Cisトリルに加えて、Gisメカとして使え、Fis-Gisトリル等にも使える。
しかし、問題はキーパイプがさらに1本増えて、美しくなくなってしまうことだ。
クラッチ付きEメカだとG-AトリルをしたいときだけEメカをOffにできるが、操作する時間が足りないこともあるだろう。
左手ピンレスブリッジとCisトリルは干渉するので、同時選択できないメーカーも多い。
しかし、左手ピンレスを採用しないと、F→Fisで支障が出る。
ということで、インラインEメカとCisトリルを同時採用できるのは、ブローガーシステム系のブランネン、ミヤザワ、バーカート、ナガハラと、通常のトリルキー軸にCisトリルパイプを入れ込む構造のパールと左手アンダーキーピンレスを選べるマスターズとサンキョウだけかな。番外だが、最強なのは、アメリカのジャックムーアだと思う。G-Aトリルの位置にレバーを配し、通常のトリルキー軸を3層構造にして駆動するCisトリルキーなのだ。ちなみに、サンキョウに問い合わせてみると、このパターンも製作可能だとのこと(3層パイプではないと思うが)。Eメカ、Fisメカ、Cisトリルの同時選択が可能ということだ。(Fisメカのブリッジが付くので究極の綺麗さは無いが)
アンチEメカ派の言い分は意味不明
私のようにEメカが好きな人も居れば、アンチEメカの人も居ます。
アンチEメカの人からは、「Eメカを付けてEだけ良くなっても、FisやGisはどうするんだ」という声を良く聞きます。
しまいには、「Eメカで出すEの音が嫌い」とまで言う。
「じゃあ、Gisオープンの楽器を使っている人は、音色のためにわざわざ出しにくい指使いで吹くんですか?」って訊きたい。そんなことはきっと無い。Eメカの音が嫌いっていうのは、屁理屈だと思う。
EメカのEの音色が駄目なら、同じ理屈で鳴らしているEs、F、Gの音色は全ての楽器で駄目ということになる。私はFisメカのFis音は自然な音色で良いと思いますし、Cisトリルキーで出すGis音も自然な音色だと思います。もちろんEメカのE音も自然な音色だと思います。
Eは有効な替え指が無いのでEメカが有効。G-Aトリルなんてやらなくて良い
どうしても音を外すとヤバイときは、Fisは右手中指を使うことや、Gisは右手中指・薬指を押すことで対応が可能であるが、Eだけは絶大な替え指がない。
右手小指でEsキーと同時にCisキーを押すとか、Disトリルキーを少しだけ開けるなどもあるが、前者は指使いが複雑でそれほど絶大な効果はなく、後者は開け具合が微妙で音色がイマイチである。
だから、Eメカだけが付いた楽器が多い。
オフセットキー配列の楽器はメカニカルな心配が無いので、ぜひEメカを付けた方がよいと思います。だから多くのメーカーの入門楽器では標準でEメカが付いています。高音G-Aトリルなんて、初心者がやる確率は低いし、吹けなくても問題はないと思います。
Eメカ付きでも、左手小指とトリルキー2個を同時に操作することで良い音色・音程でG-Aトリルできる楽器もある(ブランネンやサンキョウはできたが、ヤマハやムラマツはできなかった)。まあ、やるにしても、鍛錬が必要ですが。
究極はEメカ、Fisメカ、Cisトリル、H足部管、右手だけリング、左手はオフセットカバード
Eの次に問題になる音は、Fisである。右手中指だと音は当たりやすいが響きが若干悪くなる。そこで、写真のFisメカが登場する。
世の中には、Gisメカも存在する。Gisキーを押したときに左手親指キーが半分閉まるシステム。half closing thumb keyと呼ばれる。しかし、G-Aトリルとしては使えない。
すると、楽器の道具としての特性を突き詰めていくと、Eメカ、クラッチ付きFisメカ、Cisトリル、H足部管となる。Fisメカで左手中指はリングではないので、左手薬指もリングじゃなくて良いだろう。H足部管はリングキーじゃないと重く暗い音になってしまうらしいので、右手だけリングキーだ。
左手カバードの右手リングは、ブランネンのアルバートクーパーオーケストラルモデルが採用している。
結論
・インラインキーの美しさや楽器の軽さを求めるなら、Eメカを付けない
・インラインキーの美しさとEの出しやすさを共存させるには、NewEメカ(Gisインサート)を付けるのも手だが、Aの音色が暗くなる傾向にあると言われている。まあ気になるならGisキーを押してやれば明るい音を出せるだろうから、大きな問題は無い。サンキョウのNewEメカはA音孔を大きめに作ってあるので、Gisインサートよりは影響が小さいだろう。というか、私はNew Eメカの楽器を使っているが、Aの音色が暗いと思ったことなど無いし、人から言われたことも無い。
・サンキョウのアンダーキーEメカ+アンダーキーピンレスなら追加ブリッジ全く無しでインラインEメカの楽器が手に入る。これは良い選択だと思う。ブローガーシステムでも、左手に追加ブリッジ無しでメカに心配の無いインラインEメカが手に入る。
・オフセットキーならEメカを付けない手はない。クラッチ式Eメカならなお良し。(左手ピンレスにしてまでインラインに拘る理由はない。外観の個人的好み)
・どうせ付けるなら、Eメカ、クラッチ付きFisメカ、Cisトリル(レバー・パイプ特注)、右手だけリングにしてH足部管。サンキョウに聞いてみたら、左手だけカバードのスケールは開発していないので、今のところ不可だそうです。
・インラインキー配列でEメカとCisトリルを同時に付けたいときは、ピンレスブリッジと干渉するので、選択できるメーカーは、ブローガーシステム系のブランネン、ミヤザワ、バーカート、ナガハラ、またはトリルキー軸にCisトリルを入れ込むことができるパールと左手アンダーキーピンレスを選べるマスターズとサンキョウだけ。
理想のフルートへの妄想は尽きません。
素人が依頼して究極のフルートを作ってくれそうなのは、アンダーキーピンレスシステムをオーダーできるサンキョウかブローガーシステムのブランネンしかないように思う。
くしくも、両社ともKingmaフルートをラインナップしている。
製作技術と意欲が高いメーカーだということだろう。
2014/10/27追記: 最近のパウエルはブローガーシステムのようです。